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天空記  作者: 緒俐
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第百三十八話:満ち足りる思い

「よし、明日にも抜糸出来そうだな」

「ありがとうございます、兄さん」


 患者用のベットで上体を起こしていた秀に、いかにもいつもと変わりないような医者としての顔を向ける。


「自宅謹慎中なのに相変わらず仕事から離れられませんね」

「全くだ。だけどお前達の治療なんてなかなか出来ないからな、こんな時ぐらい堪能させてもらうさ」

「兄さん、啓吾さんみたいなこと言わないで下さい」

「ハハッ、すまない。だけど家族を治療出来ると医者になった甲斐があったなって思うんだよ」

「そうですねぇ、怪我の治療なんて僕も初めて受けましたし」


 そういえば傷の手当は初めてだなと龍は思う。秀が幼い頃、風邪やら小児特有の病気で看病したことはあったが、全く傷つかない体をまさか縫うことになるとは思わなかった。


 しかし、久しぶりの龍の治療に秀は何となく嬉しいようだ。翔なら逃げ回るのだろうが……


「それより兄さん、ちゃんと今日は沙南ちゃんのエスコートしてあげて下さいね」

「ああ、ここのところ迷惑かけっぱなしだったからな、お詫びしないと」

「違うでしょう? ここでプロポーズしないでいつするんですか」

「秀!!」


 すぐに赤くなる龍にクスクスと笑うと、不機嫌そうな視線を向けて来るのですみませんと謝る。

 本当に沙南のことに関してからかうと非常に素直な反応を見せてくれるので楽しくて仕方がない。


「だが、とりあえず家に戻らないとな、財布もないままお姫様をエスコートするわけにはいかないし」

「資金なら提供しますよ? さっき紗枝ちゃんのお祖父さんに今日兄さんと沙南ちゃんがデートだっていったら、ついでに渡してほしいとのことだったので」


 ポンと渡された上質な黒革の財布。やけに重いなと思いながら財布の中身を見た瞬間、とんでもないものを見た!


「ちょっと待て! 何だこの現金とカードの数々は!」

「僕の報酬です。菅原財閥の内通者の摘発と情報システムの強化、及び世界一の権力者達からいくつかの会社の危機を救いましたからね、ほんの御礼だということです。

 まあ、それよりお祖父さんは曾孫が早くみたいと言ってますから」


 そんな理屈が通っていいのかと思うが、あの紗枝の祖父なのだ。一般市民の考える基準なんて彼に押し付けてはいけない。


 しかし、やり過ぎじゃないかと思ったところにもう一人の医者が入って来た。


「邪魔するぞ次男坊」

「うわっ! 何で昨日よりボロボロになってるんですか!?」

「紗枝にやられた」

「ああ……」


 いつもなら自業自得とぐらい言ってやれるが、あまりのひどさに思わず同情してしまう。

 頬にストレートでも受けたんだろう、本気で腫れているその顔が痛々し過ぎて仕方ない。


「それより龍、紗枝がさっさと次男坊の回診終わらせたら衣装室に来いってよ」

「衣装室に?」

「ああ、お姫様をエスコートするのにいつもの恰好じゃまずいだろってさ」


 確かにそうかもしれないが、あまりに至れり尽くせりでは申し訳なってくる。


「だけど悪くないか?」

「遠慮することもないと思いますよ? 菅原財閥が趣味で兄さんと沙南ちゃんをバックアップしたいみたいですし。

 なによりその財布の中にも宝石店のカードとか、ウェディング関係の重役の連絡先とか、ホテルの宿泊ペアチケットまで兄さんのために用意してくれたみたいで」


 ちょっと寄越せと啓吾は財布からチケットを取り出すと、その内容に歓声を上げた。


「うわあ〜しかもスウィートルームじゃねぇか! ここまでお膳立てされて本気で手ぇ出さねぇのか?」

「出すかぁ!」


 だいたい今日一日の間に、どれだけとんとん拍子で話を進めなけりゃならないんだというほどのお膳立てに勘弁してくれと思う。


 だが、そこまでやらなければ進まないのではないかと言われると反論できないだろうが。


「まあ、だけどもう一つのチケットは使っても良いんじゃないんですか?」

「あっ、確かに沙南お嬢さんが好きそうなレストランだな」


 財布の中から今日のディナーのためにと入っていたチケット。確かにこれは悪くないなと思う。


「これだけは使わせてもらうよ」

「いや…龍、せめて宝石店で婚約指輪ぐらい」

「買うかぁ!!」

「そうですよ啓吾さん。兄さんはけじめを付ける人なんですから、ちゃんと段階を踏んで……」

「お前ら、本気で俺のオペが受けたいのか……」


 今なら生死の淵を味合わせてやるぞとの視線に、さすがにからかい過ぎたかと二人は苦笑しながらも素直に謝った。



 その頃、沙南は……


「沙南ちゃん可愛い〜!」

「うん! きっと龍お兄ちゃん狼になるよね!」


 あくまでも無邪気に言う夢華に、沙南は彼女の目線まで体勢を低くして尋ねた。


「夢華ちゃん……一体誰からそんなこと……」

「森お兄ちゃん!」

「あと、早く龍兄さんと沙南ちゃんの赤ちゃんがみたいから頑張って!」

「純君……誰に言えって言われたの?」

「森さんだよ?」


 だよね〜と互いに笑顔を向ける末っ子組に、沙南はこれを龍や啓吾が知ったらどうなるのかと額に手をやる。


 一応二人とも小学六年生なのだから、そろそろ性についてもう少し学習すべきなのかもしれない。

 だが、それ以前に悪影響を与える大人がいるからどうにもならないのだけれど……


「純君、夢華ちゃん、今のは龍さんの前で言ったらダメよ?」

「どうして?」

「そうね、男女の間に野暮なこと言ったら進まなくなっちゃうからかしら?」

「何が進まないの?」

「う〜ん、私が龍さんのお嫁さんになるための行程ってとこ?」

「それはダメだよねぇ」

「うん、そうだね」


 純粋な末っ子組で良かったと思う。これ以上突っ込まれたらさすがに切り返す自信がなかったから。


「じゃあ、そろそろ龍さんのところに行くわね。二人とも今日はどうするの?」

「プールで泳ぐの!」

「そっかぁ、楽しそうね」

「うん! だけど翔兄さん達も一緒に遊べると良いんだけどな」

「あら、翔君なら遊んでくれるでしょう?」

「うん、だけど紫月お姉ちゃんがスパルタ教育してるから」


 どうやら高校生組は本日も風のコントロールの練習らしい。昨日も翔が生気が抜けたような表情をしていたぐらいなので、相当紫月がビシバシ扱いている様子が思い浮かぶ。


「じゃあ、翔君にお土産買って帰るからって慰めてあげて」

「うん、分かった!」


 そして末っ子組と別れて玄関に向かえばやっぱりドキドキしてしまう好青年が立っているわけで……

 沙南を見つけて穏やかに笑うその表情は確信犯じゃないかと思う。


「いつもずるいな……」


 そう小さく呟いて階段を下りて龍の傍に立つと、龍はいつも通りの挨拶をした。


「お姫様、本日はお供させていただきます」

「うむ、ついて参れ!」


 色気も何もあったものじゃないやり取りでも、沙南が満面の笑みになるには充分だった。




ついに龍と沙南ちゃんのデートをようやく書ける(笑)

毎回キャンセルすることが多かったですからね、龍兄さん。

本当にやっとって感じですが……


にしても、秀は第四章になっても相変わらずな御様子。

しっかり稼げるときに稼いでいます(半分趣味ですが……)


しかも紗枝さんのお祖父さんとも結構仲がいいらしく、龍と沙南ちゃんがデートすると秀がつげただけで至れり尽くせり……

というより、紗枝さんの祖父は天宮家の面々を孫のように可愛がっています(特に沙南ちゃんは紗枝さん同様溺愛してるらしい……)


そして末っ子組の森直伝の応援を受けて沙南ちゃんはようやくデートですが……

果たして進展するのか??




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