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御爛然  作者: 愛植落柿
第二章『風月』
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第二章28話『読み合い』

 ――――新月しんげつ

 それは御影みかげが最も力を発揮できる、彼にとって最高の一夜だ。

 脅しをかけてまで同行させておきながら、特に何をするわけでもなく三人を返した御影みかげはある日のことを思い返していた。

 この時、彼が思い返していたのは思い出すだけでもはらわたが煮えくり返る、無様にも敗走を喫した一度目の決闘だった。


 ――――決戦当時は()()だった。

 それは御影かれにとってこの上なく最悪の一夜であり、反対に相対者ミストラにとっては最も実力を発揮できる最高の一夜だった。

 この戦闘に意味を見出すとすれば「不本意な繰り上がりに伴う非正規の昇級戦」だろうか。

 確定事項がいち戦闘の勝敗で覆ることなどありはしないが、その結果が國民の「厚遇」、『冷遇』に直結することは言わずもがな。

 コンディション最悪の中、行われた注目の一戦で()()()というレッテルを張られた御影みかげは自身に対する第三者の過小評価を非常に不服に感じていて、再度リベンジ戦を、今度は自分の土俵で行いたいと考えていた。


(さっきのは高揚剤と感情の高ぶりがかち合っただけだ。だが俺が問題視しているのはそこじゃない、奴は止められる状況であえて泳がせたんだ。罪悪感を植え付けこちらの動揺を誘うために)


 その一方で、訳もわからないまま帰され、吐き捨てるように矢文に対する言伝ことづてを預かった三人は現在、疲労を感じさせる重たい足取りでミストラの待つ夜霧よぎりへと向かっていた。

 月彩庭園かっさいていえんの一件に対する誤解は決して解けていない。

 露零ろあの出生に問題がある点は望まぬ形とはいえ、事実だから終始一貫して弁明の余地はないが。


 去り際に過った考えの一つに伸された者達の回復をその場で待つというのがあったが、もし仮に留まっていれば感情の起伏の激しい彼にまた振り回されていたに違いない。

 それを思えば理性を取り戻したタイミングで向こうから突き放してくれたのはある意味良かったと言えるだろう。

 そんなことを考えながら道中、水鏡すいきょう組は南風はえにいくつか疑問を投げ掛ける。


「ねぇ、そういえば御影みかげさんが言ってた新月しんげつっていつなの?」


新月しんげつは今から()()()でござるよ」


「なるほど。私からも一ついいですか? 御影みかげさんっていつ頃から薬を服用されていたんですか?」


「申し訳ないでござるがそれは拙者の与り知らぬこと。ただ以前の御影みかげ殿は野心家でこそあったでござるが薬には溺れてなかったでござる……」


 環境が彼の心身を蝕んでしまったのだろうか。

 さっきの会話を思い出すに、碧爛然へきらんぜんと呼ばれるようになったことやここ数日間の出来事が彼のコンプレックスを急激に刺激したのだろう。

 そのことを気に病み、何か病に侵されてしまったのかもしれない。

 露零ろあ心紬みつに「御影みかげさんを助けてあげて」と懇願するが、彼女は「私もできることならそうしたいのですが…」と残念そうに呟く。


 彼の病は言わば精神疾患だ。

 原因はいくつかあるだろうが、主な要因となっているのは前任者()が國内外問わず最強と呼ばれ、自身かれが比較対象となっていたこと。

 加えて比較対象と同じ目線に立ち、大海を知ったことで自身の未熟さを痛感したことにあるのだろう。

 露零ろあに手柄の話を振ったのも、その出生を見抜いたことも他の誰でもない彼自身が手柄を立てて周囲の人間に認めさせたいが故の行動だろう。

 そのことに一早く考え至った心紬みつは自身が治療を行うことでどうにかなるわけじゃなく、専門外なりに()()()()()()()だろうと考える。


なんにもしないの…?」


 しかし変らず無茶ぶりを続ける少女。

 そんな後輩従者ろあの言葉に(そう言われても私はカウンセラーじゃないのですが…)と内心呟く先輩従者。

 すると意外にも今度は南風はえ友達ろあにある提案をする。


「そういえば貴女は拙作を読もうとしていたでござるな。なら露零ろあ殿が解決を早めるというのはどうでござるか?」


 言われるまで脳裏を掠めすらしなかった友達の妙案に、露零ろあは「それいいと思う! じゃあ次会った時は私が話聞くね」と今さっきまで罵詈雑言をこれでもかと集団で浴びせ、敵意むき出しだった御影みかげには自身が手を差し伸べるのだと二人に伝える。


 まともな人間からすれば露零ろあの選択は楽観的と言わざるを得ない。

 懐に潜られた際の護身のすべを持っていない露零ろあが第一印象最悪の、いつ発作を起こすかもわからない人物と積極的に接触しようというのだ。

 しかしこの時、露零ろあが思いついた御影みかげとの接触方法は、彼との会話で挙がった()()()()()()瞬間だった。

 この瞬間こそが彼とコンタクトを取れる、あるいは対面できる唯一の状況だろうと考えたのだ。


 しかしそんな後輩従者ろあのあまりの危機感の無さに心紬みつは母性に満ち溢れた心配そうな眼差しを向け、次に南風はえに(余計なことを…)といった複雑そうな表情を向ける。

 そうして夜霧よぎりに戻ってきた三人はミストラに迎え入れられ、城内へと入っていく。


 現在の時刻は二十二時頃。

 本来の目的だった月彩庭園かっさいていえんを見て回るどころか、とんだ災難に見舞われた三人をミストラは労うと今日は夜霧しろに泊っていくよう提案する。


「移動の手間が省ける分、相殺できるから今日は夜霧ここに泊まるといい」


「えっ! いいの?!!」


「本当ですか? 他所様よそさまのお城に宿泊できるなんて光栄です♪」


「その代わりと言ってはなんだけど、忘れないうちに伝言を聞かせてくれるとありがたいかな」


 こちらから言い出せなかったがその提案は水鏡すいきょう組にとっては願ったり叶ったりで、諸々を考慮しても断る理由はどこにもない。

 宿泊の代わりに出された条件をのむと、二人は早速彼が打ち放った矢文に対する言伝ことづてを懇切丁寧に説明し始める。


「――――というわけなの」


「……うんうん、なるほどね。新月しんげつ、それに条件追加。()()の言い分はわからなくもないけど客人にまで世話掛けるとはね」


 ミストラは主君の非礼を一言詫びるとこれまでの修行は継続し、決戦当日に備えて欲しいと自身の思いを打ち明ける。

 その後に続く彼の見解では味方同士の潰し合いは()()の格好の餌食となるため、風月くに直属の()()()()を主戦力とした第二布陣、第三布陣を敷くというもので、二人にもそこに加わって欲しいとのことだった。

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