表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
御爛然  作者: 愛植落柿
第二章『風月』
67/276

第二章12話『解読不能の預言書』

 露零ろあが障子を開けると古びた資料数冊を両手に積んだ南風はえが危なっかしい足取りで応接室に入ってくる。

 彼女は持ってきた書物を机に置くと「よいしょっと、あおぎ殿が残した資料はこれで全部でござる」と言い、表紙に『割赴鳴揺わりふなゆら』と書かれた一冊の書を開くと二人に見せる。


 彼女が開いたそのページは鳴揺なゆらの等身大を書き写した全身図が描かれていた。

 しかし描かれた彼のビジュアルを見た少女は「――これが鳴揺なゆらさん? 顔が見えないよ」と呟く。


「ほんとに顔が見えませんね。編み笠はわかりますがこれは…顔の前に付いているのは風鈴、ですか?」


 資料に描かれていた鳴揺なゆらの外見は編み笠を被り、その編み笠の顔部分には風鈴を付けていた。

 風月ふうげつの基本情報として、戦闘時に住民は面を付けるというが鳴揺なゆらの場合、それが風鈴ということなのだろうか。


 服装は東風こちと同じく武士服で腰には刀を携えていた。

 似顔絵はモノクロのため髪色や瞳の色はわからないが、それでも一目見ればすぐに彼だとわかるだろう。

 それほど特徴的な見た目が資料には描かれていた。


 探し人の意外な容姿に(思ってたのとなんだか違う)と感じた露零ろあ

 そんな少女は南風はえが持ってきたその他数冊の書物にも興味を示す。

 彼女が持ってきた六冊の書物うち、残る五冊の表紙には生前のあおぎが書いたのだろう、四人が見たことのない単語がそれぞれに書かれていた。


惹起天災(じゃっきてんさい)


『五大流行り病』


『外来迷い子』


『概念殺し』


『地の獄第一人者』


 これに加えて鳴揺なゆらに関する資料、それが彼の残した遺品だった。

 運んできた南風はえも表紙を見ていなかったらしく、小難しい本を前に「目眩がしてくるでござる」と言い、東風こちも「全くわからぬ、この分だと中も怪文書…か」と言って彼は初めてため息を漏らす。

 南風はえは例外としても他二人が書物を手に取りタイトルの意味を紐解こうとしている中、少女は「せっかくだし全部見てみようよ」と言って勝手に書物を開くと読み漁り始める。


「わっ、なにこれ?!」


 露零ろあの反応は広く解釈できるものだった。

 東風こちが言っていた通り中は怪文書だったのか。

 あるいは記号のようなものがページにびっしり書き連ねられているのだろうか。

 いやいや、予想に反して中は案外白紙なのかもしれない。


 そして驚いた少女は書物を両手で広げると少し離れた位置から二人に見せる。


心紬みつお姉ちゃん見てよこれ。なんて書いてるか全然読めないの」


 まず、露零ろあが開いて見せた書物は白紙ではなかった。

 しかしページがかつかつなほどに文字を書き連ねているというわけでもない。

 少女が「なにこれ」と言った理由、それは点字のようで点字ではない点が不規則な位置に書かれていた。

 現状解読不明のその点字らしきものをじっと見つめ、首を傾げる心紬みつは読めないことを少女に伝えるとそのまま風月ふうげつ組に話を振る。


「う~ん、私じゃとても読めないですね。二人はどうですか?」


南風はえは教養中ゆえ読み書きができない。自分は書き物に造詣ぞうけいが深いつもりだ、しかしこれは……」


 他の書物に目を通すも露零ろあが広げて見せているのと同様、読み取れない様子の東風こち

 解読不能の暗号を残し、亡き者となったあおぎに不満を漏らす一同。

 しかし本来の目的だった鳴揺なゆらの資料に関しては幸い似顔絵だったため実用性があり、容姿を確認した四人は残る書物もまとめて積む。


「貴女らはこれからどうする? この後予定がないなら行きつけの秘湯のある隠れ宿に案内しよう」


 そう言ってこちは積み上げた書物を南風《はえ《一人に片付けさせると二人の案内役を買って出る。

 彼の申し出を聞き、夜霧よぎりを訪れる前の露零ろあのおねだりを後回しにすることに決めた心紬みつは「それじゃあお願いします」と伝える。


 障子に描かれた月兎を二つに分かち、応接室を出ると戻ってきた南風はえと合流――――。


 ――するかのと思いきや、彼女を待たずにそのまま夜霧よぎりも後にし、三人は城下町の反対側、露零ろあが襲撃を受けた崖のあった方向へと向かっていく。


 一方、夜霧よぎり城内では片付け終わりで戻ってきた南風はえが応接室で机に頬杖をつき、ふてくされていた。


 少し席を外した隙に三人とも城を発っていたのだ。

 面倒な後片付けを押し付けられ、一人置いてけぼりを喰らった彼女は一人なのをいいことにぼやき始める。


「拙者、さっき待ってたでござるよ。薄情はどっちでござるか…。東風こち殿とはどうにもわかり合えないでござるな」


 それからしばらく呆けていた彼女は気落ちした気分が戻らず、次第に彼女の体制はふにゃっと伸び崩れていく。

 そんな彼女が室内にいることを察知したミストラは障子越しに「南風はえ、伝えたいことが二つあるんだけど少しいいかな?」と声を掛け、彼女を室外へと呼び出す。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 そして場面は戻り現在、露零ろあ達三人は風月ふうげつ精鋭隊の管轄領土、標高の低い山道を歩いていた。

 道中すれ違った精鋭部隊は皆、東風こちと同じような武士服を着用していて、東風こちはすれ違いざまに「隊長殿、此度は何用ですか?」「兼任隊長殿、その者たちは…? もしや増援ですか」など親し気な口調で声を掛けられていた。


「――そうか、貴殿らには言っていなかったな。自分は近々兼任という立場からも外れるつもりだ」


「ちょっと待って、東風こちさんも心紬みつお姉ちゃんみたいにお仕事してるの?」


「自分はもともと『部隊長』という立場にいたところをミストラ殿に引き抜かれた。それは南風はえも同様で、あれは学がないものの音の響きから詩歌しいかを生み出す天才詩人だったと聞く」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ