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天空記  作者: 緒俐
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第百三十四話:恋愛模様それぞれ

 ヘリが着陸した場所は菅原邸、つまり紗枝の実家である。日本一でかい家ではないかと思われるほどの広さはさすがというべきか、とにかく上流階級の極みを見せ付けるような邸宅である。


 そんな広さの家の庭、というより森は年少組の遊び場にはもってこいといったところ。そして森の中にある広い湖のそばで翔達はというと……


「違います! もっと集中しなさい!」

「だから難しいんだってば!」


 大暴れした日の昼に目が覚めて、栄養補給をこれでもかというほどした翔は龍と秀、おまけに啓吾から説教と言葉の槍をグサグサと突かれたあと、紫月にスパルタ教育を受けていたのである。


 やはり西天空太子に覚醒したからなのか、すぐに風の力は使えるようになったものの、もとから集中力というものと掛け離れた性格の持ち主はやはり苦戦を強いられる事態が起こるわけである。


「すいすい飛べる癖してなんでかまいたちが作れないんですか!」

「だからそういった集中力とか使うもの苦手なんだよ!」

「言い訳無用! この際みっちり鍛えるように龍さんと秀さんから言われてるんです! 出来るまで夕飯は抜きですから!」

「んな殺生な〜!!」


 なんとも情けない声を上げる横で、水の上をスイスイ滑って遊ぶ末っ子組は無邪気に応援した。


「翔兄さん頑張って!」

「翔お兄ちゃんファイト!」


 まるでフィギュアスケートの金メダリストかというほど二人の滑り方は滑らか。それを見てると非常に虚しくなってくる。


「……あいつら特に集中してるわけじゃないのに、なんであんなに余裕でいろんなこと出来るんだよ」

「ちゃんと練習したからですよ。純君は夢華と一緒にいたくて頑張ってましたし、秀さんは言わなくても分かりますよね……」

「ああいうタイプって一番ずるいよな……」


 そこだけは紫月も否定しない。元から器用な上に柳が絡むと出来ないことなんて何もないんじゃないかと思ってしまう。しかも特に苦労することも無しにだ。

 だが導き出される結論は「地道な努力を積み重ねろ」と、いかにも龍が言いそうなことになってしまうのだけれど。


「くそ〜! このままじゃやる気出ねぇよ」

「元から集中力がない上にやる気まで無くしてどうするんですか」

「んじゃ、ご褒美付きならやる」

「子供みたいなこといいますね」

「やる気を出すにはいいだろ」

「はあ〜、じゃあ何が良いんですか」


 多分うまいものが食べたいか遊びに付き合えぐらいだと紫月は思っていたので、特に深く考えていなかったが、意外な一言を翔はニッと笑みを浮かべて告げる。


「紫月、デートしてくれ」


 紫月はきょとんとした。だが少し考えてそういえばと答える。


「……いいですよ」

「あれ? やけにあっさりと」


 もう少し何らかの反応があるかと思っていたが、紫月があっさりと承諾してくれたことに逆に翔が首を傾げる。

 だが、紫月は微笑んでその理由を答えた。


「忘れてませんか? 行きたいケーキ屋があるんで奢っていただく約束でしたし」

「あ……」


 確かに言われた。偽物とはいえ龍をボコボコにしたことに対しての口止めのためにケーキを奢れと。

 それではご褒美にならないのではないかと翔は苦悩したが、紫月はそこまで鬼ではなかった。珍しくふんわりとした笑みを向けて告げた。


「……でも、せっかくの夏休みなんですから翔君の遊びにもお付き合い致しますよ」

「ほんとか!?」

「ええ。ですが! やるべきことはきちんとやっていただきますから!」


 またスパルタ教官へと表情が戻る。それから夕食前まで、末っ子組が翔に同情してしまうほど扱きに扱かれるのであった……



 一方、菅原邸内では個々に部屋が宛がわれていたため大人達はゆったりと過ごしていた。


 その中でも秀は病人用のベットを宛がわれており、今日一日は安静と言われていたがパソコンで何やら彼の仕事を熟している。

 紫月が手に入れてくれた情報にいくつもの難題が出て来たらしく、今後のためと出来るだけの事をしておきたかったのだ。

 なんせ、自分が守りたいものに危害を加えられることを非常に嫌う性格だから……


 そしてとりあえず一段落というところで、部屋の扉はノックされる。


「秀さん、よろしいですか?」

「どうぞ」


 眉間の寄ってた表情が入って来た少女を見るなり一気に消え去ってしまう。


「夕食を持ってきました。一緒に食べましょう」


 動くなと龍と紗枝に厳命されていたため、今夜は全員で夕食を摂れないことを気にかけてくれたのだろう、ふんわりとした笑顔で柳はテーブルの上に食事を置いた。


「ありがとうございます。気を遣わせてしまいまして」

「いいえ、一人で夕食を食べるのは寂しいですから」

「君のそういうところが本当に好きですよ」

「えっ…と、ありがとうございます……」


 好きだと告げただけで赤くなってしまう柳に苦笑して、二人は食事を摂り始める。


「それより秀さん、背中はまだ痛みますか?」

「いいえ、兄さんに縫合してもらいましたからね、全く痛みませんよ」

「そうですか、良かった……」

「だけど僕としては柳さんの方が心配ですよ」

「えっ?」


 柳は箸を止める。自分は何か心配させるような事をしただろうかと思えば、やはり鋭い彼は見事に自分の心など御見通しだった。


「兄さん達と別れた後、柳さんがなにかあったんじゃないかというぐらい不安そうな表情をしていたので心配になりまして」

「あっ……」


 過去の事をえぐられた紫月の心を感じて、柳もあの恐怖でしかなかった日々を少し思い出していた。おそらくその時の自分は酷く情けない顔をしていたのだと思う。


 すると秀はベットから立ち上がった。それを柳は止めるが、座っている自分の目線にまで体を低くして繊細な指がそっと頬に触れる。


「何が原因かは聞きませんが、それでも辛いときは頼ってもらえませんか?」

「でも……私はいつも守られてばかりで秀さんが何度も傷付くのが辛いです……」


 南天空太子に覚醒したときも、そして今回も秀の心も体も癒すことが出来なくて申し訳なくなってしまう。

 それでもまっすぐ自分を好きだと言ってくれるのはどうしてなのだろうかと思ってしまう。


「秀さん……私は……」

「柳」


 呼び捨てにされた名前に心臓が跳ね上がりそうになる。どこか怒っているような声は今まで聞いたこともなく、ひどく怖くなった。


「秀さ」


 言い終わる前に口は塞がれる。久しぶりの口づけにすぐに熱は帯びて、突き飛ばしたくなった腕も強く抱きしめられて簡単に押さえられてしまう。


 解放する気のない口づけに呼吸は苦しくなって意識は朦朧として来て……


 そしてようやく唇が放されても熱い視線からは解放されなかった。やはりどう考えても怒っているようで……


「柳、僕のことなめてますね?」

「えっ?」

「僕がその程度の事に堪えられない次元で君の事を好きだと言った記憶はありませんし、その程度の気持ちならとっくに冷めてますよ」


 ドクンと鼓動がなる。痛くて堪らないほどの思いに胸が押し潰されそうになる。


「でも、心配なんです……それに怖くなる……秀さんがいつも私を守ってばかりで傷ついて……いつか私の前からいなくなっちゃうんじゃないかって……!」


 自然と涙が溢れてくる。ずっと抱え込んでた思いは堰を切ったかのように押し寄せて来て……


「こんな気持ちがすごく重たくて……! だけど秀さんは優しいから甘えてしまいそうで……でも危険な目にばっかりあって……! だからいつも傍に」

「ちょ、ちょっと待って下さい。なんだかこのまま聞き続けてたらさすがに僕も……」

「えっ?」


 柳は目を疑った。いつもまっすぐに自分を見てくる視線は外され、秀は口元を手で隠す。それに心なしか頬が赤いような気がする。

 あの余裕しゃくしゃくはどこにいったというのだろうか?


「えっと……」

「すみません、僕にもっと頼れと言おうとしただけなのにこういう反撃されるとは……」


 反撃という言葉に柳は首を傾げる。やっぱり彼女は気付いてないようだ。


「柳さん、お願いですから辛いときも苦しいときも必ず僕に言ってください。その度にこんなに好きだと言われたら僕の身が持ちません」

「えっ?」

「はあ、今日は絶対安静を言い渡されていて良かったですね。じゃなければ温泉旅行で君を抱く予定が前倒しになるところでしたよ」

「し、し、秀さん!!!」


 やっぱり最後は真っ赤にさせられてしまうのは柳の方で、秀はそれを見て満足げに笑うのだった。




一行は戦いが終了して紗枝さんの実家に。

さすがに天宮家にヘリは着陸できませんからね(笑)


とりあえず翔と紫月ちゃんは相変わらずのやり取りですが、でも今回を通じてさらに絆は深まったかなぁと。

ただし、恋愛というより先生と生徒ですよねこの二人(笑)

末っ子組の方がよっぽど恋愛してそうな感じです。


そして恋愛といえばやはり秀と柳ちゃんなわけで……


柳ちゃんに向かって初めて秀は呼び捨てにしたわけですが、

まさか返り討ちにあうなどとは思ってなかったようで……

辛いときに秀は頼ってもらいたいようですが、柳ちゃんも強い子ですからね。


だけどあれだけ心配されて、さらにずっと一緒にいたいと言われてるようなことを涙ながらに言われたらそりゃ秀でも照れるだろうな(笑)


そして何より、今回絶対安静を命じられていて良かったねぇ柳ちゃん(笑)




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