第二章42話『中堅コンビ』
現在、露零は夜道を走っていた。
一切の明りなく、足元もままならない少女は木の根やでこぼこの地面に何度も躓き転びそうになっていたが、それでも少女は走り続けた。
(――誰もいない。作戦、上手くいってるのかな)
風月が誇る精鋭部隊、その隊員の姿が誰一人見えないのは彼ら全員『ある地点』から外広がりに侵入してくる敵を押し戻していたからだ。
これは以前、少女の矢によって氷漬けになった野良の捕虜が一日後に國を弾かれるという事実を知ったミストラの策だった。
弾き出された敵の波状攻撃を防ぐべく、防衛ラインを外広がりに展開していた。
その思惑も空しく敵の主力三人は力業で入り込んできたが。
「――致命的な失策だ。合流前に奇襲されたとあればもう終わりだろう?」
その時、露零の前に立ち塞がったのは駐屯兵長と呼ばれる人物だった。
彼の風貌は闇に溶け込むような黒く短い髪に同じく黒い瞳。
溢れんばかりのリーダーシップを感じさせる親しみを感じる、それでいてどこか威厳を感じさせる強面な顔立ち。
中でも一番目を引くのは重装備で俊敏性を捨てたような服だろうか。
合流地点までまだかなりの距離走らなければならない。
しかし奇襲を仕掛けてきた駐屯兵長に露零は矢をつがえ、戦う意思を見せていく。
(ずっと教えてもらってきたんだもん。私だって――)
露零が矢を放つと彼はさも当然のように石を投げ当て相殺する。
露零への対策はすでに敵側で共有されていた。
しかし一か月という猶予が少女をさらに強くしていた。
少女は次に木に登り、飛び下りると着地までの短い間に再び矢を放つ。
(なんだ?)
何が変わったんだと言わんばかりに首を傾げ、駐屯兵長は矢の軌道上から逸れる。
するとこの矢が曲射だったということに彼は遅れて気付き、しかし彼の対応は間に合わず重装備の一部は氷結する。
「やった!」
「ちっ、だから期間を空けるなと言ったんだ。片鱗も残さない、絶望に飲まれて沈め!」
駐屯兵長の様相は様変わりしていた。
怒りに身を任せ突っ込んでくる駐屯兵長は少女が放つ矢を全て躱し、そして少女の目前にまで迫り来る。
――あっという間の出来事に驚き焦る露零。
伸びる彼の手が少女の首根っこを掴もうとするその刹那。
ある人物が少女を助けるべくその刀を振るう。
「――露零を狙って来ると思っていましたよ! 木綿流一閃、花一木綿!!」
声にならない声を上げる駐屯兵長。
彼の重装備はいとも容易く切られ、地面に片膝をつく彼は重装備を貫通して切られた傷口を押さえながら「砂漠の悪魔ぁぁぁああ!」と断末魔にも似た声で力の限り叫ぶ。
「私の前に硬さは意味を成しません。全ては豆腐のように――」
「はいはーい。砂漠の悪魔とうじょーう!」
名を呼ぶことを合図に決めていた彼は木の上から突如として現れ、駐屯兵長の装備を容易く切ったことで油断しきっている心紬目掛けてナイフを振り下ろす。
しかし頭上から奇襲を仕掛ける砂漠の悪魔を心紬に同伴していた人物がナイフごと彼を蹴り飛ばす。
「……おっと」
「二人に手出しはさせないでござるよ」
敵の主力二人、そして風月側の戦力が二人と少女を除いても四人がこの場に揃った。
心紬は露零に「ここは私たちが引き受けるので走ってください」と言って少女を御影のもとへ向かわせる。
「……行かせると、思うのか?」
「その傷では相手になりません。露零、早く」
「う、うん。心紬お姉ちゃんありがとう」
二人にこの場を任せ、振り返ることなく走り去っていく露零。
そんな少女をなぜか『砂漠の悪魔』と呼ばれた人物は見逃し、彼は残る二人に気安く話し掛ける。
「やぁ、君と戦うのは三度目だね。それにそっちは噂の綴り手かな? 『ねぇ、『幸滅者』は生まれた時から二極化しているけど救いはあると思う?』」
「これが心紬殿が言っていた拙者の言葉が必要な『敵』でござるか?」
「ええ」
対象人物が目の前に現れ、お題ともいえる彼が求める言葉を直接聞いた南風は早速脳内で言葉を紡ぎ始める。
しかしその間、彼が何もしてこないはずはなく、砂漠の悪魔と呼ばれた人物は駐屯兵長に隠れて回復に徹するよう促すと彼は二人に切りかかっていく。
「私が食い止めます。南風は今のうちに――」
「任されたでござる」
心紬は過去の戦闘経験から相手に自由に動かれては不利になると先制攻撃を仕掛ける。
しかし彼女が振るった日本刀は彼の腕に簡単に止められてしまう。
その際に攻撃を防いだ腕辺りの服は切れ、服の下から金属質の籠手が姿を現す。
「どれだけ力を付けても地力じゃ副長発案の複合武器には対抗できない。僕たちの二番手は一切妥協しないから君じゃ原理を紐解けない。諦めて『言葉』に専念しなよ」
(もう一度、木綿流を使えば私にも勝機は…。でもそれだと南風を守れない……)




