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天空記  作者: 緒俐
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第百三十一話:渇き

 爆風は龍がいた塔をへし折り、意識がないまま龍は真っ逆さまに落ちたが、彼にはかすり傷一つ付いていなかった。


 もちろん、もともと超人的な肉体の持ち主なので岩の下敷きになろうが、突っ込んでくる暴走トラックに跳ねられようが死ぬことはない。


 だが、いま龍を守っていたのは龍の中の力だ。まるで純の夢遊病のように体は浮き上がって光を放ち、所々でプラズマが走っている。

 ただ純と違ったのは、その感覚をどこかで感じている自分がいることだった……


「どうして覚醒できない?」


 頭の中で龍はその答えを知る人物に尋ねる。自分と同じ姿を持つ二百代前の自分、天空王が目の前にいた。


『違うだろう? お前自身がそれを拒んだんだ』

「ああ、暴走する力ならお断りだ。それに俺の性で純の意識は二百代前と現代をさ迷ってる。それが分かってるのにお前になるわけにはいかない」


 それが兄としてのけじめだと龍は天空王を見据えた。すると天空王は目を細める。


『純らしいな。お前が苦しんだのを感じて必死にその理由を夢の中から探ろうとしてるのだろう』


 そう告げて穏やかな表情を龍に向けた。弟の優しさを理解している、そういう顔だった。


 しかし、そんな顔を向けてくる王に龍はもっとも気になっていたことを投げ掛ける。


「天空王、お前は二百代前に天界を無に帰したと聞く。一体なぜそんな事をした?」

『……龍、お前はさっき何を見た?』


 鼓動が強く打つ。自分の脳裏に焼き付いた光景がもう一度流れてくる。


「……沙南姫が刃に貫かれていた」

『ならばどうして貫かれた……』


 そう問われて龍は目を閉じる。そして膝を折った。見たくない光景が全ての答えだったから……


『沙南姫は私を守ったために貫かれたんだ……』



 風の中で戦いは繰り広げられる。互いの力がぶつかり合い、気を抜けば喉元を切り裂かれるほどの風がこの中で吹き荒れる。

 しかし、そんな中でも翔はそれを楽しんでいた。口元に浮かぶ笑みは隠し切れず、動きもどんどんリズミカルになっていく。

 ただ、簡単に捕らえることは出来そうにはないけれど……


「ちょこまかと……!!」

「デカイだけの悪鬼にこの翔が捕まえられると思うか!」

「調子に乗るな!」


 腕を振り下ろして生まれた爆風を刃で切り裂き、翔は飛び上がって斬り掛かる!


「はああっ!!」

「くっ……!!」


 刃が夜叉の胸をかすめる。それに翔は舌打ちするが、また夜叉から生み出された風を避けるために一旦引く。


 そして夜叉は視線を右側に向けると、もう一人この風の中で舞う白銀の目をした少女を見つける。


「従者よ! まずは貴様を切り裂く!!」

「愚か者が!!」


 向かってくる夜叉にかまいたちを放ち両手両足に裂傷を負わせるが、それに構わず紫月に突っ込んで来た!


「死ね小娘!!」

「させるか!!」


 風のアローが紫月に伸ばした手を貫く!


「ぐあっ!!」

「地に伏せよ!」


 紫月は竜巻を発生させて夜叉の巨体を吹き飛ばすと、夜叉は突き上げられて地面に叩き付けられた!


「くっ……!!」

「動くな!」


 翔は夜叉の胸の上に乗り、顔の真横に刃を突き立てる。その黄金の瞳は刃以上に鋭く、完全に夜叉を敗者だと告げていた。


「勝負はあった。このままこの現代で俺達から手を引くのであれば命だけは助けてやる」

「翔様! そのものが二百代前で我らに何をしたのか御忘れか!」


 すぐにとどめを刺さなかった翔に紫月は意見するが、翔は首を横に振った。


「忘れるものか。夜天の奴らが我々にした所業の数々は今すぐこいつを塵にしてやりたいぐらいだ! だが! こいつを斬るべきなのは龍兄者だ!」


 だから斬らないと翔は告げると、夜叉は肩を震わせ笑い始めた。


「クックック……!! 南天空太子ならば迷わず俺を殺していただろうが、やはり弟は甘いようだな」

「ほざくな! 斬れないわけではない、貴様は天空王に斬られるべきだと言っている! お前の性で……!!」


 風の刃が翔を切り裂き翔は肩から血を流す! そして形勢は逆転し翔の喉元を夜叉は押さえ付けた!


「くっ……!!」

「翔様!!」


 紫月はすぐに翔を助けようと動くが、翔の持ってた刃を翔に近づける。


「動くな! 動けばお前の主を今すぐ殺す!!」

「卑怯な……!!」


 紫月は夜叉を睨み付けるが、全く攻撃することが出来なくなった。


「西天空太子よ、ならば問う。貴様は我々夜天族はおろか、天界が無に帰す前にどれだけのものを殺した!

 それもたかが一人の姫の命を助けるためにな!」

「その姫を天空王から奪ったからだ……!! 俺達はただ平穏を望んでいたのに……!!」


 夜叉はさらに首を強く締め付けると翔はさらに苦悶の表情を浮かべた。


「何が平穏……!! 貴様らは力によって全て手にしただけだろう!!」

「夜天族と一緒にするなどおこがましい! 天空王様はお前達のように全てを力で支配してきたわけではない!」

「従者は黙るがいい!!」

「くっ……!!」


 紫月は後ろに飛んで夜叉が放った風を裂ける。


「ならば何故天空王の前で多くの者が膝を折る! 我らはどこまで渇かなければならない!!」


 荒廃した土地の中で水を欲する者と同じように、夜叉の心は二百代前からずっとその渇きに堪えていた。

 光を知る天空族と夜の闇しか知らない夜天族。表と裏だからこそ見えないものがあり、そして分かることもあるだろうに……


「……だ…から!!」


 翔は身体から風を解放した! それは夜叉の身体に無数の傷を刻み込む!!


「くっ……!!」

「離れろ紫月!!」


 夜叉の腕から解放され、さらなる風の中で翔と夜叉の一騎打ちが始まる!!


「小僧!!」


 翔の刃を振り下ろし、夜叉は目の前の存在を消し去ろうとした! しかし、その刃を振るう腕はさらに風に切り刻まれる!!


「うがああっ!!!」


 夜叉はあまりの痛みに刃を離すと、翔はそれを手にして夜叉を一刀両断にした!


「なっ……!!」


 斬られた、目の前にいる少年の白が自分の返り血を浴びて赤になる。

 あの天界が消える最後の日と同じ光景をまた夜叉は目の前で見たのだ……


「何故……渇く……?」


 夜叉の身体は風に呑まれて消えていった……




はい、翔が今回とどめを刺しました。

だけどかっこいいというより、ちょっと切なくなっていただければなぁと思います。


ですが、二百代前には本当にいろいろあったようで……

翔は「ただ平穏をのぞんでいた」と言っているので、彼は喧嘩好きでも戦自体が好きだったというわけではなさそうです。

それだけ当時は荒れていたということなんでしょう。


そして二百代前の自分と話している龍。

どうして天空王が天界を無に帰したかという理由を知り愕然とした模様。

それに沙南姫の事が大きく関わっているようで……

真相は第四章で明かされますので待ってて下さい。


さあ、いよいよ第三章クライマックス!

未だに爆風は吹き荒れています。

龍兄さん、まだお仕事が残ってますよ!




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