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天空記  作者: 緒俐
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第百三十話:風

 天空記にこのような一節がある。


「西の天を治める太子、風の力を司り、大気動かす源となる。その勇将ぶり天下に名高く、神風の如く戦場を翔ける」と……



 翔が爆風を巻き起こした瞬間、その場にいたものは成す術なく吹き飛ばされる。柳も当然その軽い体は宙を舞い、その腕から紫月が離れた。


「紫月!」


 意識のない妹の名を叫んだ瞬間、また新たな風が生み出された。その直撃を受けて柳は崩れた建物に叩き付けられそうになった瞬間、その体はピタリと止まる。


「兄さん!」

「次男坊! さっさと目ェ醒ませ!! 全員押さえんのきついんだよ!!」


 力を解放するだけ解放している啓吾は、誰一人危険な場所に突っ込まないようにと重力で体を押さえ付けていた。

 しかし、この暴風の中でいつまでもその力を使い続けているのは極めて難しい。


「くっ……!!」


 一度失った意識もこの暴風の中で秀は取り戻すと、危うく建物に叩き付けられそうになって大怪我を負う直前の柳を視界に入れた。


「急げ次男坊!!」

「言われなくても!!」


 ぐいっと柳を自分に引き寄せた瞬間、啓吾の重力は解放されて再び吹き飛ばされる!

 しかしその風の力を利用して、秀は安全な場所まで吹き飛ばされると軽やかに着地した。


「秀さん!」

「柳さん、お怪我は?」

「ありません! それより秀さんの方が……!!」


 さっき自分を守ろうとして秀は背中に裂傷を負ったのだ。地面に血が滴り落ちているのに平気な訳がない!


「大丈夫です。後から兄さんにでも縫ってもらいますよ。それより翔君、覚醒してしまったみたいですね……」

「紫月も……」


 不安そうに荒れ狂う光景を眺めていると、他のメンバーも秀達に合流した。


「秀さん!」

「沙南ちゃん、怪我は?」

「森さん達がずっと守ってくれてたから平気よ。だけど純君がずっと意識が朦朧としたままなの……」


 沙南の腕の中で純はやはり焦点が定まっていないようだった。天空記はずっと離さず抱えているが……


 そしてさらに意識を失っているものが二名いる。


「おい、紗枝! しっかりしろ!」

「ん……」


 森は紗枝を揺さぶると眉を顰て意識を取り戻す。


「バカ兄……」

「お前なぁ……お嬢ちゃんみたいに森お兄ちゃんとぐらい言えないのか?」

「言わせるぐらいならすぐに撃ち殺すわ……」

「世の中のためにはなるだろうな」

「淳、そこでつっこむな!」


 とりあえず紗枝は大丈夫そうだと思うが、問題は啓吾だ。


「お兄ちゃ〜ん!」


 夢華が涙目で倒れている啓吾の傍に駆け寄っていた。有り得ないぐらいの力を使い切ったのだろう、妹が泣きそうなのに起きる気配がない。


 そんな夢華の頭を撫でながら宮岡は静かに告げた。


「紗枝ちゃん、啓吾君はずっと紗枝ちゃんを守っていて、俺達に紗枝ちゃんを渡した後に倒れたんだ」

「啓吾が?」

「そうだぞ。後からちゃんと礼ぐらい言っとけよ、全員の重力コントロールした上に、お前に傷一つ付けないように庇うだけ庇ってたんだからな」


 確かに啓吾にはいくつか切り傷がある。意識がないということはそれだけ力を使ったことはわかる。

 相当無茶をしたんだろう、紗枝は優しく微笑んで感謝の気持ちを述べた。


「ありがとう啓吾、どうか安らかに眠って……」

「啓吾さん、あなたのこと忘れません。でも柳さんは必ず幸せにしますから」

「お兄ちゃ〜ん!!」

「……おい」


 額に青筋を立てて啓吾は機嫌悪そうに目を覚ました。


「あら、起きてたの?」

「なんだそのつまんねぇって顔は!」

「意外としぶといんですね」

「なんだその残念って顔は! 殺すぞ次男坊!」

「お兄ちゃんもうダメだと思ったよ〜!」

「勝手に殺すな! それに本気で泣くな!」


 状況は最悪だというのに、なんでこんなことになるのかと柳は思う。龍がいれば間違いなく頭を抱え込んでいただろう……


「それより参ったな……三男坊と紫月の暴走も止めなければならんが、龍がどこに吹き飛ばされてんのか……」

「僕が探してきます」


 また風の中に突っ込んでいこうとした秀の腕を紗枝が掴んだ。


「ダメよ秀ちゃん! それ以上動けば間違いなく出血死するわ! いくら丈夫でもその傷塞がないと本気でまずいってことぐらい、医者になるなら認めなさい」

「全くだな。次男坊、お前はその辺に転がってくたばってろ。俺が龍を探してくる」

「あんたもダメよ!」

「紗枝、あのな……」

「立ってるのもやっとな癖して動くんじゃないわよ!」

「えっ!?」


 誰もが驚きを隠せなかった。啓吾の表情からは全くそんな感じはしなかったから……

 しかし、前回ハワード国際ホテルで啓吾が力を全解放したとき、その異常なまでの体の負荷に紗枝は気付いていたのだ。


「だったら帰ってお前が治療しろ。こんな暴風の中、一番まともに動けるのなんて俺ぐらいなもんだ。

 それにな、中ボスってのは悪の総大将の力を信じてるから動けるもんだし」

「だけど!!」

「何だよ、珍しく俺の心配か?」


 ニッと笑う啓吾に何も言えなくなる。いつもなら「調子に乗ってんじゃないわよ!」とぐらい言ってのけられるのだが……


「……5分内に龍ちゃん連れて戻ってきなさい。遅れたらしばらくベットに縛り付けてやるから!」

「へいへい。んじゃ、行ってくる」


 相変わらず飄々として啓吾は風の中に飛び込んでいった。



 そして、荒れ狂う風の中で夜叉は二百代前の光景を目にしている気がした。


 一人は白銀の甲冑を着込み、自分を斬ろうとその黄金の双眸を向けてくる少年。

 もう一人は袖布をたっぷり使った真っ白な細身の衣を身に纏い、白銀の瞳を持つ少女が主より半足引いて立っていた。


「西天空太子……!!」

「悪鬼が、二百代の時が過ぎようともその醜き姿は変わらぬようだな」

「黙れ!!」


 見えない力が翔達に叩き付けられたが、それは全くと言っていいほど効果を成さなかった。いや、違う、同じ力に相殺されたのだ!


「夜天の風など俺には効かぬ! 我が一族を窮地に陥れようとしたこと、そして何より!」

「ぐはっ……!!」


 一閃! 翔は刃を抜き、夜叉の肩から腹に大きな刀傷を負わせ血潮を浴びる!


「沙南姫を……!!」

「調子に乗るな小僧!!」


 新たな爆風が生まれる! その中に紫月も飛び込み、風がさらに荒れ狂う!


 まさに二百代前の戦が現代で繰り広げられようとしていた……




とりあえず男性陣が結構ボロボロです……


純君は意識が飛んでるし、秀さんは下手すれば出血死、啓吾兄さんは本当に……

書いてはいませんが、森とかも沙南ちゃんを守ってたみたいなので多少怪我してるでしょう。


だけどそれでも啓吾兄さんは動きます。

爆風の中を進めるのなんて彼しかいません。

何より龍兄さんが心配なので動いてしまうのです。

だって啓吾兄さんは中ボスですから(笑)


そして爆風の中で覚醒した翔と紫月ちゃんが夜叉と対決!

現代でボロボロにされてたのに逆襲開始!

この戦いの結末はいかに!

何より翔、三枚目脱却のチャンスは今回しかないぞ!?




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