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御爛然  作者: 愛植落柿
第一章『水鏡』
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第一章14話『泡水散布』

 決意を胸に顔を上げた露零ろあの視線の先にはあきらと呼ばれていた女性の姿が映り、特徴を捉えきれなかった少女は彼女の風貌を再確認する。


 この時、露零ろあ()()にて捉えたあきらの特徴は赤茶色と濃い配色の短髪につり上がった朱色の瞳。

 オールバックが似合いそうな、どちらかというと男性寄りの整った顔立ち。

 雰囲気は面倒見のよさそうな姉御肌という感じだが、状況が状況な上に彼女の気質的に好戦的ということもあってかどこか怖さも同居している。

 そして最後に赤を基調とした布面積の少ない軽装を着用した彼女は今、まさに懐から取り出した深紅の宝石の付いた指輪を指にはめようとしていた。


 そんな彼女の特徴的な容姿に目を奪われていると、視線の先では指輪をはめたことで真価を発揮したあきらのこれまでとは比べ物にならない激しい猛攻に伽耶かやは徐々に押され始めていた。

 ここにきてギアを一段すっ飛ばして上げてきたあきらの息つく間もない連撃に肉弾戦では分が悪いと考え、一旦距離を取るも彼女はすぐに間合いを潰すことで伽耶かや最大の武器()()()()()()()を完封するとこれまで彼女が保ってきた優位を力業で奪い取る。


「あたしとの闘いに足手まといを連れてきたのは失策だったなぁ。だが一方的な勝負はあたしも本望じゃない。一つ教えてやるよ、あたしの指輪()()()は力の対価に命を削る。互いに死力を尽くそうぜ」


 何を思ったのか、あきらは突如として不敵な笑みを浮かべると自身の手の内を明かし始める。

 そんな彼女の唐突なカミングアウトに防戦一方だった伽耶かやも驚きを隠せないでいた。

 だが同時に彼女の言葉に()()()()()も感じていた。

 その違和感をこれまでの彼女の行動と結び付け、考え至ったのは()()()()()だということ。

 さらには向こう見ずな性格で目先のことしか見ておらず、()すらも恐れていないことも見抜くとそこに勝機を見出す。


「あんた、「死」と『恐怖』が()()にあるやろ。そんだけのマナを体内に留め込むんは自殺行為やで」


「知ったことかよ! あたしがこれから咲かせる死に花はテメェへの手向け花とでも思って納得しな!!」


 本質を見抜くことに長けた、人並み外れた慧眼けいがんを持つが故に短時間ながら伽耶かや(あきら)の本質を見抜いていたが互いに相反する思考をしているためか、不本意にも彼女の怒りを買ってしまっていた。

 しかしそんなあきらの心境など一切知らず、伽耶かやが問答を続けるとあきらの怒りは彼女の的外れな言葉数に比例してどんどん募っていく。

 込み上げる怒りをまるで薪を割るかの如く噛み砕き、口をついて出そうになる言葉を焼却炉と化した心の奥底にくべる薪として飲み込む彼女だったがあるタイミングを境に彼女の様子は一変し、もどかしさに怒り心頭、爆発寸前にまで膨張する。


 そしてついに募る怒りが大爆発し、「言葉一つでどうこうなるあたしじゃねぇよ!!」と彼女は感情のままに強い語気で突き放すように言い放つ。

 そんな彼女は同時に痺れも切らし、()()()()()である彼女の口からさらなる本心が語られる。


「わかってねぇな、()()()()()のは違うんだぜ。どこを探してもこの世界に存在しない、消失した感情モンがあたしに戻ることはねぇ。消え失せてできた隙間は存在する他のモンが変わりに埋め尽くしてあたしの行動理念の大半を占めてんだ。あたしの場合、それが()()だったってだけだ!!」


「ウチもとりでを抱えてる身やしわからんでもないけどあんたもウチも人間や。本能のままに生きて許されるわけはないで」


 この期に及んでまだ講釈垂れる伽耶かやの姿に心底飽きれ返ったことで「これ以上聞く義理はねぇ」と一蹴する朱爛然あけらんぜん

 怒髪天を衝く勢いで上限突破したバイブスも今となってはすっかりと冷め、しらけた彼女は語気に宿る熱はそのままに、これが最後だと言わんばかりに持論を展開することで無理やり、再度熱を宿すと間髪入れずに彼女に向かって突っ込んでいく。


「城主がそんなんじゃ()()()()()と高を括ってるやつらがのさばる國に成り下がっちまう。それで殺しがなくなるわけじゃねぇだろうにな!」


 確かに彼女の言い分も一理ある。

 正否など人によって異なるもので、更に言えば相対する二人はどちらも一國のトップに君臨し、法を制定する立場にある。

 仮にそうでなくとも生まれ育った環境や境遇によって他人ひとの価値観は大きく左右されるだろう。

 故に価値観を押し付けられたように感じたあきらは全てを突っぱねた上で自身の在り方を一方的に語り終えると伽耶かやとの一瞬で間合いを詰め、再び彼女に攻撃を仕掛けていく。


「何も手の内を明かしてないのはお前だけじゃねェよ。面食らいな!」


 それからのあきらの攻撃は今まで以上に洗練されていた。

 懐に潜り込んでの重たい打撃、アクロバティックな動きから繰り出される高速な足技とどれをとっても一級品。

 且つ野生動物の如く突出した()()()と、それ利用した変則的な動きを取れるだけの人間離れした身体能力ときた。


 一方の応戦する伽耶かやは内在する固有のマナ、打撃と斬撃を併用した刀さばき、そしてなすことに特化した体術を駆使することで辛うじてその猛攻を防いでいたがこのままではジリ貧だと感じ、大ぶりな攻撃、故に生じる動作と動作の合間にできる一瞬の隙を突いて重い一太刀を入れることであきらを遥か後方に吹っ飛ばすとさらに追い打ちをかけていく。


「……ッ!! 今度は()()か」


「はぁ…はぁ……。攻守逆転やで、こっからはウチの間合いや! 泡水散布あわみさんぷ!!」


 まるで己を鼓舞するかのような大声で叫び、指を弾くと伽耶かやあきらが飛ばされた進行方向上に存在する空気中の水分を増幅させ毬程度の大きさの水球を無数に発生させていく。

 宙にたゆたう水球それらは融合して一つの巨大な球体となり、背筋に悪寒が走ったあきらは首を捻ってそれを確認すると自身のマナを体内に集約させていく。


 ――バシャッ!!

 ジュゥゥゥウ!!


 水にぶつかる衝突音と温度差による蒸発音が同時に小さく鳴り響く。

 直後、あきら伽耶かやが発生させた水に勢いよくぶつかるとそのまま吸収されるかのように内部に入るも次第に水中で失速していく。

 だが直前で帯熱状態に切り替えたことで今の彼女は肌に触れる水全てを蒸発させていた。

 しかしそれも織り込み済みだった伽耶かやは自身も水の中へ飛び込むと、今度は一定の距離を保ったまま攻撃を加えることで一度は優位を奪われたものの彼女は自身の土俵に持ち込んでいく。


「一つうとくけどウチは殺生を好んでへん。そんな趣味悪いもんはよ捨て」


「お前はあおぎと違うと思ってた。抑圧されるくらいなら()()に生きて死ぬに限るだろ?」

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