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愛する人を弔うために婚約破棄するお話

「私はこの子爵令嬢スーザティナ・シューアフォートとの間に真実の愛を見つけた! 子爵令嬢リムナティア・パスルマイン! 君との婚約は破棄させてもらう!」


 学園の夜会に突如その声は響いた。

 喧騒はいっせいに鎮まり、視線がその声の下へと集まる。

 そこには三人の男女の姿があった。

 

 婚約破棄を宣言したのは伯爵子息グレイヴィス・ディスオシアート。

 黒い髪に薄い茶の瞳。線が細く、優し気な顔立ちの青年だ。

 今、普段のやさしさは鳴りを潜め、張りつめた厳しい顔をしてる。

 

 その傍らに寄り添うのは子爵令嬢スーザティナ・シューアフォート。

 アッシュブラウンの長い髪。メガネの下で理知的な輝きを放つ瞳の色はヘーゼル。

 神妙な顔をして、相対する令嬢のこと注視している。

 

 婚約破棄を宣言した子息と、浮気相手の令嬢。その二人には、しかし、恋に溺れた甘い空気はなかった。

 

 宣言を受けたのは、子爵令嬢リムナティア・パスルマイン。

 大人びた美しい顔立ちだが、その表情はどこか幼さを感じさせる。

 彼女は婚約破棄の宣言を受け、当惑していた。この婚約破棄の宣言をまったく予期していないようだった。

 

「そんな!? 嘘でしょうグレイヴィス様!?」


 リムナティアの顔が絶望と悲しみに染まる。

 さきほどまで穏やかな空気に包まれていた会場は、暗く沈んだ空気に満たされていた。


 グレイヴィスは歯噛みした。リムナティアのことを愛している。今の言葉は嘘だと言って、彼女のことを安心させてやりたい。

 だがそれは真実から目をそらしただけの偽りの安寧だ。もうそんな妥協に浸っていてはならない。この婚約破棄の宣言は最後までやり遂げなければならないのだ。

 そうしないと……愛する人が、天国に行けなくなってしまうのだ。




 9年ほど前の事。当時8歳だった伯爵子息グレイヴィス・ディスオシアートは、婚約相手として子爵令嬢リムナティア・パスルマインと引き合わされた。

 リムナティアはプラチナブロンドの髪の、5歳の少女だった。青空を思わせる大粒の水色の瞳が印象的だった。


 幼い頃から教育を受けてきたグレイヴィスだったが、まだ貴族としての自覚は確かなものではない。婚約者と言われても、新しい遊び相手が増えただけのようにしか思えなかった。それはリムナティアの方にしても同じだったようだ。

 リムナティアはしばらくの間、ディスオシアート伯爵家に預けられることとなった。寝食を共にし、家庭教師からいっしょに勉強を教わり、自由時間には伯爵邸の中庭でいっしょに遊んだ。婚約者と言うより仲の良い兄妹のような関係だった。

 

 そんなある日の自由時間。リムナティアは妙に真剣な顔をして、こんなことを言い出した。

 

「おまじないをしましょう!」


 グレイヴィスとリムナティアは月に3回程度、使用人を連れてお忍びで街に出かけている。

 ディスオシアート伯爵は領民想いで有名な貴族であり、子供のころから領民の生活を知るべきだと、お忍びで街に行くことを促している。街での散策は二人にとっては楽しいイベントだった。

 その折に、リムナティアは平民からおまじないとやらについて教わったらしい。

 

 リムナティアは指輪を二つとりだした。見るからに安っぽい作りの指輪だ。街の露店で手に入れたのだろう。それを自分の小指とグレイヴィスの小指につけた。

 指輪は大人用のものらしく、二人の小指にはまるで合わなくて、ぶかぶかだった。グレイヴィスはそのおかしな様に笑ってしまったが、リムナティアは大まじめだった。

 

「さあ、指輪をつけた小指を出してください」


 言われるままに指輪をつけた小指を差し出すと、リムナティアは指輪をつけた自分の小指を絡ませた。そしてつながった指を上下に振って、指輪のぶつかるカチャカチャと鳴らしながら、おかしな文言を唱え始めた。


「ゆびきりげんまん! 病める時も健やかなる時も、たとえ死が二人を分かつとも、二人の愛は絶対に永遠です! ゆびきった!」


 「ゆびきった!」の言葉と共に、リムナティアは指を離した。


「さあこれで。おまじないはおしまいです! これで、二人は離れることはありません! ずっといっしょにいられますよ!」


 リムナティアはニッコリと笑った。

 グレイヴィスはしげしげと指輪を眺めた。どう見ても安物の指輪だ。さきほどのおまじないの言葉にしても、なんだかいろいろ混じっているような気がする。なにか特別な効果があるようには思えなかった。

 グレイヴィスの訝し気な様子が気に障ったのか、リムナティアは頬を膨らませて言い募った。


「これは異世界から来た勇者様が残したと言われている由緒正しいおまじないなんです! この指輪は大事にしてくださいね! 肌身離さず持っていると、効果が高まるそうです! これでわたしたちは、きっと世界一幸せな婚約者になれます!」


 魔力の少ない平民の間では、おまじないという迷信が流行っていることはグレイヴィスも知っていた。

 でも、リムナティアは大まじめだった。とても嬉しそうに、いそいそと指輪をしまうリムナティアを見ていると、なんだか大事にしなくてはならないと思うようになった。

 その後も事あるごとにリムナティアは指輪を持っているか訊ねてきた。うっかり忘れてしまうとすごく機嫌が悪くなった。仕方ないので、細い鎖をつけてネックレスのように首から下げるようになった。そうすれば邪魔にならないし、どこかに置き忘れることもなかった。

 特別な効果が無くても、持っていればリムナティアが嬉しそうにしてくれる。それだけでもグレイヴィスにとっては十分なおまじないではあった。

 

 

 

 グレイヴィスが12歳になると、リムナティアは子爵家に戻ることとなった。これはディスオシアート伯爵家の慣習によるものだ。

 過去、伯爵家では嫡男が恋に溺れて一方的に婚約を破棄したことがあった。これは伯爵家にとって痛手となった。

 その対策として、伯爵家はある慣習を作った。まず、幼少期に婚約者を伯爵家で過ごさせ、家族としての絆を醸成する。そして一定年齢に達すると、同じ家での暮らしをやめるのである。ずっと家族のように暮らしていると異性として意識できなくなり、かえってうまくいかないことがあるのだ。

 

 分かれて暮らすようになってからは、週に一度のお茶会で会うだけになった。

 グレイヴィスはきちんとした式服をまとい、リムナティアは華やかなドレスを纏う。礼節に従い上品に過ごすお茶の時間。同居していたころのような気安さはない。それでも、リムナティアの明るい笑顔に変わりはなかった。

 幼少期のおまじない。指輪をつけて結婚のような文言。肌身離さず持ち歩いている指輪。今までとは違う、他家の令嬢と言う距離感。

 グレイヴィスは自然と、リムナティアのことを異性として意識するようになっていった。彼女に向けていた家族のような親愛の情が恋心に変わるのに、そう時間はかからなかった。

 

 13歳になり、グレイヴィスは学園に通うこととなった。

 この王国において、貴族は13歳になると学園に通い始める。6年間の教育課程を経て、貴族社会に出るのが一般的だった。

 学園では寮暮らしとなり、リムナティアと会うのが難しくなった。それでも月に2回くらいはリムナティアとお茶の時間を共にした。

 3歳年下のリムナティアが学園に通うのはまだ先のことだ。お茶会では、自然と学園について話すことが多くなった。


「はやく入学してグレイヴィス様と学園に通いたいです!」

「ああ、私もとても楽しみだ」

「学園には楽しいことがいっぱいあるのでしょうね。それに、学園に入ればようやく杖を持たせてもらえます! いろんな魔法を覚えるのが楽しみです!」


 この王国では原則として学園入学前の子供には杖を与えられないことになっている。杖のない子供のうちは簡単な魔法しか使えない。それさえもむやみに使わないように厳しく躾けられる。

 魔法の杖を使えば。精密な魔力の制御と、高度な魔法の行使が可能となる。できることが飛躍的に増えるのだ。


「そうだな。リムナティアは魔力が高いから、きっとみんな驚くだろうな」

「楽しみです! それにわたし、学園の夜会もすごく楽しみなんです! みんな凄いドレスを着て、楽しくおしゃべりするのでしょう? きっとおとぎ話の世界のようなんでしょうね……」

「実際にはいろいろと気を使わなければならないことが多くて大変だよ。でも、立派な式服に身を包んで時間を過ごすと、普段とは別世界にいるような気分になるよ」

「素敵ですね……」


 リムナティアはうっとりと夢見るような目をした。

 その様があまりにもかわいらしくて、グレイヴィスはクスリと笑いを漏らした。

 

「グレイヴィス様ったら、笑うなんてひどいです!」

「ああ、すまない。君があんまりかわいらしいものだから、つい……」

「もう、そんなことを言ってもごまかされませんよ!」


 リムナティアは精一杯怒った顔を作ろうとするが、だがその口元はもごもごと動いてしまっている。にやけるのを我慢しているのは明らかだった。

 グレイヴィスはそんな彼女の様子にこらえきれなくなった、笑いを漏らした。

 リムナティアは頬を膨らませていたが、やがてグレイヴィスの楽しそうな様子につられて笑いだした。

 ひとしきり笑った後、二人で紅茶を口にして一息ついた。

 落ち着いたところで、リムナティアが話を戻した。


「でも本当に学園の夜会が楽しみです。わたし、一度でいいから婚約破棄と言うものを見てみたいんです!」

「こ、婚約破棄?」

「ええそうです、婚約破棄です。今や王国では婚約破棄をテーマにした小説や演劇が大流行してるでしょう? 学園の夜会と言えば婚約破棄! これはもはや常識です!」

「おいおい、小説と現実をごっちゃにしてはいけないよ」

「ふふっ、冗談です! わたしだってそのくらいのことはわかっています!」

「それならいいが……」

「でも……年に一回くらいは、本当に婚約破棄する人たちがいるのでょう?」

「いないよ!」


 リムナティアはぷっと噴き出した。そこでようやくグレイヴィスは、彼女が冗談を言っていたのだと気づいた。彼女はいつも夢みたいなことを熱心に語るので、ついつい本気で受け取ってしまう。こうしてからかわれてしまうこともしばしばだ。

 そうしてまた、二人で笑い合った。

 

 リムナティアと過ごす時間はいつも楽しかった。彼女との学園生活はどれほど楽しいものになることだろう。グレイヴィスもその日が来るのが楽しみで仕方なかった。

 

 幸せだった。いつまでもずっと一緒にいられると思っていた。

 だから、その知らせが来た時は、何かの間違いだと思った。

 リムナティアの学園への入学が近づいたある日の事。グレイヴィスのもとに、彼女の訃報が届いたのだ。




 ありふれたつまらない事故だった。馬車が通り、通りに転がっていた石ころを跳ね飛ばした。それが偶然他の馬に当たり、馬車が暴走した。

 リムナティアはたまたま馬車の行く先にいた。暴走する馬の鉄蹄がぶつかり、彼女の身体は壁面に叩きつけられた。

 王国では魔法が発達している。重度の骨折であっても、一定レベル以上の回復魔法の使い手がいれば、後遺症もなく治癒することができる。

 だが不幸にもリムナティアは壁に激突した時、頭を強く打ってしまった。即死だった。いかに魔法が発達しようと、死者を蘇らせる術などなかった。

 馬車の持ち主は平民の商人だった。貴族を殺めた咎により死罪が課せられた。しかしそれは何の慰めにもならなかった。これが不運な事故だったことは、誰の目にも明白だったからだ。

 

 グレイヴィスは彼女の死を受け止められなかった。あと一か月もすれば彼女は学園に通っていたはずだったのだ。馬車の暴走などと言うつまらない事故によってその未来が失われてしまうなんて、とても現実の事には思えなかった。


 葬式に出席した。司祭の弔辞を聞いた。リムナティアの両親が泣き崩れるのも見たし、彼女が棺桶に入ったのも、それが埋められる様も見た。

 それでもなお、グレイヴィスには実感が湧かなかった。泣くことすらできなかった。

 これは何かの間違いで、彼女は本当は生きているのではないか。寮から学園に向かう道すがら、ひょっこり現れたリムナティアが声をかけてくるのではないかと思った。

 

 だってまだ、おまじないの指輪を持っている。リムナティアに言われた通り、肌身離さず持っているのだ。二人が決して離れないというおまじないをかけた指輪があるのに、彼女が死んでしまうなんて、あっていいはずがないのだ。


 悪い夢なのかもしれない。彼女がもういないというのが夢で、目が覚めたら彼女は生きているのではないか。毎朝、夢が覚めることを願った。だが現実は何一つ変わらなかった。彼が目覚めるのは常に、リムナティアのいない冷たい世界なのだ。

 彼女の死を受け入れられていないというのに、胸の中にぽっかりと空いた喪失感だけが強く感じられた。

 その喪失感を抱えたまま、魂の抜けた人形のように、グレイヴィスは学園生活を続けた。




 事故の日から一年ほど過ぎた。未だグレイヴィスは失意の底にあった。

 そんな息子の姿を見かねたのか、両親が縁談を持ってきた。

 縁談の相手は子爵令嬢スーザティナ・シューアフォート。肩まで届く真っすぐなアッシュブラウンの髪。整った顔立ちに、目元にかけた細いフレームのメガネ。ヘーゼルの瞳は、メガネのレンズを通して理知的な輝きを放っていた。可憐にして怜悧な令嬢だった。

 グレイヴィスはなんの実感も伴わぬまま、スーザティナとの顔合わせした。

 

「初めまして。子爵令嬢スーザティナ・シューアフォートです。これから婚約者として、グレイヴィス様に誠心誠意尽くします」

「婚約者……? 私の婚約者はリムナティアただ一人だ……私に浮気をしろとでも言うのか?」


 自嘲の笑みを浮かべながら、グレイヴィスはそんなことを言った。

 婚約相手を蔑ろにする言葉を向けられて、スーザティナは首をゆっくりと横に振った。

 

「リムナティア嬢の不幸についてはお聞きしています。彼女を忘れてほしいなどとは申しません。あなたが立ち直るためにお手伝いがしたいのです。どうかおそばにいることをお許しいただけませんか?」


 グレイヴィスは思わず彼女の目を見た。その瞳に憐みの色はない。温かな目だった。労わる気持ちが伝わってきた。

 今まで彼を慰めようとする者はみな、リムナティアのことを忘れろと言った。過去に囚われず前に進むべきだと、正論ばかりを押しつけてきた。

 だが彼女は違った。忘れなくていいと言った。寄り添ってくれると言ってくれた。

 

 本当はグレイヴィスにもわかっていた。いつまでも現実から目を背けているわけにはいかない。いずれは前に進まなければならない。

 どこに進めばいいかわからない。一歩たりとも踏み出せる気がしなかった。しかし、こんなにも自分のことを真摯に見つめてくれる人が現れた。

 この機会を逃せば一生前に進めないような気がした。

 

「すまなかった。どうかこれからよろしく頼む、スーザティナ・シューアフォート」

「はい、承知しました。よろしくお願いいたします、グレイヴィス様」


 スーザティナは柔らかな微笑みを浮かべ、彼の謝罪を受けいれた。

 グレイヴィスはこうして新しい婚約者を受け入れた。




 スーザティナは同じ学園に通う生徒だった。

 婚約者になったということで、寮から学園まで一緒に通うことになった。

 男子寮と女子寮は離れた場所にあるが、学園へ向かう経路には合流する場所がある。婚約者のいる生徒はそこで相手と待ち合わせをしていっしょに通うのが一般的だった。

 

 スーザティナは事前に決めた待ち合わせの時間ピッタリに現れた。

 学園に向け、並んで歩く。スーザティナはまるで授業中のように真剣な顔をしている。その動きもどこかぎこちない。


「緊張しているのかい?」

「ええ。実は、男性とこんな風に一緒に歩くのは初めてでして……」

「そんなに気負うことはない。お互い、少しずつ慣れていこう」

「はい、ありがとうございます」


 リムナティアとは幼い頃から親しくしてきた。もし彼女とこんな風に学園に通うなら、こんな反応はなかったかもしれない。グレイヴィスはそんな風に考えたが、すぐその考えを打ち消した。リムナティアといちいち比べるのはよくないことだ。スーザティナに対しても失礼というものだろう。


 校門をくぐると、一人の令嬢と目が合った。

 子爵令嬢アーグレシア・パスルマイン。リムナティアの姉だ。

 リムナティアと同じプラチナブロンドの髪。瞳の色は姉妹で違う。リムナティアは水色の瞳だったが、姉のアーグレシアの瞳は深い緑だ。落ち着いた雰囲気の美しい令嬢だった。

 

 昔はリムナティアを通じて懇意にしていた令嬢だ。アーグレシアはグレイヴィスと同じ学年で、姿を見かけることは少なくない。

 だがリムナティアがこの世を去ってからは話したことはない。目が合っても会釈をする程度だった。

 

 だが今日のアーグレシアは違った。こちらにむかってずんずんと歩み寄ってくる。いつもは物静かな彼女だが、その遠慮のない歩みはまるで別人のようだ。

 そしてグレイヴィスの元まで来ると、鋭く叫んだ。

 

「グレイヴィス様! わたしという婚約者がいながら、どうして他の令嬢と一緒に登校されているのですか!?」


 グレイヴィスは戸惑った。

 リムナティアの事故からまだ一年余り。それで新しい婚約者を連れていることを非難されるのならばわかる。だが彼女ははっきりと、「わたしという婚約者」と言ったのだ。

 それに口調がおかしい。アーグレシアは口数の少ない物静かな令嬢で、こんなしゃべり方をするような人物ではないはずだ。


「ア、アーグレシア嬢? いったい何を言っているのですか?」

「お姉さまがいるのですか!?」


 グレイヴィスから問いかけられると、アーグレシアは辺りを見回した。それはまるで、額に上げたメガネを探す喜劇役者を思わせる奇行だった。

 グレイヴィスもスーザティナも、彼女の行いに驚くばかりだった。

 

「お姉さまはどこにもいませんよ? グレイヴィス様」


 間近から見つめられて、グレイヴィスは息を呑んだ。

 アーグレシアは静かな森を思わせる緑の瞳のはずだ。それなのに、今、その瞳は水色だ。リムナティアの瞳と同じ色なのだ。

 呆然としていると、予鈴のチャイムが鳴り響いた。

 

「いけない、もうこんな時間! まったこうもう、グレイヴィス様ったら寝ぼけているのですか? そちらの令嬢のことは、昼休みにでもたっぷり聞かせていただきますからね!」


 そう言って、彼女は学園の中にパタパタと駆けていった。

 グレイヴィスはこの奇怪な状況が理解できず、固まっていた。

 アーグレシアは、妹を失った悲しみで気が変になってしまったのだろうか。脳裏にそんな恐ろしい想像が浮かび上がる。もしそんなことになってしまったいたら、自分はどうすればいいのか。


「グレイヴィス様。どうやらアーグレシア嬢に何かあったようです」

「あ、ああ……」

 

 スーザティナの呼びかけにようやく我に返る。

 彼女の落ち着いた声と理知的な瞳に、ほっとするものを覚えた。


「わたしがいると、どうも話がややこしくなりそうです。ひとまず、昼休みになったらアーグレシア嬢におひとりでお会いいただけますか? わたしは彼女に気づかれないように近くに控え、状況の把握に努めます」

「ああ、わかった。そうしてくれ……」


 こんなわけのわからない状況なのに、スーザティナは落ち着いて声で対応策を提案してくれる。

 冷静な彼女のおかげでどうにか落ち着きを取り戻せた。しかしそれでも、胸のざわめきは収まらない。

 先ほどのアーグレシアの瞳の色も、言葉も、所作も。全て、リムナティアのものに思えて仕方なかったのだ。




 授業に出席はしたものの、グレイヴィスは上の空だった。

 その頭の中は朝の出来事が占めていた。

 アーグレシアの奇怪な行動は、リムナティアだったらしそうなことだった。

 子供の頃、街へ散策に行ったとき。平民の少女と仲良く話していると、リムナティアはあんな調子で文句を言ってきたものだった。


 姉であるアーグレシアならリムナティアの行動を模倣すること自体できるかもしれない。

 アーグレシアは妹を失った悲しみでおかしくなってしまったのだろうか。

 

 だがそれだけでは説明のつかないことがある。瞳の色だ。アーグレシアの瞳は緑色。リムナティアの瞳は水色だった。魔道具か何かで瞳の色を変えたのだろうか。おかしくなった人間がそんな細かなことまでするだろうか。あるいは、おかしくなったからこそ、そこまで凝ったことをするのか。

 

 悲しみで人が精神に変調をきたすことは理解できる。グレイヴィス自身、日々痛感している。自分もいずれどうにかなってしまうかもしれない。

 だが、アーグレシアが本当に精神に異常を来たしていたら、どうすればいいのだろうか。まずは教師に相談するべきだろうか。彼女の家、パスルマイン子爵家にはどう説明すればいいのだろう。

 本音を言えば関わりたくない。アーグレシアに関わればリムナティアのことを思い出すことになる。だが愛する人の姉を見捨てることもできない。

 

 思い悩むうちに、気づけば昼休みの時間になっていた。

 とにかくもっと情報が必要だ。まずはアーグレシアと話をしなくてはならない。彼女のクラスはどこだっただろうか。そんなことを考えながら教室を出たとたん、腕をつかまれた。

 

「捕まえましたよ、グレイヴィス様! さあ食堂に参りましょう! そこで朝のことについて、きちんと聞かせていただきます!」


 アーグレシアだ。教室の前で待ち構えてたらしい。グレイヴィスは腕を引かれるままについていった。束の間、昔のことを思い出す。リムナティアは昔から少し強引なところがあった。

 こんな風にリムナティアに引っ張られることが、グレイヴィスは嫌いじゃなかった。




「さあ、申し開きをお聞きしましょうか!?」


 食堂でランチを囲むと、アーグレシアはそう切り出した。

 

「彼女とは通学路で一緒になっただけだ。婚約者のことで悩んでいて、ちょっと相談に乗っていたんだ」


 グレイヴィスは予め用意していた言い訳を述べた。

 嘘は言わずに芯をずらす。リムナティアに詰め寄られたとき、グレイヴィスはいつもこうやって凌いできた。

 アーグレシアはわざとらしいくらい大きなため息を吐いた。


「……まあそういうことにしておいてあげます。でも、次からは気をつけてくださいね。こんなにかわいい婚約者がいるのですから、他の令嬢にあんまり近づかないでください」

「ああ、すまなかった……」


 改めて目の前の令嬢を見る。瞳の色を除けば、その姿はアーグレシアであることは間違いない。

 だが纏う雰囲気が違う。アーグレシアは大人しく落ち着いた令嬢だった。今の彼女は天真爛漫で勢いがあって、言葉の端々に至るまで、リムナティアそのものだった。

 そろそろグレイヴィスは、このわけのわからない状況に耐えきれなくなってきた。意を決して問いかけた。


「念のために確認したいんだが……君は誰だ?」

「わたしはあなたの婚約者、リムナティア・パスルマインです!」


 にっこり笑ってそう答えた。その顔には嘘を吐く後ろめたさも、人を騙す意地悪さも、あるいは狂気のゆがみすらも感じられなかった。

 包み隠さない誠実さだけが感じられた。

 あまりに真っ直ぐ答えられ、グレイヴィスは面食らった。戸惑う彼をよそに、目の前の令嬢は言葉を続けた。

 

「まだ馬車の事故のことを気にされているのですか? 確かにあの時は頭を打って、ちょっと危なかったと聞いています。でも今は後遺症もないですし、記憶もしっかりしています。そんなに何度も確認しなくても大丈夫ですよ。ほら、冷めないうちにいただきましょう」


 そう言って、彼女何事もなかったかのように学食を食べ始めた。

 グレイヴィスは食事どころではなかった。あまりに衝撃的だった。

 彼女が語ったことは、かつてグレイヴィスが抱いていた妄想だった。馬車の事故はあった。その療養のために彼女はまだ学園に通えない。ある日ひょっこり、すっかり元気になったリムナティアが声をかけてくる――そんなことを考えながら日々を過ごしていた。

 結局、彼女は学園にやって来ることはなかった。

 

 だが、今、目の前にリムナティアと名乗る令嬢がいる。姉のアーグレシアの姿で、リムナティアと同じ水色の瞳の令嬢がいる。

 あの時、リムナティアがこの死んだのは夢だと思っていた。そんなことはただの現実逃避に過ぎないと、ようやく受け入れ始めていた。

 

 だがもしかしたら、現実と思い込んでいたことこそが夢だったのではないだろうか。

 事故があったのは一年前のことだ。この年齢の少女の成長は早い。姉に似てきてもおかしくない。

 悪夢からようやく目が覚めて、リムナティアが生きている現実に帰ってこれたのではないだろうか。

 そう思わずにはいられなかった。すると、言葉が口から滑り落ちた。


「ひどい夢を見たんだ……」

「どんな夢だったんですか?」

「馬車の事故で、君は助からなかったんだ。それで私は葬式に出ても泣くこともできなくて……君がいつまでもやってこない学園に、死人のように通い続けるんだ……そんな恐ろしい夢を見たんだ……」


 言葉を紡ぐうちに目の前の令嬢が消えてしまうのではないかと思った。それを見たくなくて、話すうちに顔が俯いていった。

 すると、ぽん、と頭が撫でられた。温かでやさしい感触。落ち込むとリムナティアはいつもこうしてくれた。記憶と全くかわらない感触に、胸の中がどうしようもなく満たされた。


「怖い夢を見たんですね。もう大丈夫ですよ。わたしはここにいますからね……」


 顔を上げると温かなリムナティアの笑みに迎えられた。グレイヴィスはもう、細かいことはどうでもよくなった。

 目の前にいるのはリムナティアだ。これが夢でも現実でも、彼女が生きて目の前にいる。ただそれだけでいいと思った。

 

 そのあとは楽しく会話しながら昼食の時間を過ごした。

 幼い頃のことについて話した。二人だけの思い出についても語り合った。姉のアーグレシアも知らないはずの内容でも、彼女はよどむことなく答え、グレイヴィスすら忘れているようことも得意げに語った。

 

 やはり目の前にいるのはリムナティアなのだ。不幸な出来事は、全て夢だったのだ。グレイヴィスはそう確信した。

 

 

 

 昼休みを共に過ごしたあとは、午後の授業があった。グレイヴィスとしては学園の授業どころではない心持ちだったが、リムナティアにしっかり授業を受けるように釘を刺されてしまった。そうなると逆らえない。授業中上の空だったなどと言えば、リムナティアに笑われてしまうだろう。

 

 放課後になり教室を出ると、リムナティアが待っていた。並んで歩きながら、今日の授業の事や友達との話題など、思いつくままに話し合った。

 通い慣れた校内だったが、今日はまるで違って見えた。何もかもが光り輝いて見えた。


「どうしたんですか、グレイヴィス様。なんだかすごく嬉しそうです」

「あの恐ろしい出来事が、全て夢だとわかった。それが嬉しくてたまらないんだ」

「ふふっ、グレイヴィス様ったら……」


 校舎を出て、学園寮へと向かう。楽しい話は途切れない。幸せな時間が続く。

 そして、校門を通り過ぎた時。

 

 突然、リムナティアが倒れた。

 まるで糸の切れた人形のように、身体中の力を失って崩れ落ちた。

 

「リムナティア!?」


 慌てて抱き留める。危ういところで彼女の転倒を防ぐことができた。ひとまずその場に座らせ、肩を抱いて支えた。呼吸はしている。だが、目を覚ます様子はない。手を離せばそのまま石畳に倒れてしまいそうだ。

 

「リムナティア……リムナティア、目を覚ましてくれ! リムナティア……!」


 呼びかけても答えない。自分のあずかり知らないところで愛しい人の命が失われる……馬車の事故の日のことを思い出し、グレイヴィスは背筋が凍えるような恐怖を感じた。

 

「グレイヴィス様、落ち着いてください。彼女は気を失っているだけです」


 いつの間にか目の前に誰かがいた。

 顔を上げ、その姿を目に写したとき。グレイヴィスは、死神に冷たい手で心臓をわしづかみにされたように思った。

 

 そこにはアッシュブラウンの髪にメガネの令嬢、スーザティナがいたのだ。

 彼女と婚約したのは悪夢の中の出来事だったはずだ。しかし今、彼女は目の前にいる。理知的な瞳でグレイヴィスとリムナティアを見ている。


「ひとまず彼女を保健室に運びましょう」


 まだ状況は呑み込めなかったが、それでもリムナティアを保健室に連れて行かなければならない事だけはわかった。

 グレイヴィスは彼女を背負うと、スーザティナに先導されながら保健室へと向かった。




 リムナティアを保健室に連れて行くと、治癒魔導士に診察を受けてもらった。治癒魔導士によると、身体的な異常は見受けられず、ただ気を失っているだけとのことだった。彼女はひとまず保健室のベッドに寝かされた。

 落ち着かない気持ちで見守っていると、ほどなくしてリムナティアは目を開いた。


「ここは……?」

「大丈夫かリムナティア! 私のことがわかるか?」

「グレイヴィス様……いいえ、私はアーグレシアです。リムナティアではありません」

「そんなバカな!」


 口では否定していたが、グレイヴィスは彼女が偽りを口にしているのではないとわかっていた。

 その口調も落ち着いた雰囲気も、リムナティアは持ち合わせないものだ。なによりその瞳は、リムナティアの水色の瞳ではなく、アーグレシアの緑の瞳だった。

 

 グレイヴィスが愕然とする中、スーザティナは治癒魔導士に席を外すように願い出た。これからする話は内密なものになると予想されたからだ。

 治癒魔導士はすぐに了承した。貴族は内密な話をすることが多く、こうしたことは慣れた様子だった。隣の部屋で待機しているので、何か異常があればすぐに呼び鈴を鳴らすように言い残して退室した。

 

 ベッドに横たわるアーグレシア。グレイヴィスとスーザティナは椅子を持ってきてその傍に座った。

 

「夢を見ていました。グレイヴィス様とリムナティアが学園で楽しそうに過ごす夢。グレイヴィス様のご様子からすると、どうやらあれは夢ではなかったのですね……」


 アーグレシアは未だ夢でも見ているかのようにぼんやりとした様子でつぶやいた。

 グレイヴィスはいったいどういうことなのか考える。あれが夢だとするならば、どこまでが夢でどこまでが現実だったのだろう。

 グレイヴィスが思い悩む中、スーザティナが動いた。彼女は立ち上がると、アーグレシアに向けて礼をした。


「アーグレシア嬢、初めまして。わたしはグレイヴィス様の婚約者、子爵令嬢スーザティナ・シューアフォートと申します」

「これは失礼を……わたしは子爵令嬢アーグレシア・パスルマインです。よろしくお願いいたします」


 ベッドから身を起こし、アーグレシアは挨拶に応えた。


「お気になさらず……それより、この異常な状況についてわたしの見解を述べさせていただきます。わたしは神聖系の魔法を専攻しています。そして、今日一日あなたの様子を仔細に観察して確信しました。あなたはつい先ほどまで、妹君、リムナティア嬢の幽霊に憑りつかれていたのです」


 スーザティナの迷いない断定に、グレイヴィスもアーグレシアも凍り付いた。

 それは予想もしないことでありながら、しかし、不思議と納得がいくことだった。

 

 姿かたちはアーグレシアだったが、あの言葉も所作もリムナティアそのものだった。

 リムナティアの幽霊が憑りついていたというのなら、何もかもが説明がつく。瞳の色が変わったことも、憑依したことによるものなのだろう。

 

「そうか……彼女はきっと自分が死んだと気づいていないんだな……」


 グレイヴィスは悲しげにつぶやいた。

 昼休みに事故のことを話した時。リムナティアは事故のことは憶えていると言った。だがその結果は現実と異なるものだった。

 彼女は暴走した馬車に跳ね飛ばされて、壁に激突して即死したという。苦痛を感じる暇すら無かったに違いない。だからこそ、死んだということが自覚できていないのかもしれない。

 

「あの子は学園への入学をとても楽しみにしていました……きっとそれが未練となり、私に憑りついたのでしょうね……」


 アーグレシアは妹のことを想った。感極まったのか、瞳が潤み始めていた。彼女はそっと目元をぬぐった。

 二人が物思いに耽る中、ただ一人冷静なスーザティナが鋭く指摘した。


「とにかく早めに教会に相談することをお勧めします」


 その言葉にグレイヴィスは首を傾げた。


「ちょっと待ってくれ。教会に相談? なぜそんな必要があるんだ。アーグレシア嬢はもう憑りつかれていない。リムナティアは天国へ旅立ってしまったのではないのか?」

「いいえ、違います。確かにリムナティア嬢は今この場にはいないようですが、アーグレシア嬢には霊力のつながりが感じられます。条件はわかりませんが、また憑りつかれることもあるかもしれません」


 グレイヴィスもアーグレシアもその言葉に驚いた。

 学園に入学する貴族の多くは魔力を持っている。生徒はみな、ある程度の魔力探知ができる。

 だが、幽霊の力の源である霊力となるとまた話は違う。僧侶や神官など、教会に属する専門職の者以外が感じ取るのは難しいものだ。

 スーザティナは神聖系の魔法を専攻していると言った。霊力についてここまで確信をもって断言できるということは、よほど熱心に励んでいることが伺えた。


「教会に相談したら、リムナティアは祓われてしまうのではありませんか?」


 アーグレシアが不安そうに声を上げた。

 教会は現世に幽霊がいるべきではないと主張し、見つけたら問答無用で浄化すると言う。その幽霊が善良か邪悪かは、原則として考慮しない。

 もし教会に相談すれば、神聖魔法に長けた神官でもやってきて、リムナティアは強制的に除霊されてしまうことだろう。


「浄化の奇跡で強制的に祓われると、幽霊は苦しむと聞いています。それではかわいそうです」

「あなたはいつ身体の自由が奪われるかわからないのですよ。それでいいのですか?」

「妹のためなら……それぐらいのことはなんでもありません」


 アーグレシアはまったく躊躇することなく、妹のために身を捧げると言い切った。

 グレイヴィスもその言葉に続いた。


「幽霊は未練があるからこの世にとどまるという。アーグレシア嬢も受け入れてくれると言っているし、リムナティアの未練が晴れるまで、好きにやらせるというのは駄目だろうか?」

「ダメに決まっています!!」


 これまで冷静かつ理知的に話していたスーザティナが、突然高い声を上げた。

 グレイヴィスは驚き目を見開いた。

 二人の驚きの視線を受けて、スーザティナは顔を目を伏せ、メガネの位置を直した。

 

「わたしとしたことが、失礼しました。確かに、リムナティア嬢が未練を晴らして自ら天界へ向かうのが一番いい結末です。まだわからないことが多いのも事実です。情報を集めるためにも、しばらくは様子を見るのもいいかもしれません……」


 そう言われてグレイヴィスはほっとした。この異常な状況の中で、神聖系の魔法を専攻しているというスーザティナの存在はありがたかった。もし彼女がいなかったら、アーグレシアと二人で途方に暮れていたかもしれない。

 だが、彼女の言葉はそこで終わりではなかった。


「ですが、どうか忘れないでください。死者を現世にとどめることは、多くの場合、不幸を呼び込むことになるのです」


 薄暗い声で、スーザティナそう付け加えた。




 翌日。グレイヴィスはスーザティナを伴って登校した。

 校門をくぐると、アーグレシアと目が合った。すると彼女はずかずかとこちらにやって来た。近づいてくるとわかった。瞳の色が緑から水色に変わっている。

 

「また他の令嬢といっしょに登校して! グレイヴィス様ったらどういうことですか!?」


 昨日の再現だ。またリムナティアの幽霊がアーグレシアに憑りついたのだ。

 予想はしていたが、それでもグレイヴィスにとっては衝撃的だった。昨日限りの再会ではなかったのだ。胸が熱くなった。

 グレイヴィスが言葉に詰まっていると、スーザティナが一歩前に出た。


「失礼しました、リムナティア嬢。わたしは子爵令嬢スーザティナ・シューアフォートと申します。我がシューアフォート家は最近、グレイヴィス様のディスオシアート家と懇意にするようになったのです。その関係で少しお話を聞いていただいていました」


 さらりとそんなことを言った。

 グレイヴィスは息を呑んだ。スーザティナは嘘を言っていない。二人の家が懇意になったのは事実だ。なにしろ婚約関係を結んだのだ。


「ご丁寧にありがとうございます。わたしは子爵令嬢リムナティア・パスルマイン。グレイヴィス様の婚約者です。先ほどは失礼しました。婚約者として女性関係には少し過敏になっていますの。わかってくださいますか?」

「ええ、もちろんです。ご心情はお察しします。それではグレイヴィス様、わたしはこれで失礼いたします」


 そう言ってスーザティナは校舎へと向かった。実に堂々とした態度だった。

 どうやらこの状況を初めから想定していたらしい。今の受け答えも、予め準備したものだったのだろう。

 嘘を言わずに相手を騙す。それをああまで堂々とやってのけるとは思わなかった。スーザティナが神聖系の魔法を専攻する優秀な令嬢であることは知っていた。しかしどうやら彼女の才覚は、学園の成績だけでは推し量れないもののようだった。




 落ち着かない午前中の授業を終え、昼休みになった。グレイヴィスは昨日と同じようにリムナティアと昼食を摂った。

 昨日は再会の喜びに会話を楽しむばかりだった。状況がある程度わかった今日は、様々な疑問が湧いてきた。まずはそれを確かめることにした。

 まずグレイヴィスが聞いたのは、リムナティアが午前中の授業をどう過ごしていたかと言うことだ。

 

 リムナティアはグレイヴィスの3歳年下だ。本来なら一年生の教室に通うはずだった。しかし今の彼女は姉に憑りついている状態だ。事情を知らない者が見れば、3歳年上のアーグレシアのはずだ。まさか一年の教室に行っているわけがない。

 そもそもリムナティアは学園に入る前に事故に遭った。どの教室に行くべきかもわからないはずだ。

 

 それとなく授業の話を振ると、リムナティアはどうやら3年生の教室に通っているようだ。話を聞く限りでは勉強についていけないということもないらしい。どうやらリムナティアは、姉の身体を借りるだけでなく必要な知識も引き出せるようだった。

 

「教室ではなんて呼ばれてるんだ?」

「『パスルマイン嬢』と呼ばれています。さすが貴族の学園、みなさん礼儀正しいですわね」

 

 アーグレシアにはまだ婚約者はいない。内気な彼女はファーストネームで呼ばれるほど親しい友人もいなかったようだ。

 だがそれだけでつじつまが合うのだろうか。

 

 3歳年下のリムナティアがグレイヴィスの同学年で学園に通っていること。自分の姿かたちが姉のものであること。学園以外ではどうすごしているかということ。細かな矛盾はいくつもあるはずだ。

 それなのに、リムナティアは今の状態に疑問を感じていないようだった。まるでこの状況を維持するために、全ての不都合から目をそらしているかのようだった。

 

 学園の授業が終わり、寮へ向かって校門を通り過ぎると、リムナティアは昨日と同じく昏倒した。

 昨日と同じく保健室に連れて行くと、途中でスーザティナが合流してきた。アーグレシアが目を覚ましたところで三人は再び話し合った。

 まずアーグレシアが自分の状況について説明した。

 

「学園寮を出て学園に向かうところまでは記憶が確かなのですが、その先はどうにも夢の中のようにぼんやりしています。どうやら学園に近づいたとき、妹が憑りついてきたようです」


 その後、いくつか質問をかわした。

 アーグレシアは日中のリムナティアの行動を大まかには把握していた。だが細かなところは覚えていなかった。例えば昼休みにグレイヴィスといたことは憶えていたが、どんなことを話し、何を食べたかまではわからないようだった。

 

「リムナティアは学園にいることに矛盾を感じていない。どうやらアーグレシア嬢の身体ばかりでなく知識も借りて、様々な不都合を埋め合わせているようなんだ」


 グレイヴィスは昼休みに確認したリムアティアの現状について、細かなことを報告した。

 

「リムナティア嬢はやはり学園生活に執着しているようですね。おそらくその力の全てをグレイヴィス様と過ごすことに使っているのでしょう。昨晩、学園に行ってリムナティア嬢の痕跡を探しましたが、見つかりませんでした。おそらくアーグレシア嬢に憑りついていない状態では、幽霊として極めて希薄な状態なのでしょう。高位の神官でも見つけるのは難しいと思われます。事実上、アーグレシア嬢に憑りつく前のリムナティア嬢と接触することは不可能と思われます」


 それぞれの知ったことを確認する中、グレイヴィスは心が湧きたつを抑えられなかった。もう二度と会えないと思っていたリムナティアと、またこれから学園生活を共に過ごせる。それは彼が渇望していたことだった。

 だがそれは安易に望んでいいことではない。リムナティアが憑りついている間、アーグレシアは何もできない。想い人と共にいるために、その姉を犠牲にしていいのだろうか。

 スーザティナも同じ懸念を抱いていたようだ。


「おそらく、明日以降もリムナティア嬢の幽霊はアーグレシア嬢に憑りつくでしょう。わたしとしては、やはり教会に相談して祓ってもらうべきだと思います」

「いいえ。あの子がそこまで学園に通うことを望んでいるのなら、姉として力になってやりたいと思います。リムナティアの未練が無くなる時まで、この身を貸そうと思います」


 アーグレシアはわずかな躊躇いも見せずに答えた。妹を想う姉の献身的な姿にグレイヴィスは胸を打たれた。

 だが、スーザティナにはそうした感傷は無縁なようだった。


「死者が現世にとどまるためには生者の生命力が必要です。彼女がこの世に存在し続ける限り、アーグレシア嬢の生命力が奪われます。グレイヴィス様もその対象かもしれません。今はまだあまり自覚症状はないでしょうが、長引けば命に関わります」


 彼女は実に冷静な態度で淡々と語った。

 さすがにこれにはアーグレシアも顔を青ざめさせた。リムナティアに憑りつかれた後、彼女は毎回倒れてる。あるいは既に影響があるのかもしれない。

 言われてみると、グレイヴィスは自分が思ったより疲れていることに気づいた。いくらリムナティアのことで心を悩ませていたとはいえ、この重い倦怠感は、言われてみれば少々おかしいものがあった。だが、その程度のことが何だというのだろうか。

 

「リムナティアのためなら、私もこの身は惜しくない。彼女を無理やり祓わないでくれ。リムナティアは幸せそうにしていた。彼女の笑顔を、どうか奪わないでくれ」

「わたしも同じ気持ちです。妹のためにできることがあるなら、力を尽くしたいのです」


 グレイヴィスもアーグレシアも、迷うことなくこの状況の継続を選んだ。

 まるでためらう様子のない二人に対し、スーザティナは深々とため息を吐いた。

 

「お二人がリムナティア嬢を大切に思う気持ちはわかりました。彼女もしばらく学園生活を過ごすことができれば、未練を無くし天界に旅立ってくれるかもしれません。それが一番いい結末だと思います」


 グレイヴィスもアーグレシアもほっと息をついた。

 だがスーザティナは、その安堵を消すように言葉を続けた。


「ですが、忘れないでください。生命力を奪われるということは、ケガや病気とは違うのです。回復魔法でも容易に癒すことはできません。危険だと判断したら、無理矢理にでも止めます。お二人に恨まれようと、絶対に止めます。そのことを覚えておいてください」


 メガネを冷たく光らせ、スーザティナはそう宣言するのだった。

 



 グレイヴィスは朝早く学園寮を出るようになった。スーザティナは慎重に距離を置いてそのあとに続いた。

 校門をくぐるとアーグレシアが待っていた。グレイヴィスと目が合うと、彼女の瞳はたちまち緑から水色になり、天真爛漫なリムナティアの笑みを浮かべた。

 語らいながらお互いの教室までの短い距離を並んで歩く。時間は限られていたが、それでも楽しいひと時だった。

 

 昼休みは連れ立って食堂へ向かう。授業の事や普段のなんでもないことを語り合う。ありふれた話題でも、リムナティアと語り合えば楽しく思えた。

 

 少しでも長くいっしょに居ようと、授業が終わってもすぐに学園寮へ帰らないことにした。食堂のテラスで時間を過ごしたり、図書室でいっしょに勉強したりした。

 だが学園内にいても、下校時刻が過ぎるとリムナティアは憑りつくのをやめてどこかへ消えてしまう。昼休み中に学園外に連れ出そうと試みたが、やはりリムナティアは消えてしまった。

 時間と場所。それがリムナティアが存在する制限のようだった。

 

 放課後は倒れたアーグレシアを保健室に連れて行った。グレイヴィスはリムナティアと過ごした時間のことをアーグレシアに話した。アーグレシアも夢として日中のことを知っていたが、それでも詳細なことはわからない。グレイヴィスから聞かされるリムナティアの楽しそうな様子に目を細めて喜んだ。


 婚約者がいながら別の令嬢と仲睦まじく過ごす。しかもその相手は亡くなった前の婚約者の姉である――必然的に生徒たちの噂の的となった。

 その話が広まると同時に別な噂が広まった。どうやら亡くなった前の婚約者、リムナティアがまだ現世にとどまり天国へ行けないらしい。その問題を解決するために、グレイヴィスとアーグレシアは協力している。そのことは、グレイヴィスの現婚約者であり、神聖魔法に長けた才媛、スーザティナが助力しているということだった。この噂により、余計な干渉を試みる生徒は出なかった。

 

 この妙に具体的で都合のよい噂は、自然に発生したものではなかった。スーザティナが情報を操作し、意図的に生み出したものだ。現状を維持するのに協力したわけではない。他者の介入により問題が複雑化することを避けたのである。

 

 リムナティアとの学園生活は穏やかに過ぎていった。彼女の未練がいつ果たされるのかはわからない。グレイヴィスもアーグレシアも、この時間が少しでも長く続けばよいと思った。

 

 だが時間を経るにつれ、その生活は少しずつ辛いものへと変わっていった。幽霊が現世にとどまるためには他者の生命力を奪う。その影響が徐々に表れてきたのだ。

 目覚めても疲れがとれず、朝起きるのが辛くなった。寮から学園まで歩くだけで息が上がる。あまりに眠くて授業中は居眠りしてしまうことが多い。リムナティアがいるので昼食だけはしっかりと食べたが、胃がむかむかして朝も夜もろくに食べられない。

 

 苦しかった。だが、それでも。リムナティアと共に学校に通える。そのことに比べれば、グレイヴィスにとってはどれも大した問題ではなかった。



 

「もういい加減にして下さい! そんなに痩せてしまって……お二人とも、自分たちがどれほど危険な状況にあるかわからないのですか!?」


 リムナティアとの学園生活が始まって二か月ほど過ぎた、ある日の放課後の保健室。

 いつものようにベッドに寝かされたアーグレシアとそれに付き添うグレイヴィスに対し、ついにスーザティナが声を上げた。


 言われて、グレイヴィスは自らの頬をさすった。確かに最近、肉が落ちた。鏡を見るたびにずいぶんやせてきたと思ってはいた。

 アーグレシアはもともと線が細い令嬢だったが、今は枯れ木のようだ。


「ちょっと待ってくれ。私はまだ大丈夫だ。もう少し、もう少しだけ待ってくれないか?」

「そうです。死んでしまうなんて大げさです。リムナティアは本当に楽しそうにしているのです。あと少しだけ……」

「何を悠長なことを言っているのです! 断言します! このままでは二人とも命を落とすことになりますよ!」


 こちらの言うことをまるで受け入れないスーザティナの態度に、グレイヴィスは眉を寄せ不満をあらわにした。


「そうなるとは限らないじゃないか。なぜそこまで言い切れるんだ?」

「言い切れますよ! わたしの母は、幽霊をこの世にとどめようとしました! 今のあなたたちと同じような顔で、同じようなことを言って……死んだんです!」


 グレイヴィスは返す言葉を失った。

 スーザティナはうるんだ瞳で二人を睨み、言葉を続けた。


「わたしには兄がいました。兄は、事故で亡くなって、幽霊として迷い出てきました。母は兄をとどめるために生命力をすり減らし……そして、命を落としたのです。そんな悲劇を繰り返したくなくて、わたしは神聖系の魔法を学ぶようになったのです」


 スーザティナはハンカチを取り出し、メガネをずらして目元をぬぐった。

 彼女は強い意思を込めた瞳で二人を見つめ、言葉を続けた。


「グレイヴィス様、アーグレシア嬢。目の前の幸せにとらわれず、どうか真剣に考えてください。もしあなたたちがこのまま身を削り、どちらかが亡くなったら……リムナティア嬢はどうなってしまうと思いますか?」


 グレイヴィスもアーグレシアもそろって絶句した。

 二人とも自分を犠牲にしてでもリムナティアを守ってやりたいと思っていた。だが、その後までは考えが及んでいなかった。

 

「愛する者を殺めてしまった幽霊は、正気を失い、悪霊になり果てるのです。呪われた魂は天国に行くことができなくなってしまいます。リムナティア嬢を悪霊にしてはいけません。どうか、どうか。彼女を愛しているのなら、自分を犠牲にするのは、もうやめてください……!」


 スーザティナはハンカチで目を覆い、しくしくと泣き出した。

 グレイヴィスはしばらく考え込んでいたが、やがて立ち上がり、彼女の肩に手を置いた。


「……私が不甲斐ないばかりに、君につらいことを言わせてしまった。申し訳ない」

「わたしも考えが足りませんでした。ごめんなさい」


 グレイヴィスとアーグレシアのいたわりの声を受け、スーザティナは泣き止んだ。

 ハンカチをしまい、メガネの位置を直すと、いつもの冷静で理知的な令嬢に戻った。


「それではリムナティア嬢を天国に送るための相談をさせてください」

「わかった。だが、具体的にはどうすればいいんだ? 君なら神聖魔法を使えるだろう。それでリムナティアを浄化するのだろうか?」

「最初はそのつもりでした。ですが、それはどうやら難しいようなのです」

「難しい? それはどういうことだろうか?」

「普通、幽霊が現世にとどまるのは、本人の未練と霊力によるものです。それだけならわたしの扱う神聖魔法でも十分対処可能だったでしょう。ですが、二か月間は彼女のことを観察してわかりました。彼女はそれとは別に、『魔力的なつながり』を持っているのです」

「『魔力的なつながり』……契約魔法みたいなものだろうか?」

「契約魔法に詳しい教師に相談しましたが、どうやらその類の魔法がかかっているようです。特殊な術式で、詳細は未だ解明できていません。リムナティア嬢はその魔力に守られているため、並の神聖魔法では浄化できません。かと言ってそれを破るほどの強力な神聖魔法では、今のアーグレシア嬢の身体では耐えきれないかもしれないのです……」


 神聖魔法は原則的には人間には無害だが、強力なものになると対象者に肉体的な消耗を強いることになる。今のアーグレシアは、生命力を奪われやせ衰えている。強力な神聖魔法には耐えられそうもなかった。


「まずこの『魔力的なつながり』をどうにかしなければなりません。そこでお二人にお聞きしたいのです。リムナティア嬢は生前、何かそうした儀式を受けたことはないでしょうか? 例えば、パスルマイン子爵家には、特別な守護の魔法をかける風習があったりはしないのでしょうか?」


 そう問われて、アーグレシアは眉をひそめながら答えた。


「我が子爵家にはそういう風習はありません。私の知る限り、妹が特殊な儀式を受けたこともないはずです」

「そうですか……」


 グレイヴィスにしても思い当たるものが無い。もし何らかの魔法的な儀式を経ているのなら、婚約者だったグレイヴィスにも伝えられてたはずだ。

 だが、何かひっかかるものを覚えていた。そして思い出した。グレイヴィスにはリムナティアと交わした、誰にも伝えていないつながりがあった。


「……もしかしたら、これが関係しているだろうか?」


 グレイヴィスは胸元から指輪を取り出した。指輪は細い鎖を通してネックレスにしてある。あの日からずっと、肌身離さず身に着けていたおまじないの指輪だ。

 スーザティナは目を見開いた。

 

「リムナティア嬢を守る『魔力的なつながり』と同質の魔力を感じます! これはいったい……?」

「この指輪は、リムナティアと幼い頃にかわしたおまじないの指輪なんだ」


 そうして、グレイヴィスはリムナティアと交わしたおまじないについて語った。

 

 平民の間で伝わっていたという、他愛もないおまじない。指輪をつけた小指を絡め、リムナティア

が唱えた言葉。


『ゆびきりげんまん! 病める時も健やかなる時も、たとえ死が二人を分かつとも、二人の愛は絶対に永遠です! ゆびきった!』


 あの頃は、二人が離れ離れになるなど想像したことすらなかった。そんな幸せな時にしたおまじないだった。

 

「それ以来、リムナティアに言われて指輪を持つようになった。でもあれは、魔法の儀式と呼べるようなものではない。平民の間に伝わるただのおまじないだ。神聖魔法を防ぐほどの『魔力的なつながり』ができるとは思えない」

「本来なら何の効力も持たなかったことでしょう。ですが、グレイヴィス様もリムナティア嬢も、高い魔力を持つ貴族です。それがお互いのことを想いあい、手順を経て結んだ約束。加えて、お二人とも肌身離さず指輪を持っていたのなら、おそらく魔力も少しずつ指輪に蓄積されたていたことでしょう。それなら『魔力的なつながり』ができてもおかしくありません。契約魔法を専門にする教師が解析できなかったのも無理はありません。魔法的な儀式ではなく、想いで作り上げられた魔法は、誰であっても解析することなどできないのです」


 グレイヴィスは複雑な想いを抱いた。

 二人でいつまでもいっしょにいたいというおまじないだった。それは確かに効力を発揮した。しかしそれが今、リムナティアが天国に行くことを阻んでいるのだ。

 

「……なら、この指輪を壊してしまえば、リムナティアは天国に行けるのだろうか?」


 リムナティアとの思い出の品だ。できることならずっと大切にしていたかった。

 だがそれでリムナティアが悪霊となってしまっては本末転倒というものだ。

 

「いえ……それは少し待ってください。いきなり現世とのつながりを断ってしまっては、リムナティア嬢が暴走する可能性があります。本当は、本人のお墓に連れて行くのが一番いいのです。そうすれば幽霊は自分が死んだことを受け入れます。そこでつながりを経てば、自然と現世を去るはずなのです」

「だが、リムナティアは学園の外には出られない……」

「ええ、墓前に連れて行くことはできません。リムナティア嬢は事故で死ななかったと思い込んでいます。死亡証明書や事件当時の記事を見せる程度では、自分の死を信じてくれないでしょう」


 三人であれこれ意見を出し合った。

 普通の幽霊なら、身体が透けているとか、心臓が脈を打っていないとか、死んだことを自覚させる方法はいくらでもある。だがアーグレシアの身体に憑依したリムナティアには通じない。彼女は姉の身体を借りているという自覚がなく、自分の身体だと思い込んでいる。生きた身体を持った幽霊に、どうやって死を自覚させればいいというのか。

 

 語り合ううちに、グレイヴィスは不思議な感慨に囚われた。

 リムナティアはもう死んでいる。それはゆるぎない事実だ。だがグレイヴィスはこれまでそのことを受け入れられなかった。ずっと目をそらしてきた。

 そしてリムナティアもまた目をそらしている。事故で命を無くしたことを、記憶を捻じ曲げてなかったことにしている。

 二人して目をそらしているからこんなおかしな状況になってしまっているのだ。

 

 だが、それも終わりにしなくてはならない。リムナティアが悪霊となってしまえば、あの事故以上の悲劇を生むことになる。

 そのためには決定的な「終わり」が必要だ。

 学園にいながらにして決定的な終わりをもたらす手段。常識的な方法では無理だろう。だが常識を踏み外せば、その限りではない。

 そして、グレイヴィスの思考は、その手段にたどり着いた。


「彼女を終わりを告げる方法を思いついた」

「どんな方法があると言うのですか?」

「婚約破棄だ」

「ええ!?」


 驚きの声上げるスーザティナを前に、グレイヴィスは決意の籠る目で言葉を続けた。


「夜会で婚約破棄を宣言する。婚約破棄された令嬢はもはや学園にとどまることはできない。そしておまじないで結んだ『二人の愛は永遠』という約束も果たせなくなる」

「た、確かにそのとおりです。学園にいたいという未練は強制的に断たれます。指輪を破壊すれば、おまじないも効力を失うでしょう。その流れでいけば、彼女は現世にはいられなくなる……」


 驚きながらも、スーザティナは肯定した。突拍子もない方法ではあるが、実行可能で、理にかなってもいる。

 だが一つ、前提に穴がある。


「でも、待ってください。二人の婚約はすでに無くなっているはずです。婚約破棄などという大それたことをしなくても、契約書を見せるだけでいいのではないですか?」


 アーグレシアが疑問の声を上げる。それはもっともな指摘だった。リムナティアが事故に遭い命を失った時点で婚約は無くなっているのだ。

 だが、グレイヴィスは頭を振った。


「それではダメだ。リムナティアはきっと信じない。家同士の契約は終わっていても、私とリムナティアとの婚約は終わっていないんだ。私も彼女も、あの事故から目をそらし続けてきた。だから終わることができていないんだ。終わったはずの婚約を終わらせるには、婚約破棄と言う理不尽で強制的で常識外れの手段しかない」

「でも、そんなことをすれば、傷つきます。あなたも、彼女も、傷つくことになります。本当にそんなことをするつもりですか?」


 心配そうに問いかけるスーザティナに対して、グレイヴィスは穏やかに微笑んだ。


「愛する者が死んだというのに、その事実から目をそらしてきた。それで傷つくと言うのなら、当然の報いというものだ」


 グレイヴィスはの目にも言葉にも、もはや迷いはなかった。

 

「アーグレシア嬢。私は貴女の妹に婚約破棄を宣言する。こんな愚かな私の行いを、許してくれるだろうか?」

「はい……どうか妹を、天国に送ってあげてください……!」


 そう答えると、アーグレシアは顔を伏せしくしくと泣き始めた。

 グレイヴィスも悲しかった。今度こそ本当にリムナティアとは永遠に別れることになるのだ。だが涙を流しはしなかった。今泣いてしまえば、何もできなくなると思った。

 泣くのは全てが終わってからだ。そう心に誓い、涙をこらえた。

 

 


 次の週末に学園の夜会が開かれた。

 いつもは下校時刻を過ぎると消えてしまうリムナティアだったが、この日は夜になっても姉の身体にとどまった。彼女が夜会に参加するのは初めてではない。学校行事があるのなら、時間を外れても大丈夫なようだった。

 これまではグレイヴィスに連れられて会場入りするリムナティアだったが、今日は一人での参加となった。彼女にはグレイヴィスは用事があるから欠席すると伝えていた。

 

 そして夜会も中盤に差し掛かったところで、グレイヴィスはスーザティナを伴って会場に入った。

 久しぶりに本来の婚約者を伴ってやって来たグレイヴィスは参席者たちの耳目を集めた。

 

 そしてグレイヴィスはリムナティアの前までやってきた。

 彼女は驚いたように目をぱちくりしていた。グレイヴィスが他の令嬢とやってきたことを不思議に思うだけで、裏切られたとは夢にも思っていないようだった。それも無理はない。リムナティアの時間は事故の時に止まってしまった。彼女はまだ13歳の少女なのだ。

 

 そんなあどけない少女に、婚約破棄と言う理不尽を突きつけようとしている。そう思うと胸が苦しくなる。吐き気すら覚えた。

 それでも彼の決心が覆ることはない。覚悟は既に決めていた。

 

「私はこの子爵令嬢スーザティナ・シューアフォートとの間に真実の愛を見つけた! 子爵令嬢リムナティア・パスルマイン! 君との婚約は破棄させてもらう!」


 決然と言い放った。

 リムナティアは困惑を露わにした。


「そんな!? 嘘でしょうグレイヴィス様!?」


 リムナティアは婚約破棄の物語に憧れていた。学園の夜会で婚約破棄を見るのを楽しみにしていた。だがまさか、自分が当事者になるとは思ってもいなかったに違いない。

 グレイヴィスとリムナティアは愛し合っていた。昨日まで仲睦まじく過ごしていた。彼女からすれば完全な不意打ちだろう。

 驚きに染まっていた顔が、みるみるうちに悲しみに染まっていった。リムナティアは今にも涙を零しそうだった。

 

 自分の言葉が愛する人をこんなにも苦しめている。その事実はグレイヴィスの心を苛んだ。だが、それでも止まるわけにはいかなかった

 次の行動に言葉はいらない。だから歯を食いしばって耐えた。

 グレイヴィスは胸元に手を入れると、指輪を取り出した。首にかけていた鎖を引きちぎる。鎖は床に落ち、乾いた音を響かせた。そのまま指輪を高々と掲げた。


「あっ、その指輪は!」


 リムナティアが安堵の笑みを見せた。愛する人が幼い日のおまじないの指輪を持ってくれていた。それは彼女にとって何よりの救いなのだろう。

 グレイヴィスは胸中で叫び声を上げた。これからすることは、彼女の思いを裏切り、心を引き裂くことになる。それでも、やらなくてはならないことだった。


 指輪を放り投げると、グレイヴィスは腰から下げていた魔法の杖を手に取った。そして炎の魔法を繰り出した。

 短い呪文の詠唱と、杖による精密な魔力操作。それらにより範囲を絞り火力を強化した炎の魔法は、安物の指輪を容易く融かし、チリになるまで焼き尽くした。

 魔法の炎が消えた時。そこにはわずかなチリが舞うだけだった。他に何も残らなかった。

 

「ああ、ああ、ああああ!」


 リムナティアは空をつかんだ。チリとなった指輪を集めるように何度も何度も宙をつかんだ。だがチリとなって散った指輪が戻るはずもない。空しさが増すだけの行いだった。


「グレイヴィス様! なんて、なんて、なんてことを……!」


 澄んだ水色の瞳が、涙に揺れていた。その瞳の奥には怒りがあった。苦しみがあった。そして何より悲しみがあった。

 グレイヴィスはその視線を受け止め、真っ向から告げた。


「君との婚約は、これで破棄された!」


 しん、と会場は静まり返った。

 会場の生徒たちは、噂によってリムナティアにのことをある程度知ってはいても、あの指輪については知らない。それでもリムナティアの反応から、大切な思い出の品だということは察することができたはずだ。

 婚約破棄のためとは言え、思い出の品を後も残らないまでに壊す。その苛烈にして残酷な絶縁に、会場の誰もが息を呑んでいた。

 張りつめた沈黙の中、最初に動いたのはリムナティアだった。


「ああっ!?」


 悲鳴をあげると、リムナティアは頭を押さえてしゃがみこんだ。

 グレイヴィスは微動だにせず、冷静に彼女の様子を見つめた。

 婚約破棄の宣言で、学園に通いたいという彼女の未練を強制的に断つ。指輪を消滅させることで、『魔力的なつながり』を無くす。

 そうすれば彼女は現世から去るはずだった。だが、もう一つの可能性があった。

 婚約破棄のショックによって、悪霊化するという可能性だ。

 

 最悪の事態に備え、スーザティナの手配した神官たちが会場内に控えている。リムナティアが悪霊として暴走したら、速やかに浄化しなければならない。『魔力的なつながり』がなければ、通常の神聖魔法でも浄化可能なはずだった。

 

 最後まで見届けなければならない。これまで彼女の死から目をそらしてきた。それは婚約者としての義務を怠っていたということだ。グレイヴィスは今こそ、彼女の最後がどうなるかを、婚約者として見届けなくてはならないのだ。


 実際には10分程度だっただろう。だがグレイヴィスにとっては永遠とも思える時が流れた。そしてリムナティアはゆっくりと立ち上がった。顔を下に向けている。前髪に隠れてその顔は見えない。


「わたしは、死んでいたのですね……」


 静かなつぶやきと共に、彼女は顔を上げた。

 その瞳は涙に濡れていた。その顔は悲しみに染まっていた。だがそこに、憎しみや狂気はなかった。彼女は悪霊になってはいなかった。

 そのことにわずかな安堵を覚えた。だがその言葉には、どうしても確かめなくてはならないことがあった。

 

「リムナティア、君は記憶が戻ったのか……」

「はい……おまじないの指輪が無くなってしまいましたから……」

「……どういうことだ?」

「『病める時も健やかなる時も、たとえ死が二人を分かつとも、二人の愛は絶対に永遠です』。あのおまじないは、ずっとあなたといっしょにいるためのものでした。死んだことを覚えていては、あなたの隣にはいられない。だからおまじないの力で、わたしは自分の記憶をゆがめてしまっていたようなのです」


 指輪で交わしたおまじない。あれはただリムナティアの魂を現世に引き留めるだけではなかった。グレイヴィスの隣にいられるように、記憶の改ざんまで行っていたのだ。

 おまじないなど遊びのようなものだと思っていた。そこに込められた深い思いを、グレイヴィスは改めて知った。


「本当はもっと早く気付くべきでした。あなたは日を追うごとに痩せていく。学園にいるはずのお姉様にもちっとも会えない。でも、あなたと過ごす学園生活が楽しくて……楽しすぎて……そうした都合の悪いことから目をそらしてしまいました。わたしは悪い子だったんです……」

「君は悪くない!」


 グレイヴィスはたまらず叫んだ。口を挟まずにはいられなかった。


「私が悪かったんだ! 君を失ったのが悲しすぎて、受け入れられなかった……ちゃんと君の死に向き合えていれば、こんなことにはならなかったはずなんだ……!」


 葬式の時。リムナティアの死を受け入れてきちんと弔っていたら、彼女は現世にとどまることはなかったかもしれない。

 再会した時だってそうだ。あの時に「君は死んだんだ」と言えていれば、もっと早く解決したかもしれない。少なくとも婚約破棄を宣言する事態にまでは至らなかったはずだ。

 それなのに、生きていると思い込んでしまった。優しい嘘に縋ってしまった。

 全て自分が悪かった。リムナティアはただ不幸な事故に遭っただけなのだ。彼女が自分のことを悪く言うなんて、グレイヴィスには耐えられなかった。


「グレイヴィス様は優しい方ですね。おまじないの指輪も、今まで大事に持っていてくださいました。あなたのそういうところが大好きです」

「ありがとうリムナティア。でも私は……」

「そもそも! 二人とも、つらい事実からは目をそらしていたのです! それでわたしは婚約破棄を宣言されて、グレイヴィス様も苦しんだ。悪いことをした報いは十分に受けたと思います」


 そう言ってリムナティアはニッコリと笑った。明るくて前向きで天真爛漫。グレイヴィスは彼女のそういうところが、ずっと好きだった。


「グレイヴィス様にはもう、新しい婚約者がいるのですね」

 

 そう言って、リムナティアはスーザティナの方へ目を向けた。

 グレイヴィスは言葉に詰まった。家に決められた縁談だった。だが全てがどうでも良くなっていた彼は、強く拒否することもしなかった。裏切ったと言われれば、グレイヴィスに還す言葉はない。


「いいんです。今まではおまじないの力で妨げられていましたが、お姉様に記憶を見させてもらって、事情はわかっています。彼女はわたしたちのために、ずいぶん心を砕いてくださったのですね。あの方ならきっと、グレイヴィス様を幸せにしてくれます。死んでしまったわたしに、それはもうできない事ですから……」

「リムナティア……!」


 思わずグレイヴィスが手を伸ばす。

 すると、リムナティアの身体にどこからともなく温かな光が差し込んだ。


「ああ……女神様の声が聞こえます……どうやらわたしは、天国に行けるようです……」

「もう、お別れなのか……?」

「ええ、お別れです。女神様はやっぱり慈悲深いですね。あなたとお別れの言葉をかわす時間をくださいました」


 リムナティアはどこかさっぱりとした様子で微笑んだ。その目は宙に向けられている。彼女には天界に住まう女神さまの姿が見えるのかもしれなかった。

 リムナティアはグレイヴィスへと視線を戻した。そして人差し指を立て、いたずらっぽい笑みを浮かべると、グレイヴィスへ問いかけた。


「ねえ、グレイヴィス様。最後にひとつだけわがままを聞いてくださいますか?」

「わがまま? ああ、何でも聞く! 何でも言ってくれ!」


 リムナティアは自分の胸に手を当て、まるでいたずらの相談をするように明るく言った。


「わたしのことはあまり気にせず、幸せになってください」

「気にせずに、だって……!?」

「そうです。あなたには幸せになってほしいのです。死んだ者のことをいつまでも気にしてばかりいては、幸せになんてなれません。わたしのことはお墓参りに来た時にでも思い出してくれればいいんです」

「そんなこと……できるわけがない!」

「できますよ!」


 リムナティアは自信満々な顔で、グレイヴィスを指さし、高らかに言い放った。

 

「だってあなたは、生きているのですから!」


 グレイヴィスは言葉に詰まった。生きている。だから未来がある。死んで未来を失った者そう言われて、何を言い返せるだろう。

 リムナティアはイタズラを成功させた子供のように、得意げな微笑みを浮かべた。グレイヴィスは心の中で負けを認めた。子供のころから、この微笑みにだけは、一度も勝てたことはなかったのだ。

 

 そして、リムナティアに差し込んでいた光がすっと消えた。

 彼女の身体がよろめく。グレイヴィスが支えようと手を差し伸べるが、彼女は危ういところで自力で踏みとどまった。

 彼女は顔を上げた。目が合った。

 グレイヴィスは息を呑んだ。その瞳は水色ではなく、緑に戻っていたのだ。

 

「リムナティアは天国に旅立ちました……」


 アーグレシアは瞳を閉じ、そうつぶやくと、静かに涙を流した。

 グレイヴィスは息を吐いた。安堵の息ではない。悲しみのため息ではない。言葉にならない何かをただ、吐き出した。

 こうして、婚約破棄の宣言は終わった。

 

 

 

 数日後。グレイヴィス、スーザティナ、アーグレシアの三人は、貴族用の墓地にいた。

 休日の昼下がり。雲一つない、よく晴れた日だった。

 三人の前にある墓碑にはこう刻まれている。


『子爵令嬢リムナティア・パスルマイン ここに眠る』


 墓石には二輪の花が置かれている。スーザティナとアーグレシアが供えたものだ。

 

「すまなかった。ずいぶん遅くなってしまったね」


 墓石の前でしゃがみこみ、グレイヴィスは花を供えた。

 これまでリムナティアの死を受け入れられなかった。葬式には出席したものの、墓の近くまでは来なかった。彼女の棺が埋められるのも、遠く離れた場所から眺めただけだった。

 だからこうして花を供えるのは、今日が初めてだった。

 

 グレイヴィスは墓石を見ていた。こんなに近くで見るのは初めてだった。

 貴族令嬢の墓ではあるが、思ったより質素なものだった。白い石に墓碑銘と、落ち着いた装飾が刻まれている。

 こんなに飾り気のない墓石の下に、あの明るく天真爛漫なリムナティアが眠っているのは、なんだか不思議なことに思えた。

 

「さあアーグレシア嬢。グレイヴィス様はまだゆっくりしていたいようです。わたしたちは先に帰りましょうか」

「そうですね。そういたしましょう」


 そんなことを言いながら、スーザティナとアーグレシアは立ち去ろうとしてしまう。

 グレイヴィスはその言葉に慌てて立ち上がろうとする。

 

「待ってくれ、それなら私も一緒に……」

「実は、女性同士で少しお話ししたいことがあるのです。そうですよね、アーグレシア嬢?」

「ええそうです。残念ですが、殿方はご遠慮ください」

 

 二人は申し合わせたようにグレイヴィスを止めた。そんなことを言われたら、紳士としてついていくわけにはいかない。

 それに、去りがたいものを感じていた。理由はわからないが、もう少しだけここにいるべきだと思っていた。

 心のうちのよくわからない衝動に戸惑う中、二人はさっさと立ち去ってしまった。その姿をなんとはなしに見ていると、スーザティナが立ち止まり、振り向いた。

 

「グレイヴィス様! ひとつ、アドバイスがあります! あんまり我慢しすぎないようにしてください!」


 なんのことかわからず、首をかしげる。スーザティナはそれ以上は言葉を紡がず、微笑み一つ残すと、アーグレシアと連れだって行ってしまった。

 

 改めてリムナティアの墓に向き直る。彼女のことを想う。

 最初に頭に浮かんだのは、最後の別れの言葉だった。

 自分のことを気にし過ぎないように言われた。

 彼女との約束は守りたいと思う。でも、そう簡単にできることではない。

 

 だから、墓参りに来た。それでなにか一区切りつくのではないかと思った。

 彼女の魂は天国にある。ここにあるのは、彼女がかつて生きていたという証だけだ。

 そのことを改めて確認した。そしてふっと、彼女の言葉を思い出した。

 

『わたしのことはお墓参りに来た時にでも思い出してくれればいいんです』


 そうだ。ここではリムナティアを想うことを我慢しなくていいのだ。

 そう思うと、なんだかホッとした。すると、なにかが落ちる音が聞こえた。目を向けると、リムナティアの墓石に小さなしずくが落ちた後があった。ぽたぽたと、ぽたぽたと。それはどんどん増えていく。

 それを見て、ようやく自分が泣いていることに気づいた。


 あの事故以来、グレイヴィスは泣いたことが無かった。泣いてしまえば彼女の死を認めてしまうことになると思った。だからどんなにつらくても、苦しくても、悲しくても。涙だけはこらえてきた。

 でも、今なら。リムナティアの墓の前でなら。我慢しなくて、いい。

 そう思うと、止まらなくなった。涙はあとからあとから溢れてきた。


 グレイヴィスは泣いた。声を上げて泣いた。

 一年余り抑え込んだ悲しみを全て吐き出すように。日が暮れるまで、グレイヴィスは泣き続けた。



終わり

普段はエンディングに関するタグをつけてないのですが、今回は内容的に付けた方がいいと思い、「バッドエンド」タグをつけました。


2024/8/6 20:10頃

 誤字指摘ありがとうございました! 読み返して気になった細かなところも修正しました。


2024/9/26

 誤字指摘ありがとうございました! 修正しました!

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― 新着の感想 ―
悲しいけれど、いいお話でした。 うわあああああん!
[良い点] 才媛スーザティナのお陰でバッドエンドではない気がしますね。 彼女が次の婚約者ではなかったら2人とも憑き殺され悪霊化したでしょうから。 悲恋ではあるのでしょうね。
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