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御爛然  作者: 愛植落柿
第二章『風月』
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第二章30話『愛弟子二人』

 その人物は南風はえで、彼女は上司に目に掛けてもらっている少女を見るや嫉妬したような口調で自身も混ぜるよう伝え、二人の修行に強引に加わっていく。


「何とか間に合ったでござる。当日は拙者も一緒なんでござるから混ぜて欲しいでござる」


「いいところに来たね。南風はえ露零ろあの相手をしてくれるかな?」


「むぅ、いいでござるが拙者も露零ろあ殿みたいに直接教えて欲しかったでござるよ」


 露零ろあはミストラの言葉に矢をつがえ、彼の言葉通りその矢尻を南風はえへと向ける。

 すると彼女は「ちょっと待つでござる! 近すぎでござるよ」と言い、続いてミストラも「二人とも、別々の石積みに登ろうか」と伝える。


 そして二人はそれぞれ異なる石積みに上ると少女は再び矢をつがえる。

 その動作に南風はえも軽く屈伸運動をし、次の瞬間、少女は彼女目掛けて矢を放つ。


 少女によって放たれた矢は一直線に飛んでいくが南風はえはその矢を楽々躱す。

 矢を躱されたことに露零ろあは胸元で拳を緩く握り瞳を閉じる。


 この時、少女はうさぎ相手に行ってきたことを思い出していた。

 ステップを踏むように向かってくるうさぎ軍団を避け続けた少女は開眼すると、その場で一回転して再び矢を放つ。


 しかし二度目に放たれた矢は一度目と同じくまっすぐ一直線に飛んでいく。

 そのことに(動作を挟んでも変わってないでござるな)と判断した南風はえは一度目同様真横に避ける。

 すると矢も彼女を追尾する形で急カーブし、まるで追ってくるように感じた南風はえは迫り来る矢に焦りの表情を浮かべる。


 次の瞬間、なぜか南風はえは仰向けで地面に倒れていて、矢は彼女の目線の上を勢いよく通過する。


 彼女が矢を回避できたのはミストラのお陰だった。

 露零ろあの放った矢が接触する寸前、彼はその発達した強靭な脚で急接近し、彼女の服を掴むと地面に引っ張り倒していたのだ。


 何故彼がそんなことをしたのか。

 それは露零ろあ自身が一番理解している。

 少女の矢は貫通したもの全てを氷結させる。

 ミストラがどこまで少女の力を把握しているかは定かではないが、少なくとも彼は矢によって氷結してしまった者が丸一日は自然解凍されないことを知っている。


 少女は師匠が彼女を庇ったことに安堵し胸を撫で下ろす。

 そして声を張って向かいの石積みにいる彼らを呼ぶと、二人は少女が今いる石積みへと飛び移ってくる。


「これから八日間は二人とも夜霧ここに通うといい。向こうと違って君たちは危なっかしくて心配が尽きないからね」


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 それから八日間、露零ろあの生活は大きく変化していた。


 心紬みつはより鍛錬に精を出すため隊舎に住み込まないかと東風こちに打診され、彼女は早い段階で隊舎に行ってしまっていた。

 その後、少女はこれまでと同じ宿泊宿『朽月草くづきそう』に寝泊まりしていた南風はえと同室にしてもらい、彼女と一緒に細々と生活していた。


 この八日の間に彼女の解説を聞きながら、少女は詩歌しいかを読み学び、風月ふうげつの情報も沢山教えてもらい、スポンジの如く浸透力で吸収した。


 とにかく少女は飲み込みが早く、ときたま南風はえの度肝を抜くような突飛な発想をする少女に彼女はたびたび「はえ~」とお馬鹿っぽさが抜けない驚きの言葉を漏らしていた。


 そして今宵は再戦当日、月に一度の新月しんげつの朝。

二人は座禅ざぜんを組み終えると夜霧よぎりを尋ねる。

 南風はえは城内からうさぎ面を手元へ寄せ、手に取ると二人は敷地内へと入っていく。


 事前に何も打ち合わせをしていない二人は当日、全ての打ち合わせをするつもりでいた。

 いつも以上の澄んだ空気に緊張感を覚えながら、二人はそのまま城内へと入っていく。


 城内に入った二人は目を見開いた。

 今、二人の目の前では無数のうさぎが慌ただしく廊下を行き交っていたのだ。

 うさぎ達が誰の指示で動いているかなど二人はとっくに察しがついている。


 するとその人物は玄関付近の一室から現れ、二人に声を掛ける。


「来たね、今日は忙しくなるよ。隊員たちには所定の位置で待機してもらっているから手早く済ませようか」


「そうは言っても東風こち殿達が見当たらないでござるよ」


「そういえば心紬みつお姉ちゃんもいないよ」


 最終打ち合わせだというのに主要人物二名が欠席していることに疑問を呈す二人。

 すると二人の問いに「東風こち達とはもう済ませて早速動いてもらっているよ」と彼は言う。


 この時、少女は(出遅れてしまったのか)と考える。


 心紬みつもかなりのポンコツっ娘だが、彼女に関してはしっかり者のイメージのある東風こちが一緒なお陰でその欠点もカバーし合えることだろう。

 もちろん第一印象で少女が抱いた印象、今考えた何の根拠もないただの憶測だが。


 対してこちらはと言うと、引率担当の南風はえは住民なだけあって風月ふうげつについてはかなり詳しい。

 しかし彼女は脳筋と言っていいほどに、知能面は全然ダメダメだった。


 同じく露零ろあも一般水準に満たない程度の知識量。

 少女特有の柔軟な頭脳と、伽耶かや譲りの水のように形を持たない自由な発想力が最大の強みとはいえ、誘拐の件もあってやはり不安は残ってしまう。


 そんな二人にミストラは要点をまとめて伝え、その手際の良さを十二分に発揮する。


「君たちの方には隊員を多めに配置しているから大丈夫だとは思うけど南風はえ露零ろあから目を離さないようにね」

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