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御爛然  作者: 愛植落柿
第二章『風月』
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第二章20話『図らずとも戻ってきた日常』

 すりの要領で間一髪助け出されていた露零ろあ

 三人が麓まで下りてきたのは露零ろあが瞼を閉じてから再び開くまでのほんの僅かな時間だった。


 二人を救出した人物は鎌を二本携えているが、彼は戦わないのだろうか。

 そんな疑問がふと芽生え、少女は初対面の相手にも一切物怖じせずに「戦わないの?」と尋ねる。


「俺は元々移動手段として雇われたんだ。あんな化け物と戦うなんてまっぴらごめんだね」


「お兄さん服汚れてるよ?」


「げっ、さっき落としたのにまだ残ってんのかよ」


 彼の服には白く小さな『何か』が付着していた。

 ぶつくさ言いながら衣服に付いた付着物をはたき落とす彼は片腕で抱える野良のらに目をやると、少女は置いて何処かへ行こうとする。


 絶望的な危機を脱したとはいえ露零ろあの身体能力は人並み以下だ。

 距離を稼いでもらったとは言えど、この程度の距離ならすぐに追いつかれてしまうだろう。

 そこで少女は自身も連れていくよう都の鎌鼬かまいたちに懇願する。


「お願い、私も連れて行ってよ」


「縋るんじゃねぇ、追手がすぐそこまで来てんだよ。そいつらにでも助けてもらいな」


 そう言って少女を突き放すと、彼は抱えた野良のらと一緒に突如吹いた強風と共に去って行く。

 風が止み、露零ろあが目を開けると少女は一人、ポツンと取り残されていた。

 そんな少女は一人とぼとぼ歩いていると、しばらくして『都の鎌鼬かまいたち』が言っていた追手と出会うこととなる。


 その人物はすっかり見慣れた武士服を着用した風月ふうげつの精鋭部隊。

 隊員数名とはすでに顔を合わせている露零ろあだが今、少女が出会ったのは初めて見る顔だった。

 しかし隊員間では少女の存在が広く知れ渡っているのか、出会った隊員はすぐに少女を保護し緊張の糸が切れた少女は薄れゆく意識の中、心紬みつの名を呟きながら気を失う。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 それから丸三日が経過し、四日目の早朝、露零ろあは宿泊先である『朽月草くづきそう』にて目を覚ます。

 額に乗った白いタオルを手に取り上体を起こすと寝る間も惜しんで看病してくれていたのか、すぐ隣では心紬みつがまるで徹夜明けのようにぐっすりと眠っていた。


「夢じゃ…ない、よね」


 朧げな記憶を辿り、気を失う間際の出来事を思い出した少女は戻ってきた日常に胸を撫で下ろす。

 少女の身に起こったことを簡潔に説明すれば誘拐された挙句、突然仲間、いや、裏切りによって殺し合いが始まり、その矛先が少女自身にも向いたのだ。

 立て続けに起こったトラウマ必至の出来事に、少女は並々ならぬ恐怖を植え付けられていた。


「う、う~ん。えっ、露零ろあ?! やっと起きたんですね!」


 四日ぶりの少女の目覚めに飛び起きた心紬みつは我が子を心配する母親の如く、力強く少女を抱きしめる。

 初めて抱きしめられたことに露零ろあは「わわっ、心紬みつお姉ちゃんどうしたの?」と彼女の行動が意味することがわかっていない様子だった。

 だがしかし、抱きしめられてからしばらくすると少女は自身の心に起こった変化に気付いていく。


(なんでだろう、だんだん落ち着いてくる感じ)


 植え付けられた恐怖が一時的にだが和らいでいき、表情に明るさが戻った少女に心紬みつは「露零ろあが目を覚ましたら夜霧よぎりに連れてくるように言われてるんですが…大丈夫そうですか?」と尋ねる。


 まさかあんなことがあった後で座禅ざぜんを組めなんて無茶を言わないだろう。

 そんな軽い心持ちで「うん、大丈夫だよ」と答える少女。


 その後、目を覚ましてからも十分な休養を取った二人は半日以上が過ぎた日の沈み始めた頃、二人は身支度を済ませて宿を出る。


 目的地に到着すると二人は座禅ざぜんを組まないまま塀の前に立ち待機する。

 二人は面を手元に寄せることができなければ、無い呼び鈴を鳴らすこともできない。

 向こうから出向いてくれるのを待っていると近くの塀が内側から開き、中から南風はえが現れる。


「来たでござるな。規律上見られると困るらしいでござるから早く中に入るでござる」


 南風はえはそう言って二人を塀の中へ招き入れるとそのまま城内へと入っていき、話し合いの場まで二人を案内する。


 そうして案内されたのは初日も使用した応接室、そして室内にはすでにミストラが待機していた。

 彼は入ってきた水鏡すいきょう組二人を向かいに、南風はえを隣に座らせると早速話を切り出す。


「五体満足で本当に良かった。早速で悪いけど今後のため、互いに情報を共有しようか」


「私は何があったか話せばいいんだよね?」


「そうだね。でもまずは僕から話させてもらうよ。君が凍らせた三人なんだけどね、監禁一日目で三人とも姿を消したんだ。僕としては野良のらは長時間滞在できないと見てるんだけど一応彼らを凍らせた君の話も聞いておこうと思ってね」


 この時、露零ろあは矢、もとい固有のマナの詳細説明を求められているのだと考えていた。

 そして少女は固有のマナが『氷結』であることを伝え、凍った彼らに関しても自分の力は一切の痕跡を残さず完全に消え去るものではないと説明する。


「――なるほどね。それじゃあ次は君の話を聞かせてもらえるかな?」


 まるで事情聴取のように自身の身に起きたことを尋ねられ、露零ろあは一から順に記憶を辿ると起こった出来事を事細かに説明する。

 そして一通り話終わると最後に『都の鎌鼬かまいたち』なる人物の話をする。

 すると向かいからではなく、何故か真隣りから驚きの言葉が飛んでくる。


「その人私が捕まえた人ですよ! もしかしてあのあと逃げたんですか?!」

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