第百十話:また事件は起こる
楢原をSATに引き渡すから先に龍達と合流しておいてくれと土屋が言い、宮岡も何やらあるらしく土屋と一緒に残るということになり、啓吾、紗枝、森はもといた倉庫に戻ることにした。
「それにしてもSATを使うとはな」
「祖父さんが出動させたんだろうよ。あの楢原って奴が紗枝を殴ったって聞いたから」
「それだけの理由で出動するSATって……」
「相手はあれだけ戦力揃えてたんだから問題はないんじゃない?」
まあ出動してもおかしくはない状況ではあるのだろうが……
改めて菅原財閥の権力を啓吾は感じるのだった。
そして倉庫に戻れば末っ子組が啓吾達の姿を見るなり走り出した。
「紗枝さん!」
「紗枝お姉ちゃん!」
純と夢華は駆け寄って紗枝に抱き着く。
本当にかわいらしい末っ子組を両手で抱きしめ、紗枝はニッコリ笑った。
「良かったよ〜!」
「心配したんだよ〜!」
「うんうん、心配かけてごめんね〜」
うるうるしている瞳に小児外科医はノックアウトされそうになるが、啓吾がコツリと頭を叩くといけないと彼女は正気に戻った。
まあ、紗枝の気持ちがわからんこともないがとシスコンは相変わらずシスコンだった。
そして紗枝は二人を名残惜しく解放してやると、森が夢華にニッと笑いかけた。
「お嬢ちゃん名前は?」
「篠塚夢華です!」
「ってことは啓の妹か」
「うん!」
「いくつだ?」
「十二歳!」
「ってことは王子様と一緒ってわけか」
森は純の頭を撫でてやる。なんで純が王子様と呼ばれているのかと夢華が尋ねれば、イメージがまさにそうだかららしい。
まあ、容姿や雰囲気は確かにそうだよなと啓吾も納得する。
が、ここからが森だった。
「う〜ん、実に惜しいなぁ。あと三年歳とってたらなあ」
「森、お前妹に近づくな!」
啓吾は森から夢華を守るように抱きしめた。いつもなら紗枝がシスコンと続けているが今日は啓吾の判断が正しい。
しかし本気にするなよと森は笑った。
「さすがに手ぇださねぇって! だけどお嬢ちゃん、俺のことは森お兄ちゃんって呼んでくれよ!」
「うん! 森お兄ちゃん!」
「おお〜啓はいいよなぁ、毎日妹萌かあ」
「妹萌?」
「末っ子、つっこむんじゃない」
最近、夢華と同じく純の教育に悪影響を及ぼしそうなものを啓吾も排除するように心掛けている。
夢華を奪っていくのには眉間を寄せてしまうが、教育という面においてはまだ子供と気にかけてしまうのだ。
「そういや夢華、柳と沙南お嬢さんは?」
「秀お兄ちゃんと使えそうなもの拝借してくるって倉庫内にいるよ」
「龍兄さんはSATに悪い人を連れていくって」
「そうか、だが結局ダニエル博士は出てこなかったな……」
「だから殴り込むんだって」
いかにも秀らしい。出来ればここで全ての決着は付けたかったのだろうが、相手もそう簡単にやられに来てはくれないようだ。現状況としてはまだダニエル博士の方が一枚上手というところだろう。
もちろん、それを秀が許すはずはないだろうが……
「紗枝さん!」
「あっ、沙南ちゃん!」
「良かった無事で」
「ご心配おかけしました」
「それとこんばんは、森さん」
「オウ! 龍との結婚生活はどうだ?」
「やっ、やだあ! まだ結婚なんて……!!」
「でも花の女子大生になったんだろ? 一度くらい」
ガツン!と紗枝が殴った。これ以上言わせるわけにはいかない。
「さっ、もう一暴れするなら今のうちに装備を整えときましょうか」
「そうだな」
沙南が箱で抱えて来た銃やらショットガンやらを紗枝と啓吾は物色し始め、末っ子組もそれを見つめる。
もちろん危険物なので扱わないようにと注意しておくことは忘れない。
「兄さん」
「おお、柳」
その直後だった。森は目にも留まらぬ早さで柳の手をとる。
「初めましてお嬢さん、私は菅原森と申します」
「紗枝さんの……」
「ええ、それよりお近づきの印に今宵僕とベットの上で」
その直後だった。森のこめかみを銃弾が掠める。もちろんそんなことをやってのける次男坊はこの世に一人。
「当てとけよ……」
「全くね」
啓吾と紗枝はあえて参戦するのをやめた。必要性を感じないからだ。
「森さん、お久しぶりですね」
どす黒いオーラに沙南はああ……と額に手をやる。啓吾は末っ子組に見ちゃいけませんと今から起こるであろう惨劇に背を向けさせた。
そして有無もいわせず柳を自分に引き寄せて胸に押し付け、ニッコリ森に微笑みかけた。
「秀……」
「森さん、よく覚えといてくださいね。柳さんは僕のものなんです。あなたなんかが触っていいことを許可した覚えはありませんよ?」
その笑みを、いや、その後ろにいる悪魔をせめて消してくれと森は心から思う。
「それにベットの上で何をしようと?」
「いや、銃をおろせ……」
「答え次第では撃たなければなりませんから」
一言発した瞬間に撃つ気満々じゃねぇかと思う。しかし、彼は機転をきかせた。
「いや、そのお嬢さんがベットの上でお前とどうすればいいのかって聞くからさ」
「ああ、そういうことでしたか。ならば撃たなくてすみますね」
その瞬間森はその場から逃げた。秀のどす黒いオーラが一気に引いていく。
一体柳は何のやりとりがあったのかついていけずに秀を見上げると、相変わらず綺麗な笑みで柳に笑いかけた。
「あの、秀さん?」
「柳さん、気にしなくていいですよ。全て片付いたらたっぷりと可愛がってあげますから」
「えっ!? 一体何なんですか!?」
「恨むなら森さんを恨めということですよ。僕は独占欲が強いですから仕方ないと諦めてください」
そう言って額に口づければ柳はみるみるうちに赤くなっていって……
本当に訳がわからないまま、まだ今宵は振り回されそうだと柳は思った。
そこへ威風堂々とした空気が夜風に乗ってやってくる。
何事かと啓吾は尋ねた。
「龍、どうしたんだ?」
「……すまない啓吾」
「ん?」
「紫月ちゃんと翔が拉致された」
「はあ〜!?」
その場にいた誰もが驚きの声を上げるのだった。
事件はこれからである……
森の人の呼び方はちょっと人と変えています。
龍や秀はそのままですが、啓吾兄さんは「啓」、夢華ちゃんは「お嬢ちゃん」、純は「王子様」って感じです。
じゃないとややこしいですからね、メンバー増えましたし。
ちなみに土屋警視は「淳」、宮岡のお兄ちゃんは「良」です。
それにしてもはちゃめちゃな話になっていきます。
SATが出てきたり、倉庫内から凶器の類を拝借したり、
おまけに会話の内容も最近十八禁に近づいて来てるぞ!?
まあ、作者は楽しんでますけど(笑)
そして翔達が拉致されたことに気付いた一行。
次回は一体どうなるのでしょうか?