第一章40話『貰い物』
同じくもらい笑いしながらも、「ふふっ、心紬お姉ちゃん大丈夫?」彼女を心配する露零。
しかしすぐに痛みが引いたようで、少女が声を掛けた時にはすでに彼女はケロッとしていた。
「むぅ、二人ともそんなに笑わなくたっていいじゃないですか」
頬を膨らませ、拗ねながら呟く心紬。
そんな彼女の横顔は露零にはなぜか無性に幼いように映って見えた。
その時近くの一室の障子が開き、直後に聞き馴染んだ声が聞こえてくる。
「いつまでここに屯するんです? せっかく広い城にいるんですからもっと広々と使えばいいでしょうに」
すぐ近くの部屋から出てきたシエナにそう言われ、廊下にいた三人は左右に捌けて道をつくる。
表情には出てないが、恐らく内心ぷんすかしているだろうことを何となく察した露零。
そんな少女の感覚を裏付けるように、伽耶は二人にある提案をする。
「シエナも怒っとるみたいやし駄弁るんもそろそろ終わりにしよか。それにしても露零の髪って絹糸みたいやしあんたの仕事場に行ってもすぐ打ち解けれそうやな」
「やっぱり伽耶様もそう思いますよね! 私もずっと綺麗だな~って思っていたんですよっ♪」
彼女の言葉に心紬が嬉しそうに言葉を返すとその勢いで露零の髪に優しく触れる。
そのタッチはとても繊細で、髪を愛でられた少女は嬉しそうな表情をしていた。
「えへへ。綺麗って言われるの、なんだか嬉しい」
「そう言うたらずっと出かけっぱなしやけどあんたら疲れてないん? 疲れてたら別に断ってもええんやで?」
ふとそんな心配をされ、露零は疲れを微塵も感じさせない満面の笑みを浮かべるとその表情で彼女に意思を伝えようと考える。
案外見た目に反してしっかりとした大人びた印象があったが、やはり容姿も内面もまだ子供なのだ。
抜けきらない幼稚な発想だが、そこは流石の一言とばかりに伽耶。
彼女は表情だけで察したようで、「好奇心に取りつかれとるなぁ……」と心配そうに呟く。
伽耶が心配するのも当然なほどに忙しない日常生活を送っていた露零。
識変世界での出来事とはいえ、少女はこの数日で一度死を疑似体験し、二度も戦場に駆り出されているのだ。
一日休んだとはいえ、それでも連日遊び回れる体力はどう考えても普通とは思えなかった。
そんなことを考えていた伽耶は気付いた時には一人、置いてけぼりを喰らっていた。
そのことに彼女は「ちょい待ち、何も言わんと置いてかれんの、結構傷つくねんで」と一人ぼやいていたが、一方の二人も「お姉ちゃんってたまに話聞かないことあるよね」とこちらもぼやいていた。
その二人はというと伽耶と別れた後、城外を歩いていた。
そして城から少し離れた位置にある物置き小屋のような蔵に到着すると心紬を先頭に二人は中に入っていく。
その蔵はその都度掃除しているのか清潔感が保たれていて、外観のイメージとは違って全く埃っぽくはなかった。
「ねぇ、ほんとに何でもくれるの?」
嬉しさと罪悪感が混合しているような表情で尋ねる少女に心紬は「ええ、露零はよく暇って言っていますし確かに机と布団だけじゃ退屈だと思ったので」と返し、さらに「明日行こうと思っている私の職場は近くに雑貨屋さんもあるので帰りに寄ってみませんか?」と続ける。
「行ってみたい!!」
興味津々に前のめりな返答を返す露零。
正直なところ、心紬の仕事場よりもついでの雑貨屋に強く興味を惹かれていた少女だったが、仕事に興味を示して欲しかったのだろう彼女はわかりやすくしょんぼりしていた。
蔵の中は薄暗く、心紬は入り口付近に置かれた蝋燭二つに火をつけると蝋燭が乗っている手持ち燭台二つのうち、一つを少女に手渡すと二人は分かれて蔵の中を見て回る。
軽く中を見て回って分かったのは、木製の棚が数列並んでいることだろうか。
棚と棚との合間は等間隔に空いていて、人二人が横並びで歩いてもまだ余裕がありそうな通路がいくつかできていた。
恐らく何かあった際に備えて通路を広く確保しているのだろうが、木製の棚は防腐処理を施しているのか一切腐敗しておらず、蔵内も物で溢れているとは言っても全て棚の中に収まっていた。
全然ほこりが溜まっていないことに(シエナさんってこんなところも掃除してるんだ)と感心していると、露零に似合うだろう小物を数点ピックアップした心紬に呼ばれる。
「露零ー! これなんてどうですか?」
「あっ! これって心紬お姉ちゃんも持ってたやつだよね」
「あのときのこと覚えてたんですね。巾着袋ってかわいいですよね」
「うんっ! これで心紬お姉ちゃんとお揃いだね♪」
満面の笑顔で嬉しそうに答える露零は勧められたものの中にお揃いの巾着袋があったことが嬉しかったようで他の物には一切目もくれず、それ一点のみを手に取る。
その後も二手に分かれて各々蔵を物色していると、少女はいくつか興味のそそられる目ぼしいものを見つけていく。
そうして見つけたものを買い物感覚で手に取っていくと四、五個くらいで持てなくなってしまい、少女は今回はこれだけもらおうと考える。
それからしばらくすると二人は時間差で一人ずつ蔵から出てくる。
出てきた少女ははさらぴん同然の未開封の花札に砂時計ならぬ水時計、そして最初に心紬が勧めてくれた控えめな色合いの巾着袋など小物数点を両手に抱えていた。




