プレッシャーやめて?
ラウズ君の厄介な所
力が結構強い、逃げ足が速い、放っておくと魔法薬を投げつけてきたり、魔法植物を急成長させて襲ってくる。味方を回復してくる。
うーん、クソユニット。
鍛冶屋を出た後、いくつかの土産屋に顔を出し、チョコなるものをいくつか購入。試食してみたが、癖になる苦味と仄かな甘みがなんとも美味しいお菓子だった。これは紅茶やコーヒーに合うに違いない。
村の皆にも買いたかったけど、予算オーバーになりそうだったので村の皆の分はお金を貯めてから買うことにした。
「うん、美味しい」
「でしょ? 騎士団が使ってるお店もいいけど、冒険者酒場の料理の方が好きなんだー」
お土産を購入した後は、少し遅めの昼食へ。ガルムが案内してくれたのは、冒険者ギルドが運営する冒険者酒場。運営費は冒険者が依頼を請ける時に払う受注金、冒険者の稼ぎなどで賄っているという。稼いでいるんだなぁ、冒険者って。
出てくる料理は丸焼きにされたターキーや、モンスターの肉が多く、付け合わせに大盛のサラダや蒸したじゃがいもなどがある。体が資本である冒険者らしい豪勢かつバランスが整った料理ばかりだ。
僕達が頼んだ料理も普通盛りを頼んだはずなのに、パスタ一皿が三人前分くらいある。これくらい食べないと死ぬぞ、という強い意志を感じる。
「騎士団で使う店って立食が多いし、マナーとかに気を遣うから、息が詰まりそうになるんだよね」
「ああ、ダンスパーティー的な?」
「うん……ドレスとかも着ないといけなくて、あんまり得意じゃないんだ」
ドレスかぁ……ガルムのドレス姿はきっと綺麗なんだろうな、と想像しながら山盛りのミートパスタを胃に納めていく。味は濃いが、苦にならない濃さで食べやすい。しかもこの量で銀貨二枚。凄く安い上に美味しいとなれば、賑わうのは当然だ。
「その点、冒険者酒場はいいよ! マナーは他の人に迷惑をかけない程度に楽しむ! たったそれだけなんだから」
「うーん、シンプル」
お酒を飲んでいる人や、粗暴そうな顔立ちの冒険者も見えるが、皆ぶつかったりすれば頭を下げ、内輪で適度に楽しんでいる。血の気の多い職業だと思っていたけど、こういうモラル的マナーを徹底しているからこそ、冒険者という職業は成り立っているのかもしれない。
「改めて、これからよろしくね、ラウズ」
「うん、こちらこそ。死ぬほど嫌だけど」
「大丈夫だよ! そのうち慣れるから!」
あ、慣れるのは前提ですかそうですか……
「ところで、ガルム自身は魔法薬や魔法植物についてはどれくらい知識があるんだい?」
「私? ラウズに教えてもらったことくらいだよ。四段くらい?」
「ああ、そのくらいか」
僕流――――というか、僕の両親流の教え方で、ガルムやリューやセレン、他にも希望する人に対して魔法植物や魔法薬について独学だけど授業をしていたことがある。初段から始まり、十段まで授業とテストを行っていた。まぁ、独学の、しかも素人の手慰み程度の授業だったから学校の授業には劣るが。
ガルムは四段、リューも四段。そしてセレンは九段。結構難しい問題が多かったけど、すらすら解いていたセレンの頭脳は間違いなく素晴らしいものだ。
「五段に上がるためのテスト難しいよ、あれ」
「そうかな……」
言われてみたらそうかも? 鉄喰いボタンと石喰いハギの違いは、確かに難しかったかもしれない。でも、大きな違いがあり、それを知っておいて欲しかったので出題した。
「今度リベンジするから、テスト用意してね!」
「分かった。あ、騎士団の皆さんにはどこまで教えたらいいのかな」
「んー……四段まで教えたら大丈夫じゃないかなぁ。私とリューも、それで問題なかったし」
ガルムの見解を鑑みるに、戦場を仕事場にしている人なら、ある程度の識別ができれば問題ないだろう。ならば四段まで教えることができれば、僕の役目は完遂できたと考えていいはず。それまでは頑張ってみようかな。
「あとは、ラウズの自衛手段の獲得だよね」
「ん? 魔法植物じゃダメかい?」
血抜きノバラだけじゃなく、牙付きニンジンの種とか沢山持ってるんだけど。
「それじゃ人を殺しちゃうでしょ?」
「ああ、まぁ、そうだね。……あ、魔法薬の原液をぶちまければ中毒にできるよ」
「絶対にダメだからね?」
そうか、ダメかぁ。爛れ毒の魔法薬とか、炎上の魔法薬とか、結構色んなものを仕込んでいる。鉈に塗って叩き付けたら、モンスター相手にもいい感じにダメージが出るんだ。戦いは苦手だけど。
「ラウズの膂力があるなら、重量級の武器でもいいかも」
「武器に振り回されそうだなぁ」
バスタードソード? なる武器や、グレートメイスなる武器があるそうだが、僕では振り回されて終わる気がしてならない。となると、僕が使っている鉈みたいなコンパクトな武器がいい気がするんだけど……僕は武器を使ったことが無いから、専門家に委ねる方がいいだろう。
「ならハルバードなんてどうだ?」
「ん、リューじゃないか」
ガルムがうんうん唸っている中、僕達が座っている席に座り込んだのは、炎のような赤髪がトレードマークのリュー。今日の仕事は全て終わったのか、木製のジョッキにお酒を入れて少しずつ飲んでいる。
「槍と斧が合体した武器って考えてくれりゃあ、分かりやすいんじゃねぇかな」
「ああ、鍛冶屋にあったね」
「ちょっと聞いてたが、ラウズに合う武器ってのは、中々見つからねぇだろうな」
「やっぱり?」
「おう。偏に、お前の鉈が異常なのが原因だな」
そんなに異常かな、僕の鉈。馬鹿みたいに重い、というのは今日の鍛冶屋でなんとなく理解したけど……
「うーん……うーん……あ、リュー! ラウズの武器って何がいいと思う?」
「今気付いたのかよ……俺はハルバードを薦めたいね。それかハンマー」
「ククリなんかはどう?」
「軽すぎるだろ、ラウズの力に耐え切れずにすぐお陀仏ってのが目に見える」
僕のこと、馬鹿力な化物か何かと思ってません?
僕の使う武器についてガルムとリューがああでもない、こうでもない、と言い合っているが、僕には何を言っているのか全く分からない。まるでセレンから魔法についての講義を受けている時のようだ。
ただ、なんとなく分かるのは、ガルムとリューの戦闘スタイルは全く違うものであるということだ。
ガルムは籠手を武器として使っているからなのか、スピード寄りの連打スタイル。速度重視で、獣人の膂力とスタミナの量を利用して手数の多さによって敵を圧倒する。
リューは大太刀を利用した一撃必殺スタイル。重い一撃を的確に叩き込み、敵を討ち倒すスタイルだろう。
だからこそ、僕の武器はどれがいいのか、という議題において対立してしまう。対立と言っても喧嘩腰になるのではなく、それも分かるけど、こっちの選択肢もあるんじゃないか、という感じの対立だ。
ただ、まぁ……このまま放っておいたら何時間でも議論を続けそうな気がするので、一度声をかけて止めてやらないと。
「二人共、議論を白熱させるのもいいけど、一旦締めようか」
「あ、うん。ごめんね」
「おお、悪い。白熱し過ぎた」
昔から、三人のうち誰かが熱中し過ぎて、誰かが止めるというのが幼馴染四人の決まり事である。僕は誰かと議論することは無かったけど、三人が楽しそうにしているのを見るのが好きだった。魔法薬の調合に熱中し過ぎて三人に怒られることもあったなぁ……
「ガルム、お土産も買ったし、次はどうしようか?」
「うーん……あ、部屋の案内! 忘れてた!」
「一番重要じゃねぇか」
「いやぁ……ラウズに会えたのが嬉しくてつい忘れてたよ……」
愛嬌のある笑みを浮かべ、頭を掻くガルムに苦笑を浮かべる僕とリュー。こういうどこか抜けているところも、昔から変わっていないな。
「部屋は宿舎を借りれるのかい?」
「ううん、違うよ。小さいけど、家を用意してる」
「……それは大丈夫なの?」
小さいとはいえ、家だぞ? そんなのを貰っていいような人間でも、階級でもないのに家を? あ、いやもしかして借り家みたいなことか? 家賃を支払って住むことができるような――――
「ラウズは重役だからね、家を持っていてもいいくらい責任重大な役割だよ」
「え、突然のプレッシャーやめて?」
お腹痛くなってくるからプレッシャーをかけてくるのはやめてほしい。
「ラウズの頑張りにヴァハムル騎士団の皆の生存率が懸かってるよ!」
「やめて! お腹痛くなってくるから!」
動悸も止まらなくなるから! ああ、心臓バクバクしてるよ……ダメだ、沈静ポーションを飲もう。死ぬほど不味いけど致し方あるまい。気絶するよりもマシだ。
「――――がぁあ、不味いなぁ。味の改良が急務だ」
「おま、原液かよ!? 中毒起こすぞ!」
「原液じゃないと効かないんだよね」
リューの諫言を右耳から左耳へと流しながら、落ち着きを取り戻した頭脳で味の改良のための材料を考える。家のこと? 考えるだけ無駄な気がするので保留。
とりあえず頭に浮かんだのはレモン。あの酸味がこの死ぬほど不味い魔法薬の味を打ち消してくれるだろうか? 数秒考えたが、消えないだろうと結論付ける。そもそも、沈静ポーションの不味さは苦味と酸味だ。そこに渋い果実のようなえぐみが乗るのだ。死ぬほど不味い。不味いからこそ落ち着く、ということもあるけど、飲むなら美味しい方がいい。
「リンゴ……いや、甘すぎるか? ラズベリー……悪くない。けど、ブルーベリーやサンザシが――――」
「ラウズ、ストップ」
「むぐ」
考え込み過ぎていたようだ。思考の海に沈んでいくところだったところを、ガルムがターキーを僕の口に捻じ込み、復帰させる。よりにもよってターキーを口に捻じ込むとは……口元がベタベタになるじゃないか。