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ラウズ・アリアドネと魔法の植物  作者: むかでまる
第一章
8/9

一日の終わり

「家は帰る時に案内するよ。ラウズ、どこか行きたいところとかある?」

「んー……行きたいところ、というか、質問」

「私が答えられる範囲ならいいよ」

「ありがとう。その……王都の壁って、どうして囲われてるんだい? 魔法障壁だってあるんだろう?」


 この王都を守る壁は二つ存在する。一つはベヒムットの外周を覆い尽くす白亜の大壁。分厚く、そして出入口を限定する関門としての役割を果たしている。


 もう一つは魔法障壁。大勢の魔法使いが組み上げた結界で、大きな壁と同じ役割を持っているものだ。どちらもガルド村には無いものだから気になっていたのだが、魔法の壁があるのなら、物理的な壁なんて必要ないのではないか? そう思ってしまったのだ。


「ああ、それは簡単だよ。壁だけだと、空はカバーできないから」

「空?」

「ドラゴンとか、空を飛ぶ奴らには、壁なんて無いもんだろ?」


 ああ、なるほど。ドラゴンなんて滅多に現れるものではないけど、空から攻撃が来た場合、対処するための魔法障壁なのだ。


 言われてみれば当たり前だ。壁は正面からの攻撃を止めることはできるが、それより上からの攻撃は防ぐことができない。だからこその上からの攻撃を防ぐ魔法障壁が利用されている。


「実際、ドラゴンが来た時は、魔法障壁があったから街を焼かれなかったんだよ」

「君達が倒したドラゴンって、王都まで飛んできたのか……」


 ある程度の話しか聞いていなかったけど、魔法障壁が無かったら、王都はドラゴンの蹂躙に遭っていたかもしれないな。

 ドラゴン……最強種と謳われ、あらゆるものを餌としてしか認識していないという恐ろしいモンスター……そんなものが目の前に現れたらと思うと、ゾッとしない。


「あれは驚いたね、マジで」

「だろうね。僕なら気絶してるよ」

「意外と気絶しないでいそうだけどね、ラウズは」


 いや、絶対に気絶するね。自分の臆病さは一番僕が知っている。


「あ、家に俺もついて行っていいか?」

「いいけど、どうして?」

「いやほら、セレンにも伝えなきゃだろ?」

「ああ、そうだね。集まる時、集合場所を僕の借り家にするためだね?」


 僕達四人が集合する時、待ち合わせの場所はいつも僕の家だった。王都でもそうしようということだろう。となれば……家から色々取り寄せておかないといけないかな。


「村には定期的に戻ってもいいのかな?」

「うん。休みの日は基本的に自由だから」


 ガルド村から王都までの移動は大体半日くらい使うから……二日間の休日を貰った時に行く形になりそうだ。その時にはリューを護衛として指名しようかと思ったけど、リューは最上位の冒険者だから忙しいはず……じゃあ、他の冒険者に依頼をする必要がある。


「護衛の相場っていくらなのかな」

「ガルド村までなら俺がやるぞ?」

「忙しいんじゃないのかい?」

「まぁな。けど、しばらくは大丈夫だと思うぜ」

「大丈夫って……冒険者ってそんなに暇じゃないだろう?」


 休暇は終わったんだし、依頼が舞い込んでくる可能性だってあるのではないのか? 僕みたいな素人でも、リューが凄いのはなんとなく分かる。そんな彼がいつまでもフリーなはずがないはずだ。


「最上位の冒険者は俺だけじゃないんだ。俺みたいなのが動かないといけないレベルの依頼が、そうポンポン出てきて堪るか――――」

「ドラッカ氏! 丁度いい所に! 今朝迷宮へ向かった新人のパーティーが戻ってきていないんです!」


 …………うん、まぁ、なんだろう、その……


「依頼、来たよ。串焼き、食べるかい?」

「依頼、来ちゃったね。ターキー食べる?」

「依頼来ちまったなぁ、畜生! あ、飯は貰う! ありがとな!」


 思わず食事を渡してしまったくらい、見事な伏線の回収だった。ああ、リュー、せっかくお酒を飲んで気分良くプライベートの時間を楽しんでいたというのに、本当に可哀そうに……せめて何か持って行かせよう。


「リュー、魔法薬各種と、この胞子を持っていきなよ」

「魔法薬は助かるけど、なんだこの瓶詰にされた胞子」

「死臭キノコの胞子。死体に反応して真っ赤に光るんだ。生存者――――というか、重傷者が近くにいたら黄色く光るよ」


 冒険者ギルドの受付嬢っぽい方が、僕の言い方に顔を顰めたように見えたが、リューとガルムは感心したような表情を浮かべた。うん、戦いを生業にしている賢明な君達なら、この胞子の有用性が分かると思っていたよ。


 不謹慎だけど、死者がいる可能性がある救助作戦を行う場合、こういう魔法植物の方が役立つだろう。ましてやモンスターが蔓延る迷宮。入り組んだ場所が多い場所での探索ともなれば尚更。


「モンスターの死体にも反応する。それを辿ることだって可能だよ」

「なるほど、いいもんだな、こりゃ」

「あと、重傷を負っている人がいたら、その瓶を開けて、モンスターの死体でも何でもいいから死体に振りかけた後、赤い瓶に入った魔法薬をかけるんだ」

「もしかして、強制成長薬?」


 魔法薬『強制成長薬』は、その名の通り、強制的に成長を促す魔法薬だ。本来の用途は飢えを凌ぐために作物に振りかけて、すぐに収穫するために使うが、味が落ちる。

 僕はこれを魔法植物の成長を促すために使っている。魔法植物に強制成長薬をかけても質は落ちない。だから、すぐに必要な魔法植物を手にする時に使う。


「死臭キノコは活力剤や滋養強壮剤、あと媚薬なんかに使われる。即効性のね」

「媚薬!?」

「精力ってのは馬鹿にならないんですよ。リュー、分かるね?」


 鞄の中身を確認しているリューが頷くのを見て、回復ポーションのデメリットをしっかり覚えていることに僕は満足気に頷く。

 傷は回復するけど、無くなった血は戻らない。しかも体力を消費する。重傷者なら、体力が持たずに気絶するか、死んでしまうことも考えられる。だからこその死臭キノコの出番というわけだ。


「こりゃ、冒険者ギルドでも授業してもらわねぇとダメかもな?」

「え、無理。キャパオーバ―になる……」

「冗談だよ。俺とか、ギルドが講習でも開いて軽く教える。――――っし、行ってくる」

「「いってらっしゃい」」


 道具の確認を終えたリューが、風のように酒場を飛び出していく。どこの迷宮なのかは知らないけど、彼の健脚なら、どんな場所にでもすぐに駆け付けるだろう。


「凄いね、リューも。一発で冒険者の顔になったよ。カッコいいなぁ」

「ラウズも冒険者になる?」

「なりません」


 何度も言うけど、僕は戦いが苦手なんだ。そんなことをしている暇があるなら、魔法薬を作ったり魔法植物を栽培したい。


「じゃ、食べ終わったし帰ろうか。時間もいい頃合いだろう?」

「んー……リューもいないし、そうだね。帰ろっか」

「あ、あの、ニーズホッグ氏……そちらの方は一体?」


 あれ、まだいたのか受付嬢らしき人。てっきり仕事に戻ったものだと思っていたけど、この人も緊急の呼び出しで仕事が舞い込んでしまった、可哀そうな仕事人だったりするのかな。


「ヴァハムル騎士団の魔法薬指導顧問だよ」

「えっ」


 驚愕の顔で固まる受付嬢らしき人に僕は苦笑を零す。やっぱり僕みたいな田舎者がそんな大役になるのは、おかしいのだろう。

 やはり釣り合わないということで辞退させていただいても……ダメだろうなぁ。追いかけられて捕まるのがオチだ。


「ということは、ドラッカ氏が言っていた、魔法薬や魔法植物の先生というのは……」

「人違いです」


 授業はしていたけど、先生を名乗った覚えはないので。


「多分ラウズのことだよ。ラウズ以外にリューが学ぶ姿勢を見せる人、そこまでいないから」


 リューは昔から座学を苦手としていた。嫌いなのでなく、苦手。だからやる気を刺激してあげれば、苦手でも勉学に励むことができる少年だ。

 興味があることには僕と同じくらい没頭できるからこそ、彼は冒険者の最上位、ダイヤランクに到達できたのだと、僕は思っている。

 今更ながら、冒険者という職業にはランクが存在する。ルーキー、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、パール、オニキス、ルビー、サファイア、エメラルド、最後にダイヤ。

 ダイヤランクに到達できる冒険者は上澄みの中の上澄みで、一人一人がドラゴンを単騎で討伐できる実力があるという。

 つまりリューは凄いということだ。僕の友達は凄いんだ。


「あなたがそうでしたか……! あの、お名前を伺ってもよろしいですか?」

「……」


 なんだろう、名前を言ったら面倒事が増える気がする。しかし、どうしようか。ここで名乗らない限り、この人が退く感じもしない。しかし名乗ると面倒事が増えそう。面倒事は騎士団の仕事だけで十分なので、全力で避けたいのだけれども……

 名乗らないで去ったらリューの顔に泥を塗る可能性が……仕方ない、名乗るだけ名乗って退散しよう。


「ラウズ・アリアドネです」

「アリアドネ氏ですね。ドラッカ氏から話はよく聞いておりました。よろしければ、冒険者ギルドで少しお話でも――――」

「悪いけど、この人と何か話したいのなら、ヴァハムル騎士団を通してくれる? 彼は食事に来ただけで、冒険者ギルドと交流しに来たわけじゃないんだ」


 面倒事が飛び出そうになった直後に、ガルムが口を開いた。こういう面倒事の回避をできない僕の胆力が情けなく感じながらも、こうして助け船を差し伸べてくれるのは本当にありがたい。


「し、失礼致しました」

「うん、よろしく。ラウズ、行くよ」

「あ、うん。すみません、失礼します」


 受付嬢に頭を下げ、視線が集まり始めた冒険者酒場を出る。視線は僕にとっての死線。目立つのは嫌いである。

 にしても凄い圧だったなぁ、ガルム。耳も後ろに引き絞られて不機嫌そうだ。


「ラウズ、あの人だけど一応ギルドの幹部だよ」

「えっ」


 ただの受付嬢だと思っていたけど、あの人、そんなに偉い人だったのか。


「名前までは覚えてないけどね」

「覚えなくていいの?」

「関わる機会が少ないんだよ」


 冒険者は世界中を動き回る職業だが、騎士団は国を守るのが仕事。ともすれば、会う機会も少ないし、関わる機会も少なくなるのは当然……なのかな?

 それでも、会う可能性がある人の名前は覚えておいて損はないだろう。次に会う時があれば、名前ぐらいは覚えて帰る。面倒事はなんとか回避する形で行きたいが、僕の胆力と交渉術では難しい気がしてならない。

 それより今は、ガルムのご機嫌取りを優先しよう。騎士団の副団長とはいえ、子供な所が残っている。どんなに立派になっても、ガルムは僕にとってお転婆な女の子だ。


「ガルム、帰る前に甘いものでも食べに行きたいんだけど……どこかオススメはあるかな?」

「甘いもの? だったらあっちにアイスクリームっていうのが売ってるよ?」


 へぇ、アイスクリーム……行商人が何か話していた記憶がある。確か、牛乳と卵と砂糖を冷やしながら混ぜることで作れる甘いお菓子だとか、なんとか。


「よし、じゃあそれを食べに行こう。ご飯のお礼をさせてよ」


 触り心地のいい長い髪を靡かせるガルムの頭を昔のように撫でて、彼女の手を引く。昔から、こうしてやるとどんなに怒っていても大人しくなって、いつもの笑みを浮かべてくれたものだけど……


「……」

「あ、あれ? どうかした?」


 耳が引き絞られて、尻尾が不機嫌そうに動いている。

 もしかして、何か気に障ることを――――してるな。頭を撫でると機嫌が直ると思っていたけど、あの笑みは呆れからの笑みだったのか……!?


「ラウズさ、私のこと、子供扱いしてない?」

「いや、そんなつもりは……」

「撫でられて喜んで尻尾を振るのは小さい頃の私だよ!」


 あ、撫でられるのは嬉しかったんだ。よかった、昔の僕がやらかしていたのなら、どうにかして過去の自分を殴らないといけない所だった。時間を遡るなんて、フェニックスでもできない芸当だけど。


「私、もう子供じゃないんだよ!」

「いや、それはごめん」

「また撫でてる!」


 つい癖で撫でてしまった。駄々を捏ねるガルムを宥めるというのも、懐かしい体験だ。リューの誕生日のお祝いでは、ガルムはお転婆な感じを潜めてリューを祝っていたからこうして頭を撫でるなんて本当に久しぶりだよ。

 …………にしても、本当に触り心地がいいな、ガルムの髪と耳。なんだろう……人間の髪なんだけど、その奥によく手入れの行き届いた大型犬の毛並みがある。フワフワとサラサラが共存している。ずっと触っていられるくらい、触り心地がいい。


「だから、撫でないでー!」


 はっはっは、可愛いやつめ。尻尾動いてるよ。

 頑張っている妹分を労うために頭を撫でると共に、この触り心地のいい髪と耳を堪能する。昔の僕もそういうところが無かったと言えば嘘になる。


「殴るよ!」

「おっと、それは嫌だな」


 ガルムのパンチなんて、絶対に痛いはずだからね。

 表情は怒っているが、耳と尻尾は喜びを表現するかのように動いている。どれだけ成長しても、やはりガルムはガルムだ。


「もう! アイス三段食べるからね!」

「いいよ。さ、案内してくれるかい?」

「むー……ラウズ、本調子になってきた?」

「まさか。沈静ポーションを飲んでるからだよ」


 ヴァハムル騎士団副団長殿の頭を撫でるなんて酔狂なこと、そうでもしないとするわけないじゃないか。

 村で頭を撫でていたのは普通のことだったし、知らない人がいない場所だったからだ。人酔いしそうな人の数の中でこうやってガルムに村と同じ感じで接せているのは魔法薬のお蔭である。


「早く行こう。お店が閉まっちゃうよ」

「……うん」


 まだ少し怒っているように見せかけているけど、尻尾は嬉しさを表現するように動いている。ガルムの機嫌が直ったのを確認して、僕はガルムに手を引かれながらアイスクリームなる甘味が売っている店へと向かった。

 少し割高だったが、ガルムの幸せそうな笑顔を見れたので良しとだけ記しておく。


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