第二章34話『死懍との戦いに向けて』
昼頃、露零が目を覚ました場所は宿泊宿『朽月草』だった。
室内に南風の姿は見当たらず、昨夜の出来事を思い出しながら少女は(あの後どうなったんだっけ)と昨夜の記憶を辿っていた。
昨夜の少女の最終記憶は怪我人二人を城内へと運び込み、その看病を心紬に任せたところまでだった。
その後、東風が戻ってきたのかも、二人が目を覚ましたのかも少女は一切知らない。
夢のような現実の出来事に、まだ頭が追い付いていない少女がしばらくボーっとしているとまるで買い物終りのように両手いっぱいに紙袋を持った南風が戻ってくる。
彼女は戻ってくるや少女に紙袋の一つを手渡し、中に入っている資料を見るように促す。
「これが今後の流れでござる。あの後色々決まったでござるから目を通すでござるよ」
「うん、私は南風さんと一緒に行動すればいいんだよね?」
「そのことなんでござるが……」
少女は渡された紙袋から資料を取り出して見ると、そこには箇条書きで今後のことが記されていた。
まず、最上段には『決闘、引き分けにて幕を閉じる』との見出しが他の文章と比べて大きめな文字で書かれていた。
そしてその下には『情報共有』と『権限』、そして『身柄』と三つの項目があり、これらは今回の決闘をするにあたって互いが提示した敗北した際に差し出すものだった。
しかし今回の決闘は見出しにもある通り『両者引き分け』で幕を閉じた。
一方的にではあるが仲違いしている二人が今後、良好な関係を築ける可能性は低いと言えるだろう。
少女は上から順に、まずは『情報共有』と書かれた欄を読み始める。
そこには互いに一人、≪露零と御影のみで行う』と記してあり、場所は例外なく城下町≫内で全て行うとあった。
次に二つ目の項目『権限』。
その下には≪現在最も権限を持つ者ミストラ。同じく御影も同等の権限を本日をもって得る≫とあった。
そして最後に『身柄』。
その下には≪二人は今後、鳴揺と接触の一切を断つ≫とあった。
「そんな…。鳴揺さんを助けるためにここまで来たのに……」
上記の二つは予想の範囲内だっただけに、最後の一文に動揺が隠せない露零。
死人に口なしとはよく言ったものだがそれだけで納得できるほど少女の人間性は出来上がっていなかった。
加えて遺言ということもあり、少女はどうしても彼の最後の望みを叶えてあげたいと考えていた。
最初の動機ともいえる目的をこんな形で失ってしまった少女に南風は「この情報が今頃、瓦版として國中に出回ってるはずでござる」と伝え、「今更どうにもならないでござるよ」と彼女は少女に釘を刺す。
そして彼女は残りの紙袋から何やら物珍しい品々を出し広げていく。
「それはそうとやっとこっちにも回ってきたんでござるよ。どうでござる? 敵が所持していたものでござるが見覚えはあるでござるか?」
出し広げられた物の中には少女が見覚えのあるビー玉サイズの爆薬らしきものや話に聞いたマッチ棒のような矢尻の矢。
他にも見覚え聞き覚えのないクナイ型の何かや腐敗した何かの塊などがあった。
「これとこれは見たことあるよ、爆発するやつだよね? 大丈夫なの…?」
「風切りかまいたちは知ってるでござるか? その応用で爆発しないようにしてあるでござるよ」
「ほんとに?」
心配そうな眼差しを向ける少女はビー玉サイズの爆弾らしきものには触れず、他の物に恐る恐るといった様子で触れていく。
クナイは刃先に毒など塗られていれば触れただけでお陀仏になってしまうが無知ゆえの好奇心で少女は無防備にも刃先に手を当てる。
「何があるか分からないでござるから迂闊に触ると危ないでござるよ」
「でもこれ何ともないよ? こっちはどうだろう」
そう言って少女は次に矢を持ち触り始める。
すると突如、少女の持つ矢の矢尻は何故かいきなり発火し、焦る少女は「わわっ!」と驚きすぐさま矢を召喚すると火元目掛けて矢を打ち込む。
図らずも戦利品の矢が持つ効果を引き出した少女だが、敵が扱う得体の知れない代物に危険性に「こんな危ないもの捨てちゃおうよ」と少女は南風にきっぱりと言う。
「だ、だめでござるよ! これは重要なものなんでござるから。もう返しに行くでござるが『火がつく』ことが分かっただけでも持ってきた甲斐があったでござる」
「ミストラさんのところに行くの? なら私も一緒に行きたい」
この時、露零は彼の決定に不満を抱いていた。
彼女が頷いたことで少女は紙袋を半分持つと、二人は共に夜霧に向かって歩いていく。
そして到着した夜霧には屋上から各方面に次々と矢文を飛ばすミストラの姿があった。




