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御爛然  作者: 愛植落柿
第二章『風月』
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第二章23話『修行開始』

「君にはこれからこの子たちから逃げてもらう。この子たちが君に触れたら僕が中断するから君は逃げることに集中すればいいよ」


 今、この場にいるうさぎはざっと見ても数十匹はいる。

 そんなうさぎたちと間接的に鬼ごっこしろと言われ、露零ろあはお口あんぐりポカンとする。

 その後、ポカンとしたままの少女が脱力した口調で「なんで?」と尋ねると、ミストラは得意げな様子でこの修行内容にした理由を説明し始める。


「曲射が苦手みたいだからね。だからまず君には『体感』と『柔軟性』を身に着けてもらおうと思ったんだ。君が思っている以上にこの子たちはできる子だから油断しないように」


 そう忠告するとミストラは早速少女に準備させ、石積みの上まで少女を誘導すると下からうさぎ五匹を少女に差し向ける。


 ミストラに指示されたうさぎ達は跳躍で石積みの上まで来るとそのままうさぎは少女に飛び掛かっていく。

 何とか向かってくるうさぎを回避する少女だが、尻もちをつきそうな危なっかしい動きで後ろに飛び退いたり声を上げながら屈んだりと、隠し切れない運動音痴さが垣間見えていた。


 そんな少女を数秒間、下から見ていたミストラは辛うじてではあるがまだうさぎに触れていないことを確認すると、さらに三匹のうさぎを差し向ける。


 二度目に指示を受けたうさぎ三匹も石積みの上に登っていき、既にいた五匹と合流すると少女と対峙するうさぎの数は計八匹となる。

 八匹のうさぎは次々少女に飛び掛かっていくが、意外にも少女は八匹のうさぎ達を回避できていた。

 そして再びうさぎが迫ってくると思われた次の瞬間、なぜかうさぎ達はその場に停止し下からミストラの声が聞こえてくる。


「――待った待った。一度下りてきてくれるかな」


 中断理由がわからず疑問符を浮かべる露零ろあだが、少女は目前のうさぎは置き去りに一人下りていく。

 するとうさぎ達も続々と石積みから飛び降り始め、下で待っていたミストラの元へ集うとそのまま彼にすり寄っていく。

 少女は中断させた理由を聞こうとミストラに歩み近付いていくと、彼は何か察したようで黒いフード付きマントを羽織った少女に背中を見るよう伝えていく。


「この子たちが君に触れると今みたいに着色するから君にもわかるはずだよ。でもなびいてたし背中は気付きにくいよね」


「へっ?」


 彼の言葉に羽織っていたマントを脱ぎ、背中に付いたうさぎの手形を見た少女は(いつ触られたんだろう?)と考えていた。

 しかし気付いた時には状態の現象に答えなどあるはずもなく、少女はすぐに考えを放棄してしまう。

 そんな少女の思考放棄を見逃さず、ミストラは「考えることは止めないように」と注意する。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 一方その頃同時刻、露零ろあと別れ隊舎に向かった心紬みつは現在、東風こちと剣を交えていた。

 ただ心紬みつが愛用の刀を抜刀しているのに対し、東風こちはなぜか木刀を扱っていた。


 しかし実力差は日を見るより明らかだ。

 木刀を持つ彼は一瞬で心紬みつの懐に潜り込むと反撃の一閃を放つ彼女の剣技を躱した上で攻撃を放つ。


絹流きぬりゅう一閃、いと!」


「踏み込みが甘い、風切りかまいたち」


 いとも容易く懐に潜られた心紬みつ東風こちの攻撃をもろに喰らい、彼女は一瞬体制を崩すも反撃の一手を打とうと再び攻撃を仕掛けていく。


「……っ! まだです、絹流きぬりゅうわい!!」


 布に針を刺すが如く、素早い突き技で刀を突き刺そうとする心紬みつ

 しかしその攻撃は不発に終わり、彼女は早くも自身の身に起きた違和感を自覚し始める。


「技が使えない? これは一体……」


 詳細は不明だが実際に今、技の一つを封じられたことに彼女は激しく動揺していた。

 しかし東風こちは彼女の動揺を『好機』と言わんばかりに追撃を仕掛ける。

 その間、心紬みつは直前に受けた攻撃の分析を始め、彼女はある出来事を思い出す。


(これは…まさかあの時の?!)


 風切りかまいたち。

 心紬みつが初めてその単語を耳にしたのはお尋ね者である『都の鎌鼬かまいたち』の口からだった。

 当時はさほど印象になど残っておらず、遠くから僅かに聞こえた呟き程度に思っていた彼女だが、実際にその攻撃を体感したことで彼女の中で『都の鎌鼬かまいたち』に対する評価は大きく変わっていく。


 心紬みつはその後、東風こちの木刀によって気絶させられていた。

 目を覚ました彼女が辺りを見渡すとそこは自身が訪ねた隊舎内であることに気付き、隊員と思しき隊服を着た女性に介抱されていた。

 

 隊服の女性は心紬みつが目を覚ましたことに気付くと一言声を掛けて部屋を出て行き、しばらくすると東風こちが部屋を訪ねてくる。

 彼は部屋に入ってくるなり大人げない自身の行動を一言詫びると彼女の横に腰掛ける。


「さっきはすまなかった。柄にもなく熱が入った」


「い、いえ。私が本気でとお願いしたので気にしないでください。それより――」


 この時、心紬みつはあることについて尋ねようとする。

 しかし東風こちは彼女の問いをなんとなく察したようで、彼は自ら率先して話始める。


「言わなくても分かる。『風切りかまいたち』についてだろう?」


「えっ、ええ。教えてもらえますか?」


「風切りかまいたちは全隊員が使える、この部隊では最初に習得させる技術だ。貴女に倣って軽く紐解いていこう。この技は相対者の攻撃手段を削ぐ『無力化』に特化している。いずれ貴女にも身に着けてもらうことになる」

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