第15話 初の異界②
「やっぱり空気が違うな。なんかエーテルを吸ってる気がするぞ」
「森の空気が美味しいだけじゃない?」
「真面目かよ」
ここの木々はブナ科が多いようだ。変化したり、そのままの姿を保っている木もある。変化した木は太いものは更に太く、高いものは更に高くなる傾向にある。硬い木はより硬くなる。俺が以前購入したプロテクターも、変化した木が使われている。ここからは魔木と呼ぶ。
ここの見通しは結構いいな。地面の起伏が少しあるくらいで、木々の合間は開いていて視界がいい。
魔木の一番の特徴は食用の実を付けることだ。味はまちまちで、場所によっても違い、元から食用の実を付ける木は美味しいらしい。
因みに、ここの木には誰も期待していない。既に不味いと話に聞いているからな。
「このどんぐり食べてみるか」
「え?先生が美味しくないって...」
「気にはなるだろ」
その一言で納得させ、5センチ大のどんぐりを割る。念の為、検査機で毒がないか調べてみよう。
「大丈夫みたいだ」
検査機は班に1つ支給されている魔道具で、近づけるだけで測ってくれる優れものだ。
「む、不味い、というか味がしない...」
「あ、ほんとだ」
これは、食材が採れなかった時の最終手段だな。
何事も経験っていうしな。気を取り直して進もう。
「ランク外でも襲ってくるかもしれない。気は抜くなよ」
ここは一応、異界だからな、俺が歩き回ってた廃墟群とは違う。
木の実の焼け跡を見つけた。火を使うやつがいるのか?
「俺が追い立てる。回り込んでくれ」
魔獣化した鹿を追いかける。レベルが上がって逃げられる心配はない。止めは3人に任せよう。
「セイッ」
新山さんが角の生え際を細めの棍棒で強打する。くらり、とする鹿の首を横から迫った武の木槍が貫く。
「やったわ!初めて倒したわ」
「僕も初めてだよ」
「僕はびびちゃったなぁ...」
三者三様だな。新山さんと菅野の落差がすごい。
「安心しろ菅野、また見つけたら俺が追い込んでやるよ」
「うへぇ、でも1体くらいは倒さないとね...」
「一条君は何で慣れてるの?」
「俺はただランク外の魔獣にびびってないだけだな。違いはそこだけだぞ。要は自信だ。ってハンターの人が言ってた。」
「なるほど、確かに自信は大事ね」
それにしても魔獣がいないな。間引きし過ぎじゃないか?ちょっと残念だけど、初の異界だからこんなものか。だいぶ安全に配慮したようだ。
俺はしばらくずんずん進んで、脅威が無いことを再確認した。
「この川沿い付近で、山菜やらキノコを見つけながら戻るか。ちゃんと手袋しとけよ」
「「了解ー」」
確か木の芽もいけるんだよな。食材以外にも野草や花も1つずつ採っていかないとな。あとで図鑑で調べよう。
◆◆◆◆◆◆
「見たことないキノコはほとんど毒じゃん」
「なあ菅野、毒薬も作れるか?」
「え?レシピがあれば出来ると思うけど、作らないよ?」
「いやいや将来的に役に立つと思うぞ」
「えぇ?...」
食材は集めた1/3ほどか。結構、見つかったか?メインの鹿肉もある。肉は食べきらない分は他に回せばいい。
因みに本職の探索者はこんなとこで調理なんてしない、これは娯楽の一環だ。
「調理は武に任した!新山さん手伝ってやってくれ」
「「OK」」
「俺と菅野はこいつの解体だな」
基本切って焼く・煮るぐらいだ。調味料は用意されている。
解体はハンターさんが手伝ってくれて、大分早く終わった。
鹿肉は解体したら1枚500グラムくらいに切り分ける。肉塊はロマンだな。
網に大き目の肉を載せてい焼いていると、肉以外のいい香りが漂ってきた。どうやら武はスープを作ったようだ。
「全部塩ベースだけどうめぇ。このとろみはなんだ?」
解体を手伝ってくれたハンターさんが一番感激していたぞ。
謎のとろみは俺にもわからないが、自分達で作った飯は旨かった。