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6 外へ

 人ひとりしか通れない出口をライアンが先に上がった。

 

 いつの間に朝日が昇ったのだろうか。隠し部屋に降りる前には真っ暗だった執務室が朝の光を浴びている。

(あの部屋では気づくわけもないか、太陽光など射すことすらない…)

「待て!」

下にいるアズベルに叫ぶと、ライアンは自らの上着を脱ぎシャルルローゼの頭からかけるよう指示した。

「ウェルム、カーテンを引け、陽の光を入れるな!」


 少女は言った、あの部屋から出たことはないと。ならば彼女は陽の光を見たことがないはずだ。突然それを浴びて、少女の目が耐えられるとは思えない。


 上着を頭からすっぽりかぶったままのシャルルローゼが出口から身体を出したとたん、ライアンは彼女を抱き上げ腕の中へ包み込んだ。突然のことにすくんだ小さな身体が、ライアンの声でほぐれる。

「シャルル、俺がいいというまで目を開けるな」

「はい」



「俺の向かいの部屋が空いていたはずだ。シャルルの部屋にする。すぐに用意させろ」

「それまでは俺の部屋に寝かせる」

「カーテンを引け」

「軍医を呼べ」

 腕に少女を抱いたまま足早に自室へと向かう間、次々と指示を飛ばす。

 状況がわからず指示に従うのが精一杯のウェルムと、異母兄の見たこともない愛情深さに何度も顔を見合わせるユーリヤルドとアズベル。

 

 地下の隠し部屋で見つかった真っ白な亡国の王女が若きワグドゥナード王の運命を大きく変えようとしていた。



 シャルルローゼを軍医に任せ、彼らはひとまず執務室に戻った。そして最初に行ったのは侍女への尋問だった。


「それは絶対にございません」

王女は教皇の慰み者だったのかとの問いかけにその侍女は断言した。


「なぜわかる?」

「陛下が来られるまでは毎日お会いしておりました。何時間も一緒に過ごすこともよくございました。何かあれば気づきます…それに陛…前国王も教皇猊下も、むしろそれを一番気にかけていらっしゃったように思います。決してそのような事故がおこらぬようにと。王女殿下はあの通り大変…間違いなく国内いち可愛らしいお嬢様でございます。猊下も常に心配していらっしゃいました」


「ではなぜあのような部屋に閉じ込めていた?」

「それは私にもわかりません。お尋ねすることは許されませんでした。そして私も王女殿下はあの部屋の外に出ると死んでしまうと聞かされておりました。でも…不憫で不憫で。陛下、恐れ多いことでございますが言わせてくださいませ。お嬢様をお救いくださいましたこと心より感謝申し上げます」

侍女の頬を涙がつたった。


「よくわかった。ではその感謝の礼としてお前の知っていることを、何でも良い述べよ」

「…………ひとつだけ、ずっと気にかかっていることがございます」

「なんだ」

「はい。前国王も教皇猊下も常々私におっしゃっておりました。王女殿下に初潮の兆しが見えたらすぐに知らせよ、と」

「初潮?教皇もか?」

「はい。最初はお気遣いされていらっしゃるのかと思っていたのですが…あまりに頻繁にお尋ねになるので…特に最近は」

「しつこかった?」

「はい。ですので万一、猊下がお嬢様を、とのお話しでしたら、慰み者ではなく結婚…しかしながら猊下はご結婚はされませんので、どこか猊下の思う殿方へ嫁がせるおつもりなのかと…それ以上のことは私も存じ上げません」

「わかった。マーサ、シャルルローゼの環境は激変する。側でしっかり仕えよ」



「どう考える?」

侍女を下がらせユーリヤルド、アズベル、ウェルムだけの部屋でライアンが問いかけた。


「慰み者でないなら、あんな風に閉じ込めておく意味がわからないです。誰かと結婚させるにしても閉じ込める意味は?外に出ると死ぬとまで言って外から鍵までかけますか?俺にはさっぱりです」

「アズベル隊長に同意します。符号しませんね」

「ユーリ、お前はどう思う?さっきから持っているものはなんだ?」

「はい、見つけたんです、王女の部屋で教皇との癒着の証拠を」

「早く言え!」

「申し訳ありません。なんだかそれどころではなくて。それにこちらの方も全く理解ができなくて」


 ユーリヤルドが手に持っていた帳簿には数字だけが並んでいた。そして問題はこれを見つけた場所なのだと言う。


「部屋の奥に鍵のかかった棚があって、そこにいくつかルーン石が置いてありました。形も大きさもバラバラな石です。それと一緒にこの帳簿があったのですが…」

「ルーン石。ダッガードの鉱山から採れる石

か」

「あ!最近やたらと教会が"浄化の石だ"とか言ってるの、たしかルーン石ですよね。教皇達が首からさげてるのもそれですよ。ということは、ダッガードのルーン石を教会に納める、それが免税の理由?なんだわかってみればあっけないですね!あ、兄様、ということはこれからは我々も無税ですね、なんてったって鉱山も含めて今や我々のものなんですから!」


「たしかにアズベルの言う通り、おそらくルーン石を納める代わりに税金は取らない、そうだと思うんですが」

「なんだ?」

「見て下さい。これがおそらく教会に納めているルーン石。しかしこの下には『教皇』とあります。つまり教会とは別に教皇がルーン石を買っているということではないでしょうか。

そして教会に渡したルーン石の欄には金額の記載がないのに、教皇の欄には金額の記載があり、その横に日付。おそらくその金額が支払われた日」


「教会は実質無料で、教皇は金を払っている」

「ええ。なぜでしょう」

「個人的に必要?」

アズベルが首をひねる。

「それにしては頻繁だな」

「ええ……考えられることは2つです」

「…………」

「教皇がダッガードに何か弱みを握られている。或いは……」

「金を払っでも得たい見返りがある」

「はい」


「そして教皇はあの少女に会いに来ている。しかし慰みものではない」

「ええ、ウェルム団長。そこにも何かある。そしてもう一つ不思議なことはルーン石が少女の部屋にあったということです。なぜあそこで保管する必要があるのでしょうか?」

「あ〜もう謎ばかりじゃないですかぁ!」

アズベルが頭を抱えた。


 コンッコンッ

 

ノックに応え扉を開けたウェルムが手紙を手に戻ってきた。

「陛下、早速です」


 それはボルダー教皇自身からのものだった。そこには前ダッガード国王に預けたものを取りに行きたい旨が書かれていた。


「来たか。やはり何かあるな。石か?シャルルか?ユーリヤルド、今はまだ混乱しているので迎えるのは難しいと断りの返事をすぐに送れ。ウェルム、シャルルローゼの周辺の警備を強化しろ」


「それとユーリヤルド、クロエに手紙を送れ」

「クロエ姉様ですか?」


〜〜〜〜〜〜〜


 クロエ・デルタ・ワグドゥナードの母は先王の第2側妃だった。そしてクロエは現在20歳。ライアン、クロエ、ユーリヤルドは年子だ。それこそが血塗られたワグドゥナード城の元凶だった。


 クロエの母の存在は、ライアンの母である王妃の精神を壊した。そして2人の存在はユーリヤルドの母に殺意を起こさせた。


「こんな怖ろしい場所にはいられない」そう言い放ちクロエ母娘が城を出て王都の外れに移ったのはクロエが7歳の時だった。それ以来、付かず離れずの関係を保っている。

クロエは現在歴史学者となるべく勉学に励んでいる。


 きょうだいの中ではライアンと気さくに話せるという点では彼女が一番ライアンと親しいと言えるかもしれない。

ライアンも彼女の気取らず飾らない、さっぱりした気性を気に入っていた。


〜〜〜〜〜〜〜


「まさか飛んで来るとはな、こんな場所で義妹に会えるとは思わなかったぞ」


 クロエには事情を全て話し「何か知らないか?」と手紙を送った。その返事はすぐに来た。「知っている。すぐに行く」と。


 それからなんと2日でクロエがダッガードの城へ現れたのだ。


「よく私を思いつきましたね、お兄様」

「ダッガード王国と教会に因縁の歴史でもあるかと思っただけだ。日の当たる部分ではないものも含めて」

「相変わらずそういう勘の良さは異常ね、お兄様は。まぁ教会は別にして、ダッガードにはあるわよ、日の当たらない部分が。

でもまずはその王女様に会わせて頂けるのかしら?」

「ああ、但し一昨日から熱が出て寝ている。顔を見るだけならな」


〜〜〜〜〜


「驚くほど美しい子ね、伝説通りだわ」

仄かな灯りだけの暗い部屋でシャルルローゼを見舞い、執務室地下の隠れ部屋(シャルルローゼに必要なものは全て移され、家具だけとなった部屋)を訪れたあときょうだい全員とウェルムが集まった。


「伝説?そんなものがあるんですか」

「ええ、ダッガード王室の世にも怖ろしい伝説よ、ユーリヤルド」

「そんなものをどうして姉様が知ってるんですか?」

「アズベル、誰に言ってるの?私はこう見えて一応まだ王族なの。禁書でも闇本でも自由に読める立場なのよ」

そう言って鼻で笑う時のクロエは、ライアンとよく似ている。


「で、話せ、クロエ」

「ええ。お兄様、あの子は生贄よ。白銀の髪がその印。彼女はダッガード王室がひた隠す『白銀の生贄』なの」

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