表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
御爛然  作者: 愛植落柿
第一章『水鏡』
53/276

第一章52話『奇襲』

「確かにあんたらの言う通りやわ。前後が逆になってしもうたけど何もウチは一個人を忖度してるわけやない。同じくらいあんたらのことも大切に思っとるよ。せやけど第一印象はみんな同じやない。てなわけやからウチはあの子の居場所を作る必要があるんや」


 彼女がこれまで行っていたことを一つ、今挙げるならそれは古代樹こだいじゅから生まれた生命いのちの『迎え入れ』だ。


 城内がやたら広いのも、生まれたばかりの幼子を城に招き入れ水鏡すいきょうの一員として里親が見つかるまで面倒を見るためだ。

 この場にいる者達もそうした過去を経て今があるため、理由を知った今、彼らは伽耶かやの行動に納得したようで、次第に住民たちは城下町へと戻っていく。


「――私の時もそうでしたが伽耶かや様は苦境に立っている人ほど手厚い待遇ですよね」


「ん? 無意識のうちに差が出てるんかもしれへんけどさっきうたことは本心やで」


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 その一方で藍凪あいなぎを出た二人は現在、未開みかいの地を歩いていた。

 日差しすら遮る森の奥深く、そう表現しても何ら不思議ではないこの場所は露零ろあが体質変化によって得た『遠視』を以てしても少し先が見える程度だった。


「魔獣と戦ったときにぐちゃぐちゃになったはずなのに元に戻ってる!」


「それは古代樹があるからですよ。古代樹は『命の母』ですから」


 以前、あきらと対峙した際は彼女のマナ『炎』が明かり代わりになっていたが今この場に明かりなどは一切なく、露零ろあは不安と恐怖に胸が締め付けられる思いだった。

 不安からか、少女は「ねぇ、ここって最初に心紬みつお姉ちゃんと出会ったところだよね?」とついつい彼女に尋ねる。


 夜を思わせる森の恐怖に耐えきれず、少女は何でもいいからとにかく人と会話してこの不安を和らげようと考えていた。

 この時、心紬みつは目が慣れたのかきびきびと歩き進んでいた。

 しかしさっきまで隣を歩いていたはずの露零ろあがいないことに気付くと彼女は振り返る。

 すると後方で右往左往している少女の姿が視界に映り、彼女は驚く。


 目隠しでもされているのか? と思えるほど木にぶつかったり、小石に躓きかけたりする少女を見て少し不憫に思い、彼女は持ってきていた蝋燭ろうそくに火をつけるとそれを手持ち燭台に乗せ、「こっちです」と露零ろあを呼ぶ。


「同じですがあれはですね、露零ろあが生まれたてだったからですよ。識変世界しきへんせかいで体験したのは本来の過程なんです」


「あっ、そっか…私はお姉ちゃんの『涙』から生まれたから……」


 そう言って少女は罪悪感を瞳に宿し、俯いてしまう。


 ――滅者めつしゃは言葉を求めている。


 魔獣討伐後、天爛然あまらんぜんによって明かされたその内容は、露零ろあも決して例外ではない。

 ならば少女の求めている言葉とは一体何だろうか。


「違います、違いますよ! 私が言いたいのはあの石畳と川が見えるのは生後間もない子供だけという話で……」


 少し気を抜くとすぐに少女の地雷を踏んでしまい、心紬みつはそのことを謝罪すると軽率な発言を反省し、悩んでしまう。

 傍から見ても分かるくらい彼女は真剣に考え込んでいて、そんな彼女の姿に少女は申し訳なさを感じていた。


 そんなしんみりとした空気の中、二人を付け狙う人物が短剣を鞘から抜き背後から二人に忍び迫る。


「やれやれ、そんな少人数で本拠地に乗り込んで来るとか死んでも文句言えなくね?」


 次の瞬間には二人揃って背後を取られ、水鏡すいきょう組は野良二人に首元にナイフを押し当てられていた。

 一瞬の出来事に心紬みつはまだ点けたばかりの蝋燭を地面に落としてしまい、再び辺りは漆黒に包まれる。


「私怨はないけどちょっちしつれ――――い」


「脇が甘いです! シエナ直伝の脱出術を甘く見ないで下さい!」


 背後の男性はそう言って漆黒の中、勢いよくナイフを振り上げる。

 しかし、心紬みつは背後からの拘束を難なく抜け出すとすぐさま彼と距離を取り、腰に携えた刀を抜刀すると振り返った彼女は目前の男性を切り伏せる。


「ぐはっ」


「はっ、露零ろあは?! 大丈夫ですか??!」


「――心紬みつお姉ちゃん、何があったの…?」


 脱力した声だった。

 その言葉に心紬みつが少女の背後を覗くと、露零ろあを拘束していた男性は見事なまでの氷の彫刻と化していた。

 それは少女の『氷結』のマナそのものの効果だが、にもかかわらず『何が起こったのかわからない』と露零ろあは言い、記憶が混濁しているようだった。


 襲撃の可能性があることは分かっていたが、まさかこんな浅い場所で襲撃を受けるとは思っていなかった心紬みつは(この調子で襲撃を受け続ければこっちの身が持たない)と危機感を感じ、一層気を引き締める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ