第二章25話『消息を追う者』
三人が中に入ると、そこは彼女らが期待していた景色とは真逆の光景が広がっていた。
「なに、これ……」
「――踏み荒らされてますね。一体誰が…」
「…………」
明らかに悪意のある荒らされ方に三人は唖然としていた。
庭園内はもちろん花だけではないのだが、見える範囲にある木々も倒木と化し、とてもじゃないが観光名所と呼べるような状態ではなかった。
とはいえ敷地内は広く、三人は手分けして庭園内の状態を確認して回る。
だがどこも被害は甚大で、仮に復旧するにしてもとても一日二日でどうにか出来るような状態ではなかった。
そしてそれはどこも同じで南風の表情は次第にどんどん青ざめていく。
一通り被害状態を確認した三人は再び集まると水鏡組は揃って南風に、この庭園の管理者の存在を確認する。
荒れ具合は酷いが花や木の枯れ具合から、荒らされたのはつい最近だと理解した心紬は被害を出したのは滅者の差し金ではないかと一瞬過る。
「そういえばお花を手入れする人とかいないの」
「……管理者のことでござるか?」
「ええ、荒らされてからそんなに日が経っていなさそうなので話を聞きたいんです」
すると南風は「いる」と答え、しかし今は姿が見えず何かあったのではと余計な心配をして彼女の顔色は更に悪くなってしまう。
そんな彼女を気に掛けた露零は彼女に手を貸し近くの木椅子に腰掛けさせると、心紬と今後について話し合う。
「心紬お姉ちゃん、これからどうするの?」
「ひとまず私たちだけで動きましょうか。すぐ戻ってくるので南風はここで待っていてください」
そして南風を一人残し、水鏡組は何か痕跡が残っていないか周辺を捜索する。
二人がまず目を付けたのは倒木だった。
倒木はなぜか根っこから抜けていて、並の力ではこのようなことをするのはおよそ不可能だろう。
次に花だが、こちらは少し状況が違っていた。
花が踏み荒らされていることに変わりはないのだが、いくつかの花は茎と花部分の付け根を上手く切り取られており、花部分が持ち去られていたのだ。
これが一般家庭の庭先での出来事ならご近所問題上位に入りそうな嫌がらせ案件で片付くが観光名所で行われたとなれば話は大きく変わってくる。
事態が水面下で着々と動いていると知った二人は敵の目的がわからない薄気味悪さに恐怖を覚え始めていた。
同時にミストラに伝える最重要事項だと悟り、二人は早々にこの場から立ち去ることを決意する。
――しかし、この時の二人はまだ知る由もなかった。このあと自身に降りかかる罵詈雑言の嵐を。
その時、二人は遠くで地面を見つめる謎の人影を目撃し、不審に思った二人は人影の方に近付いていく。
すると人影の人物も近付いて来る気配に気付いたようで、急ぎその場から逃げ去ろうとする。
「あっ! 心紬お姉ちゃん逃げちゃうよ」
「しっ、後を追いましょう」
二人が人影の人物の後を追っていると、その二人の背後にさらに複数の人影が現れ始め、しばらくすると心紬は早い段階で誘導されていることに気付いていく。
だが時すでに遅し、まだ庭園内ではあるが二人は南風と大きく離れてしまっていて、気付いた時にはもう手遅れだった。
二人は視界の開けた広場のような場所で突然背後から複数人に襲われる。
しかし修行を経て多少なりとも以前より力をつけた二人は謎の集団を軽く返り討ちにする。
相手が野良だと想定していた二人は謎の集団に対して、ある違和感を感じていた。
(この人たち、私のことを狙ってるんじゃない…)
「敵意むき出しの割に随分丁重な扱いですね」
そう言って二人が背後の謎の集団と対峙すると、二人が抱いた違和感は確信へと変わる。
二人を襲った謎の集団は全員面を付けていたのだ。
面、それが意味するのは彼らがこの國の住民であるということ。
ならばなぜ南風を巻き込んで襲われるのだろうか?
そんなことを考える心紬だったが、彼女の疑問は悪い意味で『都の鎌鼬』の存在が解決する。
「人質は取った。おとなしく同行しろ、貴女らの結束は強いと聞いている」
「南風さん!」
今現在もぐったりとしている南風は面を付けた女性に抱きかかえられ、人質に取られていた。
叫ぶ少女を制止した心紬は冷や汗を浮かべているものの、平常心を保ったまま彼らに疑問を投げかける。
「あなた達の目的は何ですか? まさか庭園を荒らしたのも――」
「――来ればわかる」
面を付けた集団の一人がそう答えると、人質を取った女性はぐったりとする南風に小刀を突きつけさらに脅しをかけていく。
数的、そして状況的不利を悟った二人は彼らにある条件を伝え、不服ながらも彼らに同行することを決意する。
「……っ、分かりました。ただし私たちの安全を保障してください。彼女の安全もです」
するとリーダー格の人物は南風を拘束する女性に突き付けていた小刀を下ろすよう指示を出し、ほっと胸を撫で下ろす水鏡組、そして相変わらずぐったりな南風をどこかに連れていく。




