表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
御爛然  作者: 愛植落柿
第一章『水鏡』
41/276

第一章40話『貰い物』

 同じくもらい笑いしながらも、「ふふっ、心紬みつお姉ちゃん大丈夫?」彼女を心配する露零ろあ

 しかしすぐに痛みが引いたようで、少女が声を掛けた時にはすでに彼女はケロッとしていた。


「むぅ、二人ともそんなに笑わなくたっていいじゃないですか」


 頬を膨らませ、拗ねながら呟く心紬みつ

 そんな彼女の横顔は露零ろあにはなぜか無性に幼いように映って見えた。

 その時近くの一室の障子が開き、直後に聞き馴染んだ声が聞こえてくる。


「いつまでここにたむろするんです? せっかく広い城にいるんですからもっと広々と使えばいいでしょうに」


 すぐ近くの部屋から出てきたシエナにそう言われ、廊下にいた三人は左右にけて道をつくる。

 表情には出てないが、恐らく内心ぷんすかしているだろうことを何となく察した露零ろあ

 そんな少女の感覚を裏付けるように、伽耶かやは二人にある提案をする。


「シエナも怒っとるみたいやし駄弁だべるんもそろそろ終わりにしよか。それにしても露零ろあの髪って絹糸みたいやしあんたの仕事場に行ってもすぐ打ち解けれそうやな」


「やっぱり伽耶かや様もそう思いますよね! 私もずっと綺麗だな~って思っていたんですよっ♪」


 彼女の言葉に心紬みつが嬉しそうに言葉を返すとその勢いで露零ろあの髪に優しく触れる。

 そのタッチはとても繊細で、髪を愛でられた少女は嬉しそうな表情をしていた。


「えへへ。綺麗って言われるの、なんだか嬉しい」


「そううたらずっと出かけっぱなしやけどあんたら疲れてないん? 疲れてたら別に断ってもええんやで?」


 ふとそんな心配をされ、露零ろあは疲れを微塵も感じさせない満面の笑みを浮かべるとその表情で彼女に意思を伝えようと考える。


 案外見た目に反してしっかりとした大人びた印象があったが、やはり容姿も内面もまだ子供なのだ。

 抜けきらない幼稚な発想だが、そこは流石の一言とばかりに伽耶かや

 彼女は表情だけで察したようで、「好奇心に取りつかれとるなぁ……」と心配そうに呟く。


 伽耶かやが心配するのも当然なほどに忙しない日常生活を送っていた露零ろあ

 識変世界しきへんせかいでの出来事とはいえ、少女はこの数日で一度死を疑似体験し、二度も戦場に駆り出されているのだ。

 一日休んだとはいえ、それでも連日遊び回れる体力はどう考えても普通とは思えなかった。


 そんなことを考えていた伽耶かやは気付いた時には一人、置いてけぼりを喰らっていた。

 そのことに彼女は「ちょい待ち、なんも言わんと置いてかれんの、結構傷つくねんで」と一人ぼやいていたが、一方の二人も「お姉ちゃんってたまに話聞かないことあるよね」とこちらもぼやいていた。


 その二人はというと伽耶かやと別れた後、城外を歩いていた。

 そして城から少し離れた位置にある物置き小屋のような蔵に到着すると心紬みつを先頭に二人は中に入っていく。

 その蔵はその都度掃除しているのか清潔感が保たれていて、外観のイメージとは違って全く埃っぽくはなかった。


「ねぇ、ほんとに何でもくれるの?」


 嬉しさと罪悪感が混合しているような表情で尋ねる少女に心紬みつは「ええ、露零ろあはよく暇って言っていますし確かに机と布団だけじゃ退屈だと思ったので」と返し、さらに「明日行こうと思っている私の職場は近くに雑貨屋さんもあるので帰りに寄ってみませんか?」と続ける。


「行ってみたい!!」


 興味津々に前のめりな返答を返す露零ろあ

 正直なところ、心紬みつの仕事場よりもついでの雑貨屋に強く興味を惹かれていた少女だったが、仕事に興味を示して欲しかったのだろう彼女はわかりやすくしょんぼりしていた。


 蔵の中は薄暗く、心紬みつは入り口付近に置かれた蝋燭ろうそく二つに火をつけると蝋燭が乗っている手持ち燭台二つのうち、一つを少女に手渡すと二人は分かれて蔵の中を見て回る。


 軽く中を見て回って分かったのは、木製の棚が数列並んでいることだろうか。

 棚と棚との合間は等間隔に空いていて、人二人が横並びで歩いてもまだ余裕がありそうな通路がいくつかできていた。


 恐らく何かあった際に備えて通路を広く確保しているのだろうが、木製の棚は防腐処理を施しているのか一切腐敗しておらず、蔵内も物で溢れているとは言っても全て棚の中に収まっていた。


 全然ほこりが溜まっていないことに(シエナさんってこんなところも掃除してるんだ)と感心していると、露零ろあに似合うだろう小物を数点ピックアップした心紬みつに呼ばれる。


露零ろあー! これなんてどうですか?」


「あっ! これって心紬みつお姉ちゃんも持ってたやつだよね」


「あのときのこと覚えてたんですね。巾着袋ってかわいいですよね」


「うんっ! これで心紬みつお姉ちゃんとお揃いだね♪」


 満面の笑顔で嬉しそうに答える露零ろあは勧められたものの中にお揃いの巾着袋があったことが嬉しかったようで他の物には一切目もくれず、それ一点のみを手に取る。


 その後も二手に分かれて各々蔵を物色していると、少女はいくつか興味のそそられる目ぼしいものを見つけていく。

 そうして見つけたものを買い物感覚で手に取っていくと四、五個くらいで持てなくなってしまい、少女は今回はこれだけもらおうと考える。


 それからしばらくすると二人は時間差で一人ずつ蔵から出てくる。

 出てきた少女ははさらぴん同然の未開封の花札に砂時計ならぬ水時計、そして最初に心紬みつが勧めてくれた控えめな色合いの巾着袋など小物数点を両手に抱えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ