第二章39話『決戦前1/2』
面を始め、市場に出回る戦いに応用できそうな品々を買い集めた露零はできることは全てやっておこうと考えていた。
そして買い物を終えた二人は揃って宿に戻り、購入物を部屋の端に置くと二人は二度目の外出をする。
しかし今度は二人一緒ではない。
建物を出た二人は分かれると、露零は(御影さんのところにも行かなくちゃ)と、いつもの落ち合い場所へと向かっていく。
まだ彼に宝玉を渡すことになったのだと伝えていない。
彼に協力を仰ぐことを諦めてもいない。
そもそも前者に関しては、後者が受け入れられなければ作戦云々以前に可能性から潰えてしまう。
少女は面を買いに夜霧を出た直後、(言い忘れたことがあったんだ!)と再び城に戻り、ミストラに御影とも最後の打ち合わせをしたいとその旨を伝えていた。
彼はそんな少女の申し出を快諾し、「分かった、何とか取り付けるから終わったら向かうといい」と少女に告げていた。
到着した少女は先に待っていた彼と合流し、毎回転々と蕎麦屋を渡り食べていた二人はなぜか今日、合流地点から一歩も動かなかった。
――いや、正確には御影がだ。
「ねぇ、今日はどこに行くの?」
「移動する必要はない。結論は分かり切っているだろう、否だ」
「でもっ、私一人じゃ守り切れないよ…。私だって狙われてるんだよ?」
彼の表情は険しかった。
そんな分かり切ったことで呼び出すなと言わんばかりに。
その後、少女は「御影さんって私が呼んだ理由知ってるの?」と彼との認識に齟齬がないか尋ね、疑問符を浮かべる彼を見ると少女は次に「私が宝玉を御影さんに渡すことになったから伝えに来たんだよ?」と彼の関心を得られそうな話をする。
すると彼は顎に手を当てながらしばらく考え込む。
この提案をした張本人、ミストラは彼に協力を前向きに検討させるよう相当試行錯誤したのだろう。
「……悪くない」
当日のコンディションは新月。
彼の協力を得られれば百人力だと考えていた露零は彼の呟きに「やった! 一緒にがんばろ」と彼の許可を得られたことを喜んでいた。
「弓波、当日は廉も参加するのだろう?」
「れん? もしかして東風さんのこと? 私も最近教えてもらったんだけど『あの日』からずっと行方不明なんだって……」
「――そうか。あれは俺の後輩なんだ」
このひと月、彼は自身の情報を話すことを頑なに拒んでいた。
しかし数週間に渡り、少女はめげずに精神疾患持ちの彼と関係構築し続けたことで徐々に心を開いていき、この大一番を前にして初めて自身の情報を話し始めたのだ。
(そうだったんだ。東風さん、それに心紬お姉ちゃん今どうしてるんだろう)
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時同じくして、心紬の住み込み先『隊舎』では東風が行方不明になってからひと月が経とうとしていた。
心にモヤモヤを抱えた心紬はいつも通り隊員同士の稽古を終えると彼らの巡回に同行し、東風の捜索に協力する。
この日の巡回コースは城下町。
手元に無機物を寄せるという独自技術を悪用し、窃盗を働く不届き者が後を絶えない。
彼女に同伴する隊員はそこに割って入り、刀を振り下ろすと手元に吸い寄せられた道具はドサッと地面に落ち、心紬それを持ち主に返す。
そして悪事を働いた者を未遂、現行犯関係なしに連行担当に引き渡す。
その後、二人は東風捜索も兼ねて町外れに足を踏み入れる。
もちろん、人が住む地域は城下町で収まっているためこの場は無人だ。
しかし荒廃した建物は残っていて二人は敵が拠点として使用していないか、また、何か痕跡は残っていないか二手に分かれ捜索を開始する。
(一日経つと弾かれるみたいですし悠長にしている暇なんてないはずです。私は東風さんを探さなければ……)
そう考え、心紬はまだ捜索の手が行き届いていないと聞いた廃墟をくまなく捜索する。
するとある建物に入った瞬間、中に人に気配を感じ、心紬は腰元の刀に手を掛けるとすり足で気配のする方へ慎重に近付いていく。
そして警戒を解かぬまま奥の部屋に入るとそこには欠損した左右非対称な面を付けた人物が頭から血を流し、壁に凭れかかってぐったりとしていた。
左右非対称な面、それは心紬が過去に見てきた戦闘モードの東風が身に付ける彼の私物だ。
目の前の流血している人物が東風だということを瞬時に悟った心紬はすぐに同伴者を呼びに行き、彼女に応援要請を任せると自身は彼の処置を行うべく、再び彼のもとへと駆け戻る。




