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御爛然  作者: 愛植落柿
第一章『水鏡』
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第一章53話『早すぎる再会』

 時は露零ろあ達が水鏡すいきょうを発つ一日前に遡る。

 風月ふうげつの城内ではある男女がとりで、ミストラと会話していた。


「ふむ、そのようなことが。人員入れ替えにあたって修行巡りさせたことが返って徒となったわけですか……」


 そう言ってミストラは自身の『誤判断』を反省していた。

 彼と話している男女二人組は数日前から滝武者たきむしゃに訪れていた人物だ。

 彼ら彼女らは水鏡でさきで起こった事態を報告するべく彼の元を訪れていた。


「――面目ないでござる。その…拙者達は予定より早く戻ってきてよかったでござるか?」


 最初に言葉を発したのは女性の方だ。

 彼女は成す術もなくコテンパンにやられ、あまつさえ独断で帰國したことを真っ先に詫びる。

 するとミストラは識変世界しきへんせかいでの風当たりの強い言動とはまるで違い、吹き上げる風の如く自己肯定感を向上させるような、柔らかな物言いで彼女の判断を肯定する。


「いい判断だね。力量の劣りはこれから風月ふうげつで起こる大規模戦争で水準を満たすように。次に攻め込まれるなら後任不在で統制の取れていないこの國だろうから國の巡回も怠らないようにね」


 とりで、ミストラによる後進育成は順調に進んでいた。

 本来であれば一定の水準を満たさない者を従者に据えることなどありえないことだが、繰り上がりであおぎの地位を継いだ碧爛然へきらんぜんにより、人員総入れ替えの話が持ち上がっていた。


 しかしミストラがそれに強く反発したことで二者の間に大きな亀裂が入り、やがて二人は対立してしまう。

 その後、勝者の意見を全採用という条件のもと行われた一対一の戦闘は激戦の末ミストラの勝利に終わり、敗北を喫した碧爛然へきらんぜんはそれ以降行方をくらませていた。


 それが魔獣討伐から今日までの数日間で起こった出来事だった。

 採用されたミストラの意見は自身と鳴揺なゆらの残留、そして新しく二人を迎えるというもので、現在は彼が一目置いた二人を育成している最中だ。


「ミストラ殿、恩人である来客二人の案内は自分に任せて欲しい」


「なるほど。それじゃあ――は中心部、――には周辺部の巡回を任せるよ」


「わかったでござる」

「御意」


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 野良のらによる一度目の襲撃を見事退けた二人は現在、水鏡すいきょうから風月ふうげつまでの距離を八割ほど進んでいた。

 二人が今いるのは出口に近いのか木々の隙間からうっすらと木漏れ日が差し込んでいて、あとは一直線に歩いていけば目的地である風月ふうげつに辿り着くという地点だった。


 これまでの襲撃は全部で四回。

 その都度襲撃者を切り伏せるのではなく時に木を切り倒して追手を妨害し、時に木の上を伝い、地形を利用した立体的な攻撃で相手の意表をついたりと二人は知略を巡らせ極力体力の消耗を抑えていた。


「はぁ…はぁ……露零ろあを渡せば必ず『滅者めつしゃ』として染められてしまいます。何とかあなただけでも風月ふうげつに――」


「…………」


 この時、彼女の話題に上がった少女は三度目の襲撃で頭部を木製の鈍器で殴られ意識を失っていた。

 そんな少女を守りながらの戦闘は流石に分が悪かったようで、四度目の襲撃でついに心紬みつ野良のらから一太刀浴びてしまう。


 それでも何とかその場を切り抜けた彼女は小瓶に詰めていた薬液を自身の傷口に流しかけると懐から白いスカーフを取り出し、傷口に緩く結んでいく。


「――っ、このくらいなんてことは……」


 致命傷ではなく、応急処置を施したとはいえ露零ろあを背負うと傷口に響く。

 そんな二人のもとへ不穏の足音を鳴らしながら次なる刺客がゆっくりと歩き近付いて来る。


「勘がいいのか偶然なのか、結果的に君たちは悪くない選択をしている。口うるさい兄さんがいないのは僕にとってもありがたいんだよ。ねぇ、幸滅者ぼくたちは生まれたときから二極化しているけど救いはあると思う?」


「……っ!! あなたは――」


 風月ふうげつが目前にあるというこの状況。

 しかしここにきて『野良のら』よりさらに格上の存在『滅者めつしゃ』が二人のもとに現れる。


 野良のらが二人一組だったことを考えると、襲撃者が彼一人なのはある意味好都合かもしれない。

 しかし彼とは水鏡すいきょう國内で万全の状態で一戦交えており、心紬みつは彼に得体の知れない不気味な感覚を覚えていた。


 彼の風貌は黒と緑が基調のスイカを彷彿とさせる短髪に黒の斑点が見える赤色の瞳。

 服装は黒を基調とした、『和』とは大きくかけ離れた軽装。

 手には二本のサバイバルナイフを握っていて、どこか魔性な表情で魅了するように二人のことを見つめていた。


「生憎ですが今はあなたが望む言葉を持ち合わせていません! それでも邪魔立てするのなら今ここであなたを切り伏せます!!」


「ふ~ん、そっか。でもそれは僕が手を引く理由にはならないよねぇ」


 次の瞬間、彼は愛用のサバイバルナイフを構え攻撃を仕掛ける。

 前回戦った時とは明らかに違ったキレのある動きから放たれる小回りの利いた連撃に、心紬みつは(間合いに入られると何もできない)と感じ、彼女は早くも逃げに思考を切り替える。


 そんな時、背負っていた露零ろあが目を覚まし、彼女はすかさず「起きましたか、今すぐ矢を準備してください」と急ぎ少女に指示を出す。


「えっ、どういうこ――」


「早くしてください!」


「う、うん」


 一刻を争う状況なため、露零ろあの言葉を遮る心紬みつ

 しかし彼女の叫びは相対者である滅者めつしゃにも聞こえていたようで、彼は心紬みつの発言から彼女が何をしようとしているのか察する。

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