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天空記  作者: 緒俐
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第十三話:ラブレターは燃やさレター

 沙南から受けたメールを見た瞬間、太陽みたいな満面の笑顔を浮かべた翔は、四の五の言わせずに紫月の手を引っ張って自転車の後ろに乗せた。


 もう、バス代が浮くからいいか、と紫月は最近この暴走自転車に乗ることをプラスの意味で考えるようになっていた。


「紫月! 今日は家で酒宴だぞ!」

「酒宴?」

「ああ、うまくいけば俺達にもおこぼれがある!」

「……高一で飲酒は控えてください」


 あくまでも日本では二十歳からじゃないと飲酒は禁止なのだからと紫月は一応守れる法律を守っている。

 だが、公務執行妨害及び傷害罪を平然とやってのけているじゃないかと言われれば返す言葉はないが。


 一種のスピード違反をし、他愛のない話をしながら二人は天宮家に帰り着き、翔は郵便受けに入っていた夕刊と郵送物を数枚手にとって家の中に入る。


「たっだいまあ!」

「お邪魔します」


 高校生二人組はリビングのドアを開けると、楽しそうに夕食の準備をしている沙南と柳が視界に入って来た。


「おかえり」

「おかえりなさい」


 二人の美女に迎えられて翔は顔を綻ばせる。いや、料理の匂いも原因の一つだが。


「私も手伝います」

「ありがとう、紫月ちゃん」


 紫月は手を洗いエプロンを一つ借りて野菜を切り刻んでいく。天宮家の台所を預かる沙南でも、そのリズミカルな包丁捌きに感心した。


「紫月ちゃんプロ級?」

「いえ、ただ料理は好きです」

「紫月は毎日料理してるから」


 女の子三人が台所に立つ姿をを微笑ましく思いながら、翔は天宮家に届いていた郵便物の中から「折原沙南様」と書かれた真っ白な封筒を見つけた。


「沙南ちゃん、宛名のない手紙が来てるけど?」


 切手も貼られていない手紙を不思議そうに沙南に渡す。


「脅迫状でも届いたのかしら?」

「ラブレターかもな?」

「それもそれで気味悪いけどね。えっと……」


 瞬時に沙南は硬直した。全く生気すら感じられなくなった沙南に翔は目の前で手を振る。


「沙南ちゃん?」


 一体、何が書いてあったんだろうか、とその場にいたものが沙南に注目したとき、ちょうどワインを抱えた秀、純、夢華もリビングに入って来た。


「どうしたんですか?」


 秀は翔にワインを渡し、硬直してしまった天宮家の主の元へ歩み寄れば、沙南は無言のまま秀に手紙を渡す。


 そしてそれを受け取った瞬間、秀はそれがラブレターだと気付き遠慮なく手紙を読んでいくが彼の眉間に段々シワが寄っていき、しまいには脱力感すら与えられた。それだけ内容がお粗末だとしか言えないのだ。


「……これ読み上げましょうか?」

「私の幻覚だったら嬉しいから念のためにお願い……」


 包丁を持つ気力すら削がれてしまった沙南は、一度料理する手を止めて深い溜息を吐き出した。そして秀も柳眉を顰めて読み上げる。


「沙南さん、僕はあなたの婚約者です。ゆくゆくはお父様の秘書として働かせて戴きます。

 ですが、いきなり婚約と言われても驚くかと思いますので、来週の日曜日に出掛けましょう。朝の十時にお迎えにあがります」

「いやああぁ〜!! 絶対にこんなのの奥さんになりたくない!!」

「当たり前だ! 沙南ちゃんをこんな奴に任せられるか!」

「そうだよ! 沙南ちゃんは龍兄さんのお嫁さんになるんだから!」


 純の主旨は弟達の願望である。秀から手紙と一緒に同封されていた写真を見せてもらった柳と紫月も、これはひどいと言った顔をした。


 もちろん、極普通に接してくる相手ならここまで騒がなかっただろうが、沙南の婚約者と勝手に言い寄って来られるととても嫌悪感を表さずにはいられなかった。


「おねがい秀さん! 何とかしてぇ!!」


 いつになく沙南は必死そのもので秀の襟首を両手でぐっと掴んだ。いつも無敵な天宮家姫君の今にも本気で泣き出しそうな顔に秀は苦笑して答える。


「とりあえず、兄さんに報告しときますか。沙南ちゃんを助けるのは兄さんの役目ですし」


 何より反応が楽しみだし、と秀は悪戯っ子の気持ちが抑えられなかった。そこに思ったよりも早く医者は御帰還した。


「ただいま」

「お邪魔します」

「おかえり!」

「おかえりなさい」

「お兄ちゃん達おかえり!!」


 それぞれが家長達に声をかける。しかし、いつもならここで沙南が龍の鞄を預かってくれるのだが今日はそれがない。それどころか少し沈んでいる彼女とかなり楽しそうな弟達を見て龍は尋ねた。


「どうした? やけに騒がしかったが」

「これが原因です」


 秀は龍に写真と手紙を渡した。それを読み進めていくうちに龍の表情がどんどん無表情になっていく。

 そしてその表情のまますっと啓吾の前に手を差出し、低い声で一言命じた。


「……啓吾、ライター」

「お、おお……」


 上着の内ポケットからライターを取り出し、龍に渡した直後に写真と手紙は燃えていき、龍は灰皿にそれを投げ捨てた。


「龍さん……」

「さて、俺は着替えてくるから啓吾はくつろいでてくれ」

「ああ……」


 まるで何事もなかったかのように龍は自室へと着替えに行った。

 そして残された面々は数秒間停止した後、翔の一言から時間を取り戻していった。


「兄貴……」

「ああ、ちょっと判断ミスしたかもしれないですね……」

「龍さんストレス溜まってる?」

「あいつが今週の日曜、休みにされた理由がよくわかったよ……」


 おそらく病院内に影響を与えるから……、と啓吾は続ける。だが、今の一件を見る限り日曜までもつのか微妙だ。


「それと啓吾さん、紗枝さんは?」

「あいつももうすぐ来るよ。いつも以上に飲まなきゃやってられないから追加分買って来るんだと」

「相当ストレス溜まってるんだね……」


 リビングは紗枝がやって来るまで静まり返っていた……




静かにさりげなく、さも日常のように龍兄さんはラブレターを破るのではなく燃やしてしまいました……


沙南ちゃんのことになるとここまでやるのか!?とちょっと恐怖かもしれませんが、いつもの龍兄さんはそんなことしません。


沙南ちゃんだって今まで沢山ラブレターぐらいもらっていますが、龍さんに見つかったとしても自分で破ってますから。


しかし余談ですが、秀さんを使って沙南ちゃんにラブレターを渡そうとした者達は今どうしていることやら…




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