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ラウズ・アリアドネと魔法の植物  作者: むかでまる
第一章
1/9

拝啓幼馴染へ。田舎に引き篭もりたいです

「剣に、興味は無いか」

「無いです」


 気分転換に外で本を読んでいたら、友人に絡まれた。

 僕――――ラウズ・アリアドネは、生まれてから一度も、剣はおろか武器の類を振ったことがないただの人間だ。……いや、ただの人間じゃないや。ご先祖様にガーゴイルがいるからか、角が生えている。寝返りが大変で困る。

 小さい頃からやっていることと言えば、薬売りを営んでいる両親の影響もあって魔法薬に使う植物の飼育に関する勉強くらいだ。あと山の散策。

 好きこそものの、上手なれ。知れば知る程、僕は魔法植物にのめり込んでいった。

 今年で二十五歳になるけれど、これしかやっていない。両親は実益もあるし、やりたいことがそれなら好きにすればいいと言ってくれているから、僕は恵まれているのだろう。


「なぁ、頼むよ、俺と一緒に剣でのし上がろうぜ」

「うるさい。ウルシを切る鉈でも振ればいいじゃん」


 ウルシって、凄く頑丈で、しかも生命力が凄いから、ちゃんと潰さないとまた生えてくるんだよね。


「あれは剣じゃない!」

「耳元で叫ぶな。綿を詰めてマンドラゴラの餌にするよ」


 あ、この駄々を捏ねている人は、僕の友達のリュー・ドラッカ。鍛冶師の生まれで、よく自分で作った剣を振っていた人だ。

五年前――――十五歳の誕生日の日、冒険者になると言って村を飛び出して、なんだかんだで大成しやがった有名人である。今は休みを取って地元に帰ってきている状態らしい。


「冒険者はいいぜ、なんせモテる。しかも色んな場所に行ける」

「そう。良かったね」

「おいおい、興味なしかよ」


 そんなことをしている暇があるなら、魔法植物の飼育をしていたい。

モテたいとか、あんまり考えたことが無いんだよね。角のせいで、村の人以外からは避けられることが多いし。人から避けられるって、冒険者になるためには最悪な素質じゃないかな?


「男なら、一度は夢に見るだろ! 一攫千金とか、ロマンとか!」

「少なくとも僕はそうじゃないね」


 あ、そういえば……そろそろバター草の収穫時期だな。あれをソテーにしたり、キッシュに入れたりすると美味しいんだ。


「ラウズ、お前はもっと野心ってのをさあ……もっとこう、あるだろ?」

「フェニックスの樹の苗木が欲しい」

「そういうのじゃなくて!」


 ごく稀に空を飛んでいるところを見ることができる神鳥――――フェニックスの火を連想させる真っ赤な花実を付ける凄く希少な樹木だ。実は美味しくて効能が多く、花を煎じてお茶にすると香り高い。希少性の高さから手に入れることが難しい。

そんな苗木を手に入れることができたら、最高ではないか。


「うーん、なんだかなぁ……この植物馬鹿め」

「ありがとう」

「褒めてねぇよ!」


 スパンッ! といい音を響かせて僕の頭を叩いたリューだったが、僕の角が刺さったのか、ゴロゴロと悶絶し始めた。馬鹿かな?


「ぐおおお……!」

「大丈夫? 塗り薬要る?」

「貰う……! 前より頑丈になってねぇか、その角」


 ガーゴイルの角って、そこまで頑丈なものなのだろうか。

リューの手は、常日頃から剣を振っているためゴツゴツしていて、硬い。それなのに僕の角は彼の手を怪我させるくらい鋭くて頑丈である。これを切り落としたら、いいナイフを作れるのではなかろうか。

「なぁ、冒険者になろうぜラウズ。お前なら、結構いいところまで――――いや、俺以上になれる! 俺と組んだら、更に上にだって行ける!」

魔法植物で作った傷薬をリューの掌へ塗りたくっていると、リューは性懲りもなく冒険者にならないかと勧誘してくる。


「悪いけど、僕は興味ないから」

「ぐぬぬ……! 彼女とか欲しくないのか!?」

「ないない」


 というか、冒険者だからモテるって訳じゃないでしょ。風の噂で聞く限り、リューはモテているそうだけど……それはリュー自身の魅力が、色んな人に伝わっているからだ。

 リューは小さい頃からずっとこんな感じで、色んな人に慕われていた。明るくて、腕っぷしがいいだけじゃなくて、誰にでも優しくできる。そんな彼がモテないはずがない。正直冒険者という仕事は危険だから、誰かとくっついて腰を据えてくれないだろうか。こいつのことだから、死ぬまで冒険者をやるんだろうけど。


「親御さんも結婚相手はともかく、彼女くらいできないと不安なんじゃねぇのか?」

「うーん……父さんも母さんも別にって感じだよ」


 両親はお見合いで結婚したし、僕がいい年になっても結婚しなかったらお見合いでもさせるつもりじゃないかな。それよりも魔法薬とかを作りたいという衝動のせいで、すぐに離婚することになりそうだけど。


「ま、勧誘はまたやるとして……」

「もうしないでほしい」

「嫌だね。頷くまで勧誘してやるよ!」


 僕と肩を組む形になったリューは、懐から一枚の手紙を取り出して僕に見せてきた。


「ま、勧誘は置いておいて、これ、お前宛の手紙」

「手紙?」


 僕宛に手紙なんて、物好きな方もいたものだ。……誰からだろう。

 僕の知人で手紙のやり取りをするような人は、リューや、魔法学校に行っている人しかいないのだが……彼女は手紙を寄越すなら、直接送ってくるはず。

 自分の知人に、こんな回りくどいことをする奴はいただろうかと考えながら、封蝋を剥がして手紙を開くと、特徴的な香りと共に質のいい紙に綴られた文章が目に飛び込んできた。


「……ガルムの字だ」

「ガルム――――ああ、そうか、だから騎士のやつが……」


 手紙を寄こしたのはガルム・ニーズホッグ。この村に住んでいたが、両親の都合で王都に行ってしまった、銀色の髪と金色の瞳が特徴的だった獣人の女の子だ。

 手紙の中には、騎士団の副団長にまでなったという内容が楽しそうに綴られている。……副団長? あの子、僕より年下だよね? これも若さ……化物かな?


「リューは誰から受け取ったの?」

「向こうのギルドで郵便屋から。帰るついでに渡せって」

「適当過ぎない?」

「配達の依頼とか結構あるぜ? 郵便屋は人材不足らしいからな。それより、ガルムはなんて?」

「副団長になったって」

「ええ……あいつ、滅茶苦茶やってんだな」


 冒険者の上澄みの更に上澄みにいる君も大概だからね? しかも今って、肉体的に絶頂期でしょ君。

 僕? 寒さで骨が軋むけど何か。最近、冬の寒さの中で作業をするのが辛いんだ。やっぱり時代は屋内栽培よ。

 ガルムと僕は、両親の仕事の付き合いで出会った。ガルムの両親はボクの両親と仲が良く、たまにフラッと来ては薬を大量発注したり、僕が育てている魔法植物を不思議そうに見ていた。今でもそうだけど。

 僕が十歳になった春先の風が冷たいある日、社会経験のためとニーズホッグ夫妻が連れてきたのが、ガルムだった。

 凄く元気な子が来たなぁ、と思っていたら、ポーションの作り方を軽く教えたら作っちゃったくらい、物覚えも良くてびっくりしたのを今でも覚えている。


「最近は会ってなかったけど、元気そうだよ」

「みたいだな」


 何枚も綴られた手紙を読み込めば、騎士としても、一人の女の子としても、充実した生活をしているようだった。最後に会ったのは、リューの誕生日パーティーを村の皆でやった時だから……五年前か。

昔は短かった髪もしばらく見ないうちに長く伸ばして、天真爛漫な性格はそのままに、大人っぽくなっていて、綺麗だねぇと村の人達と一緒に話していたなぁ。


「……ん?」


 そんな思い出に想いを馳せながら最後の手紙を読んでいると、変な内容が綴られていることに気付く。これは……


「リュー、これどういう意味か分かる?」

「……あー、んー……」


 手紙を横で見ていたリューがその一文を確認し、唸り声を上げる。それくらい、最後の手紙に書かれていた内容は、信じがたいというか……あり得ないと思うんだけど、と思ってしまうものだった。


「『ラウズのことね、ヴァハムル騎士団の魔法薬指導顧問に任命するから!』……とは一体?」

「まぁ、あれだ」


 もう一度肩を組んできたリューが、サムズアップをして――――気持ちのいい笑顔を見せて口を開く。


「――――王都、行こうぜ!」

「断る!!」


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