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御爛然  作者: 愛植落柿
第二章『風月』
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第二章21話『再戦に向けて』

心紬みつお姉ちゃん知ってるの? 私のこと助けてくれた人なんだ」


 最後の最後に現れた彼に命を救われた露零ろあはそう言って嬉しそうにニコニコする。

 だがしかし、『都の鎌鼬かまいたち』としての彼の悪行を知っている心紬みつは落ち着きを取り戻した後も少女の一切人を疑わない発言に思わず苦笑する。


 少女の言い分もわからなくはない。

 同系統の人間を二人、横並びに比較すればより色濃い方が際立つもので、トラウマ級の悪行を行っていたのが彼ではなく滅者めつしゃだったという話だ。


 そんな一人の人物に対して互いに真逆の印象を持っているとわかる会話を二人がしていると、向かいに座るミストラは今上がっている話題についても軽く触れていく。


「彼の是非は一旦置いておこうか。君のお友達は一日経って國から弾かれたら今度こそ殺されるだろうね。そうならないためには一日で國を通過して『未知の領域』に出るしかない、だから機動力のある彼を雇ったんだろうね」


 露零ろあが氷漬けにしたことで捕獲するに至った野良のら三人。

 今まで野良のらの身柄を拘束できたためしがないだけに今回得られた情報が多かったらしく、先進國の参謀を務めるミストラは今回得た新情報から早くも複数の仮説を立てていた。


 まず、この世界『有為うい』の中心に位置する古代樹、もとい『天命創始樹てんめいそうしじゅ』。

 そこから波紋状に野良のら、そして露零ろあを除く滅者めつしゃが暮らす『未開みかい』があり、そのさらに外側には少女らが今いる『國』がある。

 そして國のさらに外には『未知の領域』と呼ばれる漆黒の空間が存在すると言われているのだが、一度足を踏み入れた者は過去誰一人として無事生還したものはいない。


 進も戻るもお先真っ暗な彼らだが少女はそのことに一切気付いていない。

 そしてミストラは再び話を戻すと二人にある提案をする。


「――提案があるんだけど二人とも、このまま風月ふうげつで修行するのはどうかな?」


 一瞬のうちに室内は静まり返り、きょとんと眼を丸くした水鏡すいきょう組は彼の勧誘に「修行?」と復唱すると具体的に何をするのか尋ねる。

 するとミストラから返ってきたのは『来たる日の大規模な争いに備える』ということだった。

 そして最大効率を算出したという彼は二人の目的の一つでもある宝玉の存在をちらつかせると二人から言質をとる。


「理解が早くて嬉しいよ。露零ろあは僕の方で面倒を見るから君は精鋭部隊に仮入隊してくれるかな?」


「ミストラ殿は國中に矢文を飛ばしてるでござるから腕前は信用して大丈夫でござるよ」


 矢文という言葉に露零ろあは入國初日に行った座禅ざぜんでの出来事を思い出す。

 以前、座禅ざぜんの場で風を切って飛んできた一本の矢に少女は相当な手練れが放ったものだと直感していた。

 その人物が今目の前にいる彼だと明らかになり、さらに教えを乞えるという状況にやる気を見せていく少女。


「――ということは私は東風こちさんのところに行けばいいということですね」


 心紬みつも自身が取る行動を理解し、早速「明日から参加する」と意思を伝える水鏡すいきょう組。


 予定調和の済んだミストラはそっと瞳を閉じた後、僅かに口角を上げていた。

 その後彼は夜ということもあり、敵が最も活発に活動する時間帯なだけに対談をお開きにすると宣言すると最後にあることを伝える。


「今日はこれで終わろうか。長居できない彼らは一定の間隔で入國してるはずだから大丈夫だと思うけど夜道には気を付けて」


「うん! 明日また来るね」


露零ろあは大変そうですね。毎朝座禅まいあさざぜんを組まないといけませんから」


「はえ? それは心紬みつ殿も同じでござるよ?」


 座禅ざぜんという単語にあからさまに嫌な顔をする水鏡すいきょう組。

 さっきまでのキラキラと輝かせていた瞳はもうそこにはなく肩を落とし、とぼとぼ歩いていく二人を南風はえは何とか明るい雰囲気に戻そうと雑談を交えながら見送っていく。


 そうして城門前まで見送ってもらった二人が周辺を見ると日は完全に落ちていて、夜空にちりばめられた星々が國全域を覆っていた。

 そんな中、一等星よりも光り輝く『夜の太陽』。

 神秘的な淡い光を放つ、やや欠けのあるお月様がひょっこりと建物の陰から顔を覗かせていた。


「早くしないと移動し始めるでござるよ!」


 そう叫ぶ南風はえは塀の入り口を目指しながら走っていく。

 移動中は都合上、通路は実質通行止めとなり長時間の足止めを喰らうため、二人も慌てて彼女の後を追う。

 そうして隠し通路が動き始める前に何とか通過することができた二人は表に出た途端疲労に足を折り、その場に座り込んでしまう。


「はぁ…はぁ……。ふふっ、こっちでも忙しいね」


「はぁ…。明日からもっと忙しくなりますし今日はもう帰りましょうか」


 息を弾ませる二人は呼吸を整えるとそのまま宿へと戻っていき、城内から二人の背中を静かに眺めていた南風はえにミストラは「まだ宿に泊まりたそうだね」と声を掛ける。


 それから翌日、早朝から座禅ざぜんを組み終えた二人は再び夜霧よぎりを訪れる。

 来客対応が良く、呼び鈴無しでもすぐに出て来た南風はえに誘導され、二人はいつものように城内へと入っていく。


「ミストラ殿ー! 東風こち殿ー! 連れてきたでござるよ」


 再び通された応接室にはミストラ、そして東風こちが向かいの席に座っていた。

 そして東風こちは早速、心紬みつをどこかへ連れ出すと、ミストラは南風はえを一度退出させ、少女を敷地内にある庭へと連れ出していく。

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