第二章17話『誘拐犯の目的は』
本業である精鋭部隊に加えて非番の日に用心棒という副業を行い、効率的に修行を行う彼らに感謝を告げられた心紬。
彼らに後処理を任せた彼女は露零が戻ってくるだろう場所の近くまで戻ってくると、露零の名を呼び少女を探す。
露零が買いに行ってから経過した時間は十数分といったところだ。
わずかな時間離れた彼女だったが、本来いるはずの場所にその人物がいないと相手はどう思うだろうか。
置き去り、あるいは何か事件に巻き込まれたのかもしれないと考えるだろう。
そして今度は立場が逆転し、露零が見当たらないことに不安を募らせていく心紬。
そんな彼女は足跡を辿ろうと少女が向かった屋台へ足を運ぶ。
「すみません。さっき少女が詩歌を買っていきませんでしたか?」
「そういえば見慣れない子が一人来たねぇ。変な三人組が後を付けてたから匿おうかって言ったんだけど保護者がいるって言うからそのまま返したんだよ」
店主の話を聞き、一瞬のうちに顔面蒼白になっていく心紬。
巻き込まれたとはいえ、自分がこの場所を離れなければ露零が何らかの事件に巻き込まれることはなかったかもしれない。
悔やまれる選択ミスに彼女は走りだしていた。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「う、う~ん。あれ? ここ、どこ?」
そして場面は移り、怪しい三人組に連れ去られた露零は現在、どこかの廃屋に連れてこられていた。
手は枷で拘束されているがぞんざいな扱いと言うわけではなく、意識を取り戻した少女は目の前で今後について話し合っている誘拐犯三人組に質問を投げかける。
「ここはどこ? 私をどうするつもりなの?」
今、少女の目の前にいる見るからに怪しい三人組の風貌は泣く子も黙る悪人面。
服装はそれぞれ黒を基調に赤、青、緑が少し入ったものを着用していた。
「そうだな、俺たちはぽっと出の滅者を信用しちゃいない。お前を攫った事実で奴をおびき出すんだ。そしてのこのこやってきたあいつを俺達で叩き潰す」
そう言って一人の男性が少女に近付き手枷を外すと逃げないように軽く脅しをかける。
そして残る二人は近くに置かれた少しほこりを被った武器を手に取ると、彼らは狡猾な笑みを浮かべる。
話を聞く限り、彼らは少女に危害を加えるつもりなど全くなく、むしろ少女を付け狙う強大な敵に真っ向から喧嘩を売ろうとしている様子だった。
しかし仮に滅者が単身で来たとしてもたった三人で挑むのはどう考えても無謀だ。
ならば彼らが水鏡の遠征組に加わればどうだろうか。
そんなことを考えていると、誘拐犯三人組は会話の中で「上司が今、月彩庭園に向かっている」と口走る。
「馬鹿野郎! 上司呼びとか未練丸出しじゃねぇか!! 『元上司』だろうがよ」
「ねぇ、三人だけで戦うつもりなの? お兄さんたちだけじゃ絶対勝てないよ」
「あ? そんなことはいくら馬鹿な俺たちでもわかってる。俺たちの他にも助っ人はいるしその上で勝機ありなんだよ」
彼らはぎくしゃくしていた。
何か気に障ることを言ってしまったのだろうか。
露零としてはただ単に彼らを気に掛けているだけなのだが、立場を考えればやることなすこと全て否定、哀れみの目で見られていると捉えるのかもしれない。
「おい、そういえば封書は届いたのか? いつ来るって?」
「十五分後だそうだ。へっ、狙われてんのがてめぇとも知らずにご苦労なこった」
「ははっ、違いねぇ」
自身を狙う凶悪な敵がこちらに向かっている。
誘拐犯三人組は楽観視していたが、露零は恐怖に身震いする。
彼ら三人は殺され、次は自分なのだと辿る末路が見えている少女は三角座りで絶望に顔を俯かせていた。
するとそんな少女に湿っぽさを感じたのか、誘拐犯三人組は滅者を叩き潰す算段を少女に説明し始める。
「なぁに、そんなに怯えるな。俺たち野良は固有のマナが無い。だがその分、身体能力が砦に少し劣る程度には優れている」
「奴は摩擦で矢尻が発火する矢を使う。だが当然策は考えてある。死にたくなけりゃお前も俺たちに手を貸せ」
矢の先端がマッチ棒のようにでもなっているのだろうか。
そんなことはさておき、露零に残された選択肢は実質もうなかった。
仮に今、この場から逃げ出せたとしても十五分後にやって来るという滅者と鉢合わせ、最悪な展開を迎えることは容易に想像がつく。
ならば残る選択肢は彼らの話に乗ることだ。
口調からもわかる通り、彼ら野良には学がない。
だがしかし、提携関係にある彼らは滅者について、何かしらの情報を持っているだろう。
ならば露零が担う役割はまとめ役、すなわち彼らの『頭脳』になることが少女にとっても理想的だった。
「――うん、わかった。でも一つだけお願いがあるの。お兄さんたちが知ってることを私にも教えて」
ほとんど無理強いだが頷いた少女に下衆の笑みを浮かべる誘拐犯一同。
だが少女の次の言葉に彼らはぬか喜びだったと知り肩透かしを食らう。
しかし、それでも彼らにとってはようやく得られた貴重な戦力。
三人組は互いに顔を見合わせた後、「野良たちの多くは語らない。それで妥協しろ」と言い念を押すと、彼ら三人は風月が所有する宝玉を手中に収めんとする滅者について話始める。
「この國に来ている滅者は二人だ。うち一人は碧爛然によって瀕死の重体、だから勝機があるとすれば今しかない」
「これからここに来るのは『死懍』って奴だ。同胞を取り込み牛耳ったあいつらだけは許さねぇ」
未開の拠点など、野良も同時に危険に晒してしまうような情報を彼らは口にしなかった。
立場から見れば裏切り行為に当たる行動を取っている彼ら三人。
しかし彼らは同族として、対立関係になってもなお野良への情が残っているのだろう。
強い怒りを瞳に宿した三人を前に少女は(すっごく怒ってる。それに三人とも……)と、ピリついた空気から彼らの並々ならない覚悟を感じ取っていた。
「――そんなことだろうと思っていた。残った野良に余分な知識を与える必要はないな」




