第百二十三話:全紅連
猛スピードでハワード科学研究所を目指していた龍達だったが、いきなり彼等の周りに出て来た暴走族の群れに停車するしかなくなった。
紫月が落ち着いたということを感じ取り啓吾は少し安堵したが、出来ることならすぐに合流して守ってやりたいと思う。
もちろん翔にはげんこつの一つぐらいお見舞いしてやろうとも思っているわけだが。
そして面倒くさそうに一行は一旦車からおりると、啓吾はもっともな質問を投げ掛けた。
「淳行警視、俺達がスピード違反で警察に包囲されるなら話は分かる。だが、なんで暴走族のクソガキどもに包囲されなければならないんだ?」
「関東圏の警察は間違いなく人手不足だ。たった数時間の間に過去最悪の事件ばっかり起こってるからね」
土屋はあっさり答えた。だが紛れも無くそれが事実なのだから仕方ない。
横浜港では大物からその部下達、おまけにアメリカ兵まで巻き込んで大騒ぎし、ハワード医学研究所も謎の大爆発だ。それも数千人の逮捕者が一夜にして出ては自分達のスピード違反を取り締まってる場合ではなかろう。
「お前らか? うちのヘッドを潰したのは」
真っ赤な特攻服を身につけた柄の悪いヤンキーがガン飛ばしてくる。この暴走族と関わりがありそうだと言えば千葉の沿岸部で潰した不良グループなんだろう。
「……さっき俺達が潰したのってこいつらの頭グループだったのか」
「まあ、その車結構高いですからね。頭でもおかしくないでしょう」
「だけどこの車のメーカーってそう改造とか認めないと思うが」
「あのグループが紅蓮連合会とハワードが絡んでれば充分乗れますよ」
森の問いに丁寧に秀は答えてやる。そしてついでにどうでもいい質問を森は赤い特攻服を着たヤンキーにした。
「おい! お前らのグループ名は?」
「全紅連だ!」
意外と律義に答えてくれたなと土屋は思う。どうやら紅蓮連合会の候補生というところなんだろう。
だがそれをからかうのがこのテロリスト達だ。
「ぜんこうれん? 正式名って何なんだろう?」
「全国交通法違反連合会」
「全日本校則違反連盟」
土屋と宮岡がもっともな団体名を付けそれに一行は苦笑する。それに入会したらダメだぞと龍が末っ子組に諭すのあたり、いかにこの一行に緊張感がないのかが分かる。
「おい、お前ら舐めてんのか?」
鉄パイプやら角材やらを持って暴走族はさらにこちらを威圧してくる。それに全くの恐怖をこの一行は抱かないが、片付けるとなると時間はかかりそうだ。
それに篠塚兄妹は紫月のことを心配している表情を浮かべているのは確かで。
「……兄さんと啓吾さんは先に行ってて下さい。二人なら早いでしょ」
「しかし……」
秀の意見はもっとも。だが沙南達を残していくのも少々不安ではある。
「大丈夫です、すぐに追い付きます。何より発信機の反応が消えたことが気掛かりです。急いでください」
「……分かった。すみませんが先輩方、うちの弟達をよろしくお願いします」
「任せとけ! 姫も王子様も俺が」
「龍、教育に悪い馬鹿に純君達を預けたりしないから気にせず行ってくれ」
「すみません、土屋先輩。よろしくお願いします」
龍は一礼してバイクに跨がるとそばにいた沙南に優しく微笑む。森が何か文句を言ってるが二人の世界に入る余地があるわけがない。
「沙南ちゃんも無理するんじゃないぞ」
「大丈夫よ! 私が本当にピンチになったら助けに来てくれるのが龍さんだもの。ヒロインの醍醐味はもっとあとに取っておくわ」
沙南らしいなと思いながらタイミングを見計らって啓吾はバイクの後ろに乗る。何故か分からないが、周りを取り囲んでいた暴走族ですらこの二人に手を出せないから不思議だ。
それからエンジンを噴かせるとようやく辺りに緊張感が戻ってくる。
「龍、一切スピードを緩めるな。とにかく前に人がいようがなんだろうが真っすぐ走れ」
「分かった」
「よし、いくぞ!!」
「なっ! うわあ!!」
瞬間、啓吾の目が青い光を放つと暴走族が重力の力で左右に飛ばされ一つの道が出来る。その間を龍がバイクで疾走した。
「何なんだよこの力……!!」
「野郎ども! 逃がすんじゃねぇ!!」
「追ってくんな!!」
近くを走っていたバイクを重力で停止させると、それに他のバイクが突っ込み炎を上げる。だがそれに構う事なく龍達は疾走した。
「啓の奴やるなぁ」
「普段もあれぐらいやる気があればいいんだけど」
「すみません、兄さん好戦的でも面倒ごとは嫌いですから……」
「あら、柳ちゃんが謝る必要はないわよ? その分今回働いてもらえばいいんだし」
そんな会話の傍らで秀は念のために沙南を宥めておく。
「沙南ちゃん、くれぐれも無茶はしないで下さいね?」
「どうして?」
「沙南ちゃんの身に何かあると兄さんがここにいる者全て埋立地に埋めに行きますから……」
「やだなぁ、秀さんが柳ちゃんに何かあったらそういうことするでしょうけど、龍さんはそこまでしないわよ!」
沙南は明るく笑い飛ばすが、「いや、龍ならやる!!」とその場にいた全員が心からそう思った。
「そうですね、確かに柳さんに何かあっても困りますねぇ」
「あの……秀さん?」
「まっ、僕なら埋立地まで運ばずにこの場で火葬といきますが」
「ちょっと秀さん! さすがに殺人は……」
「ハハッ、冗談ですよ。僕は医者を目指してるんですよ? 何より柳さんが悲しむようなことを目の前でやるわけがないじゃないですか」
それを聞いて柳はホッとするが、大人達は「あくまでも目の前ではやらないだけだな……」と秀の黒さを改めて痛感した。
「おい、おしゃべりはもういいかぁ?」
「あなた達こそ遺書ぐらい書けましたか?」
「はんっ! こっちは何人いると思ってるんだ?」
「さあ?」
「二千だ。関東圏の走り屋が集結したんだからよ」
ニヤニヤと笑う暴走族に土屋はふむと頷く。
「……来年は警察官の採用人数増員決定かな」
「じゃないとやっていけないだろうな」
「だけど犯罪者って多いんだあ。警察官って大変なんだね」
「そうだよ。だから悪いことはしちゃだめだよ。警察官の人も働きすぎると病気になっちゃうからね」
「は〜い!」
夢華は実にいい返事をするが、純は「テロリストも立派な犯罪者じゃなかったかしら?」と首を傾げた。
「さっ、僕達も早く片付けましょうか。純君、すみませんが今回は家長も突撃隊長もいませんからね、頑張っていただきますよ」
「うん! 任せといて!」
「お姉ちゃん、夢華も戦っていい?」
「夢華は沙南ちゃんと紗枝さんを守ってあげて」
「ほえ? お姉ちゃん?」
優しく夢華に告げたその直後、柳の目が赤く光る。
「紫月の事がちょっと心配なの。だから少し急ぎましょう」
「柳さん……?」
伸ばした手からふわりと柳は擦り抜けていく感覚がする。次の瞬間、爆炎が至る所で上がった。
一夜にしてどれだけの逮捕者が出るのか……
警察は大変だと言う話になってしまいました。
相変わらず緊張感がない一行ですが、龍と啓吾兄さんが先にハワード研究所まで行くことに。
翔達がまた変なところに連れていかれなければ合流出来そうです。
まあ、啓吾兄さんが間違いなく翔を怒ることでしょう……
いや、龍の説教の方がこわいか??
そして普段あまり戦うことも力を解放することも嫌う柳ちゃんが戦いに?
それに秀さんは何となく心配になっているようですが……
さあ、次回はどうなるのか。