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「陛下、私が行きます」


 その部屋は既にから部屋になっているはずだった。再度調べることはない。

(まさかあの後に誰かが隠れたのか!?)

思わず身を乗り出したライアンの身体をアズベルの手が制した。

 彼は部屋にいる騎士達に次々と指示を飛ばすと、後方の騎士が照らす薄暗い部屋へとそっと下りていった。


〜〜〜〜〜〜〜


 アズベル・ギリアン・ワグドゥナード。先王の第5側妃だった彼の母親もライアンの暗殺を企て死罪となった。

 母親のいなくなった部屋で妹のエマンダと2人、毎日のように泣いていた幼いアズベルにライアンが声をかけた。

「泣いて何になる?お前には守るべき妹がいる。強くなれ。強くなって母親を死なせた俺を倒してみろ」


 挑発的なライアンの視線に撃ち抜かれ書物を手にしたユーリヤルドとは逆に、わずか6歳のアズベルはその小さな手に剣を取った。

どれだけ笑われても叱られても彼は剣を振り続けた。

 

 そうして16歳になった年、ライアンが彼を専属護衛隊長に指名した。

異例の抜擢は様々な軋轢を生んだ。

「いくらなんでも若すぎる」「慣習を破るのか」「まだ騎士学校の生徒じゃないか」「死罪になった側妃の息子じゃないか」日に日に大きくなる雑音に、ついには父王から再考を促される事態となった。


 そこでライアンは剣大会を提案した。

「アズベルと闘ってみせよ。アズベルより強い騎士がいるなら、その者を私の護衛隊長にしよう」

かくしてアズベル対希望者全員、という無謀この上ない大会が開催された。

 結果、アズベルは「我こそは」と意気込む31人と剣をまみえ、その全員に打ち勝った。

『死罪になった側妃の子どもアズベルとエマンダ』が『31人を倒したアズベルとその妹エマンダ』になった。

 アズベルが己の力で汚名を払い名誉を掴み取ったのだ。


「ありがとうございました」

名誉と地位を掴み取る機会をくれたことに礼を言うアズベルにライアンは言い放った。

「ハッ!あんな闘いを強いた相手に礼か。俺はお前が勝とうが倒れようがどうだって良かった。一番強いヤツをそばに置きたかっただけだ」



 ユーリヤルドとアズベルは時々語り合うことがある。

「一番強いヤツ、一番賢いヤツをそばにって兄様は言うけど、俺たちが一番兄様の命を狙ってもおかしくない立場なんだよなぁ」

「それも踏まえて俺たちを選んでるんだろ、兄上は。しかもそれをおもしろがっていそうなのがな、兄上らしいというか」

「でも俺さ、エマンダもだけど、兄様を倒すなんて考えたこともないよ」

「俺もだ。母上がいなくなった時も兄上に仕返したいなんて思ったこともない。むしろ逆だ」

「心底ホレるよね、男でも、きょうだいでも」

「ああ、熱烈にな」

「ハハハ…俺、時々思うんだけど、万が一俺たちが兄様を裏切ってもさ、兄様は笑ってそうじゃないか?『生意気だな』とかって笑いながら死んでいきそうじゃないか?『ふんっ、ようやくか、遅すぎる、腰抜けが』とかって言いそうだろ」

「ハハ…想像できすぎて怖ろしいな」


「それにしても俺達の母上もバカだよなぁ、俺達は国王になんて全くなりたくもないのに」

「同感だ、絶対にお断りだ」

「俺は兄様の隣にいてこそ輝く男なんだ」

「隣は俺だ。お前は後ろ」

「ふんっ。まぁどこだっていいかな、兄様のそばにいられるなら。兄様の為なら命を捨てることなんて1秒も迷わない」

「俺もだ。この瞬間だって構わない。そもそもが兄上にもらった命だ。お前知ってるか?俺達を処刑しないことでどれだけ城が大騒ぎになったか」

「そりゃあそうなるよな。普通ならあり得ない。母親と一緒に即刻死罪。良くて皇位剥奪でどこかへぽーぉい、だよな」

「兄上に救われた命は兄上に返すのが当然だ」

「ああ。兄様に救ってもらった命は兄様のものだ。俺は兄様のものだ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 史上最年少の国王付き護衛隊長が自らのことを「私」と呼ぶ時、彼は無双だ。選りすぐりの精鋭部隊である第一騎士団を率いるウェルムすら敵わないだろう。


 小さな入り口からアズベルに続いて2人の騎士が部屋へ降り立った。とはいえ背を丸め肩を寄せ合ってやっとほどの広さしかない。


 震えながら腰を抜かしている侍女に隠し扉の場所を聞く。

「ありました。降ります」

 そう言葉を残してすぐに、また別の騎士が部屋へ降り立つ。さらに奥へと進んだアズベルと部屋に残るライアンを繋ぐ伝達役だ。



「陛下」

ウェルムがライアンに後ろへ下がってほしいと促す。

床板に空いた入り口の周りに騎士達が集まる。アズベルからの一声ですぐに駆け降りていくためだ。


「扉に鍵がかかっているようです。斬り落とすとのことです」

伝達役の言葉の直後、侍女が震えながら鍵を取り出した。

「早く言え!」

ウェルムの怒号が響いた。と同時に下からカキーンという金属と金属がぶつかり合う音が何度か響いた。伝達役に鍵を渡そうとするも、

「いえ、外れたようです。ーーー突入します」


 騎士達が固唾を呑んで下の様子を伺う中、ライアンは自らの内に芽生えたその違和感を探っていた。


(鍵?…………外からの……鍵?…………それなら隠れているんじゃない。隠されている、或いは閉じ込められているのか?……捕虜か)


 しかし目の端に転がる食べ物に、更に思考が巡る。


(捕虜にこれだけの食料…しかもこんな危険を冒してまで?国が侵略されたのだ、捕虜など放っておけばいい……死なせられないのか……まさか…王?死んだのは影武者だったのか?)


 背に矢を受けた国王の死体が脳裏をよぎる。


(そんなはずはない。あれは国王だった。……では別の…王族か…誰だ?いや、違う、それなら鍵は外からではない、中からだ…どういうことだ)


「陛下!アズベル様がお越しいただきたいと……危険はないそうです!」


(危険がない?………これは楽しくなりそうだ。鬼が出るか蛇が出るか…)


「ユーリヤルド、行くぞ」

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