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もしも女神になったなら  作者: 雨戸紗羅
第一章 消えた神の剣
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第九話 “七現神人”ドレイク







 空に浮かぶドレイクの表情は、とても険しいものだった。ドレイクは辺りを眺め、壊れた建物や、割れた地面。逃げ惑う人、怪我をしている人。そして、気を失ったクラエを見る。


「よくも…よくも…ワシの大切なもの達を…」


 ドレイクは怒りのあまり握りしめた拳が震えている。

彼女の少し小さな身体からは、絶えずエネルギーの波動のようなものが出ており、それが周囲に威圧感を与えている。


「フ、フフフ…ハハハ!!釣れたぞ!!ターゲットが!!」


「ふふっ……計画通りですね」


 滅神教徒の二人が、ドレイクを見て笑みを浮かべている。その様子がとても不気味で、ドレイクが彼らをなんとかしてくれるという期待と、彼らの思惑通りに物事が進んでいるのではという不安が同時に芽生える。


「貴様らが…街を壊した犯人じゃな…?」


「ああ、そうだとも!!」


「そうだと言ったら…?」


 ドレイクは二人の返答を聞くと、エネルギーの放出を抑え、ゆっくりと地面に降り、俺とクラエのもとへ歩いてくる。


「すまぬ、クラエ…守ってやれなかった……。そして、ありがとう、皆様方…。この街のために戦ってくれて…」


「い、いえ…私はクラエさんを守りきれませんでした…」


「ほほほ、命あるなら良いのじゃ…。後は、ワシに任せておれ…」


 ドレイクは滅神教徒の二人に向き直ると、先程のようにエネルギーを放出し始めた。


「そこのお二人さん…下がっておれ…」


 ドレイクは風を起こし、ソルドとシルバを浮かせると、巧みに風を使って二人を俺のもとに運んだ。


「途轍もない神力の放出に、コントロール……やはり第一階級…七現神人の一角は違うなぁ…!!」


「私たちの力がどれだけ通用するか…試してみましょう」


 滅神教徒の二人は、ドレイクに向かって技を放つ。


巨人の斧(ギガアックス)!!」


蔓神楽(つるかぐら)!!」


 巨大な斧と、何本もの巨大な蔓がドレイクに襲いかかる。


風龍の咆哮(ドラゴニックハウル)!!」


 ドレイクは辺りがガタガタと轟くような咆哮を放ち、迫り来る斧と蔓を、一瞬にして爆散させた。


「な、何ぃ!!」


「嘘でしょ!!」


 二人は自身の技がいとも簡単に粉砕されたことに驚く。そして、ドレイクはその隙に二人に接近すると、両手を使って同時にアッパーパンチを放ち、二人を空中に殴り飛ばす。


炎龍の息吹(フレイムブレス)!!」


 ドレイクはその小さな口から、近くに太陽があるのかと錯覚するほどの巨大な業火を放った。炎は空中に飛ばされた二人の滅神教徒を一瞬にして飲み込み、焼き尽くす。


 炎が収まると、黒焦げになった二人の人影が、空から降ってくる。


「よいしょっと!」


 ドレイクはその二人を空中でキャッチすると、両脇に抱えて着地する。


「終わりじゃな…」


 まさに圧倒。女神の加護を受けたソルドやシルバが手こずっていた相手を、一瞬で片付けてしまった。


「す、凄いです…!!」


「これが…第一階級の…力…!!」


 俺とソルドはドレイクの桁違いな実力に、感嘆する。


「む…私だって、あのくらいできるぞ…」


 そして、シルバはそれを見て、少し不満そうに呟く。


「さて…此奴らの処遇をどうするか……」


 ドレイクがそう言った瞬間、彼女両脇に抱えられた二人が、不気味に笑い出す。


「まだ、意識があったのか、しぶとい奴じゃ」


「ク、クク……やはり…第一階級には、敵わんか…だが、我らはただ役目を果たすのみ……」


「ふっ、ふふふ……主の…悲願を……滅神教万歳!!」


「滅神教万歳!!」


 二人はそう叫ぶと、舌を噛み切って自決した。


「な、何て奴らじゃ!!」


 ドレイクがそれに驚いたのも束の間、二人の身体の中から大量の黒いモヤが放出される。


「何じゃこれ…!!」


 その黒いモヤは、ドレイクの周囲に広がったかと思うと、まるで意思を持っているかの如く、一斉にドレイクのもとに向かっていく。


「ぐ、ぐあああああああ!!」


 ドレイクの身体の中に、黒いモヤが入りこむ。ドレイクは手で振り払おうとするも、触れることすら出来ず、黒いモヤはどんどん身体に侵入していった。それによってドレイクは、苦しそうに身体を震わせている。


「一体何が起こっているのですか!?」


「わからない…でも、たぶんあの二人に与えられた邪神の力が、ドレイクの中に入ったんだと思う……」


 俺の疑問にラッキーが答えた。邪神の力がドレイクに渡ったのであるならば、ドレイクもソルドのように邪神に精神を汚染されてしまうのではないかという、最悪の想定が頭によぎる。


「それって…」


「うん!もしドレイクが悪に染まってしまったら危ない!ツバサ様!あの黒いモヤモヤ、神聖魔法(サクライト)で何とかならないかな?」


「やってみます!!」


 俺はドレイクに向けて、右手をかざす。


「させませんよ」


 突如背後から声が聞こえ、全身に怖気が走る。首元に冷たい息が当たり、心臓の鼓動が速くなるのを感じる。


「久しぶりね、女神…」


「どなたですか…?」


 俺は恐怖心を押さえながら、顔を振り向かせる。すると、そこにいたのは、黒いローブを着た女だった。顔は目元が黒いモヤに覆われていてよく見えないが、ソルドの記憶にいた邪神と瓜二つのように思える。


 近くにいたはずのラッキーは、いつの間にか消えており、シルバやソルド、そしてクラエは少し離れた場所に転移させられていた。


「……誰だ貴様!女神様から離れろ!!」


 シルバが怒号をあげると、女はそれを一瞥してから、俺にまた語りかける。


「ふふふ…動かない方が良いよ…。今、女神の命は、私が握っているから……」


 女は、右手を俺の首にそっと添えて、少し長い爪を当てる。俺を人質に取られたシルバやソルドは動くことが出来ず、ただ女を睨みつけている。


「すみません…どこかでお会いしましたか?」


「君と会うのは二回目かな?…でも、きっとわからないさ」


「貴方は…邪神と呼ばれる方なのですか?」


「……ふふ、そうだねぇ。みんなは私のことを、そう呼んでいるね」


「……ドレイクさんをどうするおつもりですか?」


「ふふ…君には特別に教えてあげよう。ドレイクにはね、神と戦ってもらうのさ」


「神と戦う…?」


 その言葉を聞き、ラッキーやドレイクが言っていたことを思い出す。正義の神と、邪神の戦争。背後の存在が邪神であるならば、その話が現実味を帯びてくる。


「くくく…ドレイクは神の末裔の中でも、より神に近い存在なのさ。そんなドレイクに、神である私が加護を与え、さらに神の武器である青龍神剣なんて持ってしまったら、どうなるかな?」


 邪神はニヤリと口角を上げる。


「ぐ、ぐああああ……あ……あ……」


 黒いモヤに苦しんでいたドレイクの叫び声が治まる。ドレイクの方を見ると、項垂れた様子で、立ち尽くしているようだった。


「終わったようだね…。ドレイク!これを使ってこの女神を殺すんだ!!」


 邪神は、何処からともなく剣を取り出し、それをドレイクに向かって投げる。その剣は青色で、龍をモチーフにした装飾がグリップに施されているように見えた。


ドレイクは、それをキャッチすると、虚な目でそれを眺める。


「青龍……神剣……」


「そうさ!それがあれば、神をも殺せる!!」


「神…殺す……」


 ドレイクはそう呟くと、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。目は虚なままで、意思を感じない。ドレイクは操られているのだろうか。


「くっ…我慢ならん!!」


 俺を人質に取られて動けないでいたシルバは、遂に動き出し、邪神のもとへ走り出す。


「はぁ……動くなって言ったのに……」


 邪神は右手をシルバにかざすと、大量の黒いエネルギーの塊を放出する。


「ぐあああああああ!!!」


 それに直撃したシルバは、叫び声を上げながら吹き飛ばされ、後ろにあった建物に激突すると、建物が崩壊し、その下敷きになってしまった。


「シルバさん!!…なぜ、ドレイクさんに私を殺させようとするのですか!?貴方なら、私を殺せるでしょうに!」


「ふふ…実は私では君を殺せないんだ…訳あってね……。だから、不本意ながら他の存在に頼んでいるのさ」


 そうこうしているうちに、ドレイクが目の前にやってきてしまった。


「神……殺す…」


 ドレイクは青龍神剣の剣先を俺に向ける。


「さあ!!女神を殺すんだ!ドレイク!!」


 邪神の声に呼応するように、ドレイクは剣を握る腕に力を入れる。

 


「死ぬのは……お前じゃああああ!!!」

 


 ドレイクが剣で刺したのは、俺の身体ではなく、俺の背後にいた邪神の顔だった。

 

 

 


 



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