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天空記  作者: 緒俐
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第百三十二話:前に進む覚悟

 風が吹き荒れる中を啓吾は走る。重力を使わなければ間違いなく軽く吹き飛ばされてしまいそうだが、龍の気配は確かにこの風の中にあると確信していた。

 他の天宮兄弟についてはさっぱりだが、なぜか龍の気配は感じる。二百代前が龍の従者だった性かと思うのが一番しっくりくる理由なんだろうが。


 そしてさらに走ると、瓦礫の上で光に包まれて倒れている龍を発見した。


「おい、龍! しっかりしろ!」


 すぐに駆け寄り必死に呼び掛ける。すると虚ろな黄金の目を向けて龍は答えた。


「……啓星」


 どうやら意識は二百代前に戻っているらしい。どこか懐かしい感じもするが、今はそれどころではない。


「そりゃ二百代前の俺だ! さっさと現代に戻ってこい!」


 そうじゃなければ困ると訴えれば、黄金の目は元の色に戻っていった。


「啓吾……」

「怪我は……まあ、なさそうだな。動けるか?」

「動くさ……動かないわけにはいかない」


 まだ朦朧とするが、目の前で起こっている惨状を止めるのが自分の役目だと龍は立ち上がる。


「翔の力か……」

「おまけに紫月もあの中だ。だが、暴走してんのは三男坊みたいだけどな」


 紫月の意識はあまり感じられないが、それでも翔の力で彼女が傷ついていないことは分かる。この荒れ狂った風は誰かを傷つけたいために吹いているわけではないと龍も啓吾も感じていたから……


 それから龍は一歩だけ足を進めて啓吾に告げた。


「啓吾……俺自身に話を聞いた。何故二百代前に天界を無に帰すような真似をしたのかって……」

「それで?」

「理由は有り得ないぐらい単純だったが重かったよ。だからこの現代でも俺は怨まれていたのだとようやく分かった……」


 呼吸すら出来なくなるほどの苦しみは、やはり龍が感じたものを天宮兄弟も啓吾も影響を受けたのだと理解した。

 しかし、龍は覚悟は決めていても相変わらずな気苦労性の表情を啓吾に向けた。


「だがそれでも俺は進むよ。また啓吾達に迷惑かけそうだが……」


 啓吾は一つ溜息をつくと、何をいまさらといった表情を浮かべて答えた。


「……龍、さっさと行ってこい。三男坊を止めた後に次男坊の治療して、紗枝にこっぴどく怒られて、そしてお前と天空記読みたいからさ」


 いつものように送り出してくれる友人に感謝して、龍は少しだけ笑って走り出した。


「ああ、行ってくる」


 風の中に消えていく龍を見送って、啓吾はその場に崩れる。どうやら五分以内に紗枝のもとに戻るという約束は不可能だなと苦笑した。



 風の中心に入れば視界は悪く、まるで風全てが刃になっているかのようだった。


「痛っ!」


 龍の頬に傷が入る。常人ならとっくに切り刻まれている風の中でも、ただ所々に傷が付くだけならマシというところだろうか。


「翔! どこにいる!!」


 龍は叫ぶ! 答えよと、俺の声に答えよと何度も叫ぶ。しかし、風が強まるだけでその声すら全て掻き消される。


「俺の声が聞こえないのか!! 翔!!」


 一際でかい声で叫び、それから目を閉じて辺りの風に収まれと心で念じる。我に従え、三つ目の天よ従えと……


 すると風が少し乱れる。それを感じ取って目を開けば、荒れ狂う風を発生させている黄金の目をした少年は姿を現した。


「……やっと出て来たか」


 無事だった事に安堵すると、龍は威厳に満ちた声で翔に告げた。


「翔、もういい。お前は優し過ぎるんだ。だからこれ以上傷つくんじゃない」

「……龍……兄…者」

「荒れ狂う心をおさめよ。全て終わったんだ」

「しかし……」


 すると龍は穏やかな表情を浮かべ、翔の片腕を引っ張って頭を抱きしめた。まるで幼い頃、眠れないといって泣き付いて来た弟を慰めるかのように……


「休め。後は俺が何とかしてやるから」


 たった一言で荒れた心はおさまる。そして瞼がゆっくりと下がって来た……


「……眠いな」


 そう一言呟いて翔の体は光に包まれた後崩れ落ちる。それと同時に風は優しく吹き始めた。


「……お疲れさん」


 ポンポンと頭を叩き、ようやく終わったと安堵する。あとから言いたいことは山ほどあるが、まずは休息だなと翔が起きていたら間違いなく逃亡をはかるようなことを龍は思った。


「さて、とりあえず服……」


 この姿を沙南達に見せるわけにはいかないなと龍はTシャツを脱いだ。多少切られているがないよりマシだろうと翔にすっぽりそれを被せる。


 だが、ここで龍はまずいことに気がつく。西天空太子に覚醒した翔が元に戻ったとき裸だということは……


「ま、まずい!!」


 他に何か着せられるものと龍が慌てていると、


「龍!!」


 風がやんで土屋と宮岡が駆け付けた。それに気付いてすぐに龍は駆け寄る。


「宮岡先輩! ジャケット貸してください! 紫月ちゃんが裸なんです!」

「はっ!?」


 いきなり何だと思いながらも、翔の姿を見るなり宮岡はすぐにジャケットを龍に渡す。


「って森はどこにいった!?」


 さっきまで一緒にいたはずなのにと迷彩服の馬鹿を探せば、最悪な光景を目にした。紫月の元に近づいていく森を発見したのだ!


「美少女はどこだあ〜? おっ!」


 紫月を目にした途端森は目を輝かせた。そしてハートを飛ばしながらスキップして近寄る。


「いま俺がたすげっ!!!」


 言葉はいきなり遮られる。地面に減り込むほどの圧力が森に掛けられたのだ! やったのはもちろん彼女の兄である。


「今すぐにジャケットくれ!」

「分かった!」


 龍は宮岡のジャケットを啓吾に渡すと、それを紫月に羽織らせる。


「全く!」


 青筋を立てながら森を睨み付け、そして紫月を横抱きにした。覚醒した後なのか付けられていた怪我は全て消えている。

 それは翔の方も同じようで、あれほど深く傷ついていたというのに全くその形跡はなかった。

 それから龍は翔を背負うと全員に促す。


「さて、とりあえず帰ろうか」

「ああ、紗枝ちゃんがヘリを要請してくれたからもうすぐ来てくれるさ」

「そういや次男坊をさっさと縫わねぇとなぁ」


 啓吾がひどく楽しそうな顔をする。


「啓吾、報復が怖いから止めといた方がいいと思うぞ……」

「いやいや、こんなチャンス滅多にないからさ、愛情たっぷりに俺が治療してやるよ」


 どうやら自分では止められそうにないなと、龍はまた深い溜息をつくのだった……




ようやく今回の騒動は一段落。

最後はやっぱり龍兄さんがちゃんと働くのがこの話です。

何てったって家長で悪の総大将ですからね(笑)


でも、翔もいつもよりよく頑張りました。

あとは龍からたっぷりお説教を受けたら君は自由だ(笑)


そしてこれからですが、龍が二百代前と向き合い前に進むと決意したからには、第四章は今まで以上にハードな展開となるということ。

なんせ今回出て来た問題が次回に回るということですから。


紗枝さんのお母さんが殺された十年前の事件、篠塚兄妹の過去、世界一の権力者達の動向に天空記の内容……


それと向き合うと龍は決めたわけですから、本当に今まで以上に彼は苦悩することでしょう。なんせ、沙南姫様のことも気掛かりでしょうし……


だけどがんばれ龍!

君がいないとこのテロリスト達は危険過ぎるぞ!?




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