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御爛然  作者: 愛植落柿
第二章『風月』
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第二章31話『月うさぎと荒んだ影』

 夜霧よぎりを出た後、露零ろあたちは夕方まで『あること』に時間を割いていた。


 そして夜になり、ひと月のうち最も暗くなる新月しんげつを迎えると、第三布陣の面々が潜伏している地に最後に到着した二人はこれから行われるこの國きっての実力者たちの決闘を遠くから静かに眺め、そして見守る。


 と、言っても実際には城が鮮明に見えているのは少女ただ一人だ。

 露零ろあは遠視によって見えた光景をその都度呟くことで南風はえを始めとする第三布陣の面々に適宜状況を共有する。


南風はえさん始まったよ。うさぎのお面を付けてる人がミストラさんだよね?」


「そうでござる。隊員殿に頼んでおいたでござるから滅者めつしゃのことは任せるでござるよ」


「うん! 南風はえさんありがとう」


 そして少女は再び夜霧よぎりを見ると、対峙する二人は何やら問答していた。

 しかし少女は視力が特別優れているだけで、聴覚が優れているわけではない。

 会話内容を聞き取れない少女は次に見知った顔であるミストラを瞳に映す。


 同じく現在、決闘の舞台である城、夜霧よぎりの敷地内では相対するミストラ、そして新月御影にいづきみかげが決闘を前に問答を始める。


御影みかげ。君は僕の、この國のあるじだ。君が横暴さえしなければ僕は君が國を回す立場でいいと思っているよ」


「――横暴……か。居座り心地は良さそうだな。俺が単身でここに来た理由は一つ、お前を倒し出しゃばる余所者に釘を刺した上で情報を引き出すだけだ」


「聞いたよ。『あの子』達からすれば迷惑極まりないだろうね。身内のことは身内で完結させよう」


「ああ」


 御影みかげはそう言って懐から錠剤の入った瓶を出すと数錠を一度にまとめて飲み込み、腰元に付けた黒い狐面を身に付ける。

 その様子にミストラは驚き、ドーピングに危機感を覚えたような反応を示す。


 次の瞬間、彼は腰元に携えた二丁の銃を抜き目にも留まらぬ速さで球体の特殊な銃弾を四方八方に乱射する。


 彼の発砲音を合図にミストラが地面に細かな亀裂が入るほど足に力を込めると次の瞬間、彼の放った銃弾の一つがミストラの目前で突如、一瞬目が眩みそうなほどの強烈な光を放つ。


 しかしミストラは御影みかげの戦術を熟知している。

 銃弾が光を放つタイミングに合わせて彼は瞬きするとラグを作らず光によって背後にできた影目掛けて強力な蹴りを入れる。

 バク宙するような身のこなしから放たれた彼の蹴りは的確に急所である首元を捉えるが、影から出てきた御影みかげは腕で容易く防ぐと握った拳を開き、先程仕掛けた『攻撃』を後出しで放つ。


 彼が拳を開くと先程乱射した銃弾は全て彼の手元へと集まり、無防備なミストラの背後に無数の銃弾が迫り来る。


 彼の攻撃、それはこの國の者が面を手元に寄せる際に手に纏う不思議な『磁力』にも似た力、その応用だ。

 無機物を手元に寄せることができるということは当然、銃弾もその対象だ。


 本来なら繰り上がり碧爛然へきらんぜんに数えられた段階で、紅玉に回帰した五大元素が一つ『風』のマナを自身の力として扱うことができる。

 しかし彼は長年比較され続けてきた先代が使用していた力を使うなどとその力を使うことを頑なに拒み続け、これまで血の滲む思いで研鑽を重ねてきた『自己の力』のみで先代を超えると揺るがぬ決意を固めていた。


 ミストラは軸足を起点に宙を蹴り、空気に足を引っかけるかのようなありえない身のこなしで銃弾全てを躱すと御影みかげの服に足をかけ、高速回転したあと彼を地面目掛けて蹴り飛ばす。



 その様子を見ていた露零ろあは「凄い!」と師匠の真の実力に呆気にとられ、思わず驚きの言葉を漏らす。


 少女の加わった第三布陣の目的は『滅者めつしゃ』、そして『野良のら』の襲撃に対応することだ。

 彼らの主目的の一つは少女の奪取にあるが、当の本人はと言うとまるで試合観戦のようにただ二人の決闘をのんきに眺めているだけで周囲への警戒は一切怠っていた。

 少女の近くには常時警戒を怠らない南風はえがいるが、彼女は緊張の糸は解いていないものの暇そうにしていて、時々響いてくる地鳴りや舞い上がる土煙には彼女も時々目を向けていた。


 第三布陣の面々に大した動きがない理由。

 それは動く理由がないからだ。

 ミストラの見立てが間違っていたのか、滅者めつしゃ野良のらには全くと言っていいほどに動きが見られなかった。


 丸一日という國に留まっていられる時間の短い彼らだが、一度弾かれ強制退國させられると再度入國できるようになるまでインターバルが必要なのか。

 あるいはただ単に情報を得ていないだけなのか。


 彼らに関してはまだ情報の少ない現状だが、良くか悪くか時同じくして彼らの姿が風月ふうげつ内で目撃される。

 そんな滅者めつしゃ野良のらを発見したのは第三布陣として待機する一人の男性だった。

 彼は視認した第三布陣の偵察隊からかなり距離の離れた場所にいて、敵勢力のリーダー格の男性は双眼鏡のようなもので決闘が行われている夜霧よぎりを静かに眺めていた。


 敵情視察なのだろうか。

 視察に来たと思われる敵の人数は少なく、滅者めつしゃである死懍しりん、そして野良のらを束ねる駐屯兵長と彼の部下数人だ。


「今日で宝玉の在りかを特定する。それと駐屯兵長、副長に『例のもの』を作るよう急ぎ伝えろ」

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