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天空記  作者: 緒俐
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第十話:微妙な初対面

 篠塚家が襲撃を受けていた頃、聖蘭病院の外科・小児科の医局の扉がノックされて絶世の美青年が入って来た。

 そして、カルテの書き込みをしていた紗枝は弟分が来たことにパッと表情を明るくする。


「あっ、秀ちゃん!」

「お久しぶりです、紗枝さん」


 親しみの笑みを浮かべて秀は紗枝の元まで歩いていく。彼が医局を訪れた理由は急にオペが入り、家に帰れなくなった龍の着替えを頼まれて持って来たからだ。


 それともう一つ、龍の着替えを持ってきた時に紗枝が楽しみにしていることがある。それは赤い紙袋の中から漂って来る甘い匂いが物語っていた。


「はい、これ沙南ちゃんからの差し入れです」

「ありがとう! あら、沙南ちゃん特製シュークリーム!」


 紗枝はハートを飛ばした。彼女は沙南のお手製スイーツのファンであり、龍が急な夜勤の度、その有り難過ぎるおこぼれに肖れるので憂鬱な当直も楽しみでもあるのだ。


「沙南ちゃんにお礼言っといてね」

「ええ、それと兄さんの論文ですが何に使うんです?」


 ついでに持ってきてと紗枝に頼まれた論文を鞄の中から取り出すと同時に、なんとも気だるい声をした医者がラフに白衣を着こなして入って来た。


「ああ〜疲れた」


 彼は本日、長時間に及ぶ二件のオペを執刀し集中力が切れていた。無事に終えていることは彼の態度を見る限り明らかだ。


 それにしても衛生上に問題がある訳ではないが、もう少し医者らしくビシッとしてもらいたい気もする。特に外科医ならと付け加えたいぐらいにだが……


「お疲れ様、啓吾先生」

「ああ。ん? どこかの研修医か?」

「龍先生の弟の秀ちゃん。数年後は研修医ね」


 紗枝が啓吾に秀を紹介した瞬間、二人の間になにか波動が走った気がした。

 絶対こいつとは合わねぇと語ってもいないのに、互いがそう思ってしまう何かが漂う。


 しかし、たとえ相手が気に食わなくとも、天宮家では守るべき家訓をきちんと守るように教育されている。


「はじめまして、兄がいつもお世話になっています。弟の秀です」

「こちらこそ、篠塚啓吾です」


 二人とも笑ってはいる。彼等とあまり深い付き合いをしてないものからみれば、美青年が爽やかに握手を交わしている光景としか捉えようがない。


 だが、幼い頃から秀を知っていて、最近意気投合してきた啓吾の僅かな顔の引き攣り具合に紗枝は何となく尋ねる。


「二人とも初対面よねぇ?」

「ああ、だがどっかで会ったような顔でさ」

「運命の赤い糸かしら?」

「紗枝さん、間違ってもこんな人と結ばれたくありません」


 心底嫌そうに秀は答えた。それは啓吾も同感らしく眉間にシワを寄せてしまうほどだ。ただ、龍の弟と聞いて早速関わらない訳にはいかなくなった。


「それで、龍の過去の論文持ってきたか?」

「あなたに貸すんですか?」

「やけに嫌そうな顔するな、次男坊」


 隠そうともしない、あまりにも素直な表情に啓吾はつっこむ。秀は他人に兄の論文を貸すのはあまり好きではない。

 だが、本気で貸したくなければ彼の口から無数の刺が飛び出し、これでもかというほど相手を再起不能にしてしまうのだが……


「まぁな。龍が受け持ってる患者のオペの許可がなかなか下りなくて、ちょっと権力者達の力を拝借しようと思ってよ」

「またですか……」


 またと言うあたりいかに龍が医院長に目を付けられているのかが分かる。

 龍の腕がいいことを医院長は知っているが、失敗して病院の責任が問われそうなオペはいつも龍と衝突するのだ。

 この御時世に気持ちは分からないこともないが、自分の保身のみに力を注ぐことはやめてもらいたいものだ。


「まぁ、医院長もこの病院にリスクを背負わせたくないのよ。だけど一度鎖が外れたら大きな博打に出るタイプかしら」

「いい読みだと思いますよ。それこそ経営破綻を起こすでしょうね」


 どこかそれをのぞんでいる表情をした秀を見て、啓吾は沙南のシュークリームに手をのばしながら深い溜息を吐き出した。


「はぁ、就職先間違えたかねぇ?」

「地方の病院よりまだ待遇は良いと思うけど?」

「居心地の問題でしょうね」

「龍と紗枝は好きなんだかな」


 苦笑するしかなかった。居心地としては悪いわけではないのだから。


「じゃあ、僕は帰ります。兄さんによろしく伝えといてください。それと沙南ちゃんを放置しないようにと」

「分かったわ。気をつけてね」

「急患なんてお断りだからな〜」

「僕も啓吾さんだけには診てもらいたくないですね」


 ひらひら手を振って秀は医局から出て行った。


 そして秀がいなくなった後、紗枝はシュークリームに舌鼓を打ちながら啓吾に疑問を投げ掛ける。


「さて、初対面の割には妙な表情してたけどどうしたのかしら?」

「……何故かな、どうも次男坊は嫌いじゃないが気に入らん」


 その理由が分かるまで大した時間はかからなかった。




やっと啓吾と秀を会わせられました!

この二人は初対面で何故か嫌いじゃないけど、絶対相入れないと直感が告げています。

その理由はおいおい明かされていくので楽しみにしていてください。


なんせ緒俐はこれからこの二人の絡みを書いていくのが楽しみですから(笑)




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