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御爛然  作者: 愛植落柿
第二章『風月』
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第二章36話『好物に勝る薬なし』

「そうだね。それじゃあ南風はえ、一緒に見送ろうか」


 手間を押し付けたとでも思っているのか、律儀に玄関先まで来てくれた二人に見送ってもらい、露零ろあはウキウキ気分で夜霧よぎりを出る。


「知ってることを教えればいいだけだよね? それじゃあ行ってくるね」


「行ってらっしゃいでござる~」


 今の露零ろあ御影みかげに対し、一切恐怖を抱いていなかった。

 音符が弾むような陽気で軽やかな足取りで、予め聞いた落合場所まで向かう少女は脳内で話す内容を簡潔にまとめていた。

 その上で彼に聞きたいことも箇条書き程度にまとめ、しばらくして目的地である蕎麦屋の近く到着した少女は(早かったかな?)と彼を待つ。


「待たせた」


「わわっ!」


「落ち着け、城下町ここで危害を加えるつもりはない」


 白昼という時間帯が苦手なのか、彼は少女の背後に伸びる影から僅かな時間抜け出ると小さく声を掛ける。

 だがしかし少女が振り返るとそこに御影みかげの姿はなく、少女が辺りをきょろきょろ見渡すと少し離れた場所の日陰で彼は小瓶に入った怪しげな錠剤を数錠取り出し服用していた。


 面識がなければ薬物乱用者とみなされ通報、連行されてもおかしくない。


 しかし少女は彼が誰なのか知っている。

 そして今目の前にいる人物が何かしらの病気を患っていて、日常的に錠剤を服用していることを事前にミストラに聞いていた。


 露零ろあは彼のもとに駆け寄っていくと「私の話が聞きたいんでしょ? 座れる場所に行こ」と言って御影みかげの手を半ば強引に引く。

 その拍子に彼は小瓶から薬を零し落としてしまい、慌てて蓋を閉める。


「待っ、俺は蕎麦を――」


 本来は蕎麦をすすりながら敵に目的を悟られぬようカモフラージュする方向で話し合っていた御影みかげとミストラ。

 しかしその情報をミストラが共有していなかったがために、少女は親の手を引く子供のようにどんどん蕎麦屋から離れていく。


 その時、蕎麦屋台から暖簾のれんを上げて二人が去っていく様子を覗く店主のような服装の人物がぼそりと呟く。


「そろそろ来るはず――ってどこ行くね~ん! 昨日蕎麦屋で密談するって言ってたじゃんよ」


 蕎麦屋の店主を装っていたのは敵である野良のらの一人だった。

 彼は二人が急遽予定変更したことに盗聴していたことがばれたのかと危惧する。

 そして(ここは危ない)と感じ、彼は傍で拘束していた本来の屋台主を目隠しを付けたまま開放すると、屋台主が目隠しを取るまでの僅かな時間で彼は屋台から姿を消す。


 そして蕎麦屋を出た野良のらは見失った二人を探し、辺りを見渡す。

 すると地面に落ちた何かが遠目に彼の目に留まり、近付く彼はそれが錠剤であると気付いていく。

 その錠剤を見た彼は「――これは、あいつのか? 副長に見せれば俺の手柄になるじゃんよ!」とテンション高めに言い、落ちている数粒をハンカチらしきものに乗せ懐にしまうと彼は満足げな様子で帰っていく。


 一方その頃、露零ろあ御影みかげは別の蕎麦屋台に来ていた。

 『そば通』だと自称する彼の要望でしばらく席を外していた店主が戻ってきて、彼は注文の入ったそばの準備を始める。


「ねぇ、私の知ってることは話したんだし御影みかげさんのことも教えて欲しいなーって」


「……以前の非礼もある。聞きたいことは鳴揺なゆらから手を引くよう条件を提示したことか?」


「うん…。私ね、あおぎさんに頼まれたの。≪鳴揺なゆらさんを救ってほしい≫って」


 少女の話を聞き、彼の表情は一瞬のうちに曇っていく。

 死して尚、先代の放つ存在感に今にも目眩を起こしそうな、並々ならぬ怒りを宿す彼に店主は出来たてのそばを差し出すと彼の表情は次第に元に戻っていく。

 そして次に少女の前にもそばが置かれ、険悪ムードになりかけた空気は一旦収束する。


 そばを食べている間、露零ろあはこの話題は彼にとっての地雷になると考えていた。

 情報共有はすでに終わりこれ以上会話をする必要もないのだが、少女の彼に対する好奇心はすでに湧き溢れていた。


 二人がそばを食べ終わると再び少女は話題を振り始める。

 次の話題は『滅者めつしゃとの戦いにあたって協力するのか』。


 一致団結したとしても敵勢力に勝てる保証は全然全くないのだが、過去の会話を思い出すに手柄を最優先に考えている彼がわざわざ大勢と手を組む理由は見つからない。

 國の存続を第一に考えていれば話は別だが、繰り上がったばかりの彼にはまだその自覚もないだろう。

 そんな失礼なことを考えていると、彼の口から意外な形で少女の疑問に対する答えが告げられる。

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