第19話 入学試験
「筆記は余裕だったなぁ」
「それで落ちたらどうするんだよ」
「まぁ実際、実技の方が重きを置かれてるし、よほど低くない限りは大丈夫だろ」
あっという間に2月末、俺達は邑灘学園での試験を受けに来ていた。
筆記試験は早朝7時から開始し、14時に終わった。今は遅めの昼食時間だ。同じ中学から受けに来ている連中と一緒だ。剣術部の秋島に、異界で一緒だった菅野もいる。
「対人試験緊張するなぁ...」
「生産科もやんのか?」
「そうだよ、教官との1対1だけやるんだ。あとはスキルの実技だね」
「俺達は受験生と1体1にモンスター戦があるからな、楽しみだ」
生産科なのにと沈む菅野と、戦いが楽しみだと喜ぶ秋島が対照的で笑ってしまう。
俺が受ける特殊科は戦闘科と同じ内容と、スキルの実技だな。受験生とはオーラ・スキル無しで、モンスターとは有りで戦う。特殊科は文字通り特殊だからいろいろ見るんだろう。秋島じゃないが俺も楽しみだ。
受験生がどれだけいるか分からないが、合格者600人に対しての人数じゃないよなぁ。かなり多い。
まあ、邑灘に落ちたからって、探索者になれないわけでもないし、高校に行けないわけでもない。ただ、早く強くなる場所がここというだけだ。気楽にやってほしい。
「受験生はオーラとスキルは使用禁止、危険行為も禁止だ。武器は中で各自選ぶように。じゃあ番号を呼ばれたら入って来てくれ。終わった生徒から順次モンスターと戦ってもらう」
各試験場に50人単位で分けられ、1対1を繰り返していくようだ。
受験生の対戦がオーラ、スキルが禁止なのは、素の身体能力と戦闘技術を見るためだ。オーラってのものは、素の状態に係ってくるものだから、かなり重要だ。D・C級の試験官なら簡単に止められるから、安心して戦えるだろう。
評価は勝ち負けで決まるわけじゃなく内容が重要だ。勝つに越したことはないが。極端な話、実力者1位2位が当たったら学園としても損だもんな。
そうこうしているうちに俺の番が来た。木剣を取って対戦者と向かい合う。相手は大剣の木剣を使うようだ。上背もあり、自身に溢れた顔をしている。
「準備はいいな?...始め!」
この大柄の受験生からはあまり圧力を感じない。剣術一筋の秋島や、コボルドのボスとは天と地だ。熱血爽やかと訓練しといてよかったな。
「ハアーーッ」
大柄君が、上段に大剣を構えて突っ込んでくる。秋島と同じ行動だが、スペックと練度が違う。俺は態勢を少し低くし、相手の剣がさらに上に上がる瞬間を待つ。
振り下ろす直前、切っ先が上がる。俺はその瞬間を狙って、相手の懐に入る。大柄君の利き手側に踏み込み、足を払ってやる。大柄君は何が起きたか分からず、背中を打ち付けた。終わりに首に剣を当てる。
「そこまで!」
「なっ?卑怯だぞ!」
判定の声に我に返った大柄君が、俺に向かって叫ぶ。
え?冗談だろ?
「いや、今のは正当な勝負だった。意表を突かれた君の負けだ。ただ、そうだな...」
大柄を諫めつつ、俺の方に歩いてくる。
「あー、一条君すまない。もう一戦やってくれるか?出来れば手を抜いてほしい」
「はい。大丈夫です」
焦らせやがって大柄め。足払いがルール違反かと思ったじゃねぇか。
正しい審判を下した試験官を困らせるつもりはない。もう一戦やってやろうじゃないか。
「ではもう一度だ。始め!」
今度は中段に構えて待ち構えている。俺が手を出すのを待ってるのか?だったら...
今度は俺が上段から攻める。見様見真似真向斬り。
「ふっ」
俺は、大振りにならないよう斬りかかる。大柄君は大剣を寝かせて一撃を防ぐが、即座に腹を狙って蹴りを放つ。
「ウグッ」
大剣で守勢に回るのは難しいぞ大柄君。
態勢が整うのを待って、時計回りに動きながら、小刻みに手を出す。どこかで反撃を狙え、びびって委縮するな。そんな気持ちが通じたのか、大柄君がようやく反撃に転じた。
大剣を盾に、押し出すように俺の剣を上方に弾き、そのまま体当たりを仕掛けてきた。剣を振りなおす間を埋めようとしたのだろう。
でも俺は素直に受けてやらない。弾かれたことを利用し後方に跳躍、体当たりに合わせて、前面に出た肩に一発入れてやる。
大柄君は、それでも無理やり振り下ろしてくる。息が切れ、態勢も不十分。力が入っていない。振り下ろしの一撃をいなして剣を首に当てる。
「よし、そこまで!」
「「ありがとうございました」」
「はあっ、はぁ...さっきは悪かった。ごめんな」
大柄君は、嫌な奴ではないかもな。根が真面目なだけのようだ。
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