第14話 初の異界
夏休み、図書室。
「へー、特殊科なんてあったのか。違いってあるのか?」
「特に違いはないと思うわよ、特殊科は治療術や付与術、テイマー系等の集まりね。戦闘力や特性がまちまちだから分けられてるのよ」
「テイマー系でもいいのか、俺はそこにしようかな」
「あんたテイマーだったの?...はは-ん、前に外に行ったのもそのためね。失敗したみたいだけど」
勉強の合間に美月に邑灘学園の学科について聞いてみると、特殊科なるものがあるらしい。戦闘技能の中でも治癒スキルや結界スキル等は割合が少ないと学んだことがある。学園から見ても貴重な存在だろう。戦闘系とは区別して確保しておきたいのかもな。
どうやら美月は見当違いしているようだ。いい機会だから見せてやろう。図書室の奥でほかの生徒には見えない。
「出て来い、リープ」
ホールを開いてリープに出てきてもらう。
「きゅ?」
「何それ?かわ...じゃなくてネズミじゃない!」
「俺の従魔第1号、リープだ。こう見えて強いんだぜ」
「きゅっ」
「ふぅん、愛嬌はあるみたいね、よろしくねリープちゃん」
「武以外には秘密だぞ。うるさくなりそうだからな」
「そうね、小さい子もいるから仕方ないわね。...にしてもその空間なんなの?」
「いいだろ?」
特殊科はスキルの希少性と有用性重視、俺には比較的楽な試験になりそうだ。
美月と武は俺も邑灘学園を受けると言ったら、特に理由も聞かずに勉強を教えてくれたからな。いずれ恩返ししなければ。
◆◆◆◆◆◆
8月に入って待ちに待った日がきたぞ。俺にとってはだが。周りを見渡してみると、同じようにわくわくしている生徒半数、不安半数といったところだ。
俺も初めて結界の外に出るだけで、そこそこ緊張した。ここには、まだスキルが発現していない生徒もいるんだ、当然だよな。よく考えたら、わくわくしてる方がおかしいのかも。
「よく聞いてくれ!期間は1泊2日、事前に決めた班で行動してもらう。異界に慣れることが目的だが、最低1体は獲物を仕留めるように。13時と17時にはここに戻って来い。間引きもして、危険はほとんどない森だが、F級以上が出ないとも言えないから注意するように。森の入り口と中にハンターが待機しているから、もし危険を感じたら、この笛を吹いてくれ。荷物を受け取った班から———」
俺の班は桐野武、菅野耕太、新山香奈の3人が一緒だ。武がいるのはでかい、こいつは料理が上手いからな、俺はそれなりだ。昼と夕は自分達で食事を用意しなきゃならないから料理人は大事だ。と言っても森の中じゃ限られたものしか出来ないけどな。
菅野は生産スキル持ちで、新山さんはまだ未発現とのこと。オーラが使えるだけで戦えるから問題ない。
教官も言っていたが俺達の目的は異界に慣れること。簡単に言うと資材探しだ。食材優先で薬品の原料や魔物探しもしなきゃいけない。夜はキャンプを張って見張りしつつ寝る。これだけだ。
森の近くに来てから、ずっと気になっていることがある。
「ピールーー」「ピピッ」
鳥の声だ。森から響いてくる。あの時の鳥もいるだろうか?できれば従魔にしたいんだよな。
「私が図鑑持つわ。こういうの初めてで、あんまり役立たなそうだし...」
「お、助かる。みんな初めてだろ?じゃ袋は俺が持つか」
「ねえ、森で霊草って見つかるかな?」
「霊草?流石に浅層には残ってないだろうね。あっても採取禁止な子どもの霊草かな。奥に行くのは危ないし」
「だよねぇ...」
新山さんは、不安から自信が持てないのだろう。菅野は霊草が欲しいようだが、どうするつもりなんだ?
「僕、錬金術士なんだ。異界に入るならもしかしてって思ってさ」
「なるほど、霊草はともかく、薬草類でも探そうぜ」
俺も霊草欲しいけどなぁ...とりあえず森に入ってみなきゃ始まらい。
俺は鳥も見つけるぞ。