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天空記  作者: 緒俐
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第百二十七話:瞑想

 遠い過去、幾度となく天空族を滅ぼそうと夜天族は躍起となっていた。それは停戦している状況下の中でも、夜天族の下に付く民族を天空族討伐のために差し向けていたほどだ。

 もちろん、毎度のことなのかあっさり打ち破られていたのだが……



 今宵も夜の闇の中、夜叉は酒を飲み群がる美女達を愛でながらも、どこか心はすっきりとしなかった。


 当時、天界一と謳われるほど天空族の力は巨大で、何より多くの民族や仙人、そして女神達が彼等の前にひざまずいていた。

 しかし、その天空族の王は決して彼等を力で押さえ付けたりはしない。彼の目の前に立っただけで膝を折ってしまうのだ。


 その理由は定かではなかったが、全てを力で手に入れて来た夜天族の王子、夜叉はそれが気に入らなかった。

 ふと、側近のものにその理由を尋ねてみる。


「何故に天空族の前に多くのものが膝を折る?」

「はっ、おそらくその戦力が天界一とされているからではないかと……」

「だがそれだけで女までが纏わり付くのか? あの沙南姫までもが天空王に恋い焦がれていると聞く」

「それは沙南姫様と天空王は永き付き合いがあるからだと思われますが……」


 そうとしか側近は答えられなかった。沙南姫と天空王が淡い恋仲だという噂は、もはや天界や仙界全土に渡るほど好意的なものだ。


 それを邪魔しようとしたものは、なぜか民族そのものが滅亡しかけたり、やけに仙人達からいたずらされたり、おまけに彼等と親しい自然界の女神様から邪険にされたりと被害報告が後を絶たない。


 だが、当人達は何故だろうと首を傾げているのだが……


「気に入らぬ。あの天空族から力も富も名声も、そして女も奪えないものか」


 全て極上の中に身を置く天空族が気に入らない。あの民族を陥れる方法がないのかと模索する。


 するとそこに伝令が慌てて夜叉の元に入って来た。


「夜叉王子! 天空族に放った軍が悉く敗走しております!」

「天空王が乗り込んで来たのか?」

「いえ、打ち破っているのは西天空太子の部隊! そして柳泉が前線に現れております!」

「柳泉? 確か絶世の美貌を持つ南天空太子の従者と聞くが主も来ているのか?」

「いえ! ですが風と炎の力によりこちらの劣勢は……」


 夜叉は口元に笑みを浮かべた。南天空太子やその兄の啓星が、滅多に他のものの目にかからないようにと、それは大切にしている少女が戦場に現れたという。


 あの沙南姫と並べても見劣りしないほどの美しさならば、是非とも自分の傍におきたいと欲望は膨らむ。


「私も出る。すぐに支度せよ」

「しかし!」

「何、柳泉という従者を一目見るだけだ。場合によっては天空族そのものを陥れるきっかけとなる」


 夜叉は群がる女達の手をどけ、戦場へと赴くことにした。



 一方、前線に上がっていた西天空太子こと翔の部隊は……


「姉上、そろそろ御下がり下さい。あまり姉上が戦場をかけると兄上や南天空太子様の機嫌が極端に下がるので……」

「そうだぜ、柳泉姉上。何よりこんなところまで上がって来たら、またよその王子から惚れられて面倒なことになっちまう。

 秀兄者と何があったのかは分からないけど、絶対心配してるから戻った方がいいと思うぞ?」


 というより戻さなければ、あの二人が今回の戦に関わっている首謀者達を天空王の許可がなくとも消し去る。

 おまけにその八つ当たりを受けるのは間違いなく翔だ。


 しかし翔と紫月の提案を受け入れず、柳泉は首を横に振った。


「いいえ、南天空太子様の御傍には今宵戻るわけには参りません。従者としてすべきことを全うさせていただきます」


 ふわりと穏やかな笑みを浮かべた後、柳泉はさらに敵陣をかけていく。その姿はまるで舞い踊る天女のよう。

 しかし、さすがは南天空太子の従者でもあるのか、その強さもけっして侮れないものだが。


「紫月、本当にどうしちまったんだよ柳泉姉上は」

「夜天族の姫が最近南天空太子様のところに通い詰めてますから、おそらく姉上のことなので身を引いてるのかと……」

「色恋沙汰かよ……まあ、あの二人らしいけど」

「仕方がないですよ。夜天族とは表では停戦状態ですから」

「はっ、しょっちゅう俺はその配下の民族と戦ってるんだけどな」

「堪えてください。天空王様も辛い立場なんですから」

「龍兄者もいくら主上の命令だからっていつまで耐えてんのか……」


 そのとき、二人の近くに新たな爆炎が上がった。一体何事かと思うが優勢な状況下の中で二人が一気に上がることを側近達に止められる。


 だが、それが間違いだった。この時夜叉が柳泉と出会わなければ、先に起こる大戦乱を回避できたかもしれなかったのだ。


 柳泉の周りで戦っていた兵達は次々と膝を折り、そして彼女は一対一で夜叉と対峙することになる。


「ほう、間近で見ればやはり美しい」


 噂通りの美貌を目におさめ、夜叉は満足そうな笑みを浮かべた。柳泉はすぐにこの男は危険だと感じ取ったのか、すっと熱で身を守る。


「そなたは」

「夜天族の夜叉という。妖姫に主を奪られた従者よ、私のもとに参れ」

「くっ……!!」


 柳泉は苦渋に満ちた表情を浮かべた。夜叉の言ったことは彼女の核心を突いていて……


「迷うことはあるまい? どうせ慰みものとしか扱われぬ従者ならば私の手で咲誇ればよいだろう?」

「我が主を侮辱なさるおつもりか?」

「我が主……か。だがその主は妖姫に溺れていると聞く。哀れなことだ、これほどの女をただの従者としているとは……」

「やっ……!!」


 夜叉が柳泉に触れようとしたその瞬間、翔が放った風の矢が夜叉の肩を貫いた!


「くっ……!!」

「全軍進め!!」

「ウオオオオ!!!」


 天空軍が翔の号令を聞き押し寄せてくる! さすがに不利と悟ったのか夜叉は矢を放ったものの顔を目に刻みこむ!


「西天空太子……!!」

「夜叉王子、ここは危険です! お下がり下さい!」


 側近の者が近付き夜叉に促すが、目の前の獲物を逃したくはなかった。


「くそっ……!! せめて柳泉を!!」


 腕を伸ばしたがさらに風の矢が夜叉に降り注いでくる!


「下がれ!! 柳泉姉上に手を出すものは斬り捨てる!!」


 威勢のいい声が響き、翔と紫月は柳泉の前に立った。


「柳泉! 必ずお前を私の前に跪ずかせてやる!」

「馬鹿野郎! テメェのような奴に柳泉姉上を渡すもんか!!」


 翔はさらに矢を放とうとしたが、相手の正体に気付いた紫月がそれを止めた!


「なりません翔様! 相手は夜天族の王子です! これ以上は!!」

「構うか!!」

「翔太子!」


 斬りかかろうとした翔の前に両手を広げて柳泉が止める。


「柳泉姉上……」

「なりません、どうか我が主のためにもその刃をお収め下さい」


 泣きそうな顔をして柳泉は翔を止めた。



 そして現代……


「懐かしい戦を思い出した……やはりこの姿で君達の前に立つとあと一歩で柳泉を手に入れられたことが悔やまれる」


 夜叉は椅子に腰掛け瞑想にふける。そんな余裕があるほどその場は静かだ。


「立ち上がるまで待たなければならないとは実に面倒だが、三つ目の天を望むものがいるのでね……」


 翔と紫月はその場で血を流して倒れていた……




今回は二百代前の話です。

時間にしてちょうど柳泉が夜叉王子に奪われる前の戦です。


二章始めに南天空太子が言った「柳泉が翔の遠征の手伝いにいった」というセリフがありますが、

その時の戦いで夜叉王子は柳泉に会い、翔に返り討ちにされたという模様。


当然あと一歩で柳泉が手に入ったのに、翔に邪魔されたので夜叉王子は怨みたらたらです。


それがきっかけとなり、柳泉は辛い思いをして結局は夜叉王子の元へと行きます。

ですがその後、柳泉を助けるために南天空太子が夜天族を悉く倒していくわけですが……


そんな瞑想をしてられるほど夜叉は余裕の状況。

翔と紫月ちゃんがやられてる!?

一体どうなっちゃったの!?




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