行きたくないですね、王都。行かなくちゃダメですね、王都。
誰が好き好んであんな馬鹿みたいに広くて、植物の少ない場所に行くものか。
あと角! 角のせいで人に避けられるし! 陰でコソコソ言われる! 誰が行くものかよ。
「大丈夫だって! 俺が案内するからよ!」
「角の無い君には分からないか」
「あー、そういや知らねぇな。獣人にも角が生えてる奴いるのに、なんでラウズの角だけ避けられるんだ?」
そこからか。……まぁ、話したこともないし、調べない限りは分からないものだ。この機会に学ぶといい、僕の友達。
「僕の角はガーゴイルの角だからね。どっちかと言えばモンスターなんだよ」
「モンスターねぇ……ガーゴイルって人間に友好的なモンスターって話だけど」
「そこは知ってるんだね」
「おう、あいつに叩き込まれたからな……」
あいつ……ああ、彼女か。ガーゴイルなんて遥か昔に滅んだ絶滅種のことを、知識豊富な彼女ならば知っていてもおかしくはない。
「ちゃんと知ってる人は極少数。ガーゴイルはモンスターなんて認識が一般的だよ」
「だからラウズは避けられるってことか? ちょっと鋭いだけだろ」
「そう思えるのは極少数なんだよ」
人と友好的なモンスターであったガーゴイルは、その頑丈な皮膜や角を狙う欲深な人間に滅ぼされた。彼らの素材で作られた武具や装飾品は、強い呪いが宿ったものとして各国の宝物殿に保管されているらしい。
この村は違うけど、王都の方じゃ僕はマイノリティなんだ。だから避けられる。寄ってくるのは忌避感よりも物珍しさが勝った奇特な人間か、人攫いくらいじゃないかな。
「まぁ、なんだかんだ言ったけど、王都に行きたくないのは面倒だからが一番なんだけどね」
「おい」
「向こうの物価は高いし、珍しい植物を売ってる場所もない。行く価値を感じない」
村でなら銅貨五枚で買えるものが、王都では銅貨十五枚もかかる。
もちろん、質のいい道具とかは王都の方があるのだろうけど、村の鍛冶屋――――リューの実家が作る道具も十分質がいい。魔法薬だって、僕が作れるし。
「ガルムには悪いけど、これは辞退の返事を書かないと――――」
「んー……そういうのは、直接会って話した方がいいんじゃねぇの?」
一応、向こうの面子もあるし、と呟くリューの言葉に少しの納得。
僕はあの元気なガルムの側面しか知らないけど、確かに彼女はリヴァリク王国が擁するヴァハムル騎士団の副団長だ。そんな彼女が提案してくれたものを、直接会わずに断るというのは、失礼に当たるかもしれない。
「……行かなくちゃダメかな」
「向こうの面子を考えるとな」
冒険者になったリューは、しばらく見ないうちに色んなことを考える力を身に着けていた。村に閉じこもっているだけの僕より、彼の方が成長している。
「俺も面倒なことを避けようとしてたけどさ、あとで手痛いしっぺ返しがきたりしてよ」
「ふーん……冒険者って大変だね」
「貴族の相手をする時もあるからな」
貴族かぁ。僕の人生経験じゃお目にかかれない階級の人達だね。さすがは最高ランクの冒険者。
しかし、面子か……赤の他人ならどうでもいいんだけど、ガルムの顔に泥を塗るような行為をするのは気が引ける。ガルムが傷付くのもだが、彼女の両親と僕の両親に何を言われるか分かったものじゃない。
「……行く、かぁ」
「お、行く気になったか?」
「死ぬほど気が引けるけどね」
なぜ僕みたいな田舎者に魔法薬の指導なんてさせようとしてきたのかも知りたいし、ついでにガルムの顔と、魔法学校の教師をしているもう一人の友達の顔も見ておきたい。元気だといいけれど。
「準備してくるよ。……手土産って欲しいのかな」
「あー……俺が見繕うわ」
悪いねリュー。僕は二十五年間ずっとこの村から出たことが無いんだ。