第二章33話『ここから更に』
塀が爆発し、黒煙が立ち上がる状況を見た第三布陣の面々に動揺が広がっていく。
この爆破は一体誰の仕業なのだろうか。
次第に声を上げ始める第三布陣の面々を南風は制止させると、彼女は次に「拙者と露零殿で見てくるでござるから皆は待っててほしいでござる」と彼らに伝え、少女を連れて二人は夜霧に向かっていく。
彼女らが持ち場を離れるということ、それはすなわち相当数いるメンバーの統率を取れる者がいなくなってしまうということだ。
そのことに気付いていない辺り、二人とも物事を大局的に見れていないということになる。
この選択が大きな間違いだったことに二人はまだ気付いておらず、夜霧を目指して駆けていく二人。
塀から黒煙が立ち上がり、敷地内が一切見えなくなってしまったことに二人の決闘を見届けた露零は(二人とも気を失ってるのに…間に合わなかったらどうしよう)と嫌な予感をしてしまう。
そうして二人が夜霧付近まで戻ってくると、塀を見た二人は唖然とする。
広範囲に及ぶ塀の表面を何やら怪しげな靄のようなものが覆っていて、その靄が少しずつ剥がれ空に飛んでいく様子が遠目には黒煙が立ち上っている様に見えていたのだ。
その時、同じく異変に気付き一早く戻ってきた第二布陣の心紬。
三人は八日ぶりに合流すると「中に入って状況を確かめよう」と言い、面を取るよう南風に伝える。
……しかし、いくら彼女が面を取る動作をしても城内からは一向に面が飛んでくる気配がない。
そのことに少女は「ねえ、もしかしてミストラさんが気を失っていたらできないの?」と尋ねる。
すると南風は「そんなことはないはずでござる」と言い、再度面を手元に寄せる動作をする。
「あの…今日は新月なので『入口』は動いていないんじゃないですか?」
心紬の見解に、二人はハッとした様子で「そうだよ!」と声を上げる。
そして三人が敷地内に入ると中は派手に荒れていた。
城に目立った損傷はないものの、あちらこちらの地面は抉れていて、城以外の小さな建築物は倒壊していたり銃弾でこうなってしまったのだろう、ハチの巣状態となっていた。
三人は二手に分かれ、それぞれ二人を見つけると意識のない二人の看病は心紬が担当する。
『すぐに二人が目を覚ますことはない』という彼女の見解を聞き、心配そうな表情を見せる少女と南風。
「――そういえば二人とも持ち場を離れてよかったんですか?」
ふとした彼女の疑問に南風は「拙者は露零殿を任されているでござるからこれが正解なんでござるよ」と得意げに言う。
一方その頃、第二布陣の面々がいる城下町、そして第三布陣の面々がいる山中では同時に野良が姿を現す。
彼らは一切武器らしきものを携帯していなかったが腰元には複数個のビー玉のようなものが付いたベルトを着用していて、風月メンバーは彼らの行動に薄気味悪さを覚えながらも目的把握を試みる。
城下町に残った東風は「なぜ二人を狙わないのか」と疑問を問い、「貴殿らは既存を合わせ未知を創ると聞く。ならば目的は物にあるのか?」と続けて彼はカマを掛ける。
「げっ、なんで筒抜け?!」
「ばーか、自分から言ってどうするよって話。会話にかまけて誤爆するとか情けなさ過ぎでしょ」
それ以降、注意を受けた野良は会話を控え、二人は逃げ回りながらある物を捜索する。
彼は二人が腰元に付けている物を『危険物』だと直感し、全隊員に被害は最小限に、且つ早期解決に努めるよう指示を出す。
逃げた二人は町外れの廃屋に身を隠し、追手である隊員が廃屋に入ってくるとベルトに付けた爆弾を外して投げ、追手もろとも廃屋を跡形もなく吹き飛ばす。
――家一軒が吹き飛ぶほどの大爆発。
その爆発は離れた場所にいた東風の目にもしっかりと映り、彼は守るべき者の多さ、そしてそのことを見越した上で嘲るかのような非情な彼らの戦術に戦意喪失してしまい、徹底的に『彼らと事を構える』という思いは硝子のように打ち砕かれてしまう。
その後、東風は「深追いは禁物」と指示を出し、敵のリーダー格が姿を見せないこと、そして自陣での爆破攻撃という分の悪さに彼らを野放しにしてしまう。
まるで年越しのように大勢が外で日付を跨いだ深夜、伝達係によって警戒態勢は解除され、駆り出された隊員たちはそれぞれ各隊舎へと戻っていく。
東風は第二布陣の面々が全員戻っていくのを見届けると、最後に自身も夜霧に向かっていく。
その道中、彼は野良同士の奇妙なやりとりを目撃し、何か手掛かりになるかもしれないと彼らのやり取りを盗み見る。
「――全っぜん見つかんない! もう國中探し回ったってのに一体どこにあんのよ!!」
「そのことなんだけどさっき死懍さんが≪場所が分かったからもういい≫ってさ」
その時、怪しい一つの人影が覗く東風の背後を捉えていた。




