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御爛然  作者: 愛植落柿
第二章『風月』
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第二章29話『八日間』

 第二布陣には城下町にて日雇いされている用心棒を充てるらしく、その統率は東風こちが、水鏡すいきょう組からは心紬みつが加わるように彼は告げる。


 そして第三布陣には城下町の周辺に伏兵を配置するというもので、その統率は残る二人に執ってもらうと彼は言う。


 大規模な作戦内容に、心紬みつは「主力二人はどこにいるんですか?」と尋ね、続いて露零ろあも疑問を呈す。


「君たちの配置からもわかる通り、彼との決闘は中間地のここ全敷地で行うつもりだよ。そもそも僕は夜霧ここから出ないしね」


 わざわざしんげつを指定してきたのだから屋内で行うとは二人も思っていない。

 彼の言葉に水鏡すいきょう組はシエナのことを思い出しながら口を揃えて「なるほど」と返す。


 互いの話が終わるといい時間なだけに水鏡すいきょう組は早々に応接室から退出し、席を外していた南風はえと合流すると部屋に案内される。


 城内の構造はなぜか階段の横にご丁寧にフロアガイドのようなものが貼ってあり、二人の出身國の城、藍凪あいなぎと同じ三階建てに地下の計四階だった。


 そうして二人が案内されたのは二階の一室だった。

 室内に入った二人はどこか懐かしさを感じていた。

 それもそのはずで、國こそ違い、障子に描かれている生物や室内外の装飾品に違いこそあるが間取り然り床が畳であることも二人が懐かしさを感じる理由だろう。


 室内は備品なども完備されていて、シエナ同様、あるいは彼女以上に仕事のできる人物だということを感じた二人。


 彼はこうなる展開を見越していたのだろうか。

 そんなことを考える間もなく二人は倒れ込むとそのまま布団に身を預け、早くも眠りに落ちていた。


 そして翌朝、二人はなぜか朝食を振舞われていた。

 キョトンとしている水鏡すいきょう組。

 そんな二人の部屋に南風はえは次々料理を運んでくる。

 彼女の実質的な上司、ミストラは入國初日の雑な対応を挽回しようとでも考えているのだろうか。


 風月きっての人物、あおぎの訃報に続いて繰り上がり。

 新たな主君の身勝手さに振り回され、後進育成に追われていた彼を思えばそのような扱いになってしまうのも仕方のないことだろう。


 二人もそう考え心紬みつ南風はえに「気を使わなくて大丈夫ですから……」と伝えると、彼女は机一杯に置いた料理に「――確かに二人で食べるには多いでござるな」と呟く。

 そして彼女は次に「男の手料理は嫌だろうからと言われて拙者が作ったんでござるが多すぎたでござる」と言い、作りすぎてしまったことを謝罪する。


 すると彼女の反応を見た心紬みつは「――おにぎりって持ち運びに便利ですよね。後で隊舎の皆に差し入れたいのでいくつか包んでもらえますか?」と尋ねる。


 彼女の機転の利いた対応に露零ろあは(言葉を使いこなしている)と感じ、南風はえは「はえ?」と呟き疑問符を浮かべる。


「いいんでござるか? 拙者も一緒に食べようと思ってたでござるが…」


 今、部屋にあるおにぎりの数は三十個はないが二十個は超えていた。

 確かに三人で食べれば一人十個弱食べればいいという計算になるだろう。

 しかし朝っぱらから女性三人がそんな量を食べるはずもなく、そんな彼女のおバカ丸出しの発言に思わず笑みを零す二人。


 今ではすっかり馴染んだようで、少女目線で見た二人には以前感じた隔たり、壁のようなものは感じられなかった。

 いつもなら移動し始めている時間になると、彼女らは楽しげに談笑を弾ませながら部屋を出て階下へと下りていく。


 いつもなら寺で座禅ざぜんを組んでくる二人だが、階下に下りた二人にミストラは「今日に限っては座禅ざぜん)を省こうか」と言い、少女に関しては前倒しで行うと伝えていく。


 そして隊舎に向かう心紬みつと別れた露零ろあはミストラと共に地下へと向かう。

 地下に着くといつも先に集まり少女が来るのを待っているうさぎの姿が今日はどこにも見当たらず、ミストラの顔を不思議そうに見つめていると、彼は少女に「これから八日間は僕が直接君を見るよ」と伝える。


 なまりでも感じたのだろうか。

 いや、ただ単に疼いているだけかもしれない。

 そんな彼に少女は早速あることをやって見せて欲しいと伝える。


「うん! そういえばずっと気になってたんだけどミストラさんってどうやって矢文を飛ばしてるの?」


 すると彼は軽やかな身のこなしで石積みを飛びのぼり矢を放つ。

 そして放たれた矢は一直線に飛んでいき、予め設置された的に見事的中する。

 その後、彼は布団に倒れ込むように頭部から落下すると今度は身体を捻り、遠心力を利用して再び矢を放つ。


 二度目に放たれた矢の軌道は以前、露零ろあが指摘された『曲射』そのものだった。

 お手本を見せてくれたということは少女の土台作りはある程度できているということだろうか。

 そんな少女の考えに対する答えのようにミストラは少女に矢を放つよう促す。

 すると少女が矢を放つ直前、ある人物が二人の前にひょっこりと顔を見せる。

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