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天空記  作者: 緒俐
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第百十二話:着陸

 紫月は夢を見ていた。


 袖布をふんだんに使った真っ白な拳法着を身につけ、風を纏って次々と襲い掛かってくる敵を吹き飛ばしていく。

 辺りは戦火に包まれ、敵はおろか自軍の兵までが倒れている。このままではまずいかもしれないと、紫月はさらにスピードを上げて敵軍の中を突っ込んでいくと、いきなり彼女の前に主は現れた。


「西天空太子様!」


 白銀の甲冑を着込んだ彼女の主、つまり翔に一体何をしてるのだと抗議の目を向けるが、やはり主は主だった。


「紫月一人にこの戦場の楽しみを味合わせるわけにはいかぬ!」

「ふざけないで下さい! 南天空太子様が一人で姉上を取り戻しに行かれてるのですよ!? あなたまで夜天の領地に突っ込んで来てどうするおつもりですか!」

「だから来たのだ。何よりこのまま俺が行かなければ天空族の全戦力が啓星から差し向けられるぞ?」


 一瞬、主の言う通りだと思ってしまったが、すぐに考えを元に戻して主を窘める。


「とにかくお戻り下さい! 天空王様がこの事を知ったら」

「大丈夫さ。純と夢華が天宮を守ってくれてるから」

「……まさか」

「そのまさか。龍兄者は夜天族との境界線まで上がってきてる。それなのに突撃隊長が前線に出ないなどありえぬ」


 紫月は開いた口がふさがらなかった。天空族とは本当に、いや、自分の主達は大切なもののためならどんな危険なことでも顧みない。

 しかもこの騒ぎも南天空太子の従者である柳泉、つまり自分の姉を取り戻すために起こったのだから……


「そういう訳だ。何より柳泉姉上を夜天族のボンクラ王子になんかとられてたまるか! だから紫月、さっさと取り返しにいくぞ」

「……御命令通りに致します」


 主のこういうところは好きだ。自分が大切に思うもののために動ける主がこの天下にどれだけいるのだろう。それも変わりなどいくらでもいる従者のために自ら戦場に乗り込んでくる王など普通いるものではない。


 しかし、それを彼女の主達に言えば間違いなく大反論する。「自分達がどれだけ思われてるのか思い知れ!」とぐらい言い出しそうだ。

 実際にそれが今起こっているのだから間違いなく納得せざるをえないだろうが……


 それから二つの疾風が戦場を翔け、夜天族の宮殿が視界に入ったとき、いきなり目の前で大きな爆発が起こる!


「紫月!」

「はい!」


 二人はすぐに宮殿にたどり着くと、柳泉を片手に抱えて追撃の刃から逃れている秀を視界に捕らえた!


「柳泉を取り返せ! 逆賊を始末しろっ!!」


 柳泉を手中におさめたと思った途端に秀に掠われたのだろう、夜叉王子は怒り狂ったかのように叫んでいた!


「覚悟しろ! 南天空太子!!」


 その一瞬だった。追撃して来た兵が全て吹き飛ばされる!


「翔っ!」

「秀兄者! 早く離脱しろ! 夜天のボンクラ王子ぐらい俺が斬る!」

「ご心配には及びません。姉上をお願いします」

「させぬ!」


 夜叉王子の目がカッ!と見開いたかと思うと、突如その姿は禍しいまでの黒きオーラに包まれた化物となる。いや、鬼神というのが正しい表現なのかもしれない。


「悪鬼めが! この西天空太子が退治してくれる!」


 翔は好戦的な笑みを浮かべて躍りかかった……



 横浜港から網に入れられ、空中散歩を楽しみたくもないのにヘリに吊されていた翔は当たる夜風にくしゃみを一つする。


 風呂に入ってこなくて良かったとは思うが、このまま吊されていてはさすがに風邪ぐらい引くかもしれない。

 もちろん引いたら引いたで喜んで看病してくれそうな兄達はいるのだが、さらなる危険に晒される可能性が高いため考えるのをやめた。


 その時、腕の中で気を失っていた少女が身じろぐ。


「ん……、ここは」

「紫月、起きたか?」


 良かったと翔はニカッと笑った。相変わらずの笑顔を向けてくる翔を視界に入れて、とりあえず夢と現実の区別を付けて紫月は返答した。


「ええ……」

「そっか」

「……って! どこなんですかここは!!」


 何となく妙な感じがすると思ってすぐに覚醒した。力も使っていないのに自分は宙に浮いていて、しかもヘリからネットの中に入れられて吊られていることも理解する。


 しかも上空の冷気から少しでも自分の体温を下げまいと翔が上着を貸していてくれた事にも気付いたため、とりあえず翔の腕の中にいたことは不問にしておくことにした。


「それがよくわからねぇんだ。さっきまで海の上を飛んでたんだけど」

「何分ぐらいですか?」

「20分ぐらい」


 ということはまだそこまで遠くまでは来ていないのだろう。もちろん今からどうなるかは怪しいところだが。


「そうですか。それよりこの網、何とか出来ないんです?」

「俺の力で破ろうとしても何故か伸びるだけなんだよこれ。それより紫月のかまいたちとかの方が何とかなりそうだ」


 破れないのなら切ればいい。最もな意見に紫月もそうすることにしようと思ったが、いきなりヘリが下降を始めてバランスを崩す。


「今度はなんだよ!」

「知りませんよ!」


 とてもかまいたちを放っている場合じゃないほどネットの中で二人はぐるぐると回されたかと思うと、突如視界が開けて一気に真っ逆さまに落とされた。


「うっ!」

「きゃっ!」


 どうやらマットの上に落とされたらしい。ある意味有り難いが感謝はとても出来る面持ちではない。


「紫月……生きてるか?」

「目が……回ってます……」


 動きたいがとても動けそうにはない。すると自分達を吊り下げていたヘリがそばに着陸し、中から檜山が下りて来た。


「……翔君、何であんなのに拉致されたんですか」

「だってなぁ……」


 強く責められないのは自分も気を失ってしまったからである。すると翔達の周りをアメリカ兵達が囲み、レーザー砲の銃口を向けて来た。


「さぁ、こいつらを早くオペ室に運び込め。早速解剖じゃ!」

「はっ!」


 アメリカ兵達は翔と紫月に手錠をかけて二人を担ぎ上げた。翔は暴れようとしたが視線で紫月に止められる。何故かと思えばすぐにその答えは明かされた。


「ようやく手に入ったか、檜山」

「これはロバート先生、先生もこの解剖に?」

「ああ、是非とも切らせてもらおう。医学の進歩のためにね」


 場所はハワード医学研究所日本支部、そこには先日ハワード国際ホテルで龍達と話し合っていた解剖マニア、ロバート・ディアスが室長を勤めているのだった。



いよいよ翔と紫月ちゃんの活躍劇が始まります。

この高校生組が一体何をしでかしてくれるのか作者もまだ考え途中ですが、

きっといろいろ破壊してくれそうです。


そして紫月ちゃんが見た夢。

以前翔が話していた夢の内容ですが、ついに彼女も見てくれました。

鬼のような化け物……

う〜ん、まあ天界なんでいろんなものが出て来るのですが。


もちろん今回の事件に関わってくるメインの夢になります。

ダニエル=夜叉王子となってますので、一体どんな因縁なのかお楽しみに。




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