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天空記  作者: 緒俐
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第百七話:夜風

 ビルの屋上のフェンスの上に座って夜風に髪を弄ばれる。

 何となく色っぽく見えるのはこの青年の容姿の性だが、顎肘をついてやはり彼らしい言葉を吐いた。


「う〜ん紗枝、お前ワンランクサイズあげろ。医者としてあんまりきついブラはオススメできないぞ?」

「サイズは合ってるわよ。ただこういうデザインなだけ!」

「ふ〜ん、だったらもう少し男を誘うものにしたらどうだ? 少しは嫁の貰い手が増えるかもしれないぞ?」

「あんたの趣味だけには合わせたくないわね!」

「ハハッ、バレたか」


 とりあえず間一髪かと啓吾は安心した。とはいっても能天気な表情はしているので、相手にはただの応酬を繰り広げているようにしか思われない。


 もちろん紗枝に大丈夫かなんて言えば強がりな彼女のこと、きっと怒るのでそれは口に出さない。


「お前どこから!」


 ビルの階段から上がってきた気配なんてなかった。それにこの位置を特定するのにも時間はかかるはず。何より床から二メートル以上あるフェンスの上にいつの間に座っているのか訳が分からない。


 だが啓吾は下を指差し、からから笑って答えた。


「下からに決まってるだろ? とりあえず、さっさと離してくれねぇか? 一応女なんだし?」


 紗枝は啓吾に抗議の目を向ける。「一応は余計だ!」と言っているようだ。


「それにお前の位置と俺の偽者の位置代われ。手を押さえてるだけなんて俺らしくなくてなんか腹立つ」


 いかにも不満そうな表情を浮かべて啓吾が告げれば、楢原はかっとして偽者の啓吾に命じた。


「おい、篠塚啓吾を殺せ!」

「はい、かしこまりました」


 紗枝の腕から手を離し、偽者は啓吾に向かっていった。そして啓吾は顎肘をついてた手を離し、ふわりと浮かせた銃を掴む。


「……よし、んじゃ」


 啓吾の目が一瞬だけ青く光り、重力で偽者を縛り付けて瞬時に銃弾を二発その目に撃ち込んだ!


「なっ!」

「うわ〜いくら偽者でも目なんか撃つんじゃなかったかな……」


 ちょっと異様な光景だなとは思いながらも、偽者は形を保てなくなり銀色の人形となって崩れ落ちた。何かの回路がショートしたのか、パチパチと頭部に電気が走っていた。


「ついでだから潰れろ」


 重力が働き、銀色の人形は完全に粉砕する。これだけ壊しておけばおそらく再生することはないだろう。


「さて、楢原ぐらいなら紗枝が」


 啓吾は紗枝に目線を向けると、未だに楢原と揉み合っている紗枝を見た。

 楢原に乗られたまま片方の手首を押さえ付けられ、もう片方の手は近づいてくる顔を押しのけようと必死だ。


「くっ!!」

「君は僕のものだ! 紗枝さん、あなたさえ手に入れば!」


 次の瞬間、楢原は宙に浮き上がった。そして紗枝は体を起こして息を整えると、頭上から能天気な声が降ってくる。


「紗枝、こいつぐらい何とかしろよ、らしくないな」

「あんたの偽者に腕を強く押さえられてちょっと痛めたんだから仕方ないでしょ!」

「折れちゃいないんだろ?」

「筋肉疲労ね」

「じゃあオペは出来るな」


 それだけは啓吾も心配だったために確認した。手が大切だということは医者の常識だ。もし、紗枝に医療行為をしぱらく出来ない状況にしていればそれなりの報復はするだろうなと啓吾は思う。


 だが、今回は紗枝の好きにさせるのが一番良さそうだ。宙で騒いでいる楢原に視線を向けて彼女に尋ねた。


「さて、とりあえずお前に貸し一だったから返してやるけど、どうするのが一番ベストだ?」

「地上までひもなしバンジー!」

「了解」

「なっ! 何をする!?」


 ジタバタと宙で暴れる楢原に啓吾は非常に楽しそうな笑みを浮かべる。基本、啓吾は秀と同質である。


 どうせならもう少し高いところから落としてやるか、と楢原をさらに高く浮かせ、フェンスの外まで体を移動させた。そして一言。


「はい、いってらっしゃい」

「うわああああ!!!」


 何とも情けない声が港中に響き渡る。きっとその表情も情けないことになってるのだろう。世界一最悪なバンジージャンプだろうなと思いながら、啓吾は床にぶつかるスレスレの所で楢原を止めた。殺すつもりはないからだ。


 そして、啓吾は悪びれた顔もしないまま紗枝に尋ねた。


「ほい、あとは?」

「警察署でやられたから一発ぐらいお見舞いさせて」

「へいへい」


 それでこそ紗枝だよなと苦笑して、今度は楢原の体を急速に宙に吊り上げた。そして、屋上にたどり着いた体を念のために重力で軽く押さえ付ける。

 もちろん、恐怖でもう足腰など立ちはしないだろうが。


「き、きさま……!!」

「すげぇな、意識保ってた」

「ならば好都合!」


 紗枝は冷たい表情を浮かべて楢原の頬を平手打った。その清々しいまでの響きに痛そうだなと啓吾は敵ながら同情してしまう。


 そして気が済んだのか紗枝は楢原に背を向け、満足そうな表情を啓吾に向けた。


「よし! これで気がすんだわ。あとはあっちゃんが調べてくれるだろうから警察に任せましょう。それより啓吾、上着貸して。私のTシャツ破かれちゃったのよね」

「なんだ、しばらくその恰好でも……」

「貸しなさい」


 脅迫に近いような笑顔を向けられて啓吾は上着を紗枝に差し出した。


「……それで、全部聞けたのか?」


 事情を知っていた啓吾は一応教えろと紗枝に尋ねると、シャツのボタンを閉じながら少し俯いて静かに答えた。


「こいつは事情しか知らないもの。でもある程度の真相は聞けたからいいわ」


 どうやら彼女の予測は当たっていたらしい。それなのに本当にこいつは……、と啓吾はそう心の中で呟く。


「そっか。んじゃ、俺もお前から解放されるわけだ」

「そういうこと。役得だったでしょう?」

「いや、口説くのもやめようかと……」

「どういうことかしら?」

「そりゃなぁ……」


 啓吾は苦笑いを浮かべるしかない。とても手に負えないなんて言えば、間違いなく自分がビルの上から突き落とされる自信がある。


 そんな二人の話を聞いていたのか、楢原は肩を震わせて笑い始めた。


「ふふふ……!!」

「ん? 何だ?」

「はーはっはっはっは!!!」


 一体何がおかしいのか、とその笑い方に紗枝は多少不機嫌な表情を浮かべた。


「何よ」

「そういうことか! ただ僕から十年前の事件の情報を聞きたいがために僕の気持ちを利用したのか!」

「そうよ。私に相手がいると分かればあなたは天宮兄弟より必ず私を狙ってくると確信してたから。

 そして見事にそれにはまってくれたから感謝してるわ。思考肉食系を誘い出すにはいい方法だと思ってね」

「つまり篠塚啓吾は婚約者でもなんでもないと」

「そりゃね。こいつの医者としての姿勢は好きだけど、悪友以上の関係にはなるつもりはないわよ?」


 あっさり言われるのもなんだが、啓吾もそれが一番楽な関係だからなと納得している。


「ならばちょうどいい。紗枝さん、僕はあなたをまたすぐに掠いに来よう。どうせ警察ぐらいすぐに出られるのだから」

「どうかしら? これだけの件が明るみに出ればあなたは無事ではいられないと思うわよ? 菅原財閥の圧力がかかるはずだしね」

「それ以上の力だってこの世の中にはあるってことさ。紗枝さん、君の母を殺した影には私達やハワード以外にもいるのだよ」

「えっ!? どういうこと?」


 紗枝は食ってかかる。その表情に満足したのか、楢原はさらに続けた。


「菅原財閥も一枚岩ではないことは君だって知っているだろう? 巨大な組織ほどそういう綻びは出て来るのだよ。

 僕が釈放されたのもそういった綻びの部分があるからだ」


 紗枝は一つ溜息をついた。自分の知らないところで、自分を利用しようというものはやはりいるわけで……


「……面倒ね。私は財閥に利用されずに暮らしたいのに」

「それも無理な話さ。君は立場を理解するべきなんだよ。だけど僕は紛れも無く君を愛しているからね、君の感情関係なくともやがて僕のものになることは嬉しく思うよ」


 いつもならここで何か言い返すはずの紗枝が何も言わなくなった。ただ拳を震わせて、それでも静かで……


「だからまた僕は君の前に現れよう。その時は」

「〜〜!!」


 紗枝は楢原を殴り付けようとした時、その手は止められた。そして、その手を止めた人物はかつてないほどの殺気を立ち込めさせて楢原に告げる。


「もう現れんな。邪魔」


 夜風が通り過ぎる……




いや〜天空記がなんだかドロドロしてきた……

あくまでもアクションです、この話(笑)


まあ、楢原がベラベラ喋ってくれます。

普通の女の子ならとっくに啓吾兄さんに泣き付いてますよ。

母親の殺された事件の真相を知り、楢原に襲われかけ、おまけに敵だけじゃなく味方にも裏切り者がいると知って……


だけどそんな紗枝さんをほっておくほど啓吾兄さんはちゃらんぽらんではありません。


紗枝さんが楢原を殴る腕を止めた啓吾兄さん、ここで男を上げてくれよ(笑)




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