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天空記  作者: 緒俐
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第十一話:夢

 柳は夢を見ていた。それは遠い遠い過去の夢……


 幻想的な宮殿内の廊下を小走りに、自分が探していた紅い衣を纏う主の姿を見付けると、彼女は花も恥じらうほど可愛らしい笑顔で主の名を呼ぶ。


「南天空太子様」

「柳泉、こちらへ来なさい」


 絶世の美貌を持つ主は、こちらにやって来る彼の従者に穏やかな表情を浮かべる。それは彼女の為だけに向けられる特別なものだ。


「柳泉、二人きりの時は僕をなんと呼ぶように言いましたか?」

「でも、やはり立場が……」

「僕は気にしません。それとも悪い子にはお仕置きしましょうか?」


 ニッコリ笑う顔の下には明らかに悪戯心。ずっと仕えている主の言動はいつも彼女の心を弄ぶ。そして、彼女は頬を朱く染めながらも小さく主の名を呼んだ。


「秀様……」

「合格です」


 腕を引っ張られ額に口付けられる。それから柔らかな春の陽気みたいな香をした秀に優しく抱きしめられ、柳泉は顔を真っ赤に染めて抗議した。


「秀様っ!!」

「ん? 足りませんか?」

「違います!!」


 この主は自分を振り回すことが楽しくてしょうがないという顔をして笑った。それに少し悔しいと思いながらも、向けられる表情も抱きしめられる腕も優しくて……


「柳泉……」


 甘く、愛しく告げられる声にそっと柳泉の腕も秀の背中に回される。


 何よりも誰よりも、彼女は主のことが好きだった……



 携帯に表示される「龍さん」の名前に沙南は嬉しそうに笑った。

 かれこれ二日、龍は病院に缶詰状態。家にも連絡が入ってこなかったが、沙南に連絡を入れてくれる気遣いが嬉しい。


「柳ちゃん、ちょっとゴメンね。もしもし、龍さん生きてる?」


 開口一言目が実に沙南らしいと傍にいた柳はクスクスと笑った。それは生きているかと問われた龍も同じらしく口元が綻ぶ。


『何とかね。それで頼みがあるんだけど……』

「紗枝さんと飲み会なら喜んで準備させてもらうわよ」


 自分が何を頼みたいのかすぐに理解してくれる沙南に龍は苦笑した。沙南いわく、長年の付き合いが為せる技らしいが、弟達から言わせれば熟年夫婦そのものだかららしい。


 ただし、少なからずとも互いに好意を寄せていることは確かだというのに、何故か奇跡と言っても過言でないほど二人の仲は進まないのだ。


 そして、その進まない一番の元凶は今の現状だけでも充分満足しているのか、相変わらずな賛辞を送った。


『さすがだね、だけど今回はもう一人追加。翔達がお世話になった啓吾先生も参加するから』

「分かったわ。じゃあ、こっちも柳ちゃん誘うからね」

『ああ、分かった。宜しく頼むよ』


 会話内に出てきた自分の名前に柳は目を丸くし、沙南は嬉しそうに携帯を切った。


「柳ちゃん、今日お兄さんが家に来るみたいだから柳ちゃん達も一緒にご飯食べましょ!」

「えっ、兄さんが!?」

「うん!」

「でも、悪いんじゃ……」

「人数が多い方が楽しいもの。さっ、早速買い物に行きましょうか!」


 柳の手を取り、夜の酒宴の買い物に二人は出掛けていった。



 その頃、郷田の事務所では何度も机を強く叩く音と怒声が響き渡っていた。


「失敗しただと!? 小娘一人に大の男四人がやられたと言うのか!」

「申し訳ありません、郷田先生!」


 先日、篠塚家を襲撃した者達は郷田に頭を下げる。それぞれが腕やら足やらに包帯を巻いている始末である。

 しかし、紫月がその怪我の全てを負わせたわけではない。むざむざと失敗して帰ってきた咎を受けて出来た怪我が大半を占めている。


「篠塚家も天宮家と同じ力を持ってるということなのか……!!」


 郷田は頭を抱えた。なぜか天宮家の人間を一人大君に差し出せばいいのに、それが全くと言っていいほど成功しない。

 しかも彼等を釣るための餌すら捕らえることが不可能だった。


「他に餌になりそうな奴はいないのか!!」

「菅原紗枝という女医はいますが……」

「ダメだ!! その女に手を出すな!!」


 郷田は紗枝の名前が出てきた途端真っ青になった。彼女にだけは死んでも手を出してはいけない理由は政財界に生きるものの常識なのだから……


「親父、だったら早く沙南さんを俺にくれよ」

「寛之」


 郷田の息子は執務室にはいってきた。郷田の息子とだけあってかなり大柄である。ただ、いかにも不良学生といったところは父親と違うが。


「天宮家にいるんだろ? だったら沙南さんを使えばいくらでも奴らは釣り上げられるんじゃないか?」

「確かにそうだが……、お前に出来るのか?」


 郷田の問いに寛之は自信満々に答えた。


「出来るさ。親父は平和的にことを運ぶ方が好きだからこそ、わざわざあんな病院に婚約話をもっていったんだろ?

 だが、それだけじゃ足りねぇ相手なんだろうよ。沙南さんのような上玉がいる家ならなぁ」


 息子の顔は獲物に飢えている。自分の息子だからこそ、その貪欲さは時に危険性を感じさせる。


「いいだろう。だが、強行策に及ぶまで私を追い詰めるなよ?」

「ああ。まあ、天宮家の連中が全て安全とは言い切れないがなぁ?」


 寛之の目はまさに獣だった。




今回は柳ちゃんがなかなか甘い夢を見ています。

現代の世界でもこれが普通の日常にしたいなあと思います。


さて、話はいよいよ動き始めていきます。一体、郷田親子がどこまで頑張ってくれるのかが楽しみです。


それにしても紗枝さんには絶対手を出すなって……

彼女は一体何者なんですかねぇ??




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