第二章29話『伸縮思考』
ミストラ曰く再戦に向けて各方面に応援要請しているらしく、第二布陣には城下町にて日雇い営業をする用心棒を充てるつもりだと彼は言う。
その統率は風月からは東風が、水鏡からは心紬が加わるようにと彼は告げる。
第三布陣には同じく応援要請している精鋭部隊所属の隊員を伏兵として城下町付近に配置すると告げると、その統率は残る愛弟子に執ってもらうと師匠は言う。
あらゆる問題が一堂に会する確定事項から立てられた、かつてない大規模な作戦内容に心紬は「私たちの方はわかりました。ですが主力二人はどこにいるんですか?」と尋ねる。
「君たちの配置からもわかる通り、あれとの決闘は中間地の夜霧全敷地で行うつもりだよ。そもそも僕は夜霧から出られないしね」
わざわざ新月を指定してきたのだから再戦を屋内で行うとは水鏡組も思っていない。
その後に続いた言葉に二人は故郷にいる同じ肩書にして、似た境遇のシエナのことを思い出しながら口を揃えて「なるほど」と返す。
互いに言い分を言い終えると、もういい時間なだけに一言断りを入れた水鏡組は応接室から退出し、席を外していた南風と廊下で合流すると階層の違う宿泊部屋に案内される。
「やっと終わったでござるな。それでは拙者が二人をお部屋まで案内するでござる」
ここで城内の構造ついて軽く触れよう。
部屋に案内される過程で通過した階段の横にはご丁寧にフロアガイドのようなものが貼ってあり、二人の出身國の城、藍凪と同じ三階建てに地下の計四階構造なことが一目でわかった。
そうして二人が案内されたのは二階に上ってすぐ近くにある一室だった。
室内に入った瞬間、二人は実家のような安心感ある懐かしさを肌で感じていた。
それもそのはずで國境を越え、障子に描かれている生物や室内外の装飾品に違いこそあるが間取り然り、床が畳であることも二人が懐かしさを感じる理由になっている。
一國を統治する爛然の住む最上級な城だけあって室内は備品が完備されていて、シエナ同様、あるいは彼女以上に仕事のできる人物だということを直感した二人。
彼はこうなることを見越していたのだろうか。
もし仮にそうなら人並外れた見通し能力を有していることになるが、そんなことを考える間もなく二人は至れり尽くせりで予め敷かれた布団に倒れ込むとそのまま「身」と『意識』を預け、気付くと眠りに落ちていた。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして早くも迎えた翌朝、寝起き早々なぜか二人は自室で朝食を振舞われていた。
促されるまま向かい合わせの形で着席し、まるでお見合いみたいな構図でキョトンと顔を見合わせる水鏡組。
だがこの気まずい空気を生んだ張本人、南風は二人を放置して部屋を離れると階下から次々料理を運んでくる。
明らかな過剰接待を勘ぐるなら南風の実質的な上司、ミストラは入國初日の雑な対応を挽回しようとでも考えているのだろうか。
風月きっての偉人、仰の訃報に伴う繰り上がり。
新たな主君の身勝手さに現在進行形で振り回され、後進育成や遺品整理の日々に忙殺されている彼を思えば来訪者にまで手が回らず、このような扱いになってしまうのも仕方のないことだろう。
それが当然だと考える心紬は南風に「気を使わなくて大丈夫ですから……」と伝えると、ここでようやく我に返った南風は机を埋め尽くすレベルで自身が置いた、胃もたれしそうな料理に目を向け「――確かに二人で食べるには多いでござるな」と反省を呟く。
さらに続けて「男の手料理は嫌だろうからと拙者が拵えたんでござるが流石に作りすぎてしまったでござる」と申し訳なさそうに言い、大家族の夕食感覚で腕によりをかけた結果、作りすぎてしまったことを謝罪する。
すると彼女の反応を見た心紬は「――おにぎりって持ち運びに便利ですよね。後で隊舎の皆に差し入れたいのでいくつか包んでもらえますか?」と、空回った善意を無下にしない提案をする。
先輩従者の機転の利いた対応に後輩従者は(言葉を使いこなしている)と感じ、廃棄一択の思考となっていた南風は想定外の提案に思わず「はえ?」と呟き疑問符を浮かべる。
「いいんでござるか? 拙者も一緒に食べようと思ってたでござるが…」
「もちろんです」
今、部屋にあるおにぎりの総数は二十個以上、三十個以下といったところだろうか。
確かに三人で食べれば一人十個ほど食べればいいという計算になるだろう。
しかし朝っぱらから食の細い女性三人がそんな量を食べるはずもなく、そんな南風のおバカ丸出しの無謀な発言に水鏡組は思わず笑みを零す。
そんな彼女のあんぽんたん具合も今ではすっかり受け入れられ、露零目線で見た二人には以前感じた隔たり、壁のようなものは一切感じられなかった。
その後、いつもなら朽月草を出て移動し始める時間になると三人は楽しげに会話を弾ませながら部屋を出て階下へ移動を開始する。
いつもなら寺で座禅を組んでから来城する二人だが、二階から下りてきた二人にミストラは「今日は特別に手間を省こうか」と言い、自身が直接稽古をつける露零に関しては前倒しで開始すると伝えていく。
その後、出発地点が違うだけでいつものように隊舎へと向かう心紬と別れた露零は師匠と共に地下へと向かう。
地下に着くと、いつもなら先に集まり後輩弟子が来るのをちょこんと待っているうさぎの姿が今日はどこにも見当たらず、ミストラの顔を不思議そうに見つめていると、彼は「これからの猶予期間は僕が直接君を見るよ」と伝える。
再戦を控えるミストラは身体の鈍りでも感じたのだろうか。
いや、ただ単に半身である動物部分が疼いているだけかもしれない。
そんな師匠に弟子は修行を開始する前にこれまで気になっていたあることを、実際にやって見せて欲しいと伝える。
「ミストラさんが直接??! そういえばずっと気になってたんだけどミストラさんってどうやって矢文を飛ばしてるの?」
すると彼は軽やかな身のこなしで石積みを飛び登り矢を放つ。
そうして放たれた矢は一直線に飛んでいき、予め設置された的に見事的中する。
その後、彼は投身を図るかのように頭から落下すると今度は空中で身を捩り、生み出した遠心力を利用して再び矢を打ち放つ。
(「命を賭ける」のと『そうじゃない』のとでは成長に雲泥の差が生まれるもの。それは『百聞』は「一見」に如かずに通ずるものがあると僕は思うんだ)
二度目に放たれた矢の軌道は以前、ミストラが推奨した技法曲射そのものだった。
このタイミングで手本を見せてくれたということは、少なくとも実戦練習を行える程度には弟子の土台作りができているということではないだろうか。
そんな自惚れ交じりび考えに対し、答え合わせをするかのように師匠は弟子に矢を放つよう促す。
すると実際にやって見せてくれた一連の動作を再現して矢を打ち放つ直前、ある人物が二人の前にひょっこりと顔を見せる。




