第16話 初の異界③~大瑠璃~
午後からもやることは変わらない。
獲物を求めて、もう少し奥に行こうとしたら、さっきのハンターさんが現れて止められてしまった。どうやらモンスターを森の奥へ追いやったそうだ。残念。
威嚇をやり過ぎたと呟きが聞こえた。Cランクハンターが、オーラで辺りを威嚇したらこんなことになるのか。弱い魔獣なら恐れて当然だが、すごいな。
出来てもやるなよ、と忠告されたが、流石にそんなことしない。ここまで来たことが、どうやら無謀な人間に見えたのかも。
夜、テントの傍で1日の振り返りをしていると、何かに見られている気がした。が、暗くて分からない。そうこうしていると気配は消えていた。
そういえば、俺達が森に入ってから鳴き声が聞こえなくなったな...
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まだ生徒はそんなに起き出してないな。
最後の夜番で、丸太に座ってボーっとしていると、昨日と同じ気配を感じた。動くと気づかれるからな。
『リープ、纏衣頼む』
『風刃』
俺は樹上の存在に風刃を放つ。魔力の高まりに気づいて逃げようとしたが、唐突過ぎて反応が遅れてしまったようだ。青い翼と体を半ばまで切り裂いたところを直に視界に捉えた。
こいつは森の侵入者を監視していたのだろう...
すぐに周囲を確認し、駆け寄って亡骸をホールにしまう。
「何かあったのか?」
「いえ、鳥の魔物がいたんですけど、逃げられちゃいました」
魔法に気づいた昨日のハンターさんが近づいてきたが、特に詮索はされなかった。地面に血が残っているだけで、仕留めた証は無いしな。
あの時見た青い鳥と同じ種類だった。復活はもう少し待っていてほしい。
最終日は昼までで終わりだ。みんな一日中慣れない森を歩き回ってたし、夜も熟睡出来てないしな。
森にはちょろちょろと生き物が戻ってきている。遠巻きに此方を見てから逃げ出していくのを何度か経験している。
でも、今日のターゲットはこいつらじゃない。俺達の班は4人中3人が釣竿を持ってきている。昨日、見つけた川で釣り予定だ。竿は先生に事情を説明したら、昨日のうちに用意してくれた。
獲物がいないと見越しての行動だったが、裏目に出たかな?
「いいんじゃない?三食お肉より健康的よ」
新山さんの鶴の一声も頂いたのでこのまま決行だ。
異界で釣りなんて滅多に体験出来ないだろうし、いい思い出ということにしよう。
「こいつら何にでも食いつくな」
変化して一回り大きくなった魚は、肉でも木の実でも食いついてくる。釣り人なんていないから、警戒心も無いのかもしれない。
見張りを交代しつつ、2時間で14匹の釣果で、1匹エビも獲れたのは想定外だった。エビは釣り上げた菅野のものになった。正直羨ましい。
広場に戻り、魚のはらわたを出していると、昨日のハンターさんがやって来て、何故か一緒に作業することになった。簡単に塩焼きにして、美味しくいただいた。
因みに、魚には魔石が無かった。魔物化程の変化は起きていないようだ。
余った魚は、ハンターさんが譲ってくれというので渡してあげた。仲間に配ってやるそうだ。
2日目、俺達の班は気を抜いていたわけじゃないが、訓練や勉強の息抜きみたいになってしまった。
他の班は上手くいっていないところもあった。獲物が戻ってきた2日目でも、逃げられることが大半で、先生が言っていた1体狩れ、はあながち間違ってなかったみたいだ。立ち向かってくるコボルドの方が何倍も倒しやすい。
俺達の班は、俺が供給も使って追い立ててたからな。菅野も1日目の午後に兎を仕留めたし、班としては成功のはずだ。
結局、APは貯められなかったな。
◆◆◆◆◆◆
「今回は減らし過ぎたかもな」
「いや、外で1日を過ごすのが大事だからな。探索者になるなら、その内嫌になるほどモンスターと戦うことになるさ」
「そうそう。でも、あの鹿には驚いたわ。よく中学生が倒せたわよね?お肉も貰っちゃったし」
「今日の魚も、その子達から貰ってきたんだろ、安楽城?」
「ああ、魔法士の少年がやるようだ。まさか釣りを始めるとは思はなったけどな」
「異界でびびらないのは探索者向きだぞ」
「魔物がいなくて、舐めてたんじゃないか?」
「まぁ、優秀な子達が増えてくれるならいいじゃない」
「あとスープが旨かったな」
「「...」」
なんか息抜き回みたいになってしまった...