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御爛然  作者: 愛植落柿
第二章『風月』
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第二章44話『成り行きの共闘』

 籠手を壊されたことで死懍しりんは再び御影みかげと向かい合う。

 背後から爆発音や地鳴り、そして火の手が上がる中、対峙した二人は再び攻防を繰り広げ、露零ろあはそんな二人を遠目に見ながらあることを考えていた。


(御影みかげさんに怒られるかもしれないけど私だって――)


 直後、少女は再び矢をつがえ、死懍しりん目掛けてその矢を放つ。

 さっき少女が放った矢が木を貫通して尚消えなかったのはミストラの教育の賜物だった。


 ――少女の力には波長がある。

 これはかつてミストラに突かれた明確な少女の弱点だった。

 『マナ』と呼ばれる大本の力が枯渇しているため、少女は弓でそれを補っていた。

 それ故弓を上手く扱いさえすれば力の調整や波長読みなど、すなわち先程のような高等テクニックを行える。

 とは言っても今の少女には圧倒的に経験値が足りていないが。


 少女の放った矢は正確に死懍しりんを捉え、御影みかげの剣技に防戦一方で矢の対応の追い付かない彼は(一部が凍るのは止むなし)と割り切り、宙返りで寸前、矢を躱すと羽織りの一部が凍ってしまったことには目を瞑る。


 この時、御影みかげは少女が後方支援することに一切言及せず、目の前に聳える遥か格上の相手に全神経を集中させていた。


 体質変化により獲得した『遠視』を用い、露零ろあ御影みかげが怒っていないことを確認するとホッと胸を撫で下ろす。


 以前から少女は滅者めつしゃについて、その危険度を御影みかげに熱弁していた。

 そのたび彼は信じていない様子だったが今、目の前にいる人物は彼が以前深手を負わせた滅者めつしゃの一人『砂漠の悪魔』。

 彼とは比較にならない強さを有する人物であるという実状に、彼は歯を食いしばり言葉を飲んでいた。


 プライド全てをかなぐり捨てて、露零ろあの手を借りることを密かに決意した御影みかげ

 それほどまでに勝ち筋の見えない襲撃部隊の総大将、死懍しりん


(瞳の影りが揺らめき晴れた。何かを決意したか?)


 しかし、希望を見出したことを瞬時に察知した死懍しりんは複合武器に頼らない素の力、その片鱗を見せ始める。


 だらんと垂れた死懍しりんの手が感電したかのように激しく震え、ただならぬ気配を感じ取った御影みかげは素早く身構える。

 同じく露零ろあもその現象を遠目にだが視認し、何とも言えない不気味さに鼓動がドクンと脈打つのを感じていた。


「――死懍しりんの由来を知ってるか?」


 彼がそう呟いたのは御影みかげとすれ違った後だった。

 一歩も動けなかったこと、そして敵の動き出しすら分からなかったことに驚いていると急に痛みが全身に走り、御影みかげは痛みを最も強く感じる『足』に目線を落とす。


(あっ!!)


「――動き出しが遅すぎだ。恐怖で身体が委縮してるぞ。魔砂まさへの仕打ちはこの場で返してやる」


(足に刺さって逃げられないんだ! 早く助けなくちゃ)


 視線の先の御影みかげにつられ、少女も彼の足元を見る。

 すると彼の足には釘のようなものが突き刺さっていた。

 その後、刺さった釘を抜こうと足に全力を込める彼の姿を見た少女は召喚した矢をすぐさまつがえ、再び二人に視線を向ける。


 しかし一度逸らした視線を再び二人に向けた時、少女の目に映った光景は何とも惨たらしいものだった。


 視線の先には一方的に殴打される御影みかげの姿。

 回避しようとするも足を貫通して地面に刺さった釘が抜けず、身動きの取れない彼は思考を切り替え反撃の拳を振るう。


 しかし踏み込めない状況では十分な力を込められず、降りかかる雨のような拳のラッシュに彼は辛うじて防御し、意識を保つのが精一杯だった。


(…ッ?! 一芸にしては十分すぎるほどに厄介だ。当たった時点で即アウト……だがその壊れた四肢ではもう俺を引き留められやしないだろう)


 死懍しりんはそう胸中で呟くと不規則なタイミングで援護射撃してくる露零ろあを怒りに染まった表情で睨みつける。

 そんな彼の表情を直視してしまった少女は恐怖に一歩、二歩と後退し、無意識のうちに彼から距離を取っていた。


 少女のもとへ向かう前、彼は御影みかげに無防備にも近付き懐を弄る。


 宝玉を回収するためだ。


 それからしばらくして死懍しりん

の手が彼の隠し持つ宝玉に触れるとその瞬間、御影みかげは(これが最後の…)とこの一撃に全てを乗せ、一矢報いようと渾身の一太刀を浴びせる。


 言葉を発することもままならず吐血する死懍しりん

 御影みかげが刀を横一文字に振り抜くと彼の腹部は切り裂かれ、致命傷とも思える深手に彼は思わず飛び退く。


 この時、死懍しりんはその掌に収まりきらない程の宝玉を握りしめていた。

 しかしその代償として受けた傷は致命傷とも思える深手。


(御影こいつの執念を侮った。自然治癒特化の身体とは言え、なにも『言葉』だけが警戒材料じゃない。ここは――)


 目的の達成と同時に引き際を弁える死懔しりん

 この時、彼は自身でも忘れていたある物を使用することでこの状況を強引に乗り切ろうとする。


 奪った宝玉をしまおうと、不意に自身の懐を弄った彼の手はそこに入れっぱなしだった小包に触れ、彼は兵長経由で聞いたある会話を思い返していた。


(――これは幻惑剤。注射し打ち込むことで敵味方てきみかたの認識能力を著しく低下させると言っていた。精神疾患持ちには効果覿面こうかてきめんだとも)

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