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御爛然  作者: 愛植落柿
第二章『風月』
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第二章11話『文化の違い』

 露零ろあ詩音ことねの言葉でさっき見た瓦版を思い出す。

 瓦版にはご丁寧に挿絵まで入っており、強調していることは誰が見ても明らかだった。


 彼女の問いにミストラは一息置くと話を『風月ふうげつの現状』へと切り替える。


「――よく見ているね。敵の狙いはそこの少女だと予想を立てたんだ。でも話を聞く限り、どうやら当てが外れたようだね」


「しかし南風はえらだけが襲撃を受けたことを踏まえると完全に除外しきれない部分はある。敵の目的が不明瞭な以上、誤報に便乗するのも一つかと」


 この話題に関しては現状を把握している風月ふうげつ組が主体となって策を話し合っていた。


 しかしこのまま話が進むと亡き者扱いされかねない。

 露零ろあは「死ななきゃダメなの…?」と震えた声で雀のように小さな声で尋ねる。

 すると「今話し合っているのはそういうことじゃないですよ」と少女を慰め、心紬みつは少女の小さな手に自分の手を重ねる。


「つまり私たちはひっそりと過ごせばいいってことですよね?」


「そうだね、そうしてもらえるかな」


「そういえばずっと借りっぱなしだったでござるな。てるてる坊主みたいな羽織りは返すでござる」


 フード付きの衣服は市場に出回っていないのか、詩音ことねは借りていたマントをてるてる坊主呼ばわりする。

 彼女から黒いフード付きマントを返してもらった少女はそのまま腕に掛けると「ううん、私の方こそ助けてくれてありがとう」と伝え、この話題は終了する。


 面と向かって話すことは今のところこれが全てだが、せっかく座禅ざぜんを組んでまで訪れたのだ。

 ミストラは会話が終わると早々に応接室を後にしたが、残る風月ふうげつ組二人はそのまま部屋に留まった。


「はぁ~緊張したでござる~~」


「そう言えば貴女には名乗っていなかった。自分の名前は東風廉夜こちれんやと申す」


「えへへ、東風こちさんで覚えてるよ。私は弓波露零ゆみなみろあだよ。よろしくね」


 二人は軽く自己紹介を終えると四人はしばらく応接室に留まり、会話を交わすことで親睦を深めていく。

 南風はえ東風こちは共に水鏡すいきょうでの滞在経験があるからか、異文化に興味を持っているようで来客二人に好意的だった。


「武者修行としてということは宿を取らないとでござるな」


「行きつけの宿がある。後で案内しよう」


「いいの? でも宿だけじゃなくて風月ふうげつのこともっと教えて欲しいな~って」


 そしてそれは水鏡すいきょう組も同じだった。

 二人から聞いた風月ふうげつのおすすめスポットは『月明りで花を咲かせる月彩庭園かっさいていえん』、独自文化は日光浴ならぬ『月光浴』とのことだった。


 露令ろあはともかく心紬みつも聞き馴染みのない単語だったようで、二人は初めて訪れた土地の文化に浮足立っていた。

 他にも色々あると言っていたが、真っ先に名前の挙がったこの二つは風月ふうげつでも有名なのだろう。


「それじゃあ拙者は鳴揺なゆら殿の資料を持ってくるでござる」


 ふと南風はえはそう言って立ち上がると彼女は一人部屋を出る。

 その間も三人は会話を続け、東風こちは直近の出来事について感謝を告げる。


水鏡すいきょうでは世話になった。こうして風月ふうげつに戻ってこれたのも貴女らの手当てあってこそだ、南風はえの分も感謝を伝える」


東風こちさんも来てたの? 南風はえさんもいたって言ってたけど私、二人と会ってない…」


 時系列が逆なのだから知らない段階で顔を合わせても仕方ないが、露零ろあは今ひとつピンときていない様子だった。

 南風はえならまだしも東風こちに関してはついさっき出会い、小一時間ほど同じ空間で座禅ざぜんを組んだ程度の薄い関係だ。

 そんな彼に感謝を伝えられても少女は今一つ実感が湧かず、返事に困っていた。

 それでも次の瞬間には柔和な笑みを浮かべて「どういたしまして」と伝える。


 改めて彼を見たところ、目立った怪我の痕跡はなく座禅ざぜんも平然と行っていたことを考えると彼は前線に立つタイプではないのだろうか。

 水鏡すいきょうで起きた惨状、そして現在も膠着状態が続いているという戦況を踏まえると、怪我していても衣服の下に隠れているという可能性もなくはない。


 そもそも容姿的に彼の肩書きはおそらく『武士』なのだろう。

 捉え方ひとつで印象は大きく変わるもので、座禅ざぜん後の過度な反応もオーバーリアクションなどではなく、傷に障ったからだと考えれば納得できる部分はある。

 そんなことを考えながら東風こちを見ていると「戻ってきたでござる」と南風はえの声が障子の外から聞こえてくる。


 ……だがしかし、声が聞こえてしばらく経っても彼女が中に入ってくる気配はなく、露零ろあは思わず「入ってこないの?」と尋ねる。

 すると「手がふさがって手開けられないんでござるよ。開けて欲しいでござる~~」と彼女は障子を開けてもらおうと助けを乞う。


 露零ろあは彼女と行動を共にしていた時から薄々、彼女は『ポン』だと感じていたが実際には頭の足りないあんぽんたんの方だったのだ。

 資料が多く手が塞がっているのなら資料を床にでも置いて開ければいいだろうに、その発想すら出ない彼女は思考停止していると思われても仕方がない。

 当然、心紬みつは彼女のダメさ加減にドン引いていたが東風こちはそんな彼女をフォローする。


「申し訳ない。田舎出の南風はえはまだ未熟な故大目に見て欲しい」


 二人がそんな会話をしている中、露零ろあは障子を開け彼女を部屋に招き入れる。

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