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ラウズ・アリアドネと魔法の植物  作者: むかでまる
第一章
5/9

デモンストレーションです

「じゃ、私が皆に紹介したら一言よろしくね」

「ああ、うん。……緊張してきたから沈静ポーション飲んでいい?」

「いいよ!」


 作業着と白衣を繋ぎ合わせたツギハギコートの内側から、空色のポーションを取り出す。本来なら興奮して暴れる怪我人などに使う代物だけど、緊張してる時に飲むと、心が落ち着くのだ。欠点は飲み過ぎると眠くなることと、凄く苦いこと。


「っはぁ、まっず……!」

「匂いはいいのにね」

「ミントの匂いがするんだけどねぇ……あ、匂いと言えば……」


 惑い葡萄で作った魔法薬を使ったカモフラージュを、どうしてガルムに効かなかったのだろうか。あれは視覚にも作用しているはずなのに。


「ガルムはどうして馬車を?」

「え? ラウズとリューとセレンの匂いはどれだけ離れていても分かるよ?」

「いや、あれカモフラージュしてたんだけど」

「ブドウの匂いに隠れて二人の匂いがしたよ?」


 うーん、獣人の嗅覚が非常に高いのだろうか? いや、ガルムが異常なだけだろう。嗅ぎ分けるだけなら、狼にだってできる。

 人懐っこい大型犬のような彼女だが、優れた五感を持っている。そんな彼女がたくさんの努力を積んだからこそ、副団長という肩書を手にしたのだ。

 何か感慨深いものを感じながら階段を降り、案内されたのは騎士団の修練場。結構広いなぁ……お、凄い。騎士達が訓練してる。剣を使う人がいれば、槍を使う人もいる。性別も年齢も様々だけど……十代、二十代、三十代が多いのかな。


「集合!」


 さっきまで話していた明るくて柔らかい声ではなく、硬く、重い声がガルムから放たれる。

 普段のガルムはこういう感じなのかな、と思っていると、訓練をしていた騎士全員が駆け足でこちらに駆け寄り、綺麗に列を成してガルムの声に耳を傾ける準備を整えた。息が上がっている人もいるのに、凄いな、騎士というのは。


「本日からヴァハムル騎士団の魔法薬指導顧問としてご指導いただく、フロム・アリアドネ氏だ。諸君の魔法薬の利用、魔法植物の知識を深めるため励むように」

「フロム・アリアドネです。皆さんが少しでも魔法薬や魔法植物について理解が進むように、精一杯やらせてもらいます。よろしくお願いいたします」


 ぐ、おおお……視線が、視線が凄い! 好奇、疑問、期待はまだいい。けどなんだい、この戦意にも近い攻撃的な視線と好戦的な視線は! 僕は戦えないんだ、その視線を向けるのは止めてもらえるかな!?

 こうなったら、少しでも攻撃的な視線を向けられないようにデモンストレーションをするしかない。


「じゃあ、少し授業を……あ、楽にしてくれていいですよ」


 そう言っても姿勢を変えない騎士の皆さん。凄いんだけど、もう少し軽い感じにしてくれませんかね。沈静ポーションを飲んだのに心が落ち着かないんだけど。


「ポーションとかは後でいいや。今回は魔法植物。今から見せる魔法植物は、土に生えない進化をした植物です」


 僕がポーチから取り出したのは、血のように赤い種。初めて見る人が多いのか、興味の視線が増えてきた。


「魔法植物血吸い綿花。皆さんにはあまり馴染みないかもしれませんが、質のいい綿として田舎では重宝されています」


 ナイフで指先を切り付け、種に血を垂らした瞬間、血吸い綿花の種は急激な成長を見せ、見事な巨大な綿花を咲かせて朽ち果てた。


「これに似た植物に、血抜きノバラがあります。この種ですね。こっちは造血剤に利用されたり、獣や魚の血抜きに使われますが……」


 血吸い綿花よりも赤黒い種を取り出して傷口に近付けると、凄まじい勢いで発芽し、指に絡みついて根を張る。騎士の皆が驚愕する中、僕は魔法植物を休眠状態にする液体を垂らして、血抜きノバラを休眠させて根を引き抜く。ちょっと痛かった。


「血抜きノバラは生き物の血液を吸い上げて干乾びさせ、美しいバラを咲かせます。その花が造血剤として利用されるわけですね。あとは……そう、そこのあなた」


 今、目が合いましたね。疑いの目を向けていた騎士の一人を指差し、手招きをする。


「実はこの血抜きノバラ、食べれるんですよ。というわけで一つどうぞ」

「え……」


 棘をナイフでそぎ落とし、硬い皮を剥けば、柔らかい部分が剥き出しになる。生でも食べることができるし、加熱しても食べられる。意外と美味しいので、小さい頃は四人でおやつに齧っていた。

 二十代くらいの女性騎士に枝を渡すと、これを食べろと? という目を向けられる。まぁ、人の血を吸った植物なんて食べたくないのが普通だろう。


「仕方ない。ガルム、食べる?」

「食べる!」


 おーい、あの厳格な感じはどこへ消えたー?

 嬉しそうに血抜きノバラの茎を齧り始めるガルムを横目で見ながら、僕も茎を齧る。うーん、いつもの滋味のある甘み。綺麗な花には毒があるというが、この魔法植物の場合、綺麗な花は凄く美味しい、だ。

 僕とガルムがなんてこともなさげに茎を齧るのを見たからか、覚悟を決めた顔で茎を齧る騎士。その表情はすぐに朗らかな表情へと変わる。


「あ、甘い!」

「生き物の血を糖分に変えて冬に備えるんです。だから、冬になると糖分が凝縮されてこれ以上に甘くなりますよ」


 ちなみに根っこは煎じると滋養強壮の薬や体温上昇薬として利用できる。それを齧りながら雪山に入るのが、地元の狩人達や僕の楽しみだ。生姜とはちみつを混ぜたような味がするから美味しいのだ。


「まぁ、僕は皆さんが活用できるような魔法植物や、魔法薬について、出来る限り教えていきますので、これからよろしくお願いしますね?」


 掴みは、これくらいでいいかな。少なくとも敵ではないことを示せたと思う。攻撃的な視線は少なくなった。しかし、好戦的な視線が消えないのはどうしてですかね? 僕は戦えないですよ。剣を振ったらすっぽ抜ける自信がある。


「さて、私と彼は少し用事がある。全員、訓練に戻るように」


 厳格な声を出してももう遅い気がするけど、ガルムはさっきの厳格そうな声を放ち、騎士の皆さんを訓練に戻す。


「さ、行こ!」


 全員がもう一度訓練に励み始めた頃、ガルムは僕の手を引いて村でよく見せていたエガを向けた。太陽みたいに可憐で、見ているこちらの元気が出るような笑顔だ。


「凄いな、ガルムは」

「何が?」

「ああして、色んな人に指示を出せるようになったって考えると、感慨深くてさ」


 あんなにはしゃいでいたガルムが、今や王国最強の戦力たるヴァハムル騎士団の副団長になっているというのは、小さい頃のガルムを知っている身としては感慨深い。僕の後ろをついてきていたガルムではないんだな、と考えると少し寂しい所も無くはない。


「団長には負けるよー」

「凄い人なんだ?」

「うん! 私、一回も勝てたことないもん」


 さすが団長なる方。ガルムが一度も勝てたことがないなんて。いや、ガルムの実力が如何程なのかを僕は知らないんだけど。

 騎士団の宿舎兼訓練場を出て、賑やかな街並みに目を細める。ガルド村と比べると、人の数が多い。いや、王都と村を比べるなんて烏滸がましいというか、比較対象に差がありすぎる。


「人酔いする……」

「大丈夫? 沈静ポーションもう一回飲んだら?」

「中毒起こすから飲まない」


 強力な効果を持つ魔法薬を同時に使用、または短時間での再使用をする場合、薄めて飲まないと中毒症状を起こす。僕の場合、完成したポーションやら魔法薬を、片っ端から自分の体で治験していたせいで薬物耐性が強くなって原液じゃないと効かなくなっている。なったことはないけど、間違いなく中毒を引き起こす。

 魔法薬の中毒は本当に辛い。頭痛、幻覚、幻聴、眩暈、睡魔、吐き気、悪寒に襲われ、眠りたくても眠れないのだ。


「あれキツイよねぇ……」

「あれ、ガルムもやったことあるの?」

「うん。リューと一緒にドラゴンを討伐した時に」


 ドラゴン討伐のことは、リューから少しだけ聞いている。最上位冒険者のリューとヴァハムル騎士団副団長ガルムを含めた少数精鋭で挑んだそうだ。最強種と謳われるドラゴンに対し、ただ数を増やしても物言わぬ肉塊になるだけだったのだろう。


「三日かけて戦って、私とリューが倒したんだ」

「凄いな」

「ううん。私も、リューも、運が良かっただけだよ。あと、ラウズの授業のお蔭」

「僕の?」

「うん。竜殺しの果実で作った魔法薬が無かったら、多分、倒せなかった」


 竜殺しの果実とは、竜種さえ酩酊させる凄まじい酒精を持った果実で、ドラゴンが生息する場所に生える魔法植物だ。これを潰して濾して、蒸留したものにトリカブト、マンドラゴラ、ベニテングタケ、フグの内臓、その他多くの毒を持つ植物を適切な量漬け込むことで、竜すら蝕む劇毒が完成する。

 作り方は教えていないが、完成品を小瓶に詰めて渡していた。いつか、三人の誰かがドラゴンと戦うことがあった時、少しでも役立つようにと。


「ありがとうね、ラウズ。お蔭で私もリューも生きてるよ」

「……うん、無事でよかった」


 ドラゴンの話を手紙で読んだ時も、リューの口から伝えられた時も心臓が止まるかと思った。一歩間違えていれば、リューもガルムもこの世を去っていたと思ったら、冷や汗が止まらなかったのだ。

 例えあの時ドラゴンを倒せなかったとして、世間が落胆の目を向けたとしても、僕だけは無事に生きて帰ってきただけで、命を拾ってくるなんて大儲けじゃないか、よく生きて帰ってきたと笑って迎えるだろう。ガルド村の人達もきっとそうする。


「湿っぽいのは終わり! 街のこと色々教えるね!」

「ああ、うん。リューとセレンは?」

「それはそれ。二人が合流したら思いっきり遊ぶよ!」


 グイグイと手を引っ張ってくるガルムに苦笑しながらも、僕は彼女の案内に従う。こういう観光というのも、ガルム達と一緒なら、悪くないかもしれない。


好感度

ラウズ→←←←←←ガルム(親愛、恋慕、尊敬、友愛)

ラウズ→←←←←リュー(親愛、尊敬、友愛)

ラウズ→←←←←セレン(親愛、尊敬、友愛)


わりと激重感情向けられてる。

なお、ラウズから三人への感情は親愛、尊敬、友愛、畏敬、称賛、兄心。

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