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天空記  作者: 緒俐
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第百三十三話:元気な一行

 大型ヘリがハワード科学研究所に到着した後から一行は大暴れしたにも関わらず元気だった。


 しかしそのヘリに森と土屋、宮岡は乗っていない。何やらそれぞれまだ仕事があるようで、彼等はもう一機やって来たヘリに乗ってそれぞれの場所に帰っていった。


 そして大型ヘリに乗り込むなり、啓吾は早速といわんばかりに満面の笑顔を秀に向ける。


「次男坊、大人しくしとけよ〜!」

「誰がしますか! 縫合は兄さんにやってもらうので結構です!」

「遠慮すんな。俺の腕は知ってるだろ?」

「知ってますよ! だから信用できないんです!」

「秀、啓吾! 暴れるんじゃない! 墜落したらどうするんだ!」


 早く縫合しなければまずいというのに、こういった状況になると痛いのも忘れて秀は全力で啓吾の治療を拒否する。

 だがあまりにもひどくなると本気でヘリが墜落するので、龍は一喝して二人を止めるのだった。


「秀、さっさと俯せになれ。俺が縫合する」

「ありがとうございます、兄さん」

「ちっ! 沙南お嬢さんと柳、後学のためにちゃんと見とけよ」

「はい!」


 未来の指導医はせっかく日頃の怨みを晴らせるチャンスだったのにと舌打ちした。それでもちゃんと医学生に勉強するようにと言うあたり教育熱心ではあるが。


「紗枝、三男坊と紫月は?」

「大丈夫よ、異常ないわ。それより啓吾、さっさとTシャツ脱ぎなさい」

「何で?」

「医者の命令よ。一人じゃ治療できないでしょ、さっさと脱ぎなさい」

「別に問題ねぇよ」


 その返答に紗枝はキレて無理矢理脱がしにかかった!


「脱げって言ってるんだからさっさと脱ぎなさい!」

「だっ、この変態! 何しやがる!」

「医者の言うことは聞けってんのよ!」

「俺だって医者だろうが!」


 ギャーギャーと取っ組み合いを始める二人の様子を沙南と柳は少し赤くなってみていた。四人の年少組が熟睡していて良かったと思えるような光景である。


「よし、終了。って何やってるんだ!?」


 周りで何が起きていようと、まずは秀の縫合に集中していた龍は縫合が完了するなり赤くなって啓吾と紗枝を見た。

 端から見ればどう考えても男女が絡み合っている光景である。


「龍ちゃん! この馬鹿押さえ付けて! 背中を酷く打って内出血してるのに治療させてくれないのよ!」

「……啓吾なぁ」


 事情を飲み込んだ龍は立ち上がると、簡単に啓吾のTシャツをたくし上げた。それにバツの悪そうな表情を啓吾は浮かべる。


「よくこんなになってるのに平然としてたよな……」

「だから平気だって言ってるだろ」

「熱まで出してる癖して何が平気よ! 龍ちゃん、背中は頼んだわ。この馬鹿の胸と足、数針縫合しなくちゃいけないから」

「ああ、分かった。沙南ちゃん」

「ええ」


 沙南は医療道具を渡すなり二人は素早く処置を施していく。


「贅沢ですね〜啓吾さん。スーパードクター二人掛かりの治療を受けられるなんて」

「るせぇ!」

「動くなって言ってるでしょうが!」

「だっ!!」


 わざと痛くなるように紗枝は縫合して啓吾は涙目になった。治療の最中に医者に刃向かうことほど命に関わることはない。


「紗枝、テメェそのうち覚えてろよ……!!」

「返り討ちにしてやるわよ!」

「だああっ!!」


 これだけ痛い目に遭わせていても、全くと言っていいほど紗枝の縫合に不手際はなかった。


 そして沙南は今回の戦利品に目がいきそのページをめくる。翔が見たら一秒でノックダウンしそうなほど小さな文字が羅列しているが、それを抵抗なく沙南は柳と見ていく。


「二百代前の歴史書か〜初版ではないみたいだけど」

「そうね。えっと中身は個人の列伝みたいだけど……」


 そして沙南は天空王の列伝を発見する。何となくそれを読むのは本人の許可なくしては抵抗があったので、ぱらっとページをめくっていくと、「沙南姫」と書かれた自分の二百代前の話を発見する。


「沙南ちゃん……」

「うん、私の二百代前よね……」


 文字を追っていこうとしたが、啓吾がふわりと天空記を沙南の手から重力で取り上げた。


「あっ! 啓吾さん!」

「こういうもんは先に龍が読むべきだからお前達は後。本を読まないうちにねたばらしなんかされた日には龍がキレるだろ?」

「いや、別にキレるところまではいかないが……」

「えっ!? 兄さん自覚ないんですか!?」


 秀が思わず突っ込んでしまうということは本当なんだろうなと柳は思う。沙南や紗枝はそれもそうねと納得してるわけだが。


「だけど同じもんが二冊ほしいよなぁ。紗枝、これもう一冊作ってくれないか?」

「いいわよ。私もそうするつもりだったし」


 過去を知りたいと、知らなければならないと紗枝もそう強く思うようになっていた。龍達と同じような力はなくとも、自分の中にいる自分の存在が大きくなっていく気がしていたから……


「サンキュー! じゃあさ龍、さっさと読んで酒飲んで語ろうぜ」

「そうだな、自分達のルーツを知る歴史書なんて滅多にお目に掛かれないしな」

「ああ、それにもしかしたら面白い記述もあるかもしれねぇし」

「あの高原老が評価してたぐらいの書物だ。つまらないことはないだろう」


 そして白熱していく活字中毒者達の会話。これは下手をすれば当分の間周りのことなど気にせず読み耽ることだろう。


「ああなったらもうダメね……」

「沙南ちゃん?」


 がっくりと肩を落とす沙南にどうしたのかと柳は尋ねる。


「せっかく自宅謹慎になったんだから今までの埋め合わせしてもらおうと思ってたのに……」


 忙しくて何度もデートをすっぽかされていたが、いざ自宅謹慎となっても結局本の誘惑には勝てない龍はきっと沙南のことなどお構いなしなのは目に見えていて……


「大丈夫ですよ、沙南ちゃん。あれだけのものをあと二冊作るなら明日一日はかかります。その間なら兄さんも付き合ってくれますよ」

「だけど秀さん……」

「大丈夫よ。秀ちゃんは私が診とくから気にせずにいってらっしゃい。それに柳ちゃんもいるし?」

「ああ、そうですね。柳さん、少しの間僕は暇なんで付き合っていただけますか?」

「はい、私を庇ったばかりに怪我を負わせてしまったんですから当然です」


 本当に申し訳なさそうに俯く柳に秀は首を横に振ってそっと頬に触れた。


「気にしないでください。僕の回復力なら明後日にはきれいさっぱり傷痕はなくなりますから。

 それに自分の彼女を守れることが嬉しいんですよ」

「秀さん……ですが……」

「はい、それでも柳さんは僕のことを心配してくれる優しい心の持ち主だって知っていますからね。

 もしお詫びを考えていただけるならなら、今夜僕と一緒に眠って貰えれば」


 カツン!といい音が響いた。秀の頭に缶がヒットした音。もちろんやったのはシスコンだ。


「次男坊〜〜〜〜!!」

「馬鹿! やめろ啓吾!!」

「かかってきなさい! 二度と邪魔できないようにしてやりますよ!」

「秀! 火を出すんじゃない!!」


 どんなことがあろうと、実に一行は元気だった……




散々暴れ回ったというのに大人達は元気です。


翔と紫月ちゃんは力を使い果たして眠っていて、純はどうやら落ち着いたようで眠りに落ち、夢華ちゃんは疲れて寝てしまったようですが……


それにしても医者達は相変わらずな御様子。

治療一つでここまで大騒ぎできる医者なんて普通いません。

普段は幾人も治療しているのに……

あの真面目さはどこにいったのやら……


そして天空記が手に入って龍も啓吾兄さんも浮かれています。

だけど一日ぐらい沙南ちゃんに付き合ってあげてよ、龍!




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