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御爛然  作者: 愛植落柿
第二章『風月』
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第二章22話『少女とうさぎと石積みと』

 二人が庭に出るとそこには複数の的が用意されていて、ミストラは露零ろあに矢を放つよう指示を出す。


 彼に言われるがままに弓を構え、矢を放つ少女。

 そして少女の放った矢は一切の乱れなく的を捉えると、その矢は的の中心円に見事的中する。

 その後も数回、的目掛けて矢を放つ少女だが少女が放つ矢は常に的の中心円に必中していた。


「ふぅ、こんな感じだよ」


「――なるほど、眼がいいみたいだね」


 少女の弓さばきに一定の評価を示したミストラ。

 だがしかし、彼は少女の単調な一直線の軌道に何か思うところがある様子だった。

 そんな彼は次に口頭で軽くアドバイスを伝えていく。


「……だけどそうだね。もう少し名前をなぞってもいいんじゃないかな。『弓波ゆみなみ』は曲射を連想させるから」


「きょくしゃ?」


 聞き慣れない単語に少女は復唱して聞き返す。

 するとミストラは「曲射っていうのはね――」と軽く少女に説明し、言葉の意味を理解した少女は「なるほど、やってみるね」と言い頷くと再び弓を構えて矢を放つ。


 ――ヒュン。


 だがしかし、次に露零ろあの放った矢は若干軌道がブレ、不安定な軌道を描きながら飛んでいったその矢は初めて的から大きく逸れる。

 その一連を見たミストラは顎に手を当てながら「――なるほどね」と小さく呟き、彼は勝手に自己完結する。


 その後は特に何も教わらないまま二人は城内へと戻っていく。

 再び戻ってきた応接室には既に心紬みつ東風こちの姿があり、ミストラは水鏡すいきょう組に「色々検討したいから一日待ってくれるかな?」と伝えると、今日は一旦お開きとなる。


「今日は自分が送っていく。心紬みつ、明日は直接訪ねてくれて構わない」


「隊舎ですね、わかりました」


東風こちさんありがと! それじゃあミストラさん、明日また来るね」


 初日の実力把握に協力した二人は分析及びその他諸々に一日かかるということで、残り時間を城下町で過ごそうという話になった。


 そして夜霧よぎりを出て城下町に向かった二人は人の賑わっている、とある場所に来ていた。


「わぁ~っ! 心紬みつお姉ちゃんあれって何?」


「……あれはですね。ん? あれってもしかして『変面』ですか?! 凄いですよ露零ろあ、見に行きましょう見に行きましょう」


 彼女の反応から察するに今、目の前で行われている見世物は滅多にお目にかかれないものなのだろうか?

 初めて都会に出てきた田舎娘のような反応をする心紬みつに促され、少女も一緒に路上で行われている変面を始めとする大道芸を見始める。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 一方その頃、未開みかいのとある場所に建てられたログハウスでは駐屯兵長が以前、水鏡すいきょうを襲撃した滅者めつしゃの女性に採集してきた二種類の花を机越しに渡していた。


「これが御所望のものだ。約束は果たしてもらうぞ」


「指示してないのに勿忘草わすれなぐさと新種の両方を取ってくるなんて偉いじゃん。そのために最高傑作を作ってあげるから全然大船に乗った気でいていいんですけど」


 自身の絶対的な才能に一人酔いしれる滅者めつしゃ

 そんな彼女は白衣を着ることなくログハウスに置かれた試験管を手に取り、何やら実験を始めようとしていた。


 まだ建物内に人がいるにもかかわらず、薬品の入った容器を手に取り扱いだす彼女を(正気か?)と焦った様子で冷や汗を浮かべながら見る駐屯兵長。

 白衣を着用しないのか尋ねる彼だったがその言葉に彼女の表情、そして態度は一変し「うるさい、私に固定観念を押し付けないで欲しいんですけど」と言い放つと彼の疑問を一蹴する。


 その後、駐屯兵長がログハウスから出て行こうとすると、今度は落ち着いた物言いで「もう行くの? ならこれを渡して欲しいんですけど」と言って彼女は小包一つを出て行く彼に投げ渡す。


「ん? これも副長の新作か、誰に渡せばいい?」


「りんちー」


 死懍しりん宛の預かり物を受け取った駐屯兵長は、長居すればこれから行われる実験の被検体になってしまうと足早にその場を後にする。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 そして場面は再び戻り翌朝、水鏡すいきょう組は共に夜霧よぎりに向かって歩いていると、城門前で心紬みつは「それじゃあ私はこっちなので」と言って少女と別れ、彼女は一人城下町方面へと歩いていく。

 先日の会話を思い出した少女は「行ってらっしゃい」と言って彼女を見送ると、城内から案内人が出て来るまで一人ぽつんと待機する。


 それからしばらくして少女のもとにある生物が現れる。

 その生物は城内の障子にも描かれていた『うさぎ』だ。

 赤い果実のようなつぶらな瞳に初雪のように一切の汚れない真っ白な体毛。

 大きくも小さくなく、少女の目には手が離せないミストラが誘導を任せたのだという風に映っていた。

 少女の前に現れたうさぎには小さなうさぎ面が結び付けられていて、結び付けられたうさぎ面を解き顔から少し離して目元を覗いた少女は塀をぐるりと見て回ると、塀の中に隠された入り口を発見する。


「あった!」


 そしてお面越しに見える長方形に線の入った箇所を奥へ押すと塀は奥へと倒れていき、敷地内に入った少女を今度はうさぎが案内する。

 うさぎは真っすぐ城内へと入っていき、うさぎに続いて入り口付近にある階段を下った少女はその先でミストラを見る。


「何、ここ…? ミストラさん、今日は何をするの?」


 今、少女の目の前に広がっているのは地下を丸々使った広い空間に、なぜか『三途の川』を思わせる石積みが等間隔に積み上げられている光景だった。

 さらに不思議なのは少女を誘導したうさぎがミストラを中心に数十匹はいたのだ。


 降霊術こうれいじゅつ、或いは何か儀式をするのではないかとさえ思える異様な空間光景に、少女は誘拐された時とはまた違った恐怖を感じていた。


 しかしミストラにその気は全くなく、彼は露零ろあに今回用意したこの舞台、そしてこれから行ってもらうことについての説明を始める。

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