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御爛然  作者: 愛植落柿
第二章『風月』
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第二章18話『吠える野良』

 突然の声に反応した四人が振り返ると、そこには見慣れない恰好の男性が部下の手柄を素直に褒められないことに複雑そうな表情を浮かべながら突っ立っていた。


 彼の風貌は黒色を基調とした長髪に、聡明さが前面に出た整った顔立ち。

 瞳は灰色で、顔の印象が大きく変わってしまう四白眼。

 服装は無駄にポケットの多い、黒を基調とした服に羽織りを羽織っていた。


 そんな彼は泥沼のようにまとわりつくようなドロドロとした悪意をその身に宿し…いや、その悪意は彼の身一つに留まらず、溢れ出した負のオーラは彼の周辺にも影響を齎していた。

 目前の彼を見る四人は彼が玄関から入ってきた途端に廃屋全体の明るさが一段階暗くなったように錯覚する。


 ――走る緊張感。


 露零ろあが以前対峙した二人の滅者めつしゃとはまるで違い、とめどない悪意、そして殺意を真正面から向けられた少女は恐怖に足がすくんでしまう。

 そのまま少女は共闘を持ち掛けた三人の方へ目をやると、彼ら三人は一切彼から目を離さず冷や汗を浮かべていた。

 しかし戦意喪失したという感じではなく、機を伺っているといった様子だった。


「魔獣相手に逃げ腰だったお前がいまさら俺たちに何を言っても考えは変わらねぇ」


未開みかいを我が物顔でぶん取りやがって、今日こそそのつらにドでかい風穴開けてやる」


「だいたいお前は前から――」


 と、そこまで話を聞くと死懍しりんは「もういい」と吐き捨て最後の一人の話を途中にもかかわらず一刀両断ぶった切る。

 いきなり話をぶった切られたことに、最後の一人は芸人顔負けのキレキレの突っ込みをかます。

 彼らがどれほどの関係性かは知らないが、かつての部下が軽口を言える程度には関係構築していたのだろう。


 途中でぶった切った最後の話も含め、彼らの言い分を十分に理解した死懍しりんは懐からパチンコ玉程度の大きさの石を取り出すと、三人目掛けて投げつける。

 すると露零ろあの前に立っていた三人は一人を残して左右から飛び出していく。


 露零ろあ側の戦力として今、この場にいる野良のら三人組はそれぞれ別々の武器を持っていた。

 一人目は農家を思わせる片手鉈かたてなたを一本握っている。

 二人目が持っているのは何か特殊な細工が施してありそうな、銃口が二つ付いた拳銃だ。

 そして三人目は五指の間に挟んだビー玉程の石を真向いにいる死懍しりん目掛けて投げていた。


 ――石同士がぶつかり合い、鈍い音が小さく響く。


 と、同時に二つの石は大爆発を起こし、廃屋は跡形もなく吹き飛ぶ。

 混ぜるな危険を混ぜてしまったかのような危険極まりない大爆発に廃屋は跡形もなく吹き飛ばされ、その場にいた五人も大爆発に巻き込まれる。


「――んっ。あれ、さっき爆発したはずなのになんで大丈夫なの?」


 かと思いきや、爆発に巻き込まれるその刹那、飛び出した野良のら二人は入口から、後の三人はそれぞれ窓から脱出していた。

 外に出た露零ろあが周囲を見渡すとそこは今まで見たことのないどこかの山中だった。


 風月ふうげつから出てしまったのだろうか。

 しかしそれにしては木々の密集で空が覆われておらず、僅かにだが日差しも差し込んでいる。


「きょろきょろしてんな! 次は手ぇ貸さねぇぞ! お前が捕まって迷惑するのは俺たちも同じなんだ、助かりたきゃ死ぬ気で戦え!!」


 そんなことを考えながら情報整理をしていると突如、助け出してくれた男性から怒声が飛んでくる。

 少女はビクッと反応した後彼を見ると、彼は目前の敵に一切の余裕がないようで、怒声を飛ばした際も常に死懍しりんから目線を逸らしていなかった。


「うん、ありがとう」


 そう言って少女は対峙する二人から逃げていく。

 助けた少女が返事とは反対の行動を取ったことに「おい、どこ行くんだよ!」と焦った表情ですかさず総突っ込みを入れる野良のら一同。

 言葉に行動が伴っていない少女然り、そんなグダグダな野良のらを相手に死懍しりんは徐々に頭を垂れると馬鹿さ加減に呆れながらも静かに怒りを募らせていく。


 そして次の瞬間、死懍しりんは距離を稼ぐべく走りだした露零ろあに目を向けると懐から取り出した球体の石を二個三個投げつけていく。


「よそ見すんなよ。はっ、あだ名通りの展開なんて皮肉もいいとこだよなぁ!!」


 一瞬目を離したことが徒となり、声に反応した死懍しりんが再び目前の野良のらに目を向けると視線の先には彼が投げたものと同様の球体の石が迫っていた。


 目を見開き焦る死懍しりん

 万物ばんぶつに宿るマナを扱いやすい大きさに加工し、特定の条件で効果を発揮させる加工技術は『固有のマナ』を持たない野良のらが編み出した彼ら独自の技術だった。

 故に彼らと同じ武器を使用している死懍しりんが彼ら野良のら以上にこの代物を使いこなせるはずはない。


「――なら話は早い」


 しかし彼は再び懐をまさぐり今度は巻物らしきものを手にすると一瞬のうちに巻物を広げ、巻物に接触した球体の石全ては何も起こらず地に落ちる。


「は?」


「げっ、……ったく、嫌なときに開発してくれたな元副長」


 加工技術は彼ら野良のらが断然優れている。

 しかし物質に含まれるマナを抽出し、既存のものに組み込むという常人にはおよそ思いつかないことを実行し、そして成功を修めた『ある』人物がいた。

 その人物はかつて水鏡すいきょうを襲撃した女性の滅者めつしゃだ。


 恐らく接触時に着弾したと認識させない何かしらの細工を施し作ったのだろう巻物、その最悪のタイミングでの初お披露目に呆気にとられる野良のらの面々。

 そんな彼らに死懍しりんは広げた巻物を瞬時に巻き取り懐にしまうと野良のらの一人に急接近する。

 そして真正面から重たい一撃を入れ一人、また一人と瞬く間に野良のらの二人を打ちのめす。


「無駄無意味。裏切者はそこで寝ていろ」


 間合いを詰められ強打された二人はあえなく地に倒れ、早くも一人になってしまったことに動揺を隠しきれない最後の野良のらはあることを考えていた。


「二人は後で踏み殺してやる。まずはお前からだ。謀反を企て、二人に持ちかけたのはお前の入れ知恵だろう?」


「はっ、名前も覚えちゃいねぇってんならもう後腐れはねぇ。お前は俺がぶち殺してやるからよォ!!」

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